赤ワインの代表的なブドウ品種、ピノ・ノワール。高品質なワインを生み出すブドウであり、世界で最も高値で取引されると言われるブルゴーニュの赤ワイン「ロマネ・コンティ」もピノ・ノワールから造られます。
今回は長い歴史を持ち、世界各地で栽培されるピノ・ノワールについて、ソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
ワイン一覧はこちら
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年:J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年:ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018年:SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
特徴
「Pinot」とはフランス語で「松ぼっくり」を意味し、実が密集して房が松かさのような形状になっていることから、ピノ・ノワールと呼ばれるようになったと言われています。
ピノ・ノワールは繊細で気難しい品種のため栽培のハードルが高いことが特徴です。良質なブドウを育てるためには冷涼か温和な気候が必要で、病気にも弱いことから、他の品種に比べて栽培するのも醸造するのも難しく、限定的な条件の環境でしか栽培されていません。
かつては「ブルゴーニュ以外では栽培できない」と言われていましたが、近年ではアメリカ・カリフォルニアやニュージーランドでの成功をきっかけに、世界中で栽培される国際品種の一つとなりました。
栽培が難しい反面、土地の特徴や造り手のスタイルが反映されやすいため、世界各地でさまざまな個性を持ったワインが手掛けられています。
また、突然変異しやすい特徴を持ち、長い歴史の中でピノ・ブラン、ピノ・グリといった品種も生まれました。
ソムリエ解説!なぜ温暖な気候では栽培が難しいの?
ピノ・ノワールは萌芽と成熟が早い品種で、良質のブドウを生産するためには、冷涼か温和な気候が必要となります。 栽培環境が暖かすぎるとブドウは新鮮な果実風味を失い、華やかな風味は失われ、持ち前の綺麗な酸味も感じられなくなり、ピノ・ノワール特有の魅力的が半減してしまいます。 フランスのブルゴーニュ地方原産のブドウ品種であるピノ・ノワールは、生まれ故郷であるこの土地の気候帯が非常に適しており、世界のワインラヴァーを魅了するワインが造られています。 近年では、ドイツや日本の北海道等の冷涼な産地においても、それに負けないくらいの素晴らしい品質のピノ・ノワールのワインが生産されるようになってきました。
ピノ・ノワールは主に赤ワインの原料として使用され、他の品種とブレンドしてされることはほとんどありません。
一般的には明るいルビー色で、チェリーやフランボワーズ、スミレのような香り、酸と果実味のバランスの取れたフレッシュで軽い飲み口のワインが出来上がります。
また、シャンパンを造る際にはシャルドネやムニエとブレンドされることも多く、ピノ・ノワールによってふくよかさが加わります。ピノ・ノワールやムニエなどの黒ブドウのみを使用して造られるシャンパンは「ブラン・ド・ノワール」と呼ばれます。
ピノ・ノワールは、下記のように生産地によって呼び名が異なります。
ソムリエ解説!長期熟成はできるの?
赤ワインが長期熟成するために必要な要件の一つとしてまず挙げられるのが、タンニン(渋みの成分)の豊富さです。 ワインに含まれるタンニンが豊富であれば、酸化に対抗する力が強くなり、より長い熟成に耐えることができます。 ピノ・ノワールから造られた赤ワインは、タンニン自体は強く感じないものの、緻密できめの細かいタンニン、そしてもう一つの大切な要素である酸味が豊富に含まれています。 それに加えて豊かな風味を備えているワインであれば、長期熟成にも耐えることができ、時を経ることでより複雑性を帯びたワインへと進化していきます。
ピノ・ノワールは同じく黒ブドウ品種の代表格として有名なカベルネ・ソーヴィニヨンと、並べて比べられることがあります。
この二つは対照的な特性を持っており、下記のような違いがあります。
ソムリエ解説!「カベルネ・ソーヴィニヨン」との違いって?
