イタリア中部、ティレニア海に面したトスカーナ州はイタリアを代表するワイン産地の一つ。
世界的に親しまれているキャンティや、最も高貴なイタリアワインに数えられるブルネッロ・ディ・モンタルチーノ、イタリアワインの歴史を変えたと言われるスーパータスカンなど、有名ワインの数々を生み出す銘醸地です。
今回は世界中で愛される人気ワインの産地であるトスカーナについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
気候と風土
トスカーナ州はイタリア中部に位置し、北部のピエモンテ州と銘醸地の一つです。かつてフィレンツェ共和国として栄え15世紀にはルネサンス文化の中心地だった市街は、「フィレンツェ歴史地区」として世界文化遺産にも登録されており、美しい景観の観光名所としても知られています。
1716年にトスカーナ大公コジモ3世がカルミニャーノ、キャンティ、ポミーノ、ヴァル・ダルノ・ディ・ソプラの四つのワイン産地の境界を定めたことが世界初の原産地保護の例となり、ワイン業界においても重要な歴史です。
山と海に囲まれたトスカーナ州は全土の約66%が丘陵地帯となっています。北と東に広がるアペニン山脈と、西に広がるティレニア海の間にいくつもの谷が広がっており、内陸部は大陸性気候、海岸部は地中海性気候というように地域によって気候が大きく異なります。
そのため、内陸部と海岸部では違う個性のワインが生産されています。
栽培されている主なブドウ品種
イタリアの代表品種の一つでもあるサンジョヴェーゼを中心とした、トスカーナで栽培されているブドウ品種について紹介します。
サンジョヴェーゼ
イタリア中部地方を原産とする黒ブドウ品種。世界中で親しまれているキャンティはサンジョヴェーゼ主体で造られています。
世界全体の栽培量のほとんどをイタリアが占めていますが、土壌の選り好みが少ない多産品種のため、近年ではアメリカやオーストラリアでも栽培されており、イタリア起源のブドウ品種としては珍しい国際的な品種です。
突然変異しやすいブドウで、非常に多くのクローンが存在しており、大きくはサンジョヴェーゼ・グロッソとサンジョヴェーゼ・ピッコロの2種類に分けられます。
また、イタリアではそれぞれの地方が独自の栽培文化を持つため、サンジョヴェーゼの種類や産地によって異なったスタイルと味わいのワインが造られています。
例えばスミレの花やチェリーのフレッシュな香りと果実味、酸味のバランスが取れた味わいのキャンティや、プラムのような香りにタンニンが豊富で重厚な味わいのブルネッロ・ディ・モンタルチーノのようにその違いはさまざまです。
トレッビアーノ
イタリアやフランスで広く栽培されている白ブドウ品種の一つです。フランスではユニ・ブランまたはサン・テミリオンと呼ばれ、ブランデーの原料としても使用されます。
歴史は古く、古代ローマ時代にイタリアに伝わり、長い間ワイン造りに使用されてきました。
軽やかでフルーティーな味わいが特徴のフレッシュな早飲みワイン向けの品種とされ、ほとんどの場合がブレンドに用いられます。トスカーナ州の伝統的な食後酒で、イタリア語で「聖なるワイン」を意味するヴィンサントに使用されるのもこの品種です。
カベルネ・ソーヴィニヨン
赤ワインの王道品種とも言われる黒ブドウ品種。気候を選ばず、病害や害虫への耐性も強いその栽培のしやすさから世界中で栽培されています。
カシスやブラックベリーなどの黒系果実の濃厚なフレーバーと、皮と種由来のしっかりとした渋みが味わいの特徴で、熟成させてその変化を楽しむことができる品種でもあります。
世界的に有名な「スーパータスカン」はカベルネ・ソーヴィニヨンが主体で造られており、その品質の高さからイタリアワインの知名度の向上に大きく貢献しました。
ソムリエ解説!トスカーナのワイン造りの特徴って?
