ボジョレーと言えば、日本ではボジョレー地区で造られる新酒、ボジョレー・ヌーヴォーが非常に有名です。
しかし、この地区はヌーヴォーだけを造っているわけではありません。自らの村名を名乗ることができるクリュ・デュ・ボジョレーという区画からは、非常に品質の高いワインが生み出されています。
最近ではイギリスのワイン誌『Decanter(デキャンタ)』において「復活に沸いている!」と取り上げられるなど、ボジョレー地区は今改めて注目されている産地なのです。
そこで今回はボジョレー地区とクリュ・デュ・ボジョレーについて詳しく解説したいと思います。
ボジョレー地区とは
ボジョレー地区は、南北に細長いワイン産地ブルゴーニュ地方の南部に位置しており、ブルゴーニュの都市マコンの南からリヨンの北までの約55kmにわたって続く産地。生産量の大半はガメイから造られる赤ワインです。
夏は暑く冬は寒い半大陸性気候で、ブルゴーニュ北部のシャブリ地区やコート・ドールよりも温暖です。また、ブルゴーニュ北部が概ね粘土石灰質の土壌であるのに対して、南部のボジョレー地区は花崗岩土壌となっています。
マコンのすぐ南から始まるボジョレー地区の北部は、花崗岩を基盤とした丘陵地帯で、この痩せた土壌が樹勢の強いガメイに適応しています。
ボジョレー地区北部には自らの村名を名乗る10のA.O.C.が続き、クリュ・デュ・ボジョレーと総称され、熟成にも耐えうる複雑な味わいのワインが生まれています。
昨今注目を集めるこのクリュ・デュ・ボジョレーですが、17世紀には現在のクリュ・デュ・ボジョレーとその周辺のワインはパリに輸送され、既に高く評価されていた歴史があります。
そのため、クリュ・デュ・ボジョレーの大半は1930年代前半にA.O.C.法が制定されると程なくして次々とA.O.C.に認定されました。
当時のクリュ・デュ・ボジョレーの人気の高さがうかがえるエピソードが残っています。
1932年、大規模ネゴシアンのトップを務めていたアンリ・モメッサンは、クリュ・デュ・ボジョレーの一つである、ムーラン・ア・ヴァンの区画を手に入れるために、ボーヌで開かれていた競売に参加します。しかし落札価格があまりに高かかった為、競り落とすことができなかったそう。
そこで彼は、浮いた予算で別の畑を購入することに。その畑はなんと、かの有名なグラン・クリュ、クロ・ド・タール。当時はグラン・クリュよりも、クリュ・デュ・ボジョレーの方が、価値が高かったのです。
ガメイとは
ボジョレー地区で造られる赤ワインのほとんどがガメイから造られています。
ガメイから造られるワインの最大の魅力は、飲み口の良さ、気軽さと言っても良いでしょう。スミレやバラといった花の香りとイチゴのような赤い果実系の甘酸っぱい香りがし、タンニンは少なく酸味が程良く効いた、フレッシュ&フルーティーという言葉がピッタリの赤ワインです。
一方で、ピノ・ノワール顔負けの複雑な香りと力強い味わいをもつ、クリュ・デュ・ボジョレーのようなワインとなる一面もあります。
復活の理由
先述した通りもともとは非常に高い評価を得ていたボジョレーですが、1980年代後半から世界的に大流行したボジョレー・ヌーヴォーの人気もあり、早飲みのカジュアルなワインとして知られるようになりました。
そしてボジョレー・ヌーヴォーの流行が落ち着き始めた2000年頃、徐々に自然派ワインが流行し始めます。
そこで、新酒とはまた違った形で台頭したのがボジョレーでした。
「フランス自然派ワインの父」と言われるマルセル・ラピエール氏が、ボジョレー地区に深く根差した生産者だったという影響が大きいでしょう。彼の造るワインは、それまでのボジョレーのイメージを覆し、新しい世界を切り開きました。
そして、自分達の土地やガメイに誇りをもつ多くの生産者がマルセル・ラピエール氏に続き、有機栽培的なアプローチで高品質なボジョレーの生産をはじめ、今や自然派ワインの聖地となりました。
またボジョレー地区は、10のクリュ・デュ・ボジョレーが存在することからもわかるように、土壌はモザイクのように異なり、生まれるワインのタイプも様々です。
