チリと並び、南米の重要なワイン生産国であるアルゼンチン。アンデス山脈の麓に広がるブドウ畑では、標高の高さを活かしたワイン造りが行われています。
今回はアルゼンチンのワインについて、ソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
アルゼンチンのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
ワイン産地としてのアルゼンチンってどんなところ?
南アメリカ大陸の南部に位置するアルゼンチン。ワイン造りの歴史は、16世紀半ば、スペインの宣教師たちがブドウ樹を持ち込み、植えたことに始まります。
本格的にワイン産業が発展したのは19世紀以降。フランスやイタリアからボルドー系のブドウ品種が導入され、あわせて最新の栽培技術や醸造法が持ち込まれたことで、アルゼンチンのワインの品質は飛躍的に向上しました。現在では、世界的にも注目される高品質なワイン産地の一つとして知られています。
アルゼンチンのワイン造りにおける最大の特徴は、高地でのブドウ栽培です。主要な栽培地は南緯22度から42度の範囲に位置しており、ボルドーなどのヨーロッパの伝統的な産地と比べると気温が高くなりがちです。そのため、より冷涼な環境を求めて標高の高い地域にブドウ畑が広がるようになりました。
こうした畑の多くは標高1,000メートル以上に位置し、昼夜の寒暖差が大きいことがブドウの成熟に理想的な環境を生み出します。これにより、果実味が凝縮されると同時に、フレッシュな酸も保たれ、バランスの取れた味わいのワインが生まれるのです。
また、アンデス山脈はアルゼンチンの西側を南北に縦断しており、その存在は気候に大きな影響を与えています。山脈が太平洋側からの湿った空気を遮ることで、アルゼンチン側には乾燥した空気が流れ込み、年間を通じて晴天率が高く、ブドウの健全な生育に適した気候が保たれます。
そして、アンデス山脈の雪解け水を利用した灌漑システムで安定したブドウ栽培が可能なことも強みの一つ。それでいて降水量が少なく乾燥した気候をしているため、病害のリスクが低く、農薬の使用が最小限に抑えられるという特徴も持ちます。
土壌にも多様性があります。石灰岩や水はけの良い砂質土壌、そして約1万年前以降に形成された比較的新しい沖積土壌などが混在しており、標高や場所によって異なる個性を持ったブドウが育ちます。こうした土壌のバリエーションもまた、アルゼンチンワインの奥深さを支える要素となっています。
ソムリエ解説!アルゼンチンのワイン造りの特徴って?
アルゼンチンのブドウ畑は国土の西側に位置し、南北に伸びるアンデス山脈に沿って広がっています。 ワイン産地としては緯度的に赤道に近いことから、標高が高い場所でブドウを栽培することで寒暖差を生み出し、大陸性気候のもと、ブドウがしっかりと熟し、酸も保たれることで、品質の高いワインを生産しています。 降水量が少ないため、多くの場所で灌漑を必要としますが、その反面、ブドウの病害が少ないのは有利な点と言えます。 アルゼンチンワインの中でも特に定評があるのは、栽培面積トップのブドウ品種であるマルベックから造られる赤ワイン。凝縮した果実の風味が特徴で、同国でよく食べられる牛肉との相性は抜群です。 その他にも、ブドウ品種トロンテスから造られる華やかでフレッシュなスタイルの白ワインが人気で、近年、パタゴニア産のピノ・ノワールも注目を集めています。
栽培されている主なブドウ品種
アルゼンチンで栽培されている主なブドウ品種と、田邉さんおすすめのワインを紹介します。
マルベック
フランス南西部カオール地区原産の、アルゼンチンにおいて世界最大栽培面積を誇る代表的な黒ブドウ品種です。
栽培は一般的に難しいとされており、病害虫や霜への耐性が低いため、日当たりが良く、乾燥した気候が必須です。
アルゼンチンはマルベックの栽培に非常に適しており、メンドーサ州中心に高品質な赤ワインが多数生産されています。
果皮が厚く色素が豊富な実からは、一般的に濃い紫色や黒色のワインが出来上がります。
華やかな香りと凝縮感のある果実味がありながらも、とても柔らかなタンニンを持ち、若いうちから飲むこともできるうえ、長期熟成のポテンシャルも持ち合わせているのが特徴です。
田邉さんおすすめワイン カイケン・ウルトラ・マルベック / カイケン
チリの著名ワイナリーであるモンテスの高い技術と経験を活かし、アルゼンチンの恵まれた環境で生み出されたハイクオリティな赤ワイン。 こちらのウルトラは、フレンチオークで熟成させたワンランク上のシリーズで、マルベックの赤ワインの特徴であるブラックベリーやブラックチェリーを思わせる、熟した果実の風味と心地よいスパイス感を楽しめます。
トロンテス
北部のサルタ州やラ・リオハ州で広く栽培されている、マルベックと並んでアルゼンチンを代表するブドウ品種です。