トスカーナを代表するブドウ品種として知られているのが、イタリアの全ブドウ品種の中でも国内栽培面積第1位を誇る「サンジョヴェーゼ」です。 キャンティ・クラシコをはじめとするトスカーナの代表的な赤ワインの多くがこの品種を主体として造られ、果実風味が豊かで緻密なタンニンとなめらかな酸味をもつ赤ワインが生み出されています。 一方で、海側に位置するボルゲリという産地では、フランス原産の品種であるメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンから、果実味とタンニンのバランスのとれたボルドースタイルの赤ワインが造られています。
代表的な産地
トスカーナの代表的な産地と、各産地の田邉さんおすすめワインをご紹介いたします。
キャンティ
キャンティはサンジョヴェーゼを主体に造られるワインの呼称で、アレッツォ県、フィレンツェ県、プラート県、ピストイア県、ピサ県、シエナ県の6つの県という広い範囲に及びます。
トスカーナ州の中で内陸部にあたり、アペニン山脈の影響で比較的冷涼な気候をしています。土壌は香り豊かでふくらみのあるワインを生み出すとされる保水性の高い粘土石灰質土壌です。
果実味が豊かでタンニンが控えめ、程良く酸が効いた飲みやすいスタイルが幅広い食事とマッチするため、イタリアワインの顔と言われるほど世界中で親しまれています。
田邉さんおすすめワイン キャンティ / マルティンガーラ
スーパータスカン「サッシカイア」の立役者であるセバスチャーノ・ローザ氏も加わり、3人の著名な生産者が手掛けるハイコストパフォーマンスなキャンティ。 果実味豊かで赤いフルーツの風味となめらかな酸味、緻密なタンニンが心地よく広がる。トマトソースを使ったパスタやピザとの相性は抜群です。
キャンティ・クラシコ
トスカーナ州内陸部フィレンツェとシエナの間に広がる丘陵地帯で、元々はこの地方がキャンティと呼ばれていました。
キャンティの人気の上昇に伴って生産地区がキャンティ地方以外に広がっていき、そこで生産されたキャンティと区別をするために、キャンティ・クラシコと名乗るようになりました。
キャンティと同様に比較的冷涼な気候をしており基本的には粘土石灰質土壌ですが、ガレストロと呼ばれる重厚感あるワインを生み出す泥灰土が薄く何層にも重なった土壌も多く見られます。
キャンティよりも高い標高に位置することから栽培されるブドウの果実はより長い熟成期間を経て、香り高い優美なワインが造られます。
田邉さんおすすめワイン キャンティ・クラシコ・アマ / カステッロ・ディ・アマ
キャンティ・クラシコ最高峰の生産者であり、世界的にも高い知名度を誇ります。 こちらのワインは、フラッグシップであるサン・ロレンツォの畑の若樹のブドウを使用して造られる秀逸な赤ワイン。 私自身もレストランやワインスクールの授業で何度もセレクトしてきたお気に入りのキャンティ・クラッシコの一つです。
キャンティ・クラシコ・アマ
赤
エレガント&クラシック
巨匠の手腕をお手頃価格で愉しめる、高コスパのキャンティ・クラシコ。若樹から生まれる、活き活きとした果実味が魅力。 詳細を見る
4.2
(53件)2021年
4,730 円
(税込)
JS 93
モンタルチーノ
西にティレニア海、東にアペニン山脈、南は標高約1,740mのアミアータ山に囲まれた丘陵地帯です。海から吹く暖かな風と山から吹く冷涼な風が昼夜の寒暖差を生み出す他、場所によって標高差があることで多彩なテロワールが生み出されています。
ここで栽培されたサンジョヴェーゼ・グロッソ100%で造られるのが、現在のイタリアを代表するワイン、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノです。イタリアでも「贈答品にはブルネッロ」と言われるほど、国内外で知名度と人気の高いワインです。