これら二つの品種は、外観、香り、味わいともに非常に異なる個性を持ち、まさに相反する魅力を持ったブドウ品種と言えます。 果皮の厚いカベルネ・ソーヴィニヨンは色調が濃くなる傾向があり、香りはカシスやブラックベリーのような黒系の果実、そして森の針葉樹や杉のような香りが感じられるのも特徴。味わいの大きな特徴としては、渋みがしっかりとしていることが挙げられます。 それとは対照的に、ピノ・ノワールの色調は淡くなりやすく、香りは色調からも連想できるラズベリー等の赤い果実のニュアンス、味わいは緻密できめの細いタンニンと豊かで伸びやかな酸味が特徴です。
代表的な産地
ピノ・ノワールにとっての理想的な気候条件とその品質の高さから、長らくブルゴーニュが「ピノ・ノワールの聖地」とされてきました。
しかし近年、他の産地においてもブルゴーニュに匹敵する品質と風味の素晴らしいピノ・ノワールが多数造られています。
そんなブルゴーニュを含め、代表的な産地についてご紹介します。
フランス・ブルゴーニュ
フランスの東側、中央よりも北寄りに位置するブルゴーニュ地方はピノ・ノワールの原産地です。
コート・ドール(黄金の丘)と呼ばれる、ブルゴーニュの中心地ディジョンの街からつづくコート・ド・ニュイとその南のコート・ド・ボーヌを合わせて南北方向に約60kmに広がる丘陵地帯で主に栽培されており、早飲み向けのものから長期熟成が可能なものまでさまざまなワインが造られています。
石灰岩や泥灰土を中心としたさまざまな地層が重なり複雑に組成されたブルゴーニュの土壌は、わずか数メートル隣の畑でもまったく成分が異なり、個性の違うブドウが育つと言われています。
そんな多様性に富んだ土壌で造られるピノ・ノワールは世界最高峰と言われ、ロマネ・コンティやラ・ターシュ、リシュブールなどの代表的なワインは、長期熟成にも耐えうる素晴らしい品質で高い評価を受けています。
ワイン一覧はこちら
アメリカ・カリフォルニア
カリフォルニアは、典型的な地中海性気候で年間を通して温暖なため、ピノ・ノワールの生育においては暖かすぎることがほとんどです。
しかし、海で発生する霧と冷たい風による冷却効果がもたらされる海岸付近のごく限られた地域において良質なピノ・ノワールが造られています。
中でも太平洋からの海風によって冷やされるソノマでは「カリフォルニアのヴォーヌ・ロマネ」と称されるラ・クレマをはじめとしたさまざまな生産者が、非常に高品質なピノ・ノワールを造り出すことで有名です。
ワイン一覧はこちら
ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州
世界のブドウ栽培地の中でも北限に位置するドイツではシュペートブルグンダーと呼ばれます。
白ワインの産地の印象が強いのですが、実は近年ではピノ・ノワールで造られる高品質な辛口赤ワインが、ブルゴーニュにも比肩する高い評価を得て注目を集めています。
中でも最南端のバーデンはピノ・ノワールの銘醸地として有名です。冷涼な気候のもと栽培されるブドウは酸味が高くなる傾向にあり、バランスをとるために醸造時にしっかりとした抽出やオーク樽での熟成をする生産者も多く、輪郭のはっきりとした厳格な味わいのワインが造られています。
ワイン一覧はこちら
ニュージーランド・マーティンボロ
ニュージーランドは、気候的栽培適性の観点から赤ワインについては早い段階でピノ・ノワールの生産に焦点を定めたことが功を奏し、新世界におけるピノ・ノワールの代表的な産地として名を連ねています。
特に北島の南端に位置するマーティンボロは気候や土壌の条件がブルゴーニュと非常に似ており、熟した赤系果実のたっぷりとした果実味と甘い香辛料の風味の、ふくよかなスタイルのワインが世界的に高い評価を得ています。
南アフリカ・ウォーカーベイ
南アフリカは乾燥した温暖な地中海性気候ですが、国内ワイン産地の9割が集中する西ケープ州は南極から流れ込む冷たいベンゲラ海流の影響で低緯度の割に冷涼なため、質の高いブドウを収穫することができます。ピノ・ノワールはその中で特に冷涼な沿岸地域で多く栽培されています。
ケープ・サウス・コーストに位置するウォーカーベイは、南アフリカでは珍しく粘土質が多く含まれる土壌で、造られるワインはブルゴーニュを彷彿とさせるストラクチャーとエレガンスを備えており、ピノ愛好家を魅了する味わいです。
ワイン一覧はこちら
ソムリエ解説!産地による味わいの違いは?
ピノ・ノワールは、単一品種でワインを造ることが特徴であり、ブドウが育つ畑の環境が、出来上がるワインの個性に如実に反映されます。 例えば、フランスのブルゴーニュ地方のコート・ドール地区では、畑の位置によってワインの風味、複雑性は大きく異なり、価格差も驚くほどの開きがあります。 その中でも、ブルゴーニュワイン全体に共通する味わいももちろん存在しており、赤い果実やレザー、紅茶のような香り、綺麗な酸味と豊かな果実の風味とのバランスが特徴と言えます。 それに対して、カリフォルニアやオーストラリア、ニュージーランド等の新世界のピノ・ノワールは、赤い果実の香りと味わいがよりはっきりとしていて、ジューシーでフルーティさを感じるタイプが多い傾向にあります。 近年においては、ブルゴーニュのスタイルに似た日本の北海道のピノ・ノワールの注目度も高まってきています。こちらは日本ならではの「旨味」を感じるのが特徴です。
相性の良い料理
控えめなタンニンと綺麗な酸味が特徴のピノ・ノワールは、幅広い食事と合わせて楽しむことができます。
洋食、和食、中華それぞれどんな料理が合うのか、田邉さんに聞いてみました。
ソムリエ解説!洋食ならどんな料理が合う?