「トロンテス・リオハーノ」「トロンテス・サンフアニーノ」「トロンテス・メンドシーノ」の三つの亜種が存在し、この中で最も多く栽培されているのが「トロンテス・リオハーノ」です。
熟しやすい品種特性があるトロンテスは、標高が高く冷涼な畑で育つことで、酸味が保持され、そのボリュームのある果実味とバランスが生まれます。
出来上がるワインは、白い花のフローラルな香りとふくよかな果実味、ほんのりと香るスパイスのニュアンスが特徴です。
田邉さんおすすめワイン パソ・ア・パソ トロンテス / ボデガ・ノートン
こちらのワインを生産するノートンは、日本でもよく知られた著名生産者であり、アルゼンチンのワイン産地の中でも最も高い知名度を誇るメンドーサ州に位置するワイナリーです。 アルゼンチンを代表する白ブドウ品種の一つであるトロンテスから造られたこちらのワインは、白桃やマスカット、バラのような華やかな香りが広がり、ジューシーな果実味と爽やかな酸味の見事な調和が魅力です。
ピノ・ノワール
フランスのブルゴーニュ地方原産の黒ブドウ品種。繊細で気難しい品種のため、栽培のハードルが高いことで知られています。
栽培には冷涼な気候が適しており、アルゼンチンではパタゴニアやウコ・ヴァレーなどの冷涼な産地でクオリティの高いピノ・ノワールが造られるようになりました。
昼夜の寒暖差が非常に大きいことから、ブドウは熟度を高めながらも綺麗な酸味を保持した、芳醇なアロマを纏ったピュアな果実味が魅力のワインが多く造られています。
田邉さんおすすめワイン アルトゥーラ・ピノ・ノワール / ボデガ・ノートン
先ほどもご紹させていただいた生産者のノートンは、その品質の高さによって国際的にその名が知られ、日本においてもアルゼンチンワインの生産者として、業界内では高い知名度を誇っています。 その中でも、標高のより高い畑で育まれたピノ・ノワールから造られたこの赤ワインは、ピュアな赤い果実のアロマと風味が魅力で、新しいアルゼンチンのスタイルを体感いただけます。 肉料理だけでなく、サーモンのグリルなどの魚料理とのペアリングもおすすめです。
有名産地
アルゼンチンの主要なワイン産地は北部地方、クージョ地方、パタゴニア地方に大きく分けられます。その中でも特に代表的な州についてご紹介します。
ノルテ(北部)地方サルタ州
三つの州で構成される北部地方。ブドウ畑の標高は750~2,980mと、非常に高低差があるのが特徴です。
中でもサルタ州は1,280mから3,110mという高い標高にブドウ畑が広がっているために昼夜の温度差が激しい生産地です。標高3,000mを超え、世界で最も高い場所にあるブドウ畑と呼ばれているカルチャキ・ヴァレーもサルタ州に位置します。
メンドーサ同様に降雨量も平均200mmと少なく、冷涼な気候で造られるトロンテス・リオハーノが高く評価されている他、マルベックやカベルネ・ソーヴィニヨンなどの色調や香りが強く、熟したタンニンが感じられるワインが多く生み出されています。
クージョ地方メンドーサ州
メンドーサ州は、フランスのボルドーやアメリカのナパヴァレーなどと並ぶ世界10大ワイン首都のうちの一つに認められており、アルゼンチンワインの約8割がこの地で生み出されています。
昼夜の温度差が激しいためしっかりとした酸を持ち複雑味のあるブドウが作られます。また、日差しにより強い紫外線に晒されるため果皮は厚くなり、豊かな香りと凝縮された果実味を持つワインとなります。
また、平均降雨量は200mmとかなり少なめ。大陸性気候で遅霜や雹のリスクが高い生産地でもあります。
この地はマルベックの産地として有名ですが、他にボナルダ、カベルネ・ソーヴィニヨンも盛んに栽培されているほか、トロンテスやシャルドネ、シュナン・ブラン、ソーヴィニヨン・ブランなどの白ブドウ品種なども多く栽培されています。
パタゴニア地方リオ・ネグロ州
この地に居を構えるワイナリー「ボデガ・チャクラ」が、ワイン評論家ジェームス・サックリング氏の選ぶ2020年のワイン1位に選出されたことで一躍有名となった産地です。
パタゴニア地方はアルゼンチンの中でも標高の低い地域で、最大でも標高370mほどしかありません。この地で標高の代わりに緯度の高さが昼夜の寒暖差をもたらしています。
年間の平均降雨量は200mmと他の地域と変わりませんが、標高の高さから来る日照量の強さがないため綺麗な酸味を持つエレガントなスタイルのワインが生まれます。
最も多く栽培されている品種は他と同様マルベックとトロンテスですが、冷涼な気候での栽培に適したピノ・ノワールやシャルドネから造られるワインの高品質さが世界で注目されています。
アルゼンチンワイン豆知識
アルゼンチンワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!アルゼンチンワインのラベルってどう読めばいいの?
