ワインと料理のペアリングには、「定番」や「なんとなく合う」といった感覚的なセオリーが数多くあります。けれど、そのセオリーの“なぜ”を知ることで、これまで難しいと思っていた組み合わせも、納得のペアリングへと変わるはず。
本記事では、作家・料理家の樋口直哉さんとともに、ワインと食材の相性を実際に検証しながら、その仕組みをひも解いていきます。
解説してくれるのは、樋口直哉さん
作家・料理家。服部栄養専門学校卒業後、料理教室勤務や出張料理人などを経て、2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビュー。作家として作品を発表する一方、料理家としても活動し、メニュー開発なども手がける。 主な著書 『スープの国のお姫様』(小学館) 『おいしいものには理由がある』(角川書店) 『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA) 『料理1日目』(光文社) Instagram:@nao81519 X(旧 Twitter):@naoya_foodlab
目次
カレーライスとワインは合う?合わない?
今回の検証テーマは、家庭料理の定番・カレーライス。
スパイスの香りが食欲を刺激してくれるうえ、暑さで食欲が落ちやすい時期でも食べやすいことから、日本の夏の定番メニューとしても親しまれています。
カレーは、「ワインと合わない料理」の代表格として語られることがあります。理由としてよく挙げられるのが、スパイスの強い香りがワインの繊細な風味を覆ってしまうこと。さらに、辛味の強い料理はアルコールの刺激を際立たせやすく、相性が難しいとも言われています。 しかし、スパイスを使用する料理が、必ずしもワインに合わないわけではありません。実際、世界にはスパイス料理とワインを楽しむペアリングも数多く存在します。 特に日本で親しまれているカレーは、欧風の煮込み料理に近いスタイル。スパイス感がありながらも、旨味やコクがしっかりとしているため、選ぶワイン次第では十分にペアリングを楽しめる可能性が大いにあります。
徹底検証!カレーライス×ワイン
では実際にどうやってワインとカレーライスを合わせていくか、実食検証していきたいと思います。 今回用意したワインは5つ。ざっくり「スタンダードなボルドー赤&白ワイン」「甘口白ワイン」「万能ロゼワイン」「フルーティーな赤ワイン」です。 この5種類とカレーライスを合わせて、ペアリングする組み合わせを探ってみました。
ペアリングの定義
ペアリングは料理とワインを組み合わせることで、それぞれ単体で楽しむ時以上の相乗効果を生み出す考え方を指します。ざっくり言えば「1 + 1 = 3」の状態を作ること。これを本企画のペアリングの定義とします。
今回検証に用意したのは、市販のカレールゥ(辛口)を使った、玉ねぎとチキン入りのシンプルなカレー。付け合わせに夏野菜を添えました。
結果
結果一覧はこちら。やはり前提で想像していたように、相性が悪いものはありませんでした。それぞれ別々の良さを引き出している印象ですね。 カレーとワインのペアリングで大切なのは、スパイスの刺激やルゥの旨味を、ワインの味わいがどう受け止めるかです。 今回のカレーに赤ワインを合わせると、ルゥの豊かなうま味とスパイスの刺激によって、ワインの渋味や酸味が抑えられます。その結果、ワインが持つなめらかな果実味が前面に引き出され、まるで最初から赤ワインでじっくり煮込んだような、深みのある味わいへと変化するのでしょう。 逆に、料理とワインのボリューム感が大きくズレると、どちらか一方が浮いてしまい、違和感につながることも。 カレーとワインを合わせる際は、「濃い・薄い」だけでなく、口当たりや重心の近さを意識することが、ベストペアリングへの近道と言えるでしょう。 このあとは個別に結果を見ていきます。
クラシカルなフランスワインは赤ワインの果実味がキーポイント
最初に試したのはフランス・ボルドーのスタンダードな赤ワインと白ワイン。上品な果実味に、滑らかな口当たりが魅力の赤と、果実味と酸味のバランスが絶妙な白で、いずれも伝統的なスタイルのフランスワインです。
検証に使用したワインはこちら
クラレンドル・ルージュ
赤
パワフル&ストラクチャー
五大シャトーの一流の技術が注ぎこまれたワイナリー。上品な果実味に、熟成を経て生み出された滑らかな口当たりが魅力。 詳細を見る
4.2
(210件)2018年
3,300 円
(税込)
JS 90
2024年
3,300 円
(税込)
WA 90
まず驚いたのが、赤ワインが非常に好相性なこと。合わせることで、まるで赤ワインで煮込んだ欧風ビーフカレーのような印象になり、味わいにぐっと奥行きが生まれました。 特に今回のメルロ主体の赤ワインは、なめらかな果実味がカレーのコクと自然になじみ、全体を上品にまとめてくれます。これはビーフカレーにすれば、さらに相性の良さを実感できるかもしれませんね。 一方、白ワインを合わせると相性は悪くないものの、特別に調和する印象まではありません。ワインの酸味によって、スパイスの辛さがやや強調され、後味に少し違和感が残ります。 ただし、トッピングのズッキーニなどの野菜との相性がよく、今回のような夏野菜を使った軽やかなカレーであれば、爽やかに楽しめる組み合わせです。
