ワインは基本的にブドウのみを原料に造られるお酒です。だからこそ品種やその土地の個性が反映されますが、あともう一つ、外せない要素が “人”です。魂や愛情を込めてワインに向き合う人が欠かせません。
今回はイタリアの生産地を訪れ、伝統と革新を重んじる「アンティノリ」のワイナリーを訪問しました。彼らがどんな想いでワインと向き合っているのかを、2回にわたってお伝えします。
後編では、アンティノリの伝統を担うピエモンテの名手「プルノット」、そして伝統と革新を巡って競い合う「テヌータ・ティニャネロ」と「グアド・アル・タッソ」のライバル関係と、それぞれの哲学についてご紹介します。
前編はこちら
伝統を守る名門ワイナリー ~プルノット~
お話を伺ったのはブランド・マネージャーのエマニュエル・バルディさん
【プルノット】 創業:1923年 100年以上続く老舗ワイナリー。「若くても、熟成しても、いつ開けても美味しい」をモットーに高品質でバラエティ豊かなワインを生み出す。 【プロフィール】 ブランド・マネージャー:エマニュエル・バルディさん
「革新と伝統」の両輪を持つアンティノリの中で、特に「伝統」を担うのがプルノットです。
前編で紹介したボッカ・ディ・ルポやレ・モルテッレとは異なり、プルノットは1923年にアルフレッド・プルノット氏によって設立され、後にアンティノリ・ファミリーの一員となりました。
現在、プルノットはアルバ各地にワイナリーを所有していますが、今回訪れたのはバローロの中でも南にあるモンフォルテ・ダルバのワイナリー。ここでは、名高い「バローロ・ブッシア」が生み出されています。
もともとバローロのワイン造りは大手業者が複数の畑のブドウをブレンドするのが主流でした。しかし、プルノットはブルゴーニュの単一畑ワインに着目し、1961年、ブッシアの畑から初の単一畑バローロを生み出しました。これを皮切りに他の生産者も続き、2010年には単一畑の名称がラベルに記載できるようになったことで畑ごとのテロワールに焦点を当てたワイン造りがますます盛んになっていきます。
ブッシアはエリア内の他の区画と比べてはるかに面積が大きい(約300ha)のが特徴です。プルノットが単一畑で成功を収めて以降、周辺の生産者たちも後に続いてブッシアを名乗るようになり、最終的に決定した境界線が現在の通りというわけです。
「我々こそが最初にして真のブッシアなのです」と語るエマニュエル氏の目には、誇りが宿っていました。
そんな彼らが最も大切にしていることは、「透明なワインを造ること」。無駄を限界までそぎ落とし、バローロという特別で美しいテロワールを、そのままワインに映さねばならないというストイックな哲学です。
その哲学の通り、彼らのワインはグラスの底まで見通せるほどクリアで、味わいはどこまでもピュアです。
後からアンティノリ・ファミリーとなったプルノットですが、ピエロ侯爵の“We can always do better” (我々は常により良くできる)の精神はプルノットにも生きています。
ただし、新たな挑戦によって拡大するのではなく、アルバという伝統ある土地の価値を守り、磨き上げることで向上を目指すのがプルノットの姿勢なのです。
プルノットのワイン一覧
革新を続けるボルゲリの旗手 ~グアド・アル・タッソ~
お話を伺ったのはブランドアンバサダーのルイーザ・フォスケッティさん
【グアド・アル・タッソ】 創業:1998年 革新を続けるボルゲリの一大ワイナリー。ボルゲリを統治していたゲラルデスカ家との婚姻によりボルゲリとのつながりが生まれたアンティノリ家。ピエロ侯爵の母がボルゲリの土地を相続したことをきっかけにワイン造りが始まった。 【プロフィール】 ブランドアンバサダー:ルイーザ・フォスケッティさん
300年以上の歴史を持つキャンティ・クラシコに対し、ボルゲリは1994年にDOC※ボルゲリとして原産地呼称制度が認められた、比較的新しい産地です。しかし、その可能性は計り知れません。
ボルゲリはキャンティやモンタルチーノよりも温暖な地中海性気候が特徴。豊富な日照量に加え、年間を通して海からの風の影響を受け、生育期は比較的冷涼で乾燥していることから、ブドウ栽培に適した環境となっています。
そんなボルゲリ全体の4分の1にあたる約300haという広大なエリアを所有するのが、グアド・アル・タッソです。
※ イタリアワイン法の格付け。日本語では「統制原産地呼称」と訳される。
