安くて美味しいワインの産地と言えばチリ。
日本では、1990年代後半の赤ワインブームを機に大ヒットし、「チリワイン=安旨ワイン」というイメージが定着しました。そしてブームから20年以上経った今でも日本でのチリワイン人気は健在です。
そこで今回は、「安くて、美味しくて、わかりやすい」だけではない、新たなチリワインの魅力を紹介します。
チリワイン人気について
2015年以降、日本の国別ワイン輸入量はチリが6年連続で1位となりました。
それまではフランス及びイタリア産ワインの輸入量が多かった日本ですが、2007年の9月に日本とチリの2国間で発行された経済連携協定(EPA)に基づく関税率の逓減をきっかけに、チリワインの輸入量が増加しました。
そして2019年4月、チリワインにかかる関税は完全撤廃され、輸入量は13年間で約4.5倍以上にも増えました。
実はその2ヶ月前の2月に、ヨーロッパワイン(EUワイン)の関税もなくなりましたが、引き続き関税のかかるチリの隣国アルゼンチンやアメリカよりチリは有利な立場にあります。
財務省貿易統計によると、日本における2020年の年間のスティルワイン(葡萄酒「2L以下の容器入り」、通関ベース)輸入数量は約16,390万リットルで、前年比93%とやや減少傾向となりました。スティルワイン輸入数量全体が減少する中、2020年のチリワインの輸入量は4910万リットルで、2019年(4721万リットル)より4%増加しています。
ちなみに輸入ワインのうち、チリのシェアは約29%、フランスのシェアは約27%で、合わせると5割を超えます。つまり、日本人が飲むワインの2本に1本はチリかフランスのワインということになるのです。
チリってどんなところ?
そんなチリワインがどんなところで造られているのか、産地についておさらいしましょう。
チリは南北に細長い国で、東側をアンデス山脈、西側の太平洋岸に海岸山脈が走り、二つの山脈の中間部セントラル・ヴァレーが広い平地になっています。また、国の北部はアタカマ砂漠、南部はパタゴニア氷床という独特の自然の障壁に囲まれており、ブドウ栽培に非常に恵まれた土地です。
気候は、冬の数ヶ月だけ集中して雨が降り、春から夏の終わりまでは乾燥している典型的な地中海性気候で、特にブドウ成熟期は昼夜の気温差が大きいのが特徴です。夏の最も暑い時期でも夜はかなり涼しく、昼夜の気温差は海岸沿いのブドウ畑で15~18度、アンデスの麓では20度以上にもなります。
南北にきれいに連なったアンデス山脈と違って、海岸山脈の起伏は非常に複雑で、斜面にあるブドウ畑は様々な方角を向いています。
土壌については、アンデスの麓は主に火山性土壌や崩積土、中央部の平地は沖積土、海岸山脈側は砂が多く痩せた古い石灰質土壌などが支配的になっています。チリはブドウ栽培に適した土地ではありますが、そのテロワールは実に多様性に富んでいるのです。
ブドウの生育期間を通じて乾燥した気候が続くことから、ボトリティスやベト病などの病気にかからないこともチリのブドウ栽培の特徴です。
また、チリはこれまでフィロキセラの被害を受けたことがありません。理由はブドウの産地が自然の要塞でフィロキセラを寄せ付けないと説明されることがしばしばありますが、はっきりとした理由は未だわかっていません。
栽培されている主なブドウ品種は、栽培面積の大きい順に、黒ブドウがカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カルメネール、白ブドウはソーヴィニヨン・ブランとシャルドネです。カベルネ・ソーヴィニヨンはチリのブドウ栽培面積のおよそ30%を占めており、その他のボルドー品種を加えると6割強の占有率となります。
そして、チリで忘れてならない品種がカルメネールです。カルメネールは、フランスのボルドー地方原産の赤ワイン用ブドウ品種で、ヨーロッパにフィロキセラが広がる以前の19世紀半ば、ボルドーからカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどと一緒にチリに持ち込まれました。
ボルドーでは栽培が難しく途絶えてしまったカルメネールですが、気候の良いチリでは生きながらえ、現在カルメネールはチリ以外ではほとんど栽培されていません。
ただ、チリではカルメネールはフランスから苗木が持ち込まれてから約150年近くもメルロと勘違いされていました。DNA鑑定によってチリのメルロの一部がカルメネールと識別されたのは1994年です。
