世界各地で生まれるワインの魅力を、ワインディレクター・田邉公一氏が読み解く連載企画。
第1回のテーマは、世界的に注目を集めるニュージーランドのピノ・ノワールです。ソーヴィニヨン・ブランのイメージを超え、新たな魅力を発信し続けるニュージーランドワインの現在地について解説いただきました。
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A 認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003 年 J.S.A 認定ソムリエ資格取得 2007 年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018 年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL 資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023 年 12 月発売 2025年10月に新著 「THE STUDY OF WINE」 を出版 映画「シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜」にソムリエ役として出演 オリジナル日本酒「几鏡 by Koichi Tanabe」を2024年よりリリース X(旧 Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
世界が注目する新たな銘醸地の魅力
近年、世界のワイン市場において、ニュージーランドワインの存在感はますます高まりを見せています。
1980年代にソーヴィニヨン・ブランが世界的な評価を獲得して以来、長きにわたり「ソーヴィニヨン・ブランの名産地」というイメージが定着してきました。
その華やかで清涼感を感じるアロマと豊かで瑞々しい果実の味わいは、ニュージーランドワインを象徴する存在として世界中のワイン愛好家を魅了し、急速に確固たる地位を築いてきました。しかし現在のニュージーランドは、それだけで語ることのできる産地ではなくなっています。
ワイン生産者たちは、それぞれの土地が持つ個性と真摯に向き合い続け、世界の銘醸地と同様に、そこにしか存在しないテロワールを表現するワイン造りを追求し続けています。
その積み重ねによって、今ではソーヴィニヨン・ブランの白ワインに限ることなく、シャルドネやピノグリ、リースリング、赤ワインにおいては、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、そしてシラーに至るまで、さまざまなスタイルの高品質なワインを生み出す、成熟したワイン産地へと大きく進化しています。
ニュージーランド特有の自然環境
南北に長く伸びる島国であるニュージーランドは、海からの影響を受けながら、年間を通して豊富な日照量に恵まれています。また、昼夜の寒暖差が大きく、生育期間が比較的長いため、ブドウはゆっくりと成熟し、生産されるワインは、果実味と酸味、そしてアロマをバランス良く備えることができます。
このような環境は、世界的にもピノ・ノワールの栽培に非常に適していると考えられており、ブルゴーニュを彷彿とさせる条件を持ちながらも、それぞれの地域ならではのテロワールを最大限に活かした独自のスタイルを確立しています。
さらに近年では、産地ごとの個性をより明確に示す動きも進んでいます。
最新の話題として、セントラル・オタゴの8つのサブリージョンの一つであったバノック・バーンが、ニュージーランドで19番目となるG.I.(Geographical Indication)として正式に認定されました。
これは単なる産地名の追加という話ではありません。それぞれの地域が持つ個性や価値がより細かく評価され、ニュージーランドにおいても、テロワールの違いがより重要視される時代へと進んでいることを象徴する出来事だと私は考えています。
特に国際的な知名度の高いセントラル・オタゴの中で、さらに限定された優れた区画や地域が注目されることは、今後ニュージーランドワイン全体の価値向上にもつながっていくでしょう。
このような動きを見ていると、ニュージーランドは今まさに成熟期へと入りつつあるワイン産地であることを実感します。
ニュージーランドワインの魅力
ニュージーランドは、世界全体のワイン生産量から見れば決して大きな生産国ではありません。しかし、生産量の多さだけでは測ることのできない魅力が、この国には数多く存在します。
それは、この土地ならではの自然環境、ニューワールドでありながらも、着実に築かれてきたワイン造りの歴史、そして何よりも、生産者一人ひとりが品質に対して強い信念と情熱を持って、自身のワインだけでなく、国全体の品質向上を視野に入れてワイン造りに取り組んでいることです。