ピノ・ノワールから造られた赤ワインの持ち味である緻密で溶け込んだタンニンは、適度な脂質とまろやかな味わいを持つ鶏肉を使った料理との相性が抜群です。 樽のニュアンスを強くつけないスタイルが主流のピノ・ノワールには、お肉を香ばしく焼くのではなく、赤ワインでじっくりと煮込むような調理法が特におすすめ。 ワインの果実風味と繊細なタンニンが煮込み料理の味わいの中に溶け込んでいき、味わいがより豊かになり、特有の伸びやかな酸味が、肉の旨味をさらに引き出してくれます。 マッシュルームや玉ねぎを加えて、ピノ・ノワールのワインと一緒に煮込むことで、ワインに感じられるフレーヴァーと同調し合い、さらに相性が高まります。
ソムリエ解説!和食ならどんな料理が合う?
ピノ・ノワールの持ち味である緻密で繊細なタンニンと美しくしなやかな酸味は、赤ワインでありながら魚料理と合わせることもできます。 マグロやカツオを使用した料理との相性の良さにも定評がありますが、もう一つのおすすめは、ブリの照り焼きとのペアリング。脂がのったブリの旨味を、ワインが持つ緻密なタンニンと酸がさらに引き出してくれます。 照り焼きの独特のまろやかな味わいとピノ・ノワールの豊潤な風味との相性も抜群です。 ワインの産地としては、南アフリカのウォーカーベイや日本の北海道の余市等、海のテロワールを感じるエリアのピノ・ノワールが特におすすめです。
ソムリエ解説!中華ならどんな料理が合う?
ピノ・ノワールから造られた赤ワインがもつ芳醇な果実や甘いスパイスの香りとフレーヴァー、そして味わいに感じるまろやかさと緻密なタンニン、しなやかで伸びのある酸味と滑テクスチャー。 こちらに対して、中華料理で合わせるとすれば、中華風の豚の角煮がおすすめです。双方の香りと味わいが調和して見事に溶け込んでいき、味わいの深みがさらに増します。 ワインにほんのりと感じるヨード香(昆布やわかめ、海苔に含まれている香り)が、料理の隠し味に使われているオイスターソースの風味とも非常によく合います。
おすすめワイン
最後に、田邉さんおすすめのピノ・ノワールを使ったワインを3本ご紹介します。
グランド・リザーヴ・プラトー・ピノ・ノワール / シレーニ
日本で販売数ナンバーワンを誇るニュージーランドのワインブランド「シレーニ」。近年、価格の高騰が続いている世界のピノ・ノワールですが、その中でも非常にコストパフォーマンスの高いワインを生み出し続けている生産者です。 こちらはより良い立地の選りすぐりのブドウから造られた上級クラスの1本。
グランド・リザーヴ・プラトー・ピノ・ノワール
赤
チャーミング&パフュームド
【サクラアワード2023にてゴールド受賞!】日本で一番売れているニュージーランドワインブランド、シレーニが手掛ける上級キュヴェ。冷涼な高地で造られるブドウを使用した、香り高き1本。 詳細を見る
4.1
(69件)2020年
3,630 円
(税込)
ピノ・ノワール・アティテュード / パスカル・ジョリヴェ
フランスのロワール地方を代表する生産者が造るエレガントなスタイルのピノ・ノワール。 パスカル・ジョリヴェは「ソーヴィニヨン・ブランの魔術師」とも呼ばれる名手であり、日本でも高い知名度を誇っている人気の造り手。冷涼気候ならではのピュアな果実の香りと味わいが楽しめます。
ピノ・ノワール・アティテュード
赤
チャーミング&パフュームド
ソーヴィニヨン・ブランの魔術師と呼ばれるロワールを代表する自然派の名手。ピュアな味わいが魅力のピノ・ノワール。 詳細を見る
4.0
(62件)2023年
3,300 円
(税込)
ヤラ・ヴァレー ピノ・ノワール / ジャイアント・ステップス
近年、ますます注目度が増しているオーストラリアの冷涼産地のピノ・ノワール。 熟した赤い果実の風味と綺麗な酸味、心地よいなめらかなテクスチャーのバランスが素晴らしい。ブルゴーニュ地方のスタイルとはまた違った、オーストラリアならではのピノ・ノワールの味わいを存分に楽しめる1本です。
ヤラ・ヴァレー ピノ・ノワール
赤
エレガント&クラシック
ブルゴーニュの強力なライバルと絶賛される注目の造り手が手掛けるスタンダードキュヴェ。ブルゴーニュの良質のピノ・ノワールに匹敵する1本。 詳細を見る
4.2
(11件)2023年
4,950 円
(税込)
JS 92
まとめ
他のいかなる品種よりもテロワールの複雑な個性を伝えることができることが最大の魅力であるピノ・ノワール。
産地や生産者ごとに味わいの個性もさまざまです。ぜひ好みの味わいを見つけてみてくださいね。
ピノ・ノワール の商品一覧
文=岡本名央