そのため、カルメネールのヴァラエタルワインは、チリの農業省農牧庁SAGがカルメネールを認証しラベル表示を許可した1996年以降に造られるようになりました。
チリワインブーム
1990年代後半の日本のワインブームは記憶に新しい方も多いと思います。当時の赤ワインの爆発的な人気はチリワインと切っても切れない関係にあります。
ブームのきっかけは1995年の田崎真也氏のソムリエ世界一と赤ワインの健康法、いわゆるフレンチパラドックス(※1)が話題になったこと。それまでボジョレー・ヌーヴォーしか飲んだことがなかったという人もワインを買うようになったのです。
とは言え、当時のワイン初心者にとって、耳にしたことのあるボルドーやブルゴーニュのワインは高価で、分かりにくい。
その反面、ちょうど1980年代半ばから国際市場に参入し日本でも目にするようになったチリワインは、1000円前後で十分美味しく、また、ヴァラエタルワイン(※2)で分かりやすかったことも功を奏し、一躍ブームの立役者になりました。
赤ワイン健康法からポリフェノール豊富なカベルネ・ソーヴィニヨンが人気を得るのは当然の成り行きで、チリのカベルネ・ソーヴィニヨンを縮めた「チリカベ」という造語も販売促進に大きく貢献しました。
果実味たっぷりで飲みごたえありながら、抜栓直後からタンニンはやわらかく口当たりの良い「チリカベ」は、赤ワインを飲み慣れない日本人にも受け入れやすい味わいだったのでしょう。このワインブームを機に、日本ではチリワインは「安旨ワイン」として認知されるようになりました。
1998年のピークの後、日本のワイン消費量は2004年まで微減しています(2002年に少しだけ盛り返しましたが)。しかし、そこで一旦底を打ち、消費量は1997年レベルを維持し、2009年以降は再び上昇に転じました。
この時もマスマーケットにおいて大きな役割を果たしたのはチリワインで、特にスーパーマーケットやコンビニで気軽に購入できる1000円未満のチリワインを各社がリリースし、飛躍的に販売量を伸ばしました。そしてとうとう2015年に輸入量で王者フランスを抜き、1位に躍り出たのです。
※1:フランス人は肉類をたくさん食べるのに心臓病による死亡率が低い、という意味。その理由は、フランス人がよく飲む赤ワインの成分のポリフェノールが、活性酸素や過酸化脂質の産生を抑えるといわれたり、また、フランス人は内臓類を多く食べるため、内臓に含まれるタウリンがフレンチパラドックスをもたらしているともいわれている。(公益財団法人日本食肉消費総合センターHPより) ※2:ワインのエチケットに原料ブドウ品種が記載されたワインのこと。
安旨ワインだけじゃない!
1990年代に大成功したチリワインも2000年になる頃には、このままでは21世紀の国際市場では生き残ることができないという課題に直面し、これまでの「安くてわかりやすいヴァラエタルワイン」から、付加価値のあるプレミアムワイン造りへと舵を切りました。
テロワールを意識したワイン造りをコンセプトに、不足していたシャルドネの生産適地を冷涼地に求めるなど、これまでの濃くて果実味たっぷりのワインから、複雑味を備えたエレガントなワイン造りを目指して新しい土地にブドウが植栽されました。
そして10年以上が経過した今、ブドウ樹はようやく最良の生産樹齢に達し、興味深いワインが生まれています。
ボルドーの名門ロスチャイルド家が造るアルマヴィーヴァをはじめ、ボルドーやカリフォルニアのプレミアムワインにも匹敵するクオリティーのワインが生産されるようになっているのです。
また、これまで人気だったリーズナブルでわかりやすいヴァラエタルワインも、オーガニックのブドウから造られたシリーズが新たにリリースされるなど、より選択肢が広がってきています。
まとめ
コストパフォーマンスに優れた品質だけでなく、中高価格帯も含めた豊富なラインナップが魅力のチリワイン。
もはや一過性のブームではなく、チリワインは既に日本のワインシーンにしっかりと根をおろしているのかもしれませんね。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2020
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