ワイングラス一杯の中には、約200種類もの香りがあるといわれます。
それらはフルーツや花、スパイスなどブドウからイメージできる香りをはじめ、野菜や土、生肉、煙、バターなど多種多様な香りを言語化することで表現されています。
ワインの味わいを構成する大きな要素の一つが香り。ワインの香りはブドウ品種や産地、醸造方法、熟成期間によって変わってくることから、ワインごとに味わいが異なるように、香りも異なってきます。
ワインを飲むときに少し香りを意識するだけで、ワインの個性やスタイルをより深く理解できる手がかりとなり、ワインの世界がさらに面白くなります。
今回は、ワインをもっと美味しく楽しむための香りのレッスンです。
目次
お話を伺った香りのプロ
飲と食の多彩な可能性を拡げる活動を行うソムリエ。国内外の様々なワイナリーや酒蔵を巡り、イベント監修や、コメンテーター、執筆、プロモーション活動を積極的に行う。
多岐にわたる商業空間・企業商材に、香りによりストーリーを表現する調香師。天然成分の効能や意味を生かした構築型の調香が得意。24年末、日本橋兜町にフレングランスロビーをオープン。
ワインの香りのとり方
香りのプロである二人に聞いた、ワインの香りの面白さとは?
ワインとフレグランス、それぞれの共通点はありますか?
山内さん
フルーツや花、スパイスなど、ワインにはフレグランスと共通する香りの表現が多くあります。
田邉さん
そうですね。フルーツや花、スパイスといった香りはどれもワインの香りとしてまず表現されるものです。特に、フルーツはどんなワインでも香りとして必ず表現されます。 僕が面白いなと思っているのは、ブドウの産地で表現されるフルーツが変わることです。 例えば、シャルドネは冷涼帯、温和帯、温暖帯の三つの気候で造られますが、冷涼帯のシャブリは柑橘系のフルーツ、温和帯のコート・ドールは桃やアプリコット、温暖帯のチリやカリフォルニアはパイナップルなどのトロピカルフルーツと、より熟した果実に変わります。
山内さん
フレグランスも同じですね。私たち調香師が使う天然香料も、採れた産地によって香りの印象が変わります。同じラベンダーでも、フランス産は爽やかで、ブルガリア産は甘い印象です。
田邉さん
そうなんですね。香りからブドウの育った環境を感じ取るワインと、育った環境による違いを上手に利用する調香ではアプローチの方向が違いますが、なんとも興味深いです。
ワインの香りに感じる魅力は何でしょうか?
田邉さん
一つのワインから複数の香りを感じ取れることではないでしょうか。 一杯のボルドー産赤ワインから、針葉樹や甘草のスパイスの香り、ほんの少しタールのような香りなど、様々な香りを感じ取ることがあります。
山内さん
確かにワインからは複数の香りの要素が感じられますね。 それから、一つのワインから針葉樹とスパイスの香りがすることには大変驚きました。 調香の世界では、香りの持続時間が異なるトップノート、ミドルノート、ベースノートの三つの要素で香りが組み立てられます。針葉樹の香りは早く揮発して爽やかに空気に漂う香りでトップノートに使われるのですが、ミドルノートやベースノートにスパイス(甘草)や樹脂(松脂)の香りをブレンドさせて使うことがあります。 私たち調香師が香りのバランスをとるために行っていることが一つのワインの中に自然と構成されているというのはもう一つのワインの香りの魅力ともいえるのではないでしょうか。
田邉さん
まさにその通りだと思います。よくワインを飲んで香水のようだと表現される方もいますが、ワインの香りは自然のフレグランスと言えますね。
ワインの香りを楽しむコツ
ワインの香りともっと親しくなる方法を、香りのプロである調香師の山内みよさんとソムリエの田邉公一さんに伺いました。
香りを例えるコツ、暮らしへの取り入れ方、香りを感じるうえで大切なポイントをご紹介します。
※お二人が実際にテイスティングして感じ取った香りとなります。
1:モンテス・アルファ・シャルドネ
2022年
3,300 円
(税込)
2:ゲヴュルツトラミネール
3:セラー・セレクション・ソーヴィニヨン・ブラン
セラー・セレクション・ソーヴィニヨン・ブラン
白
アロマティック&ピュア
日本で一番売れているニュージーランドワインブランド、シレーニが手掛ける人気の白ワイン。フレッシュでクリアな味わいが幅広い料理と合う1本。 詳細を見る
4.4
(243件)2024年
2,310 円
(税込)
4:ムートン・カデ・ルージュ
ムートン・カデ・ルージュ
赤
パワフル&ストラクチャー
シャトー・ムートンの血統を受け継ぎ、新たなる時代を築くムートン・カデ。果実の凝縮感を高めた、リッチなスタイル。 詳細を見る
4.1
(156件)2022年
1,925 円
1,540 円
(税込)
※この商品を含むご注文は5月4日以降に出荷いたします。
5:ピノ・ノワール・アティテュード
ピノ・ノワール・アティテュード
赤
チャーミング&パフュームド
ソーヴィニヨン・ブランの魔術師と呼ばれるロワールを代表する自然派の名手。ピュアな味わいが魅力のピノ・ノワール。 詳細を見る
4.0
(64件)2023年
3,960 円
(税込)
6:ランゲ・ネッビオーロ・オケッティ
01 香りを例える
まずは先入観を捨てて香りを嗅いで、フルーツや花で例えてみましょう。そうすることでワインの香りをもっと表現できます!