畑や熟成期間に厳格な定めがあり、瓶詰後の長期熟成能力の高いブルネッロ・ディ・モンタルチーノは力強く濃厚な味わいが主流でしたが、近年は伝統的な大樽を使用した醸造方法によって優美な味わいのワインが多く造られています。
田邉さんおすすめワイン ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ / ピエヴェ・サンタ・レスティトゥータ (ガヤ)
イタリアワインの帝王と呼ばれるガヤが手掛ける大人気銘柄。ブルーベリーやカシス、干しプラムを想わせる凝縮した果実の香り、心地よいスパイスのニュアンス、豊潤で奥行きのある味わいで余韻が長く続きます。 まさに「贈答品にはブルネッロ」と呼ぶにふさわしいハイクオリティな赤ワインです。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ
赤
パワフル&ストラクチャー
この地のテロワールと帝王のこだわりが集約。バランスに優れたエレガントな味わいのガヤ流「クラシック・ブルネッロ」。 詳細を見る
4.4
(32件)2018年
14,300 円
(税込)
ボルゲリ
フィレンツェから車で2時間弱走った場所に位置する、ティレニア海と山に挟まれた小さな村で、スーパータスカンの聖地と呼ばれる銘醸地です。
キャンティやブルネッロ・ディ・モンタルチーノとは異なる地中海性の温暖な気候が特徴で、夏の乾燥した空気と豊富な日照量、海から吹く涼しい風によって凝縮感と酸味のバランスが調和したワインが多数生み出されています。
砂質、石灰質、粘土質がモザイク状に入り組んでおり、海に近いことからミネラル分も豊富な土壌で、場所によって緩やかながら標高差があるため、生産者ごとに造られるワインのスタイルはさまざまです。
元祖スーパータスカンとして知られるサッシカイアが1978年にデキャンタ誌主催のブラインド・テイスティングにて「ベスト・カベルネ」の座を獲得して以来、イタリア有数の銘醸地として名だたる生産者がひしめき合う産地です。
田邉さんおすすめワイン レ・セッレ・ヌオーヴェ・デル・オルネライア / テヌータ・デル・オルネライア
世界的な人気を誇るスーパートスカーナのサッシカイア、グラッタマッコに並び、三大ボルゲリの一つとして知られる秀逸な赤ワイン、オルネライア。 こちらはオルネライアの若樹のブドウから造られるセカンドワインです。 カシスやブラックベリー、牡丹の香り、凝縮した果実の味わい、心地よいスパイスの風味も感じられる。ちょっと特別な日に開けたい。
レ・セッレ・ヌオーヴェ・デル・オルネライア
赤
パワフル&ストラクチャー
スーパータスカン、オルネライアの品種の持ち味を最大限に生かした、偉大なるセカンドワイン。しっかりした骨格と深みを備えたスタイル。 詳細を見る
4.3
(4件)2021年
14,300 円
(税込)
WE 95
2020年
13,200 円
(税込)
WA 93
トスカーナワイン豆知識
トスカーナワインをさらに楽しむための豆知識をご紹介いたします。
ソムリエ解説!トスカーナのワインの「当たり年」って?
近年においては、特に2016年がトスカーナにおけるグレートヴィンテージと言われています。 ワインにおけるヴィンテージの良し悪しは、気候に大きく左右されますが、晴天によるブドウの成熟としっかりとした寒暖差による風味の発展、酸の生成等が上手く進んだ年は、ワインにとって良いブドウが収穫できます。 そしてもう一つ重要なことは、ブドウの成熟がピークに達する秋の収穫期のタイミングで雨が降らないことです。ここが重なってしまった場合、ブドウが水分を吸い上げることで風味が一気に薄まってしまうことになります。 この点においてトスカーナは、ボルドーのような海洋性気候のエリアと比べて降水量が少なく、有利な環境と言えます。
ソムリエ解説!どんな飲み方がおすすめ?