世界的なワイン評論家やトップソムリエがニュージーランドワインを高く評価し続けている背景には、恵まれた自然条件だけではなく、生産者の真摯で誠実なワイン造りに対する姿勢があるのではないでしょうか。
そして現在では、「ソーヴィニヨン・ブランの国」という従来の評価を大きく超え、多彩な品種で高品質なワインが生み出されています。
注目のブドウ品種 ピノ・ノワール
私自身も近年、数多くのニュージーランドワインをテイスティングする機会に恵まれ、その変化を強く実感しています。
ニュージーランドワインに関するセミナーへの登壇、レストランやワインショップでのワインセレクト、さらにはSNSを通じた情報発信など、さまざまな形でニュージーランドワインと向き合う中で、特に印象深い存在となっているのがピノ・ノワールです。
かつてのニュージーランドのピノ・ノワールの赤ワインは、赤い果実と花を思わせるチャーミングで親しみやすいスタイルが中心という印象がありました。果実味が豊かで親しみやすく、幅広い方に受け入れられる魅力を持ったワインが多かったように思います。
そのような魅力は現在も健在ですが、近年は、それに加えて各産地や畑ごとの個性がより鮮明に表現されるようになり、果実味の豊かさに加え、より繊細な土地のニュアンスや複雑性、そして奥行きのある味わいを備えたワインが数多く造られるようになっています。
ブルゴーニュの秀逸なピノ・ノワールを思わせる緻密さや透明感、複雑性とエレガンスを感じさせながらも、決して模倣ではなく、ニュージーランドならではの個性をしっかりと表現している点に、大きな魅力を感じています。
ブルゴーニュと比較すると、ニュージーランドのピノ・ノワールは、より鮮烈で純粋な赤い果実の印象が感じられるものが多く、果実本来のフレッシュさや透明感を楽しめることが大きな魅力です。
一方で、美しく伸びる酸、繊細でシルキーなタンニン、そして熟成によって現れる複雑さなど、世界の銘醸地にも通じる完成度を兼ね備えています。
また、それぞれの産地による個性も年々明確になっています。
セントラル・オタゴでは凝縮感を備えたスケール感のあるスタイル。マーティンボロではエレガントで複雑性に富み、緻密な構成を持つ洗練されたスタイル。マールボロでは新鮮な果実味と透明感、しなやかな酸をもつ豊潤なスタイルなど、それぞれの産地の個性を感じさせながら、先述したニュージーランドらしさをもっていることも、大きな魅力と言えるでしょう。
これまでにブルゴーニュのピノ・ノワールを愛飲してきた方にも、きっと新たな発見があるはずです。
また、「ピノ・ノワールという品種の奥深さをもっと知りたい」「世界各地の産地ごとの違いを楽しんでみたい」と考えている方にとっても、ニュージーランドは非常に魅力的な選択肢となるでしょう。
続いては、今回おすすめしたい4本のピノ・ノワールの赤ワインをご紹介します。
優雅で繊細な「エクリプス・ピノ・ノワール / ルナ・エステート」
その土地固有の個性を存分に活かし、サステナブルなワイン造りをする、マーティンボロを代表する生産者の一つ。エクリプス・シリーズは単一畑「エクリプス・ヴィンヤード」において、樹齢が高い区画のブドウを使用して造られる上級キュヴェで、土壌・気候・ブドウの樹齢などの恵まれた要素が組み合わさり、マーティンボロという土地を表現した美しくも芯のあるワインが生み出されます。
畑名の由来となった月食(エクリプス)が描かれたラベルには、自然の神秘とこの地で生み出されるワインの繋がりを象徴したワイララパの夜空が描かれており、その幻想的なデザインもこのワインの魅力の一つです。
外観は、輝きと艶のあるやや濃い色調のラズベリーレッド。
香りは芳醇で、イチゴやラズベリー、ブルーベリー、カシスといった赤から紫系の果実のアロマが豊かに広がります。さらに、スミレや牡丹、紅茶、シナモン、ナツメグ、ほのかななめし皮などが重なり、上品な複雑さを感じさせます。
味わいはまろやかで、豊かな果実味としなやかな酸、緻密なタンニンとのバランスが秀逸。余韻まで果実の風味が心地よく続き、滑らかなテクスチャーを長く楽しめます。
おすすめのお料理:牛カルビ焼きや焼き鳥のつくね(たれ)
ブルゴーニュに例えるなら、ヴォルネイを思わせるような、優雅で繊細なニュアンスを備えた1本。
シルキーなタンニンと酸が美しい「ピノ・ノワール / ドライ・リヴァー」
「ニュージーランドのカルト」と評されるワイナリーのドライ・リヴァー。マーティンボロにおけるピノ・ノワールの歴史を築いてきたワイナリーの一つでもあり、世界中のワイン愛好家から高い評価を受け続けています。
