【ワイン産地を知ろう】オーストリアワインの特徴

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公開日 : 2025.11.13
更新日 : 2025.11.13
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オーストリア

ドイツの南東に位置し、音楽や観光で世界的に知られるオーストリア。


ここで造られるワインは何と言っても高品質で、アルプスの清らかな水や昼夜の寒暖差、多様な土壌に育まれたブドウから生まれる個性豊かな味わいが特徴です。


今回は、そんなオーストリアワインの魅力をソムリエの解説とともに、詳しくご紹介します。

オーストリアワインの一覧

解説してくれるのは、田邉公一さん


J.S.A 認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003 年 J.S.A 認定ソムリエ資格取得 2007 年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018 年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL 資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023 年 12 月発売 2025年10月に新著 「THE STUDY OF WINE」 を出版 映画「シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜」にソムリエ役として出演 オリジナル日本酒「几鏡 by Koichi Tanabe」を2024年よりリリース X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine

目次

ワイン産地としてのオーストリアってどんなところ?

ワイン産地としてのオーストリアってどんなところ?

オーストリア最古のブドウ栽培の記録は紀元前700年頃とされており、ワイン造りにおいては長い歴史を持ちます。


最もブドウ栽培が活発となったのは15世紀から16世紀で、当時の栽培面積は現在の約3倍で、当時はかなり広範囲で栽培が行われていました。


1784年に農家に自家製ワインを敷地内で販売・提供することを認める法令を発布。現在も続く「ホイリゲ」文化の原点となり、ワインの生産と消費がより一般化しました。


1950年代には機械化農業に適した「レンツ・モーザー仕立て」が普及し、生産が近代化。


そして1985年のワインスキャンダルをきっかけに、厳格なワイン法が施行され、オーストリアワインは量より質を追求するようになり、現在では国際的にも評価の高い高品質なワイン産地として知られるようになりました。

ソムリエ解説!オーストリアのワイン造りの特徴とは?

オーストリアはヨーロッパ諸国の中でも中欧に位置しています。ワイン産地は主に東部に集中し、ブドウ栽培地域は北緯47~48度に位置し、フランスのブルゴーニュ地方とほぼ同じ緯度にあたります。 栽培地域の気候には、風が大きな影響を与えており、北からの冷たい風、東にあるハンガリーのパノニア平原からの乾燥した暖かい風、南にある地中海からの湿度を含んだ暖かい風、そして西にあるアルプスからの冷たい風の影響も受けています。 大陸性気候で降水量は少なく、東部では450~500mm程度で、ドイツに比べて暖かいため、比較的しっかりとしたドライなタイプのワインが主流です。 オーストリアのブドウ栽培面積の約3分の2を白ワイン用品種が占めており、特に代表品種であるグリューナー・ヴェルトリーナーは栽培面積全体の30%以上にあたり、スパイシーさを伴う奥行きのある辛口タイプの白ワインは、高い人気を誇っています。 ツヴァイゲルトやブラウフレンキッシュから造られる果実味豊かでエレガントなスタイルの赤ワインも有名。 一方で、ノイジードル湖周辺では霧が発生し、貴腐ブドウが生み出されることで、上質な貴腐ワインも生産されているのも特筆すべき点です。 オーストリアの生産者は品質主義と環境への配慮を重視し、有機栽培やビオディナミ農法を取り入れる傾向も強く、テロワールを忠実に反映したワイン造りが行われています。

栽培されている主なブドウ品種

オーストリアで栽培されている主なブドウ品種を紹介します。

グリューナー・ヴェルトリーナー

グリューナー・ヴェルトリーナー

グリューナー・ヴェルトリーナーは、オーストリアで最も栽培面積の広い白ブドウ品種であり、同国のワイン産業を代表する重要な品種です。


ブドウの粒は比較的大きく丸みがあり、厚めの黄緑色の果皮を持つことが特徴です。耐寒性はあるものの、乾燥しすぎる環境は好まず、開花期にはベト病などの病害にかかりやすいデリケートな一面もあります。


樹勢は強いため、畑の立地条件と合わせて収量管理が品質に大きく影響します。そのため、グリーンハーベスト(摘果)を行い、適切な収量調整をすることが高品質なワイン生産に欠かせません。


オーストリアでは、ニーダーエスタライヒ州とブルゲンラント州北部で広く栽培されており、鮮やかな酸とくっきりとした輪郭が特徴の、メリハリのあるスタイルのワインが多く生み出されています。

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リースリング

リースリング

リースリングはドイツやフランス・アルザス地方で多く栽培されている白ブドウ品種。極甘口から辛口、発泡性があるものまで、そのスタイルは白ワインの中でも群を抜いて多彩です。