トスカーナの赤ワインは、大きく分けてサンジョヴェーゼ主体のものと、ボルドー品種をブレンドしたタイプが存在しますが、どちらも「ボルドー型」と一般的に呼ばれる口の部分が比較的広い形状のやや大きめのグラスを使用するのがおすすめです。 サンンジョヴェーゼを主体のワインはキャンティのような軽やかなタイプと、キャンティ・クラッシコやブルネッロのように渋みがややしっかりとしていて凝縮感のあるタイプが存在しますが、飲用温度に関して前者はやや低めの14〜16度程度、後者とボルドー品種のブレンドタイプは高めの18〜20度程度が理想的です。 白ワインは爽やかな辛口タイプが主流で、小ぶりのスリムな形状で8〜10度に冷やして飲むのがおすすめです。
ソムリエ解説!熟成させるときに注意することは?
トスカーナの赤ワインは熟成することで発展するものも多く存在しますが、その際に最も注意したいのが保管温度です。 仮にワインセラーがない状態で1年間室温で放置すれば、冬は過度に冷やされ、夏は異常に高い温度での保管となり、ワインに大きなダメージを与えてしまいます。特に高温下での保管は絶対にNGです。 また、涼しいところから温かいところへ、そしてまた冷やすというように、保管温度が頻繁に上下するのも良くありません。 冷蔵庫は飲む前に冷やす目的、もしくは庫内の乾燥の影響を受けにくいスクリュー栓の白ワインを一定期間保存しておく場合は問題ありませんが、コルク栓を使用したタイプが主流であるトスカーナの白ワインの保存には望ましくないため、十分に注意する必要があります。
トスカーナワインにぴったりの料理
キャンティをはじめ、多くがフードフレンドリーな味わいのトスカーナワイン。そんなトスカーナワインに合う料理や食材、ペアリングのコツを田邉さんにお聞きしました。
ソムリエ解説!赤ワインにあう料理は?
トスカーナの赤ワインの中で代表的な銘柄として、まずはキャンティとキャンティ・クラシコを挙げることができます。 キャンティは赤い果実の香りを主体に、穏やかな渋みと生き生きとした酸味をもつタイプが主流で、こちらにはトマトソースを使用したパスタやピザ、ブルスケッタ等がよく合います。 一方で、クラシコは凝縮した果実感を持ち、長期間樽熟成したタイプが多く、スパイス感がりタンニンもより豊かなものが多いため、スパイスを効かせた牛肉のグリルにトマトやパプリカを添えたお料理がおすすめです。 ボルドー品種を使用したボルゲリのワインは、より濃縮した果実とロースト感を感じるタイプが主流で、スパイスを効かせた骨付きラム肉のグリルにブラックオリーブを添えたお料理とよく合います。
ソムリエ解説!白ワインにあう料理は?
トスカーナの白ワインは、ブドウ品種ヴェルナッチャやトレッビアーノを使用して造られるフレッシュでフルーティーなタイプが主流で、これらには、地元で有名なパンツァネッラ(パン、フレッシュトマト、タマネギ、バジルのサラダ)や鶏のレバーをのせたパン等とよく合います。 海に近いボルゲリのエリアのヴェルメンティーノから造られるミネラリーな白ワインは、シーフードとの相性が抜群で、貝類やシュリンプを使ったサラダや小エビのアヒージョとのペアリングがおすすめです。 ボルゲリの白でも樽熟成をしたややコクのあるタイプは、ホタテのバターソテーやサーモンのグリルにレモンを絞っていただくお料理ととてもよく合います。
まとめ
カジュアルな味わいから重厚な味わいまでさまざまな味わいの有名ワインを生み出すトスカーナ。
古くから守られてきた伝統的なワインに加え、新進気鋭の生産者たちが切磋琢磨して生み出す現代的なワインなど、その魅力は尽きません。
イタリアワインが気になったら、ぜひトスカーナのワインを試してみてくださいね。
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文=岡本名央