ルイ・バリュオール氏(左)と、ルイ氏の友人でアヴィニョンでワインショップを経営するアルノー氏(右)
南フランス・ジゴンダスの名門、シャトー・ド・サン・コムの当主であり“ジゴンダスの天才”と呼ばれるワインメーカー、ルイ・バリュオール氏が来日。近年はアメリカのニューヨークでのワイン造りも話題になっている同氏に、各地でのワイン造りについてお話を伺いました。
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すぐに頭角を現した天才
5世紀に歴史を遡るシャトー・ド・サン・コムは、ローヌでいち早く有機栽培を取り入れるなど、ジゴンダスをリードする名門でした。その名声がさらに高まったのが、1992年、脳梗塞で倒れた父親に代わって、当時MBAの取得を目指していたルイ・バリュオール氏が弱冠23歳の若さで14代目を継いでから。
ブルゴーニュのワインが大好きで、その手法も取り入れているというルイ・バリュオール氏の緻密なワイン造りと情熱により、やがて彼がリリースしたワインは各評価誌で高得点を連発するように。
ロバート・パーカー氏が「私がかつて味わった中で最も優れたジゴンダスの一つ」と絶賛し、また、ワインスペクテーター誌では「ジゴンダスの天才」という見出しで特集が組まれ、その名が世界的に知られるようになりました。
ドイツよりも寒いNYでのワイン造り
セネカ湖を望むフォルジュ・セラーズの畑
そんなルイ・バリュオール氏が10年前から取り組んでいるのが、アメリカ・ニューヨークでのワイン造り。2008年に土地を購入してフォルジュ・セラーズを設立し、2011年からワイン造りを始めました。ニューヨークと聞くと大都会を想像してしまいますが、フォルジュ・セラーズがあるオンタリオ湖周辺は、ニューヨーク市から500㎞も離れている大自然が広がる産地。そして真冬の気温は-30℃になることもあるそうで、ドイツよりも寒いという過酷な土地でもあるのです。
ジゴンダスが位置する南フランスは真冬でも0℃を下回ることはないそうなので、ルイ氏が手がける二つの産地の気温差はなんと30℃!
どうしてこんなにも条件の違うところで、新しいワイン造りを始めたのか、ルイ氏に聞いてみました。
「冷涼な場所で、ゼロからワイン造りがしたいと思っていました。そして何年もかけて、ニュージーランド、南アメリカ、南アフリカなど、世界中を探してようやく見つけた最高の土地が、このニューヨークのフィンガーレイクスなのです。」
歴史があるからいいワインができるとは限らない
さらにルイ・バリュオール氏は続けます。
「歴史がワインに必要だとは思いません。偉大な歴史はワインメーカーにインスピレーションを与えてくれ、人々がその土地について知識を深める年月があったということではありますが、実際、フランスの歴史的な産地で必ずしも、いいワインが生まれるとは限らないでしょう。
フォルジュ・セラーズがあるセネカ湖周辺の土壌は、石灰岩、頁岩、ロームなどによって構成されておりミネラルを多く含むため、リースリングに適した“真のテロワール”を形成しています。」
完熟したブドウしか使わない
ルイ・バリュオール氏のワイン造りへのこだわりは、限りなく自然な剪定、自然な発酵など随所にありますが、特に印象的だったのが、完熟したワインだけを使ったワイン造り。
フィンガーレイクスでは、多くの生産者が9月に収穫するところ、フォルジュ・セラーズでは10月までブドウの完熟を待って、収穫を行います。
「最近は早摘みのブドウを使ったグリーンワインが流行っているけど、偉大なワインは完熟したブドウしか生まれません!
シャルドネやソーヴィニヨン・ブランも、偉大なワインは皆完熟したブドウから生まれます。私は完熟したブドウからドライなリースリングを造りたいのです。」
どの産地にも似ていないリースリング
早速このフォルジュ・セラーズで造られるスタンダード・キュヴェをテイスティングしました。
よく熟したリンゴに、カリン、エキゾチックフルーツ、ホワイトペッパーなどスパイスの香り。みずみずしい酸味と果実味が口中を満たす、輝きにあふれた1本です。
アルザスのパワフルなリースリングと、ドイツの繊細なリースリングのちょうど中間といったキャラクターでしょうか。とてもバランスがよく、スパイシーなニュアンスもあるため、コショウや山椒を効かせた和食にも合いそうです。
ルイ氏によると「典型的なリースリングっぽくない」とよく言われるそうですが、まさに、どこの産地にも似ていない無二の個性をもったリースリングです。
“クレイジー!”と言われた畑で造る白ワイン
コート・デュ・ローヌ・レ・ドゥー・アルビオン・ブラン/シャトー・ド・サン・コム
続いて、こちらは2017年からリリースしている、ローヌで造られる新作の白ワイン。
ジゴンダスと川を挟んで隣に位置するサン・マルタンに位置する10haの土地を購入し、ビオディナミ栽培で3年かけてブドウを植えて造りはじめた白ワインです。
この土地はたいそうな石灰質土壌で、その量はジゴンダスの倍!「クレイジーだ」と言って誰もブドウを植えなかったそうですが、ルイ氏はそのポテンシャルを見抜き、ワイン造りを始めたそうです。
ワインは非常にアロマティックで、トロピカルフルーツ、ハニーサックル、エルダーフラワーの香りがグラスいっぱいに立ち上ります。ルイ氏曰く、このアロマティックさは石灰質土壌由来のものだそうで、後味に同じく石灰質土壌由来の心地よい苦みや塩味を感じる旨味の乗った味わい。とてもフレッシュかつ酸味はまろやかなので、様々な家庭料理に合わせて楽しめそうです。
「よいワインを造るには人生は短すぎる」
ジゴンダスの地図を出版したという地図フリークのルイ氏は、現在はフォルジュ・セラーズにおいて、ブルゴーニュのように、区画ごとに土壌や気候を調査して、それぞれの区画にグラン・クリュ、プルミエ・クリュと、独自に格付けを整備しているそうです。
そして最後に彼の口から出た「よいワインを造るには人生は短すぎる!」という言葉は、まさにルイ氏の生き様そのもの。
ジゴンダスとニューヨーク、正反対の土地でワインを造り、常識を疑いながら、常にオープンマインドで最高のワインをつくるために奔走しているルイ・バリュオール氏は、努力し続ける天才醸造家なのです。
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