田邉さん流 香りの例え方
一つのワインにはたくさんの香りが含まれています。僕が香りを例えるとき、まずは香りの強弱=華やかなのか控えめなのか、全体の印象=爽やかな香りや芳醇な香りなど伝えるようにしています。 そうして全体のイメージを膨らませてから、柑橘類や青リンゴなど、より詳細な香りのイメージを伝えるようにしています。 最初は焦らず、まずは“三つの香り”でワインを表現してみてください。「①フルーツ」、「②花」、「③スパイス」です。香りのタイプを意識しながら、各項目ごとに感じ取った香りを挙げてみると表現しやすいと思います。 そうしていくうちに、爽やか=レモンと菩提樹や、クール=ライムとミント、華やか=トロピカルフルーツとバニラのようにワインの表現に法則性を見つけられ、さらにワインの香りが面白くなってきますよ。
山内さん流 香りの例え方
香りを感じるうえで大切なことは先入観を持たずに嗅ぐことです。調香のお仕事をしていてよくあるのですが、「ローズの香りが好き」という方もブラインドで香りを嗅ぐと、好きだと思っていた香りも苦手な印象を持たれることがあります。ワインも思い込みを捨てて感じることで、好きな香りに出合うことにつながるのではないでしょうか。 香りを例える、そして伝えるというのは難しいことです。私は普段、相手の経験に合わせて香りを伝えています。ウッディな香りもいろいろな種類があるので、キャンプが好きな方には自然の香りで例えています。「落ち葉を踏んだ時にこんな香りがしませんか」と尋ね、共感してもらうことで香りを伝えています。ワインの香りも同じようにまずは先入観を捨てて表現してみる、そしてそれを伝える時には相手の生活や経験に合った香りに置き換えるなどしてみてはいかがでしょうか。
02 香りから暮らしを演出する
香りの感じ方は人それぞれ。香水やフレグランスと同じように、今日の気分や好みに合わせてワインを選んでみましょう。
山内さん
2と5のワインにコリアンダー、バラ、ゼラニウムに含まれる香気成分ゲラニオールを感じました。フレグランスにも使われる香りで、田邉さんによると、「これは品種由来の香りで、品種や醸造方法などの違いによってワインには多様な香りの成分が含まれている」とのこと。ワインの香り成分を知ることは、香りと親しくなる第一歩なのではないでしょうか。
香りから暮らしを演出する
空間によって、求められている香りは異なります。クリニックは、清潔な印象を与えたい、患者さんの緊張感も取りたいはずです。一方でバーではお酒が出てきて、シガーを嗅ぐ人がいて、もしかしたらそこで恋が始まるかもしれません。その場所その場所に適した香りがあるように、その人その人にも似合う香りがあります。 ワインの香りは一つ一つ違います。それは「今日の私はこんな気分だから、こんな香りのワインを選ぼう」とか、選ぶ楽しみにもつながると思っています。ワインにもフレグランスにも香気成分が入っているので、ワインの香りで暮らしを演出することができるはずです。 フレッシュな柑橘類の香りは、リフレッシュするときにおすすめの香りなので、③のワインを選んだり、ナツメグや甘草のスパイスの香りは、体を温め、パワーを与えるときにおすすめの香りなので、力んだ1日の疲れをほぐしたいときに④のワインを選んでみるなど、暮らしにワインの香りを取り入れるというのはどうでしょうか。 香りの感じ方は人それぞれです。ルームフレグランスも香水もその人に合った香りというのがあります。体温の高い人にインパクトのある香水をおすすめしてしまうと、香りが強く飛んでしまい、きつい印象になってしまうことがあります。ワインの香りも温度によって印象が変わるので、温度による香りの変化を楽しみながら皆さんがお気に入りのワインの香りを見つけられれば良いなと思います。
03 香りともっと親しくなる
温度とグラスは香りを感じるうえでこだわりたい、大切なポイントです。ワインの香りを感じるコツをお伝えします。
田邉さん
香りを感じにくい場合は、温度が低すぎたり、まだワインが十分に空気に触れていない可能性があります。手でグラスのボウル部分を覆って温めることでワインの温度を上げたり、しばらく時間を置くことでワインが空気に触れてより豊かな香りを感じることができるはずです。
香りともっと親しくなる
温度もグラスも品種や醸造方法によって調整するべきですが、細かくやり過ぎると大変です。温度は4パターン。グラスは形に気を付けてみましょう。 ■温度 白ワインの場合は、酸味で決めてください。酸味がしっかりとした味わいならば冷蔵庫で冷やして10度以下に、酸味が控えめで樽が効いた味わいならば冷蔵庫で冷やした後に取り出して10度を超えるくらいにしましょう。 赤ワインの場合は、タンニン(渋み)で決めてみてください。マスカットベリーAやピノ・ノワールなどのタンニンが少なめのワインならば15度前後。カベルネ・ソーヴィニヨンやネッビオーロなどのタンニンの多いワインならば18~20度前後で室温より低めにして飲んでみてください。 香りよりも味わいのほうが温度によって違いを感じますが、冷やし過ぎると香りが閉じてしまいます。樽からのバターやバニラなどの香りや干した果実などの熟成香などは温度が高いほうが感じられるので、そういった香りを楽しみたいときには比較的高めの温度に調整しましょう。 ■グラス グラスは、ワイングラスを用意してください。普通のコップとワイングラスでは香りの感じやすさがグッと変わります。ワイングラスの中でも、ボウルから飲み口にかけてすぼまっているものを選びましょう。口が広がっているものは香りがそのまま飛んでしまうので、注意が必要です。その中でも爽やかタイプは小ぶりにして、まろやかタイプは中ぶりにするなど調整することで、香りの感じ方が良くなりますよ。
香りの感じ方も表現も人それぞれ。次に出合う一杯から、ぜひ香りを感じながらワインを味わってみてください。そこには広く、深く、魅力的なワインの世界があるはずです。