安くて美味しいワインの産地と言えばチリ。日本では、1990年代後半の赤ワインブームを機に大ヒットし、「チリワイン=安旨ワイン」というイメージが定着しました。
そしてブームから20年以上経った今でも日本でのチリワイン人気は健在ですが、安旨ワインだけではないんです!
そこで今回は、「安くて、おいしくて、わかりやすい」だけではない、チリワインの魅力をソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
チリのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
チリは南北に細長い国で、東側には高いアンデス山脈、西側には海に面した海岸山脈があります。二つの山脈の間には、広いセントラル・ヴァレーという平地が広がっており、この地がブドウを育てるのに非常に適した場所です。
北にはアタカマ砂漠、南にはパタゴニア氷原があり、これらの自然の障壁がブドウの栽培を助けています。
チリの気候は、冬の数ヶ月間に集中して雨が降り、春から夏の終わりまでは乾燥しています。この気候は「地中海性気候」と呼ばれ、特にブドウが成長する時期には昼と夜の気温差が大きいのが特徴です。夏の一番暑い時期でも、夜は涼しくなることが多く、海岸沿いのブドウ畑では昼と夜の気温差が15~18度、アンデスの麓では20度以上になることもあります。
南北に連なるアンデス山脈とは違って、海岸山脈は起伏が複雑で、斜面にあるブドウ畑は様々な方角に向いています。
土壌についても、アンデスの麓は火山性の土や崩積土が多く、中央の平地は沖積土、海岸山脈側は砂が多い古い石灰質土壌が広がっています。チリはブドウを育てるのに適した産地ですが、そのテロワールはとても多様性に富んでいます。
さらに、ブドウの生育期間中は乾燥した気候が続くため、ボトリティスやベト病などの病気にかかりにくいのもチリの特徴です。
また、チリはこれまでフィロキセラという害虫の被害を受けたことがありません。このフィロキセラは、19世紀に世界中のブドウを襲った害虫で、フランスでは生産量の3分の2を失う事態となり、多くのワイン産地が大きな打撃を受けました。
チリがフィロキセラの被害を受けていない理由として、ブドウの産地が自然の要塞になっていて、フィロキセラを寄せ付けないと説明されることがありますが、具体的な理由はまだはっきりしていません。
栽培されている主なブドウ品種
チリで栽培されるブドウ品種はボルドー品種が多く、6割強を占めます。ここではそんな黒ブドウのカベルネ・ソーヴィニヨン、カルメネール、そして白ブドウはソーヴィニヨン・ブランとシャルドネについてご説明します。
カベルネ・ソーヴィニヨン
カベルネ・ソーヴィニヨンは、黒ブドウの中でも広く知られた品種で、チリで最も多く栽培されているワイン用ブドウです。
濃厚な果実味としっかりしたタンニンが特徴で、チリのカベルネ・ソーヴィニヨンは、カシスやブラックベリーのフルーティーな香りに加え、スパイスやチョコレートのニュアンスが感じられます。
チリでは、特にセントラル・ヴァレーやコルチャグア・ヴァレーで栽培され、フルボディでバランスの取れたワインが多いです。ここでは、昼夜の温度差が大きく、ブドウがじっくりと熟成するため、豊かな味わいと長い余韻が楽しめます。
田邉さんおすすめワイン エスクード・ロホ・グラン・レゼルヴァ
世界的な知名度を誇るフランス ボルドー地方の五大シャトーの一つであるシャトー・ムートン・ロスチャイルドの生産者がチリで造るワイン。 こちらは以前、私が勤めていたホテルのレストランでもオンリストしていたワインで、そのコストパフォーマンスの高さからとても人気がありました。チリならではのボルドースタイルのワインの魅力を存分に体感いただけます。
エスクード・ロホ・グラン・レゼルヴァ
赤
パワフル&ストラクチャー
まるでポイヤックとプロも評価する、バロン・フィリップ社が手掛ける高品質チリワイン。ボルドーブレンドが織りなす、濃厚で滑らかな味わい。 詳細を見る
4.3
(89件)2022年
2,860 円
(税込)
カルメネール
カルメネールは、元々フランスのボルドー地方で栽培されていた黒ブドウ品種ですが、現在ではチリの代表的な品種として知られ、チリ以外ではほとんど栽培されていません。
実はこのカルメネール、長い間メルロと誤認されて栽培されていました。
カルメネールがチリに持ち込まれたのは、ヨーロッパでフィロキセラが広がる以前の19世紀半ばであり、約150年もの間、メルロと混同されていたのです。1994年にDNA鑑定によって、チリのメルロの一部がカルメネールであることが識別されました。
そのため、カルメネールのヴァラエタルワイン(※1)は、チリの農業省農牧庁SAGがカルメネールを認証しラベル表示を許可した1996年以降に造られるようになりました。
チリのカルメネールは、しばしばスパイシーなアロマやチョコレートのニュアンスを持ち、コクがありながらも滑らかな口当たりのワインが多いです。柔らかなタンニンと果実味のバランスが良く、食事との相性も抜群です。
