イタリアを代表する銘醸地であり、世界的な名声を誇るバローロとバルバレスコ。その2つが位置するのが、イタリア北西部にあるピエモンテ州です。
この度、エノテカ社員がピエモンテの現地取材で仕入れた情報を5つのテーマ別にご紹介いたします。
深く浸透するMGAの概念
MGAとは、Menzioni Geografiche Aggiuntive(追加地理言及)の略称で、ブルゴーニュでいう「クリュ」のこと。2007年バルバレスコを皮切りにスタートし、バローロでは2010年ヴィンテージから、ロエロでも2017年よりラベルへの単一畑表記が公式に認定されています。
このMGAの概念がピエモンテで深く浸透しているのは、複雑な地形に理由があります。特にバローロやバルバレスコでは、幾つもの小さな丘陵が縦・横・斜めにうねるように連なっており、畑によって斜面の向きや傾斜角度、日照量や土壌が大きく異なります。
そのため一世紀以上も前から優れた単一畑は暗黙の常識として理解されており、ピエモンテには単一畑文化が根付いていました。そしてMGAが制定されたことで、クリュによるテロワールの違いやワインの個性がさらに明確になったのです。
今回訪問したワイナリーでもMGAはホットな話題になっており、各生産者はMGAのマップやガイドブックを片手に、自身の畑の特徴やそこから造られるワインの魅力を熱く語っていました。
伝統派vsモダン派?
長期間のマセラシオンと大樽熟成を経た強靭なタンニンを持つ長期熟成型の伝統派と、短期間のマセラシオンと小樽熟成で早くから飲めるモダン派。バローロを語る上では、この伝統派vsモダン派の議論がしばしば取り上げられますが、近年では両者の手法をミックスした折衷型で造る生産者が多いのが実情です。
例えば、「伝統派の雄」カヴァロットでは、モダン派の象徴にもなったロータリー・ファーメンター(回転型発酵槽)を回転させず、タンク内部のブレードを左右にゆっくりと振りながら発酵をする、という独自の手法を実践。
また、「モダン派の旗手」と呼ばれていたパオロ・スカヴィーノではロータリー・ファーメンターとステンレスタンク、そしてピエモンテの伝統的な木製発酵槽であるティーニを使い分けて、醸造が行われていました。
このように現在のバローロは、その造り手が伝統派かモダン派か、という問いはあまりにもシンプル。それぞれの造り手は自身の理想を追い求めて日夜試行錯誤を続けているのです。
ティーニに見られる伝統回帰のトレンド
ティーニ(TINI)とは、ピエモンテで伝統的に使われてきた円筒形の木製発酵槽。現代のバローロではステンレスやコンクリート製のタンク、ロータリー・ファーメンターでの発酵が主流となっており、このティーニは20年ほど前までは、ブルロットやジュゼッペ・リナルディといった限られた生産者しか使っていませんでした。
しかし、今では多くの生産者が導入を開始。「伝統回帰」がバローロの1つのトレンドとなっています。
そもそも発酵にステンレスタンクが多く用いられるのは、温度コントロールの容易さや衛生面の管理のしやすさ、気密性の高さといったメリットが主な理由。しかし技術の発達した現代では、この点は木製発酵槽のティーニにおいても再現可能となりました。
また、ティーニでの発酵には、現在は温暖化による天候の変化と知識・技術の向上によってエレガントなタンニンのみを抽出することが可能になったそうです。
そして、ティーニが持つ、ワインが科学的にも安定する、微量の酸素供給を可能にするといったステンレスにはないメリットが再認識され、多くの造り手がティーニを導入するようになったのです。
コストが非常に高いこともあり、全面的にティーニを使用している造り手はまだ少数ですが、ブルーノ・ジャコーザでは2017年から3基のティーニを導入し、現状は良い結果になっているとのこと。マッソリーノでも近年導入し、オーナーのフランコ・マッソリーノ氏は徐々に比率を上げていく予定であると語っていました。また、モダン派の旗手として有名なパオロ・スカヴィーノにもティーニが導入されていました。
生産者のこだわりが現れる熟成樽
バローロ、バルバレスコにおいて各生産者によって様々なスタイルがあり、こだわりが現れているのが熟成樽です。
バローロ、バルバレスコで熟成に樽を用いるのは樽香を与えるためではなく、ネッビオーロの厳しいタンニンを和らげるためであると一般的には言われています。そのため、サイズに関しては、樽の影響が少ない大樽を使うのが伝統になっています。それに加え、収穫量や生産量によって、225リットルのバリックや500リットルのトノーを使い分けている生産者も多数でした。また樽の影響を少なくするためトーストしない生産者が多いのも特徴です。
また樽材の原産国によっても酸素の供給量は異なります。ピエモンテで広く使われていたのはスラヴォニアンオークとフレンチオーク、そしてオーストリアンオークです。
オーストリアンオークは非常にコンパクトで木目が密に詰まっており最も酸素を通しにくいとのこと。一方のスラヴォニアンオークは木の目が荒く、最も酸素を通しやすいそうで、フレンチオークがその中間にあたるそうです。
カヴァロットやエルヴィオ・コーニョはスラヴォニアンオークを、ブルロットはフレンチオークを使用。ブルーノ・ジャコーザやガヤ、ロヴェルト・ヴォエルツィオなどの造り手は異なる産地の樽材をキュヴェやヴィンテージによって使い分けるように、各生産者は自身の造るワインに最適な樽を選択しているようです。
多様な土着品種と郷土料理
ピエモンテと言えば、バローロとバルバレスコがまず頭に浮かびますが、それ以外で造られるランゲ・ネッビオーロやバルベラ、ドルチェットといった土着品種も見逃せません。
また、この地にはロエロ・アルネイスに使われるアルネイスやガヴィに使われるコルテーゼといった白ブドウ品種や、ナシェッタやペラヴェルガ、グリニョリーニョといった珍しい固有品種も存在します。地元の人々が普段の食事に合わせて飲んでいるのは、こうしたバローロ、バルバレスコ以外のワイン。特にピエモンテの郷土料理とこれら土着品種の相性は抜群です。
例えば見た目、味ともにポテトサラダにそっくりなピエモンテの郷土料理、インサラータ・ルッサ(ロシア風サラダ)には、ロエロ・アルネイスの組み合わせが抜群。
「エブリデイ・ワイン」「テーブル・ワイン」と地元で呼ばれるドルチェットは、前菜からメインまで様々な食事に合う懐の深さが魅力。地元の人は、トマトソースのパスタやピザといった様々な料理と共に楽しむのだそうです。
また、ピエモンテの郷土料理である牛肉のタルタル、バットゥータとの相性は非常に魅力的です。
また、生産者が口を揃えて「近年、高品質なものが増えてきた」と語るバルベラと相性抜群なのが、ピエモンテのレストランでは定番のタヤリン。生地に卵黄を沢山使ったパスタであるこのタヤリンの食感と、バルベラの丸みを帯びた口当たりが絶妙に絡み合います。
これらの土着品種はバローロやバルバレスコに比べ、低価格帯で手に入るのが魅力。この価格帯の幅広さやワインのスタイルの多様性、そして料理との相性が、ピエモンテワインの大きな魅力と実感しました。
最後までお読み頂きありがとうございます。5つのテーマでお届けしてまいりましたが、いかがでしたか?
是非、この機会にピエモンテワインをお楽しみ下さい!
ピエモンテの関連記事はこちら
バローロを擁するピエモンテワインが注目を集める理由とは?