ファビオシェフのワインとパスタ~今日の一皿~「海老のペスト・アッラ・トラパネーゼ」
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イタリア料理の代表とも言えるパスタに、相性抜群のワインを合わせて楽しむひととき。
そんな時間をより豊かにするために、イタリア各地の多彩なパスタ文化を知り尽くし、現地で食とワインを深く味わってきた料理人、ファビオシェフに、ワインに寄り添うよう設計されたパスタレシピを教えていただきました。
今回は、シチリア西部・トラーパニで古くから親しまれてきた郷土料理「トラパネーゼ」に、有頭エビの濃厚な旨味を重ねた一皿。シチリアの火山土壌で育まれたロゼワインとのペアリングも含め、ファビオシェフならではの視点でその魅力を紐解きます。
レシピを教えてくれたのは、ファビオシェフ
16歳よりイタリアに渡り、20歳からはイタリアを中心にヨーロッパ各地で約6年間修業。 大衆店から星付きレストランまで幅広く経験し、素材を起点としたイタリア料理の本質を学ぶ。 現在はYouTube、テレビ、料理イベントなどを通じて、イタリア料理の本質を発信している。
今日の一皿:海老のペスト・アッラ・トラパネーゼ
「トラパネーゼ」は、シチリア西部・トラーパニで古くから親しまれてきた郷土料理。完熟トマト、アーモンド、バジル、ニンニク、エクストラバージンオリーブオイルを合わせる、火をほとんど使わずに仕上げるシンプルなソースです。 今回は、その伝統的なトラパネーゼに、有頭エビから丁寧に引き出した濃厚な甲殻類の旨味を重ねました。 さらに、あえて皮付きアーモンドを使うことで香ばしさとほのかな苦味を加え、今回のワイン「エトナ・ロザート」のミネラル感や繊細な骨格と寄り添う一皿に仕上げています。
ペアリングワイン:シチリアのロゼワイン
今回合わせたのは、ピエトラドルチェの「エトナ・ロザート 2023」。エトナ山の火山土壌で育つネレッロ・マスカレーゼから造られたロゼです。 このワインの魅力は、火山由来の張りのあるミネラル感と、ロゼでありながら赤ワインを思わせる繊細な骨格にあります。 口当たりは驚くほど軽やかですが、余韻には塩味やわずかなタンニン、火打石を思わせるニュアンスが静かに残り、味わいに奥行きを与えています。
「海老のペスト・アッラ・トラパネーゼ」のレシピ
【材料 1人前】
スパゲッティ 70g(太さ1.7〜1.9mm程度がおすすめ)
有頭エビ 3尾
ミニトマト 100g
皮付きアーモンド 50g
バジル 15g
ニンニク 1かけ
エクストラバージンオリーブオイル 30g
茹で汁 80〜100ml
塩 適量
【作り方】
1.エビの下処理
有頭エビは頭、殻、身に分ける。頭の中のエビ味噌は取り出しておく。
身は背ワタを取り除いて一口大に切り、塩をまぶして軽くもみ洗いし、水で洗って水気を切る。
頭と殻はソースの旨味になるので捨てずに取っておく。
2.香味油を作る
フライパンにエクストラバージンオリーブオイルを入れ、潰したニンニク、バジルの茎、エビの頭と殻を加える。
弱火でじっくり加熱し、香りと旨味を油に移す。香りが立ったらバジルの茎を取り出す。
3.トマトとアーモンドを加える
半分に切ったミニトマトを加え、塩をして加熱する。トマトの形を少し残しながら水分を軽く飛ばし、甘みを引き出す。さらにアーモンドを加えて炒め、香ばしさを立てる。
4.トラパネーゼソースを作る
3をバジルの葉とともにミキサーへ移す。なめらかになりすぎない程度まで攪拌し、素材の食感を少し残したトラパネーゼソースに仕上げる。
5.エビの旨味を抽出する
同じフライパンに少量のオイルを入れ、エビ味噌とエビの身を加えて軽く炒める。4のトラパネーゼペーストと茹で汁を加えたら、火を止める。
6.パスタを合わせる
表示時間通りに茹でたスパゲッティを加え、全体を手早く合わせる。
ソースは煮込まず、バジルの爽やかな香りを残すよう短時間で仕上げるのがポイントです。
7.盛り付ける
皿に盛り付け、バジルを飾って完成。
ペアリングコメント
今回のトラパネーゼは、本来の軽快さを軸にしながら、有頭エビの濃厚な旨味と、皮付きアーモンドの香ばしさを重ねることで、このロゼワインが持つ骨格を受け止められるよう設計しました。 エビの甘みにはワインの張りのある酸が輪郭を与え、甲殻類の濃厚な旨味には火山由来のミネラルが寄り添います。そして皮付きアーモンドのロースト香とほのかな苦味が、ワインの余韻に残るタンニンや塩味と自然に重なり、一皿全体に立体感を生み出します。
おわりに
今回のトラパネーゼは、私がシチリアで実際に料理人の皆さんから教わり、何度も現地で食べ歩いた経験をもとに組み立てた一皿です。 親交の深いシチリア・モディカ出身のミシュラン星付きシェフ、ミケーレ・スパダロ氏からは、ファインダイニングとしての表現だけでなく、現地で受け継がれる伝統的なトラパネーゼについて多くを学びました。シチリアに精通した料理人との交流を通じて、この料理の背景や土地の文化に触れられたことは、私にとって大きな財産です。 本来、イタリアのファインダイニングではアーモンドは皮をむいて使うことがほとんどです。雑味を抑え、より繊細で上品な味わいに仕上げるためです。しかし今回は、あえて皮付きのアーモンドを使用しました。皮付きアーモンドを香ばしくローストすると、日本人にとって親しみ深い「チキンラーメン」を思わせるような、どこか懐かしい香りが生まれます。この親しみのある香ばしさが、有頭エビから引き出した濃厚な旨味と驚くほど自然に重なり合い、伝統的なトラパネーゼにはない、新たな奥行きを生み出してくれます。 伝統を理解しているからこそ、あえて少しだけ表現を変える。その積み重ねが、自分らしい料理につながると考えています。料理もワインも、その土地の歴史や文化、そして人の営みから生まれたものです。だからこそペアリングとは、単に味の相性を合わせることではなく、その土地の物語まで一皿の中で表現することだと思っています。 この一皿をきっかけに、トラーパニという街やシチリアという土地に興味を持ち、いつか現地で本場の料理やワインを味わってみたいと思っていただけたら、料理人としてこれほどうれしいことはありません。