※1 特定のブドウ品種を主体にして造られるワインのこと。一般的にラベルには、ブドウ品種の名前が記載されている。
田邉さんおすすめワイン モンテス・アルファ・カルメネール
チリのプレミアムワインの生産者の中でも、その先駆けとして知られるモンテスが生み出すハイクオリティな赤ワイン。アルファは同社を代表するシリーズであり、こちらのカルメネールは、現在ではチリ独自のスタイルの赤ワインを生み出す品種として、その知名度が広がってきています。 熟したベリーフルーツの風味と心地よいスパイス感、豊潤でまろやかな味わいをお楽しみいただける1本です。
モンテス・アルファ・カルメネール
赤
リッチ&グラマー
【サクラアワード2023にてゴールド受賞!】ワイン・アドヴォケイトで3年連続91点獲得の快挙を達成したこともある逸品。カルメネール特有の滑らかな飲み心地とまろやかな果実感が魅力。 詳細を見る
4.4
(30件)2021年
2,750 円
(税込)
シャルドネ
シャルドネは、白ワイン用のブドウとして非常に人気のある品種で、チリでも広く栽培されています。果実味豊かで、リンゴや洋ナシの香りに加え、熟成によってはバターやトーストのような香ばしさが感じられます。
チリのシャルドネは、その多彩なテロワールによりさまざまなスタイルがあります。冷涼な海岸地域ではフレッシュな酸味を持ちながらも、リッチでエレガントなスタイルになります。
人気のあるスタイルは、オーク樽で熟成されたバターのような味わいで、主にカサブランカ渓谷とサンアントニオ渓谷で生産されています。
田邉さんおすすめワイン コルディエラ・シャルドネ・レゼルヴァ・エスペシャル
スペインの名門であり、日本でも長年高い人気を誇る生産者であるトーレスが、チリで造る白ワイン。 熟した果実の香りと樽熟成由来のトーストやヘーゼルナッツのアロマ、まろやかで豊潤な味わいが魅力。サーモンや甲殻類を使用したお料理との相性も良く、コストパフォーマンスも抜群です。
コルディエラ・シャルドネ・レゼルヴァ・エスペシャル
白
フルーティー&ライプ
チリでクオリティワインを確立したパイオニア。リッチな果実の旨みが広がる、ワンランク上のシャルドネ。 詳細を見る
4.2
(58件)2023年
2,970 円
(税込)
ソーヴィニヨン・ブラン
ソーヴィニョン・ブランは、爽やかで香り高い白ワインの品種で、特に草やハーブ、グレープフルーツの香りが感じられます。チリでは、特に芳香性の高いソーヴィニヨン・ブランに仕上がります。
アロマティックで爽快感のある味わいは、サラダやシーフードといった軽めの料理と非常に相性が良いです。
田邉さんおすすめワイン モンテス・アルファ・スペシャル・キュヴェ・ソーヴィニヨン・ブラン
安定感抜群のハイクオリティなワインを体験できるモンテス・アルファ・シリーズ。こちらはその中でも良年にのみリリースされる特別なタイプの白ワインです。 ソーヴィニヨン・ブランの銘醸地として世界的な注目度が増すチリの中でも、特にその品質の高さで知られるレイダ・ヴァレー。私も現地訪問経験がありますが、ヨーロッパの銘醸地を彷彿とさせる抜群のテロワールを誇っています。
有名産地
チリのワイン産地は、土地ごとの気温差によりコスタ(涼しい沿岸地域)、エントレ・コルディリェラス(温暖な内陸の谷)、アンデス(風が吹き抜ける山岳地帯)に分けられます。それぞれを詳しくご紹介します。
コスタ
チリのコスタ地域は、太平洋沿いの海岸線に位置し、冷涼な海洋性気候が特徴です。
この地域では、特にソーヴィニヨン・ブランが有名で、フレッシュな酸味が感じられるワインが多く生産されています。
また、シャルドネやピノ・ノワールも栽培され、海風の影響でフルーティーさとミネラル感がバランスよく表現されます。
コスタ地域は沿岸部ということもあり、シーフードとの相性が良く、食事とともに楽しむワインとして人気があります。
エントレ・コルディリェラス
エントレ・コルディリェラスは、海岸山脈とアンデス山脈の間に広がる地域で、温暖で乾燥した気候が特徴です。
この地域では、カベルネ・ソーヴィニヨンやカルメネールが特に評価されています。ブドウはしっかりと熟成され、フルボディで複雑な風味を持つワインが生まれます。
また、様々な土壌タイプが影響し、豊かなテロワールを反映した多様性のあるワインが楽しめます。
アンデス
チリのアンデス地域は、アンデス山脈の影響を受けた高地で、昼夜の温度差が大きく、ブドウがしっかりと成熟します。この地域では、主に赤ワインが生産されており、特にシラーやカベルネ・ソーヴィニヨンが高評価を得ています。
高地ならではの強い日差しと冷涼な夜の気候が、果実味と酸味のバランスを生み出し、複雑でエレガントなワインを生み出します。
チリワインの豆知識
チリワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!チリワインはどうして人気?
