食用ブドウとして有名なマスカット。実はワイン用品種、モスカートとしても栽培されており、世界中で絶大な人気を誇ることをご存知でしょうか。
今回はフルーティーで軽やかな味わいの白ワインを生み出す品種モスカートについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
モスカートのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
特徴
世界中で幅広く栽培され、白ブドウとして抜群の知名度を誇るマスカット。そのワイン品種としての別名がモスカートです。
最古の品種の一つとされるモスカートの歴史は古く、世界各国で栽培され、それぞれの土地の風土と文化の中で独自の進化を遂げてきました。
そうした歴史の中でさまざまな亜種が誕生し、モスカートという名前はその亜種も含めた品種全体を指す言葉です。
これらの亜種は産地や栽培方法によって異なる特徴を持つため、非常に多様性に富んだブドウであると言えます。
また、ワイン用品種としての名前も国ごとに異なり、イタリアでは「モスカート」、フランスでは「ミュスカ」、そしてスペインでは「モスカテル」という風にさまざまな呼び名を持ちます。
いずれも同じ品種を指していますが、それぞれの国で異なるスタイルのワインを生み出しています。
ソムリエ解説!どうして亜種が多いの?
モスカートは、古くから地中海沿岸エリアで広く栽培されていたブドウ品種で、原産地は完全には特定されていませんが、ギリシャという説が有力です。 地中海沿岸を中心に世界各地へと広がったモスカートは、長年に及ぶ伝播の過程によって多くの亜種が誕生し、今に至っています。地域ごとに多くの別名を持っています。 その中でも、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランが最も古くから存在する品種で、マスカット・オブ・アレキサンドリアも同等に古い歴史を持つ品種と言われています。
ソムリエ解説!日本を代表する品種、マスカット・ベーリーAとの関係は?
モスカートは、現在さまざまな亜種が存在していますが、その中でもミュスカ・ブラン・ア・プティ・グランが最も古くから存在する品種と言われ、黒い果皮をもつマスカット・ハンブルグ(マスカット・オブ・アレキサンドリアとトロリンガーの交配種)も、その子孫にあたると言われています。 そして現在、日本を代表する黒ブドウ品種の一つとして有名なマスカット・ベーリーAは、ベーリーとマスカット・ハンブルグの交配で生まれた品種であり、マスカット種にアメリカ系品種を掛け合わせて生まれた派生品種にあたります。 実際に飲んでみると、似た個性をもっていることがお分かりいただけるでしょう。
モスカートはアロマティック品種の一つで、フローラルでフルーティーな香りが特徴。オレンジの花やアプリコット、ピーチのような甘美な香りが、モスカートから造られるワインの最大の魅力です。
モスカートにはいくつかの代表的な亜種があり、それぞれが異なる特徴を持ちます。
モスカートを使用したワインの中でも有名なモスカート・ダスティは、イタリア・ピエモンテ地方で「モスカート・ビアンコ」という品種から造られる軽やかで爽やかな甘口のスパークリングワインです。
「ミュスカ・ア・プティ・グラン」は芳醇で力強いアロマを持つフランスの亜種で、貴腐ワインの原料にもなります。
これらの亜種が、それぞれの地域の特色を反映し、モスカートの多彩な表現を可能にしています。
ソムリエ解説!モスカートから造られるワインはすべて甘口?
イタリアのアスティ・スプマンテや南フランスの酒精強化ワインであるミュスカ・ド・ボーム・ド・ヴニーズ、ミュスカ・ド・リヴザルト、その他にもギリシャのマスカット・オブ・サモス等、世界のさまざまな産地で、モスカート(ミュスカ)から造られる甘口タイプのワインが人気を博しています。 しかし、この品種から造られるワインは、甘口だけに限定されているわけではありません。 有名なものとして、フランスのアルザス地方を代表する品種の一つであるミュスカは、高貴四品種にも挙げられ、同地方ではこの品種から華やかな香りをもつ、爽やかな辛口タイプの白ワインが造られています。
代表的な産地
世界中で栽培され、その土地の気候や風土によって個性豊かなワインを生み出すモスカート。その代表的な産地をいくつかご紹介します。
イタリア・ピエモンテ
イタリア北部の銘醸地・ピエモンテでは、乾杯ワインの定番「アスティ」の原料となるモスカート・ビアンコが広く栽培されています。
「アスティ」には、スパークリングワインのアスティ・スプマンテ、微発泡ワインのモスカート・ダスティ、スティルワインのヴェンデンミア・タルディーヴァなどの種類があり、いずれも香り高い甘口ワインとして人気です。
フランス・アルザス
フランスの北東部に位置するアルザスでは、ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン、ミュスカ・ローズ・ア・プティ・グラン、ミュスカ・オットネルのミュスカ系3品種が、リースリングなどとともにアルザスの白ワインの原料として認められています。
この3品種はミュスカ・ダルザス(アルザスのミュスカという意味)と呼ばれ、白い花やメロン、桃、洋梨のような果実の華やかな香りと、爽やかな酸が特徴の極辛口のワインとなります。
スペイン
スペイン・アンダルシア地方で造られる酒精強化ワイン、シェリーの原料ブドウの一つにマスカット・アレキサンドリアが使用されています。
モスカテルは、遅摘みや天日干しによって糖度を高め、果汁に酒精を加えてブドウ本来の甘さを残した極甘口のワインです。
シェリーの一種として、特に「モスカテル」はその特徴的な甘さで有名です。
オーストラリア
オーストラリア南東部のヴィクトリア州にあるラザグレンでは、濃厚な甘さと複雑な風味、そして長い熟成期間が特徴の酒精強化ワインの原料として用いられ、デザートワインとして世界的に高い評価を得ています。
ソムリエ解説!産地による味わいの違いは?
