「王のワインにして、ワインの王」と称されるバローロに使用されるブドウ品種ネッビオーロ。イタリアで最も高貴なブドウ品種の一つであり、サンジョヴェーゼと並んでイタリアワインを知る上で最も重要なブドウ品種と言って良いでしょう。
一般的にネッビオーロから造られるワインはある程度の熟成期間が必要で高価というイメージが強く、気軽に手を出しにくいという方が多いかもしれません。
しかしながら、ネッビオーロのワインが世界中のワインラヴァーを魅了して止まないことも事実です。そこで今回はそんなネッビオーロについて解説します。
特徴
種類 | 黒ブドウ |
香り | バラの花、トリュフ、プラム、ダークチェリー |
味わい | 骨格のしっかりした重みのある味わい。若いうちは酸味と渋味が非常に豊富 |
主な産地 | イタリア / ピエモンテ州、ロンバルディア州 |
ネッビオーロは北イタリアのピエモンテ州を土着とする黒ブドウ。イタリアの偉大な赤ワイン、バローロ、バルバレスコに使用されていることや栽培条件が極めて難しくピエモンテ州内でも限られた場所でしか栽培されていないことから、高貴なブドウ品種の一つと言われています。
原産地のピエモンテ州と、隣接するヴァッレ・ダオスタ州やロンバルディア州が産地ですが、栽培面積の大半はピエモンテ州が占めています。
ちなみにネッビオーロはピエモンテ州南部クオーネ県での呼び名で、ピエモンテ州の北部ではスパンナと呼ばれD.O.C.G.ガッティナーラやゲンメに、ロンバルディア州北部のヴァルテッリーナではキアヴェンナスカと呼ばれD.O.C.G.ヴァルテッリーナ・スーペリオーレ等に使用されています。
呼び名 | 地域 |
---|---|
ネッビオーロ | ピエモンテ州南部クーネオ県 |
スパンナ | ピエモンテ州北部 |
キアヴェンナスカ | ロンバルディア州北部ヴァルテッリーナ |
ピコテンドロ、ピクトゥネール | ヴァッレ・ダオスタ州 |
ネッビオーロは発芽が早いわりには収穫時期が遅い晩熟のブドウで、かつては10月後半から11月にかけて収穫されていました。
ネッビオーロという名前の由来は諸説がありますが、晩秋の収穫時にブドウ畑に霧(Nebbia)がかかることから、この名前が付けられたとも言われています。
樹木自体が脆弱で扱いにくいネッビオーロは、成熟が遅い上に寒さにも弱く、実が密集しているせいで湿度が高いとカビが発生しやすいため、風通しが良いことも栽培条件として必須です。
ピエモンテのピノ・ノワールと言われるようにテロワールの影響を強く受ける品種で、条件が良い場所でないと成熟しない気難しい一面を持ちます。
バローロ、バルバレスコを産出するピエモンテ州ランゲ地方では、ネッビオーロのクローン「ランピア」と「ミケ」が識別されています。栽培量・生産量が多いのが「ランピア」、「ミケ」は強い風味を持つものの土壌との順応性が低く生産量は少なくなっています。
なお、かつてネッビオーロのクローンとみなされていた「ロゼ」は、別品種であることが確認されました。(注1)
(注1)「ロゼ」と括られているブドウにも様々あり、ネッビオーロとDNAが一致するものもあります。いずれにしても「ロゼ」のバローロへの使用は問題ありません。
ネッビオーロの持つ色素成分は不安定なため、酸化によって色合いが急速に薄まります。そのため多くの場合、ワインの色調は褐色がかった薄い色をしています。
かつては醸造時にブドウの皮ごと漬け込むマセラシオンを長期間行うことで少しでも色素を抽出しようとする方法が取られてきましたが、その分タンニンも荒々しくなっていました。
現在はマセラシオンの技術も向上し、エキス分はしっかりと抽出しつつもタンニンはソフトで飲みやすいワインを造ることが可能となりました。
また近年は、テロワールの個性を尊重したワイン造りが進み、熟成方法も大樽を使うか否かなどは生産者によって考え方が異なるため、出来上がるワインのスタイルも多様になりました。
一般的に若いネッビオーロのワインはバラの花、トリュフ、プラム、ダークチェリーなどの香りが感じられ、熟成が進むとタバコやなめし皮などの香りが現れます。
アルコールの高さや果実味の凝縮度に違いはあっても、骨格のしっかりした重みのある味わいで、若いうちは酸味と渋味が非常に豊富。十分な熟成を経ると、タンニンはとけ込んで滑らかになり、非常に複雑な風味の艶やかなワインとなります。
相性の良い料理
地元ピエモンテは食の宝庫で、牛肉やチーズ、アルバ産の白トリュフ等が有名ですが、これらを使った料理にはやはりネッビオーロのワインがよく合います。
例えば、牛肉のステーキや赤ワイン煮、すき焼き、ローストビーフなど、ちょっと贅沢な牛肉料理との相性は抜群です。
白トリュフとの相性も素晴らしいので、レストランで機会があれば是非試していただきたいペアリングです。
また、世界三大ブルーチーズの一つ、ゴルゴンゾーラもピエモンテ州とロンバルディア州にまたがる地域で生産されており、このゴルゴンゾーラをはじめ、パルミジャーノのような旨みの強いハードタイプのチーズとも相性抜群。