チリのワインは日本において長年高い人気を誇り、輸入量の国別ランキングでは、常にフランスと1、2を競い、近年においてはほとんどの年で1位となっています。 その要因として考えられるのは、まずは低価格帯で手に入りやすいものが多いこと、そしてブドウ品種の明記等ラベルの見やすさとわかりやすさ、さらには、コンビニやスーパーにも豊富に揃い、手に届きやすいこと。あらゆる観点から、日常的にワインを飲む習慣のある消費者にとって好印象となっていることが考えられます。 歴史をさかのぼって考えてみると、1990年代の日本の赤ワインブーム到来とともに脚光を浴びたのもチリのワインでした。日本の消費者が日常生活の中でワインを楽しむ習慣が広がってくると、リーズナブルかつ手に入りやすい環境にあるワインが好まれるようになります。その中でも、いち早くスーパーやコンビニエンスストアに置かれるようになり、安くて美味しいチリワインのイメージが次第に定着していきました。 チリワインの輸入増加は2007年から始まり、そのきっかけとなったのが、日本とチリの2国間で発効された経済連携協定に基づく関税率の逓減です。これにより、2019年4月以降、チリワインにかかる関税はゼロになり、その後現在においても人気は定着しています。
ソムリエ解説!”安旨”だけがチリワインじゃない!
チリのワインは日本において、スーパーやコンビニエンスストアでも気軽に手に入るリーズナブルで美味しいワインとして、その地位は確固たるものになっている感があり、多くの方々がそういったイメージをもっていらっしゃるかもしれません。 しかしその反面、実は世界的な知名度を誇るワインに匹敵するプレミアムワインも生産しています。新世界のワイン産地においても、ヨーロッパと同様に年々ブドウ畑それぞれの特徴の違いへの意識が高まり、より良い環境にある土地を探し求めたり、畑を細分化していって、良質なブドウを厳選した上で、最新の技術を持って素晴らしいワインを生産する造り手も登場しています。 近年においては、世界各地で開かれるブラインドテイスティングによる品評会において、世界トップクラスのワインと互角の評価を受けるワインも次々と誕生し、注目を浴びています。 プレミアムワインの代表格の一つと言えるのが、ボルドーの五大シャトーの一つであるシャトー・ムートン・ロスチャイルドを所有するバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドと、チリのコンチャ・イ・トロ社とのジョイント・ベンチャーにより誕生した「アルマヴィーヴァ」。バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド社が、カリフォルニアの巨匠ロバート・モンダヴィと共に生み出した「オーパス・ワン」に続く豪華コラボレーションとして、リリース当初から世界的に注目を集め、チリを代表するワインの一つとして高い人気を誇っています。
チリのワインにピッタリの料理
最後にチリのワイン(カベルネ・ソーヴィニョン、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネ)にピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。
ソムリエ解説!チリの赤ワインに合う料理は?
チリの赤ワインに使用されるブドウ品種として特に有名なのが、同国最多の生産量を誇る「カベルネ・ソーヴィニヨン」。リーズナブルなワインからプレミアムなタイプまで幅広いスタイルのワインを生み出しています。 このカベルネ・ソーヴィニヨンの赤ワインの特徴である豊かな果実味と渋み、樽熟成由来のローストやスパイスのフレーヴァーは、グリルした牛肉と非常に相性が良く、アルゼンチンやチリでも有名な牛肉のアサードにもとてもよく合います。 特にチリの赤ワインによく感じられるほのかなグリーンのニュアンスは、付け合わせのお野菜の風味にも同調し、料理との相性をさらに高めてくれます。
ソムリエ解説!チリの白ワインに合う料理は?
チリの白ワインのスタイルは大きく分けて、爽やかな辛口タイプのソーヴィニヨン・ブラン、そしてコクのあるまろやかなシャルドネの二つのタイプが主流です。 ソーヴィニヨン・ブランの爽やかな白ワインには、サーモンやホタテのカルパッチョ、小エビのカクテルサラダにハーブを添えたり、レモンやライムを絞った冷製のオードブルがおすすめ。 そしてまろやかなスタイルのシャルドネには、同じくサーモンを使用し、こちらはグリルしてマッシュルーム等キノコのバターソテーを添えたお料理がおすすめです。 海に接したチリで有名なシーフードをメインとし、それぞれの白ワインのアロマと味わいの個性にピッタリと合う調理で仕上げたお料理との相性は抜群です。
まとめ
コストパフォーマンスに優れた品質だけでなく、中高価格帯を含む豊富なラインナップが魅力のチリワイン。
もはや一過性のブームではなく、チリワインは日本のワインシーンにしっかりと根付いています。チリのワインは「安旨ワイン」だけだと思っていた方は、ぜひ特別な日の1本としてチリワインを選んでみてはいかがでしょうか。
チリのワイン一覧
文=川畑あかり