アルゼンチンワインの人気の理由として、魅力的な香りや味わいはもちろん、シンプルで読みやすいラベルもその一つだと考えています。 多くのワインがブドウ品種の名前をラベルにわかりやすく明記しており、記載されたブドウ品種が85%以上使用されていることを表しています。そのため、ブドウ品種の特徴を理解しやすく、自分の好みを見つけるのにも適しています。 また、熟成期間に応じた表示も定められており、「レゼルヴァ(Reserva)」は、オーク樽で最低1年熟成した赤ワイン、もしくは最低6ヶ月熟成した白ワインに表示ができ、「グラン・レゼルヴァ(Gran Reserva)」に関しては、オーク樽で最低2年熟成した赤ワイン、もしくは最低1年熟成した白ワインに表示ができます。 そのため、その表示を理解しておくことで、熟成感が感じられるワインであることをラベルから知ることができ、樽熟成したスタイルを求める人にもおすすめです。
ソムリエ解説!アルゼンチンワインの評価が上がっているって本当?
近年、アルゼンチンワインの評価が国際的に上がっているのは間違いないと考えています。 その背景には、主に品質向上の努力と産地の多様化があります。アルゼンチンはもともとワインの一大生産国でしたが、20世紀後半までは国内消費が中心でした。 1970年代は1人あたりのワイン消費量は世界トップクラスでしたが、多くのワインは大量生産型で、品質よりも量を重視して造られていたと言われています。 しかし、1990年代以降、業界が大きく変化していきます。 海外市場を意識した品質向上の動きが始まり、フランスやイタリアから醸造家が参入し、技術革新(温度管理や熟成技術の向上)によって、国際市場で競争できる品質へと進化します。 この結果、アルゼンチンのワインは世界中に輸出されるようになり、特にマルベックの赤ワインが評価されるようになりました。 そして、アンデス山脈の高地での栽培が広がり、凝縮した果実味だけに頼らない、時代に合ったエレガントでバランスの取れたワインが造られるようになり、ますます評価が高まってきています。
アルゼンチンワインにピッタリの料理
アルゼンチンワインにピッタリな田邉さんおすすめの料理を、代表品種別にご紹介します。
ソムリエ解説!トロンテスに合う料理は?
トロンテスはアルゼンチンを代表する白ブドウ品種であり、マスカットや白桃、白いバラのような華やかなアロマも持ち、爽やかで生き生きとした酸味をもつ、フルーティな辛口タイプの白ワインに仕上がるのが特徴です。 こちらに対しては、香草を使ったお料理とのペアリングがおすすめです。 パクチーやハーブチキンを使ったグリーンサラダの独特な香草風味と爽やかな味わいが、トロンテスから造られる白ワインととてもよく合います。その他、ジェノヴェーゼパスタのグリーンなニュアンスと松の実やにんにくの風味にもマッチします。
ソムリエ解説!マルベックに合う料理は?
マルベックはアルゼンチンを代表する黒ブドウ品種であり、造られるワインは、色調が濃く、ブラックベリーやブラックチェリーのような黒系果実の凝縮したアロマとクローヴのようなスパイスのニュアンス、豊かな果実味としっかりとしたタンニンを持ち、骨格のしっかりとした赤ワインに仕上がるのが特徴です。 こちらの個性に対しては、アルゼンチンの国民食とも言える牛肉の炭火焼き料理のアサードがやはりおすすめ。 日本で最大限に楽しむのであれば、焼肉のカルビやロースとのペアリングやBBQのシーンにもピッタリです。牛肉の旨味と脂質、タンパク質に対して、マルベックの豊かで凝縮した果実味とスパイスの風味、タンニンが非常によく合います。
まとめ
高地で育つブドウから生まれるアルゼンチンワインは、豊かな果実味とバランスの取れた酸味が魅力で、長期熟成にも適しています。
しかし産地によって育つ品種や味わいは様々。多様性と長い歴史を持つアルゼンチンのワインをぜひ味わってみてください。
アルゼンチンのワイン一覧
文=岡本名央