例えばチーズのリゾットやパスタを作ってみてはいかがでしょうか?バターや生クリームと合わせて濃厚かつマイルドに仕上げると良いでしょう。
ネッビオーロのワインの渋みとチーズやバター、クリームの濃厚な油分が口の中で溶け合い、ワインが進むこと間違いありません。
代表的な産地
ネッビーオーロの産地は原産地であるピエモンテ州と、隣接するヴァッレ・ダオスタ州やロンバルディア州が産地ですが、栽培面積の大半はピエモンテ州が占めています。
ピエモンテ州(イタリア)
ピエモンテとは、「山の麓」を意味し、その名の通りアルプス山脈の麓に広がっています。
ネッビオーロの産地として代表的なのがピエモンテ州南部のランゲ地方。クーネオ県の都市アルバ南部に広がる産地です。
クーネオ県の産地はアルプスを起源とするタナロ川によって、北部(左岸)のロエーロ地方と南部(右岸)のランゲ地方に分けられます。
中でも有名なのが、イタリア屈指の高級ワイン産地としても知られるD.O.C.GバローロとD.O.C.Gバルバレスコ。
バローロは「王のワインにして、ワインの王」と称され、ネッビオーロの力強さや厳格さが表れた重厚な赤ワインが造られます。3年以上の熟成義務があり、アルコール度数は13%以上の規定を有しています。
一方のバルバレスコもバローロ同様ネッビオーロ100%の赤ワインが造られており、バローロに比べてエレガントな味わいから「イタリアワインの女王」と呼ばれています。
熟成義務はバローロより1年短い2年以上で、アルコール度数12.5%以上の規定となっており、繊細さや優美さを備えた味わいが魅力です 。
また、もう少し気軽にネッビオーロのワインを楽しみたいならバローロと同じくネッビオーロ100%で造られるランゲ・ネッビオーロがおすすめ。
ランゲ・ネッビオーロは、バローロの生産地域であるラ・モッラ村やモンフォルテ・ダルバ村など11の村を包括する、より広い範囲が認められています。
大きく異なる点は熟成期間で、バローロは最低3年以上が必要とされていますが、ランゲ・ネッビオーロは法定熟成期間が設けられていません。
例えばバローロ村のネッビオーロを使用していながら、熟成期間が3年に満たないワインはランゲ・ネッビオーロとしてリリースされるのです。
つまり、時に非常にコストパフォーマンスに優れたワインに出会う可能性があります。
ランゲ・ネッビオーロは生産エリアが広いのでワインのスタイルも幅が広いですが、ネッビオーロ・ダルバ同様に若いうちから楽しめる味わいながらも、比較的しっかりとした骨格を備えたワインになります。
ネッビオーロとサンジョヴェーゼの違い
ネッビオーロと並んでイタリアワインを代表するブドウ品種がサンジョヴェーゼです。この二つの黒ブドウ品種はいずれもイタリアを起源としていながら個性は対照的です。
まず、ネッビオーロは主にピエモンテ州の限られた場所でしか栽培されていませんが、サンジョヴェーゼはイタリア中部を中心に広く栽培されており、イタリア国内のサンジョヴェーゼの栽培面積はネッビオーロの栽培面積の10倍を超えます。
サンジョヴェーゼは栽培土壌の選り好みが少なく多産なので、比較的育てやすい品種と言えます。
一方、ネッビオーロは前述の通り病害に弱く、栽培条件が厳しく育てにくい品種です。ネッビオーロを栽培する生産者は皆、所有する畑の1番良い区画にネッビオーロを植樹しています。
また、ネッビオーロが主に単一で使用されるのに対して、サンジョヴェーゼはブレンドで使用されることも多く、イタリア原産の品種カナイオーロや国際品種のカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロなどとブレンドしてワインが造られます。
おすすめワイン
ネッビオーロのおすすめワインをご紹介します。
バローロの基礎を築いた名門ワイナリーのフラッグシップキュヴェ
バローロ5大産地の1つ、ラ・モッラ村に本拠地を構える家族経営のワイナリーが手掛ける1本。
熟した果実味を備えたリッチな味わいときめ細かなタンニンが特徴で、ネッビオーロの奥深さを存分に味わうことができます。
世界的に高い評価を獲得する生産者が手掛けるバルバレスコ
こちらは有名ワイン評価誌、ワイン・アドヴォケイトで「バルバレスコのトップ生産者の1つ」と称賛される実力をもつジュゼッペ・コルテーゼが手掛ける、クラシックなバルバレスコ。
フローラルなアロマやクランベリーを思わせる爽やかな果実味、滑らかな口当たりが特徴で、複雑ながらも親しみやすい味わいが魅力の1本です。
まとめ
これまでネッビオーロから造られるワインの真価は長期間の熟成を経てこそ発揮されると言われてきました。実際その通りで間違いはありませんが、最近は若いうちから気軽に楽しめる高品質なネッビオーロのワインもたくさん生まれています。
いつかの機会に......なんて思わずに、まずは手に取りやすいものから試してみてはいかがでしょうか?
参考文献:日本ソムリエ協会 教本 2021
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