バローロのクリュ「MGA」とは?

バローロ風景

イタリアワインの最高峰格付けD.O.C.G.に認定され、「ワインの王」「王のワイン」として君臨するバローロ。一言でバローロといっても、そのスタイルは生産者やテロワールによって様々です。

特に近年、テロワールの個性を如実に反映した単一畑から造られる「クリュ・バローロ」が注目を集め、2014年には「MGA(追加地理言及)」として、畑名のラベル表示が公式に認定されました。

そこで今回は、クリュ・バローロの登場やMGAの制定、そして代表的なMGAまでを紹介します。

クリュ・バローロの登場

ブッシア

プルノットの歴史的な単一畑キュヴェ「ブッシア」

ブルゴーニュでは古くから単一畑の伝統があり、畑は厳しい法律(原産地統制名称)によって細分化され、畑毎に「グラン・クリュ」や「プルミエ・クリュ」といった格付けがされています。

バローロにおいてもブルゴーニュのように、単一畑文化が存在し、単一畑のテロワールを余すことなく反映した「クリュ・バローロ」は、近年人気を集めています。

しかし、実はバローロに単一畑文化が生まれたのはそう昔ではありません。バローロでは以前、大商人がワイン生産を独占し、ブドウを各地の栽培農家から買い集めて造っていたので、複数の畑をブレンドしていて、これが伝統とされていました。

そんな中、1961年にプルノットが初となる単一畑キュヴェ「ブッシア」をリリース。同じ年にヴィエッティも単一畑キュヴェ「ロッケ・ディ・カスティリオーネ」をリリースします。これを皮切りに各生産者が、シングルヴィンヤード・バローロの生産を相次いで開始しました。

レナート・ラッティの「マルチェナスコ」1965年、カヴァロットの「ブリッコ・ボスキス」1970年、パオロ・スカヴィーノの「ブリック・デル・フィアスク」1978年などが代表的なワインとして挙げられ、それらのクリュ・バローロは、多くの生産者にとってのフラッグシップキュヴェとして人気を博すようになります。

MGA(追加地理言及)の制定

バローロMGA

アレッサンドロ・マスナゲッティ氏著『バローロMGA』

2000年代に入り、このクリュが法律で認められ、単一畑を表す、「MGA(Menzioni Geografiche Aggiuntive=追加地理言及)」の概念が誕生しました。そして2014年、統制原産地呼称(D.O.C.G.)に基づいて2010年ヴィンテージから、ラベルへの単一畑の表記が公式に認定。畑名が公式にラベルに表記できるようになったことで、ますます畑ごとのテロワールにフォーカスしたワイン造りが盛んとなりました。

また2015年には、元エスプレッソ・ガイドの鑑定責任者、アレッサンドロ・マスナゲッティ氏が、全MGA毎の特徴や3D地図、そして詳細な所有者地図などを網羅した大著『バローロMGA』を出版。バローロの造り手はもちろん、一般の消費者にとってもMGAを深く理解することができるようになりました。

このMGAの概念がピエモンテで深く浸透しているのは、複雑な地形に理由があります。

特にバローロでは、幾つもの小さな丘陵が縦・横・斜めにうねるように連なっており、畑によって斜面の向きや傾斜角度、日照量や土壌が大きく異なっているのです。そのため一世紀以上も前から優れた単一畑は暗黙の常識として理解されており、ピエモンテには単一畑文化が根付いていました。

そしてMGAが制定され、ラベルへの表記が公式に認定されたことで、クリュによるテロワールの違いやワインの個性がさらに明確になったのです。

畑の格付け

レナート・ラッティ氏による私的格付けマップ

レナート・ラッティ氏による私的格付けマップ

現在バローロには、181のMGAが存在していますが、ブルゴーニュの「グラン・クリュ」や「プルミエ・クリュ」のように、品質の指針となる公式のヒエラルキーはありません。

しかし、1969年には、著名なイタリアワインジャーナリストであるルイージ・ヴェロネッリがクリュの私的見解格付けを発表。1976年には・モッラ村の造り手レナート・ラッティ氏が、私的見解としてクリュの格付けを実施しています。

また、2014年には、前述の『バローロMGA』の著者、アレッサンドロ・マスナゲッティ氏が、著書『Barolo and Barbaresco Classification』において6段階でバローロのクリュを格付け。その中の最高位、5ッ星Sには、ヴィーニャ・リオンダ、ロッケ・ディ・カスティリオーネ、チェレクイオ、ブルナーテの4つのMGAを選定しています。

このように、MGAには公式の格付けこそありませんが、品質的に突出したクリュは古くから認識されているのです。

代表的なMGA

バローロ風景

181のMGAの中でも、突出している評価を得ており、「グラン・クリュ」とも称されている10のMGAを、「バローロ5大産地」と言われる村毎にご紹介します。

ラ・モッラ村

・チェレクイオ

バローロ村からラ・モッラ村にかけて円形劇場のように広がる畑。「偉大なランゲの畑の中で最も美しい凝縮感」であると評されてきました。生み出されるワインは、樹脂やミントのアロマと上品さが特徴。ストラクチャーと厳格さ、先天的なバランスと均整の取れた味わいで、ダイナミックに発展するポテンシャルも備えています。