テロワールを重視したブドウ栽培と、美しく熟成するユニークで高品質なワインを生産することをモットーにワインを造っています。
外観は澄んだ印象のある、艶やかなラズベリーレッド。
香りは豊かで芳醇、イチゴやラズベリー、レッドチェリー、ブルーベリーに加え、シナモンや紅茶、ほのかにキノコやなめし皮のニュアンスが重なり、複雑で奥行きのあるアロマを形成しています。
味わいはなめらかなアタック、赤い果実の風味が豊かに広がります。シルキーなタンニンとしなやかな酸が美しく調和し、余韻には果実味とともに紅茶やキノコを思わせる風味が心地よく続きます。
おすすめのお料理:鴨肉のロースト ブラウンマッシュルームのソテー添え、ローストビーフ、熟成したコンテチーズ
ブルゴーニュに例えるなら、ニュイ・サン・ジョルジュを想起させるような品格を兼ね備えたスタイルです。
スモーキーな余韻と力強さを纏う「クペ ピノ・ノワール / エスカープメント」
エスカープメントは、マーティンボロの優れた畑から高品質なピノ・ノワールを生み出し、手掛けるワインは各評価誌でコンスタントに高得点を獲得している、この土地を代表するワイナリーの一つとして知られています。
「クペ」は、ニュージーランドに最初に到達した偉大なポリネシアの航海者の名前に由来しています。
こちらは、ブルゴーニュワインのように畑の名を冠してリリースされる、エスカープメントのラインナップの中でも最上級のシリーズのフラッグシップキュヴェの一つで、DRCから持ち込んだと言われるエイベルクローンを100%使用し、6,600本/haの高密植で造られます。
外観は輝きのあるやや濃いラズベリーレッド。
香りは凝縮感に富み、レッドプラムやブルーベリー、カシスなど紫系果実を中心に、スミレ、ナツメグ、リコリスの香り、鉄分的な要素も存在し、スモーキーなニュアンスも感じられます。
味わいは凝縮した果実味を中心に、緻密でややしっかりとしたタンニンが骨格を形成し、酸はなめらか、余韻にはスパイスやスモーキーな風味が感じられ、力強さとエレガンスを兼ね備えています。
おすすめのお料理:鹿肉のロースト、牛ハラミの焼肉、焼き鳥のレバーやハツ
ブルゴーニュに例えるなら、ジュヴレ・シャンベルタンを思わせる風格を感じます。
伸びやかな酸が織りなす気品「ホーム・ヴィンヤード ピノ・ノワール / プロフェッツ・ロック」
セントラル・オタゴを代表するトップクラスのワイナリーの一つ。冷涼な気候と豊富な日照に恵まれたこの産地ならではの凝縮感と、美しい酸を兼ね備えたワインを生み出しています。
著名評論家ジャンシス・ロビンソン氏が「いずれ世界のワイン界をリードするであろう逸材ワインメーカー」と評し、ブルゴーニュの偉大な造り手ヴォギュエとのコラボレーションワインでも、世界の注目を集めています。
こちらは、テロワールの魅力が見事に表現されたフラッグシップワインです。
外観は艶のあるやや濃いダークチェリーレッド。
香りは凝縮した果実のアロマが中心で、レッドプラム、ブルーベリー、カシス、ブラックベリー、スミレ、さらには、シナモン、ナツメグ、リコリスの香り、ほのかに動物的ニュアンスや鉄分、スモーキーさも感じられます。
味わいは凝縮した果実味を軸に、伸びやかな酸と緻密でシルキーなタンニンが見事に調和しています。奥行きのある味わいが余韻に長く続きます。
おすすめのお料理:牛肉の赤ワイン煮込み、ビーフシチュー、キノコハンバーグ
ブルゴーニュに例えるなら、ヴォーヌ・ロマネを想起させるような、気品と深みを兼ね備えた1本です。
ホーム・ヴィンヤード ピノ・ノワール
赤
エレガント&クラシック
セントラル・オタゴきっての逸材。高標高の畑から造られるフラッグシップキュヴェ。凝縮した香りとシルキーなタンニンを備えた「エキサイティングなワイン」。 詳細を見る
3.0
(5件)2024年
10,450 円
(税込)
NEW2023年
10,450 円
(税込)
2022年
10,450 円
(税込)
JS 97
まとめ
ニュージーランドのピノ・ノワールは、「コストパフォーマンスに優れたブルゴーニュの代替」という存在だけでは決してありません。
各産地の生産者が、それぞれのテロワールを深く理解し、その土地ならではの個性を表現する段階へと着実に進化しています。
果実の純粋さ、冷涼産地ならではの美しい酸、繊細なタンニン、そして産地ごとの明確な個性。そのすべてが高いレベルで調和した現在のニュージーランドのピノ・ノワールは、世界の銘醸地と確実に肩を並べる存在であると、私は感じています。
ブルゴーニュを愛する方も、まだニュージーランドのピノ・ノワールをお飲みになられたことがない方も、ぜひ一度、この土地だからこそ生まれるピノ・ノワールの魅力を体験してみてください。