モスカートは世界のさまざまな産地で栽培されており、とても多くの別名をもっていますが、それぞれの生産地で生まれるワインのスタイルもさまざまです。 イタリアのピエモンテ州を代表する「アスティ」は、華やかなアロマとフルーティーで軽やかな味わいを持つスパークリングワインが造られており、世界中で大人気。 一方で、南フランスのローヌ地方やラングドック・ルーション地方では、豊潤な甘口の酒精強化ワインが造られています。 イベリア半島に位置するスペインやポルトガルでは「モスカテル」と呼ばれ、南フランスと同様に、素晴らしい品質の酒精強化ワインが造られています。 その他にも、高品質な甘口ワインで近年注目を浴びているのがオーストラリア ヴィクトリア州の「ラザグレン」です。 フランスのアルザス地方では、ミュスカと呼ばれ、華やかな香りをもつ爽やか辛口タイプの白ワインが造られています。この他にも世界のいろいろな場所で栽培され、多様なスタイルのワインが生まれています。
相性の良い料理
モスカートが洋食、和食、中華それぞれどんな料理が合うのか、田邉さんに聞いてみました。
ソムリエ解説!洋食ならどんな料理が合う?
モスカートから造られる白ワインとして、イタリアのアスティ・スプマンテを例に挙げると、マスカットや青リンゴ、白い花の華やかな香り、心地良い甘味を伴う新鮮な果実を思わせる味わいと爽やかな酸味が特徴。 こちらに合わせるお料理としておすすめしたいのが、シャインマスカットやイチゴ、リンゴやメロン、キウイをカットして盛り付けたフルーツの盛り合わせです。 さまざまのフルーツの風味と自然な甘味と酸味に、ワインのもつ香りと味わいが調和し、双方の味わいがより引き立ちます。メロンは生ハムメロンのスタイルにするのもおすすめです。
ソムリエ解説!和食ならどんな料理が合う?
和食を合わせる場合は、低温でゆっくりと火入れをした鶏肉のささみに少量のわさびとすりおろしたリンゴを添えた一品がおすすめです。 鶏肉のなめらかなテクスチャーとゆっくりと広がる旨み、わさびの風味と清涼感、りんごのフルーティーな味わいとテクスチャーにワインが持つ要素が綺麗に重なり、それぞれの味わいがより引き立ちます。
ソムリエ解説!中華ならどんな料理が合う?
中華を合わせる場合は、ライチと豚肉の甘酢炒めをおすすめします。 豚肉のまろやか味わいにワインの酸味とほのかな甘味が溶け込みながら、ライチのフレーヴァーとその味わいにも同調します。 チンゲン菜の心地よい苦味とミネラル感、生姜の清涼感にも、ワインの爽やかさとミネラルのニュアンスがとてもよく合います。
おすすめワイン
最後に、田邉さんおすすめのモスカートを使ったワインを3本ご紹介します。
ヴィーニャ・エスメラルダ / トーレス
「世界で最も称賛されるワインブランド」※にも選ばれた名門トーレスが生み出す華やかでエレガントな白ワイン。 「エメラルドのワイン」という意味を持ち、日本においても長年人気を誇っています。私自身、かつて勤務していたレストランのワインリストにもオンリストしていたことがあり、多くのゲストから大好評いただいていました。コストパフォーマンスも抜群です。
※イギリスの専門誌「ドリンクス・インターナショナル」にて通算7回受賞
ミュスカ ・レゼルヴ / トリンバック
1626年の創業以来、4世紀もの間、13代に渡って歴史と伝統を育んできたアルザスを代表するワイナリーの一つ。 エントリーラインからトップクラスのワインまで、それぞれのレンジで非常に高品質なワインを生み出し続けています。 こちらはミュスカの中でも厳選したブドウのみを使用して造られた白ワイン。この品種ならではの華やかな香りと新鮮な果実の味わいを存分にお楽しみいただけます。
ガンチア・モスカート・ダスティ / ガンチア
イタリア・スパークリングワインの元祖としてその名を知られるガンチア。日本においてもその名は広く知られ、長年高い人気を誇っています。 モスカートに由来するアロマティックで華やかな香りが広がり、豊潤な甘味と爽やかな酸味のバランスが素晴らしい。 微発泡でアルコール度数も5.5%と低く、自然で優しい味わいが魅力のスパークリングワインです。
まとめ
モスカートは、そのフローラルでフルーティーな香りと多様なスタイルで、ワイン愛好家から初心者まで幅広く愛されています。
今回ご紹介したモスカートの特徴や産地、料理とのペアリングを参考に、ぜひお気に入りのモスカートワインを見つけてみてください。
モスカートのワイン一覧
文=岡本名央