甘口白ワインは、スパイスの華やかさを引き立てる組み合わせに
次は甘口の白ワイン。華やかな風味と酸味が心地よいドイツ産のワインです。
クナックアルシュ・リースリング・リープリッヒ
白
アロマティック&ピュア
モーゼルで伝統を守りながら革新を続けるオーガニック栽培の造り手。日々の食事と合わせやすいデイリーシリーズ。華やかな風味と優しい酸味が心地良い甘口。 詳細を見る
4.4
(21件)2023年
2,420 円
(税込)
スパイスの華やかさを持つ白ワインが意外なほどよく合いますね。まるでカレーにチャツネ(果物や野菜に砂糖、酢、香辛料を加えて煮詰めたインド発祥のペースト状調味料)を加えたように風味が広がり、白米との相性も違和感なく馴染みます。 白米がワインとぶつかるというより、“ソースのとろみ”のような役割を果たしており、全体を自然につないでいます。カルダモンのスパイスを加えると、ワインとの一体感はより高まります。
ロゼワインは軽やかさのあるカレーと合わせて
次はロゼワイン。チャーミングで華やかな味わいで、食事との相性が非常に良い万能ワインですが、カレーとの相性はどうなるのでしょうか。
サンタ・クリスティーナ ジャルディーノ・ロゼ
ロゼ
リッチ&フルーティー
名門アンティノリのDNAを受け継ぐワイン。花のような見た目やアロマから「庭」と名付けられた、繊細で優雅なロゼ。 詳細を見る
4.1
(27件)2024年
2,200 円
(税込)
相性は悪くないのですが、さらにオリーブオイルをひと回しかけることで、ぐっと良くなりますね。油分がスパイスの刺激を和らげてくれるので、ロゼワインのみずみずしさと果実味が際立ちました。 ロゼワインは特にチキンとの相性は良好ですが、煮込んだ鶏肉よりも香ばしく焼き上げたチキンのほうがより好印象かもしれません。ワインの持つ果実味や風味が、素材そのものの香ばしさと自然に重なります。 このロゼワインは爽やかな酸味が魅力で、料理を軽やかにさっぱりと感じさせるタイプ。そのため、コクの強い欧風カレーのような濃厚な味わいとはやや方向性が異なり、カレーとの相性よりも個別の素材との相性の良さが際立つ、という結果でした。
フルーティな赤ワインはカレーの甘さとバランスをとる
最後に、フルーティな赤ワイン。夏にもぴったりの冷やして飲んでおいしい軽やかな赤ワインです。
ワインのアルコール感が驚くほどやわらぎ、まるで濃厚なブドウジュースのような印象に変化します。 夏野菜カレーの場合だと、特にかぼちゃと相性がいいですね。ワインの果実味がかぼちゃの自然な甘さを引き立て、全体がまろやかにまとまります。 ただし、必ずしも“カレーらしさ”と強く結びついているわけではなく、相性の鍵になっているのはスパイスよりも前述したかぼちゃなどの甘みのバランス。 カルダモンやガラムマサラなど、華やかなスパイス感はワインとの一体感をより高めるためのプラスアルファになりますね。
番外編:グリーンカレー
今回、番外編として、グリーンカレーも用意しました。グリーンカレーはタイ定番のスパイシーなカレー。青唐辛子を使ったペーストにココナッツミルクを合わせることで、辛さの中にまろやかさや甘みが感じられるのが特徴です。 まずは合うこと間違いなしと思って用意した甘口白ワインから。グリーンカレーとの組み合わせでは、ココナッツミルクとのバランスがポイントですね。 ワインによってはココナッツの重たさや甘ったるさが強調されることもありますが、こちらの甘口白ワインのようにうまく噛み合うとスパイス感と香りが調和して心地よい味わいになりますね。 万能ロゼワインはさすが、好相性。ココナッツミルクのまろやかな甘みを持つタイカレーには、同じくやさしい果実味を備えたワインがよく合います。 ワインのほのかな甘やかさがココナッツの風味と調和し、スパイス感を上手い具合に包み込みこんでいます。 最後はフルーティ赤ワイン。ややワインの重たさが際立つ印象。ただ、ココナッツミルクの風味が口に残るものの、大きな違和感はなく比較的自然に楽しめる組み合わせです。
まとめ
ワインとカレーの組み合わせに、絶対的な正解はありません。だからこそ、「このスパイスにはどんなワインが合うだろう」「この具材なら、もっと相性が良くなるかも」と自由に試せる面白さがあります。
実際に合わせてみると、スパイスの香りが引き立ったり、果実味が料理の甘みを包み込んだりと、思いがけない発見に出会えることもあります。ワインを『ソース』や『調味料』に見立てることで、カレーとの距離はぐっと縮まります。
いつものカレーにワインを添えるだけで、食卓は少し新鮮で、そして少し豊かに。難しく考えすぎず、“自分がおいしいと思える組み合わせ”をぜひ探してみてください。