代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオガヤ(コンテイザ)、ミケーレ・キアルロ、

 ・ブルナーテ

石灰質と粘土質の混じったオレンジ色の重い土壌から成る畑。パワーも深みもしっかりとした佇まいで、その男性的で厳格な味わいから「ラ・モッラの中のセッラルンガ」とも言われています。

代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオ、ジュゼッペ・リナルディ、マルカリーニ、チェレット

 ・ロッケ・デッラヌンツィアータ

砂の層を含む典型的な青い泥灰土土壌から成り、ラ・モッラ村のエレガントな個性が最もよく現れる畑。同時にボディや複雑性、圧倒的な奥深さも兼ね備えています。

代表的な生産者:ロベルト・ヴォエルツィオレナート・ラッティパオロ・スカヴィーノ

モンフォルテ・ダルバ村

・ブッシア

約300haにもなる広大な畑で、1961年にプルノットによりリリースされた、初となるクリュ・バローロのひとつ。モンフォルテ・ダルバ村で最も高い評価を獲得しており、タニックでミネラルが強く、包み込むようなスミレの香りや肉付きの良さが特徴的なワインが生み出されます。

代表的な生産者:プルノット

バローロ村

・カンヌビ

バローロ村で最も有名で、ランゲ人曰く、「悪魔に魂を売ってでも手に入れたいクリュ」と言われる畑。1752年に歴史上初めてワインのラベルに名前が表示され、バローロという名前よりも先にカンヌビの名が知られたほどです。表土がほとんど無く、母岩に直接ブドウが植わっているようなイメージのため、樹は水を求めて地中深くまで根を伸ばし、地中の様々な要素を同時に吸い上げます。生み出されるワインは、エレガントかつ厳格なタンニンと、長く続く深い余韻が特徴。また、現在クリュの全てがビオロジックに転換されたことも話題となっています。

代表的な生産者:パオロ・スカヴィーノプルノット、E・ピラー・キアラ・ボスキス

カスティリオーネ・ファッレット村

・ロッケ・ディ・カスティリオーネ

1961年にランゲ初の単一畑クリュの一つとしてリリースされたMGA。波打つ丘により斜面の向きに変化はありますが、ワインのスタイルは大きく変わらず、共通してフィネスと芳香さによって特徴付けられます。

代表的な生産者:ヴィエッティ、オッデーロ、ロッケ・ヴィベルティ

・モンプリヴァート

バローロ全体でも最も権威ある畑の一つで、ジュゼッペ・マスカレッロのモノポール(単独所有畑)。石灰分が96%と異常に高いのが特徴で、隣にあるブリッコ・ロッケとブリッコ・ボスキスに守られる形になるため、遅霜や雹の被害を受けることほとんどない恵まれた立地です。スケールと芳香、バランスの取れた厳格さを併せ持つワインが生み出されます。

代表的な生産者:ジュゼッペ・マスカレッロ

 ・ブリッコ・ボスキス(ヴィーニャ・サン・ジュゼッペ)

1948年からカヴァロットのモノポール(単独所有畑)となっている、カスティリオーネ・ファレット村の丘の頂上に位置する畑。日当たりが抜群で、バローロの産地の中でも礫質や砂質に富んだ水はけの良い土壌を備えた好立地。温暖で乾燥した短い夏、厳しい寒さと雪の多い冬があり、収穫期に霧が発生するという独特な環境からは、酸とタンニンのバランスに優れた、気品あるアロマのワインが生み出されます。中でも中央部にあるヴィーニャ・サン・ジュゼッペの区画が有名です。

代表的な生産者:カヴァロット

セッラルンガ・ダルバ村

・ヴィーニャ・リオンダ

古風な良心のような存在感を放つ偉大な畑。南隣にあるコラレットの丘によって過剰な寒暖差を免れています。石灰質と泥質の土壌によって優れたストラクチャーと力強さを持つ、格式高い超熟型のバローロが造られます。

代表的な生産者:マッソリーノ、オッデーロ、グイド・ポッロ、アンセルマ・ジャコモ

・フランチャ

セッラルンガ・ダルバ村の南端に位置する、ジャコモ・コンテルノのモノポール(単独所有畑)。西向きの斜面のため他に比べて気温は低くなりますが、日照を受けやすい開いた好立地にあります。造られるワインは正真正銘クラシックなスタイル。底部の平な区画にはバルベラが植えられています。

代表的な生産者:ジャコモ・コンテルノ(モンフォルティーノ)

まとめ

かつては、醸造の違いにより、伝統派とモダン派の二派で語られることが多かったバローロ。しかし現在は、クリュごとのテロワールにフォーカスする方向へと地域全体で進んでおり、現地では、ブルゴーニュマニアがクリュを語るように、MGAはワインを選ぶ上での明確なキーワードになっています。

181もあるため全てを覚えるのは難しいとは思いますが、ブルゴーニュでグラン・クリュとプルミエ・クリュの名前を覚えることが、自分の好みのブルゴーニュワインを理解することに繋がるように、歴史的にも評価を受けている偉大なMGAを覚えることが、自分の好みのバローロを理解することに繋がるかもしれません。

バローロ好きの方は是非、自分の好みのMGAを探してみてはいかがでしょうか。

参考文献・BAROLO MGA. The Barolo Great Vineyards Encyclopedia, Alessandro Masnaghetti Editore.    ・Barolo MGA Vol.Ⅱ. Harvest, Recent History, Rarities & Much More, Alessandro Masnaghetti Editore.