ガメイ単一で土地の個性が表現されたワインは、まさに現代の消費者の求めるもの。再び、世界からボジョレー地方が注目されるようになってきたのです。
クリュ・デュ・ボジョレーの特徴
クリュ・デュ・ボジョレーは、ボジョレー地区の中でも特に品質の高いブドウを産出するクリュ(区画)です。
ボジョレー・ヌーヴォーと同じブドウ品種であるガメイから造られていながらも、同じ品種、同じ地区で造られたとは思えないほど複雑な味わいが特徴です。知名度と人気の高い4つのクリュを解説します。
ムーラン・ア・ヴァン
標高約230m〜390mほどに位置する畑は花崗岩砂層でマンガンの鉱脈が入り込んだ土壌で、モルゴンと並んで力強く肉付きの良いワインが生まれます。
A.O.C.ムーラン・ア・ヴァンの生産地域は、シェナ村とロマンシュ・トラン村にある約670haのブドウ畑で、ムーラン・ア・ヴァン(フランス語で「風車」の意味)というA.O.C.名はロマンシュ・トラン村ある風車にちなんで付けられたと言われています。
ムーラン・ア・ヴァンには、ボジョレーを代表するいくつかの生産者が本拠地を置いています。
1996年からブルゴーニュの名門ネゴシアン「ルイ・ジャド」の傘下となったデ・ジャックもその一人で、ブルゴーニュの上級ワインを造るのと同じ栽培や醸造方法で造られるデ・ジャックのワインは、気軽さが特徴とされるボジョレーにあって驚くほど深みのある複雑なスタイルとなっています。
フルーリー
フルーリーはモルゴンやムーラン・ア・ヴァンに比べて知名度はやや劣りますが、その二つのクリュに挟まれた申し分のない立地で、10のクリュのほぼ中央に位置しています。
名称のせいかフルーリーと聞くと花のようなエレガントなワインを連想させますが、実際、砂質土壌で育ったブドウから造られたワインはその通りのスタイルとなります。
一方で、南向きの粘土質土壌のブドウ畑からは、ムーラン・ア・ヴァンのコクや寿命に匹敵するボディのしっかりしたワインが生まれています。
モルゴン
クリュ・デュ・ボジョレーの中ではブルイィについで2番目に大きい面積のモルゴン。
クリュ名はヴィリエ・モルゴン村に由来しており、1936年にA.O.C.に認定されました。土壌は片岩と古い火山岩が主流で、ガメイから肉付きの良い赤ワインが造られています。
村の中央には標高約460mにもなるコート・ド・ピィと呼ばれる丘があり、その斜面に広がる酸化鉄を多く含む花崗岩質の土壌の畑で育つブドウは、とりわけ肉厚な果実味を備えており、力強くスパイシーなワインが生まれます。
前述の生産者、マルセル・ラピエールがドメーヌを構えており、彼のワイン「モルゴン」がガメイ人気の発端であり、立役者と言っても過言ではないでしょう。
1981年からビオディナミでブドウ栽培を実践し、後進の指導にもあたるほか、酸化防止剤無添加のワインも造っています。2002年からはシャトー・カンボンも所有しています。
コート・ド・ブルイィ
モルゴンの南に位置する広大なA.O.C.ブルイィの中央にある、火山によって生まれたモン・ブルイィ(フランス語で「ブルイィの山」という意味)の斜面にある小さなクリュがコート・ド・ブルイィです。
土壌は古代の火山由来の青みがかった花崗岩とピンク色の粘土質で、造られるワインはミネラルに富み、若いうちは非常にパワフルです。また、熟成能力も高く、ストラクチャーもしっかりとしています。
モンラッシェの名手ブラン・ガニャールの息子が新たにドメーヌを立ち上げるなど、時世代の生産者が注目する産地でもあります。
まとめ
産地ボジョレーの魅力はヌーヴォーだけではありません。
ガメイという一つの品種から、飲み口の良い気軽なワインから長期熟成も可能な複雑な風味のワインまで、多様なスタイルのワインが造られていることがボジョレーの面白さであり醍醐味でもあるのです。
今、世界が注目する産地ボジョレーのワインを、この機会に是非お試し下さい。
参考文献:世界のワイン図鑑 第8版 / ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン