バローロを擁するピエモンテワインが注目を集める理由とは?

ピエモンテ風景

フランスで銘醸地として名高いブルゴーニュは、産地全体の面積も各生産者が所有する畑も狭く、需要に対して供給不足になりやすいためワインの価格が高騰しているのが現状です。

そこで今、ブルゴーニュ愛好家が注目しているのがピエモンテワインです。なかでも知名度や評価の高さに対して、価格が控えめなバローロに注目が集まっています。

イタリア北部、ピエモンテ州に位置するバローロはしばしば「イタリアのブルゴーニュ」と称され、ピエモンテの造り手もバローロとブルゴーニュを「兄弟畑」と言うこともあるそうです。

では、同じ品種を栽培しているわけではない両者には共通点はあるのでしょうか?そしてバローロがブルゴーニュ愛好家から注目を集める理由はどこにあるのでしょうか?

ネッビオーロとピノ・ノワール

ネッビオーロ

バローロとブルゴーニュの共通点の一つに、単一品種、モノ・セパージュが挙げられます。バローロではネッビオーロが栽培されており、ブルゴーニュではピノ・ノワールが栽培されていますが、世界的なワインジャーナリストのジャンシス・ロビンソン女史は、この二つの品種にはいくつかの共通点があると説明しています。

一つはテロワールの重要性。ピノ・ノワールと言えば、良質なブドウを収穫するには、非常に限定的な、恵まれた条件が必要であると言われている繊細な品種ですが、ネッビオーロも数あるブドウ品種の中でも特に畑の位置に敏感とされる品種です。その理由は、発芽時期が早いのに収穫時期が遅く、日照が不足する北向きの斜面では優れたブドウが生まれないという気難しい性格だからです。

優れたネッビオーロは、標高250mから450mの丘の上部かつ、南向きか南西向きの斜面にある畑から生まれるとされており、バローロの生産地区においても、方位の悪い畑や低地にはネッビオーロ以外の品種が植えられていることが多いのです。

また、ピノ・ノワールが「テロワールを反映しやすい」と言われ、ブルゴーニュの中でもシャンボール・ミュジニーとジュヴレ・シャンベルタンから生まれるワインの味わいが異なるのと同じように、ネッビオーロも土壌や気候といったテロワールを表現しやすい品種であることも共通点に挙げられます。

バローロには11の村があり、ラ・モッラ村からは香り高く、優美なワインが生まれ、セッラルンガ・ダルバ村のワインは厳格で長期熟成能力を持つと言われるように、それぞれの村から生み出されるワインは村ごとのテロワールを反映した異なる個性を持っているのです。

単一畑文化

ピエモンテ風景

バローロとブルゴーニュのもう一つの共通点として単一畑文化が挙げられます。ブルゴーニュでは古くから単一畑の伝統があり、厳しい法律(原産地統制名称)によって産地や畑は細分化され、「グラン・クリュ」「プルミエ・クリュ」「ヴィラージュ」といった畑(クリュ)毎に格付けがされています。

バローロにおいても単一畑文化が存在し、近年、単一畑から造り出される「クリュ・バローロ」が人気を集めています。

しかし、実はバローロに単一畑文化が生まれたのは今からそう昔ではありません。バローロでは以前、大商人がワイン生産を独占し、ブドウを各地の栽培農家から買い集めて造るために、複数の畑をブレンドすることが伝統とされていました。そんな中、1961年、プルノットのブッシアと、ヴィエッテイのロッケ・ディ・カスティリオーネが初の単一畑バローロとしてリリースされます。その後も多くの造り手が、ブルゴーニュのクリュの概念をバローロに導入し、テロワールの個性を活かすようなクリュ・バローロを生み出したのです。

そして2014年、統制原産地呼称(D.O.C.G.)に基づいて2010年ヴィンテージから、ラベルへの単一畑の表記が公式に認定されました。畑名が公式にラベルに表記できるようになったことで、ますます畑ごとのテロワールにフォーカスしたワイン造りが盛んとなっています。