1980年代のボルゲリには6つのワイナリーしかありませんでしたが、現在では70以上にまで増加。豊かな土壌と最新の技術が融合するボルゲリは、さまざまな可能性を秘めた「ワインのエル・ドラド」であり、まさにイタリアワインの未来を担っているのです。
そんなグアド・アル・タッソも、ピエロ侯爵の哲学を体現するワイナリーの一つ。ほんのわずかな違いでも、常に改善していく姿勢を忘れません。
実際に、1990年から現在までに2度のブレンド品種変更が行われ、比率は毎年細かく調整が入ります。例えば、最新の2021年ヴィンテージはカベルネ・ソーヴィニヨン58%、カベルネ・フラン29%、メルロ13%という絶妙なバランスに調整されています。
「毎年比率を覚えるのが大変なんですよ!」とルイーザさんは笑いながら、この緻密さは「楽しみながら飲んでもらうための微調整」なのだと語ります。決して重すぎず、洗練されながらも親しみやすさもあるスタイルが、彼らの理想なのです。
歴史が浅いボルゲリについて、ルイーザさんがこんなことを仰っていました。
「“我々には歴史がある”とキャンティの生産者はよく言いますが、そんな時私たちはこう返します。あなたたちには歴史があるかもしれないが、私たちには未来がある」
このルイーザさんの挑発的な言葉を、ティニャネロの広報担当、カルロッタさんにぶつけてみました。
グアド・アル・タッソ
赤
パワフル&ストラクチャー
名門アンティノリがボルゲリで手掛けるワイナリー。地中海の開放的な雰囲気が感じられる、長期熟成に適したフラッグシップ。 詳細を見る
4.8
(28件)2021年
19,800 円
15,840 円
(税込)
V 98
※この商品を含むご注文は5月8日以降に出荷いたします。
伝統と革新の交差点 ~テヌータ・ティニャネロ~
お話を伺ったのは広報担当のカルロッタ・ファブレッティさん
【テヌータ・ティニャネロ】 創業: 1800年代 アンティノリの名を世界に知らしめた、テヌータ・ティニャネロ。 「ティニャネロ」と「ソライア」という二つのスーパータスカンを生み出したワイナリー。 【プロフィール】 広報担当:カルロッタ・ファブレッティさん
グアド・アル・タッソのルイーザさんが語った「あなたたちには歴史があるかもしれないが、私たちには未来がある」という言葉を伝えると、ティニャネロのカルロッタさんは「彼女ったらそんなこと言ってたの!?あとでメールしておかなきゃ!」冗談めかしながら言いました。
そして、彼女は続けます。「一理あるかもしれません。ボルゲリは現代のテクノロジーを利用して飛躍的に進化しています。ティニャネロは対照的で、300年分の経験と知識、サンジョヴェーゼへの深い理解によって生み出されたワイン。でも、歴史は未来への可能性に勝るとも劣らない強みでもあります」
そう語るように、ティニャネロでは大学機関と提携し、長年にわたって品種改良や栽培技術の研究を重ねてきました。
サンジョヴェーゼは酸とタンニンが強い品種ですが、テヌータ・ティニャネロで栽培されるのは、長年の研究の結果である“最高のサンジョヴェーゼ”。ティニャネロの魅力は、芳醇な果実味を支える柔らかなタンニンと美しい酸味のコンビネーションです。背筋が伸びるような気品と風格、積み重ねられた伝統を感じます。
グアド・アル・タッソと違い、ティニャネロでは品種もブレンド比率もリリース当時のまま。その代わり、畑そのものの改良と進化に注力しているそうです。
テヌータ・ティニャネロのワイン
一覧
ボルゲリVSキャンティ・クラシコ!?
一見、ライバル関係にあるかと思われるボルゲリのグアド・アル・タッソとキャンティ・クラシコのティニャネロ。
すでにあるものに目を向けるティニャネロと、度重なる大胆な変化によって改善を目指すグアド・アル・タッソ、それぞれの姿勢の違いが見えました。
未知を味方につけ、新たなチャレンジによって未来を突き進むボルゲリと、土壌と品種を知り尽くし、膨大なノウハウの蓄積を味方につけるキャンティ・クラシコ。
二つの産地を代表するそれぞれのワイナリーは、産地とワインに誇りを持ち、切磋琢磨しながら理想を追求しています。
まとめ
イタリア各地にワイナリーを保有するアンティノリ。全てをアンティノリ色に染め上げてしまうのではなく、時に革新的に、時に伝統を敬愛しながら、その土地の個性、人の個性、品種の個性を尊重し、多様なイタリアワインを賛美するのがアンティノリの哲学です。
複雑に思えるイタリアワインも、ひとたびアンティノリに触れれば、個性豊かで他にない魅力に溢れた宝箱に見えてくるはず。ぜひイタリアワインの世界に足を踏み入れてみてください。
アンティノリのワイン一覧