バローロでは単一畑を表す「クリュ」は「MGA」(Menzioni Geografiche Aggiuntive=追加地理言及)と呼ばれています。現在、バローロには181のMGAが存在していますが、ブルゴーニュのように品質の指針となる公式のヒエラルキーはありません。

しかしながら、実際には、バローロで生活を送る人々は真のグラン・クリュを暗黙の常識として理解し、歴史的にも1969年には著名なワインジャーナリストであるルイージ・ヴェロネッリ氏が、1976年にはラ・モッラ村の造り手レナート・ラッティ氏が、私的見解としてクリュの格付けを実施。

2014年には、元エスプレッソ・ガイドの鑑定責任者、アレッサンドロ・マスナゲッティ氏が著書『Barolo and Barbaresco Classification』において6段階でバローロのクリュを格付けしています。ちなみにその中の最高位、5ッ星Sにはヴィーニャ・リオンダ、ロッケ・ディ・カスティリオーネ、チェレクイオ、ブルナーテの4つのMGAが選ばれています。

この単一畑の文化もブルゴーニュ愛好家の好奇心と探究心をくすぐる理由の一つであると言えるでしょう。

生産者の規模と多様性

樽

ブルゴーニュのワイナリーは、一般的に家族経営の小中規模が中心で、ブドウ栽培家がそのままワイン生産者となる「ドメーヌ」が大半を占めています。

そのため生産量はボルドーなどに比べると圧倒的に少なく、その稀少性こそがブルゴーニュワインの価格を高騰させる一因となっています。

一方バローロも、以前は大商人がワイン生産を独占し、ブドウ栽培農家は大商人にブドウを売るという構図が普通とされていましたが、この伝統を打破し、多くのブドウ栽培農家が自分でワインを造り出す「ドメーヌ」となります。これによってバローロのワインの品質は格段に向上することになったのです。

そして、そのような生産者の大多数が所有する畑は2、3haと僅かなもので、大きなところでも100ha程度。そのため年間生産本数も10万本未満と、ブルゴーニュと同じように少ないのが特徴です。

また、これらの生産者が生み出すワインのスタイルの多様性もバローロの大きな魅力の一つです。

バローロでは長期間のマセラシオンと大樽熟成を経た強靭なタンニンを持つ長期熟成型のワインが伝統となっていましたが、1980年代にバローロ・ボーイズと呼ばれるモダン派の生産者が登場。短期間のマセラシオンと小樽熟成で早くから飲めるバローロを造り出します。

その後、伝統派VSモダン派の議論が盛んとなりましたが、近年では両者の手法をミックスした折衷型で造る生産者が多くなり、モダン派・伝統派という図式を超え、それぞれの生産者のスタイルが確立。造り手ごとに自らの思想・哲学のもと、多様なスタイルのワインが生み出されているのです。

飲み手である我々が自分にとって本当に美味しいワインを楽しむには、好みに合った良い生産者を選ぶ必要があり、これはまさにブルゴーニュと共通する楽しみ方の一つであるとも言えるでしょう。

まとめ

ネッビオーロという品種、村や畑のテロワール、そして造り手の思想が絶妙なハーモニーを奏でて生まれるバローロは、現在価格が高騰するブルゴーニュワインの愛好家にとって、まさに最適な選択肢の一つであると言えるでしょう。

多くのワインジャーナリストや評論家は、バローロも人気とともに価格が高騰していき、ブルゴーニュとの価格の差はこれからの数年で縮まっていくだろうと述べています。まだ価格が控えめな今こそ、バローロを試してみてはいかがでしょうか?

そして、バローロにはブルゴーニュと似ている点はありつつも、違いはそれ以上にたくさんあります。また、バローロだけでなくピエモンテ全体に目を広げてみると、多様な土着品種や、更に幅広いワインのスタイルが存在しています。今後もピエモンテワインならではの個性や魅力を、ご紹介していきますのでどうぞお楽しみに!