オーストリアのリースリングは、気候と土壌の影響により、一般的に辛口で、よりリッチで力強いスタイルになるのが大きな特徴です。

詳しくはこちら

ツヴァイゲルト

ツヴァイゲルト

オーストリアの黒ブドウの中で最も栽培されている品種。


ツヴァイゲルトから造られたワインは、酸とタンニンが控えめで飲みやすいことから日常消費用ワインに使用されることが多いです。


栽培される土地によって様々な顔を持ち、ノイジードラーゼーでは軽やかかつ軽快でフルーティーなワインとなり、ロザリアでは肉厚であるもののスッキリとした飲み心地のワインとなります。

ブラウフレンキッシュ

ブラウフレンキッシュ

晩熟の黒ブドウ品種で、カシスやブルーベリー、ミント、胡椒といった複雑な香りを持ち合わせる高貴なワインを生み出します。


強いタンニンや酸を持ち、長期熟成に向いた偉大なワインとなることもあります。

知っておきたい有名産地

多様な気候と土壌を持つオーストリアの産地の特徴を解説します。

ニーダーエステライヒ州

ニーダーエステライヒ州

ニーダーエステライヒ州は東北部に位置し、オーストリアワイン産地の約半数を占めます。


主要品種はグリューナー・ヴェルトリーナー、リースリング、ツヴァイゲルトなど。州内には、ドナウ川沿いをはじめとする渓谷地形があり、昼と夜の気温差や川沿いの冷却効果などが、ワインに生き生きとした酸やミネラル感をもたらしています。


造られるワインは生き生きとした酸味を持ったフレッシュなスタイルから熟成能力の高いものまで多様です。


特に最高品質の辛口白ワインを生み出すことで有名なヴァッハウは、その美しい景観がユネスコ世界遺産にも登録されていることで知られています。

田邉さんおすすめワイン グリューナー・ヴェルトリーナー フェーダーシュピール・テラッセン / ドメーヌ・ヴァッハウ

その名の通り、オーストリアの銘醸地として知られるヴァッハウにおいて、長い歴史を誇る生産者ドメーヌ・ヴァッハウによって生み出される秀逸な白ワイン。 私自身、これまでにワインスクールやショップでもセレクトしておすすめしてきたワインで、ヴァッハウ渓谷の複数区画のブドウを用いて造られています。 ドライで爽やか、エレガントで奥行きを感じるミネラル感も印象的です。

グリューナー・ヴェルトリーナー フェーダーシュピール・テラッセン
750ml

グリューナー・ヴェルトリーナー フェーダーシュピール・テラッセン

  • エレガント&ミネラリー

  • 2023

    2,420

    (税込)

ブルゲンラント州

ブルゲンラント州

オーストリア東部のブルゲンラント州は、国内でも赤ワインの生産比率が特に高い地域です。主要品種はブラウフレンキッシュ、ツヴァイゲルト、ザンクト・ラウレンなど。


この地はオーストリアでも比較的温暖な地域で、ノイジードル湖が気温変化を和らげてワインの味わいを穏やかにしています。


以前は、甘口の貴腐ワインの産地として知られていましたが、近年は辛口赤ワインの評価が上がっており、果実味豊かでバランスの整ったスタイルが目立ちます。ツヴァイゲルトを中心に、白ワイン品種の質も向上しています。

田邉さんおすすめワイン ブラウフレンキッシュ・ブルゲンランド / モリッツ

ポートワインの伝統的生産者として名高いラモス・ピントによる、オーストリアの土着品種を用いた果実味豊かな赤ワインです。 ポートワインだけにとどまらず、この地域の赤ワインが持つ高いポテンシャルを実感できる1本。豚の角煮や焼き鳥のタレ焼きとも相性抜群です。

ブラウフレンキッシュ・ブルゲンランド
750ml

ブラウフレンキッシュ・ブルゲンランド

  • エレガント&クラシック

  • 2021

    7,150

    (税込)

  • JS 93

シュタイヤーマルク州

シュタイヤーマルク州

シュタイヤーマルク州は、オーストリア南東部にある風光明媚な丘陵地帯で、「オーストリアのトスカーナ」とも称されることがあります。アドリア海の影響も受け湿潤で冷涼な気候を持ちます。


畑は急斜面に多く、手摘みが主流。土壌も多様で、火山性岩や変質岩、石灰質などが入り混じり、ワインに独特のミネラル感とテロワールの個性を与えています。


また、ヴェストシュタイヤーマルクでは、固有品種のブラウアー・ヴィルトバッハーから造られる、酸味が非常に強いロゼワイン「シルヒャー」が特産品として知られています。

オーストリアワイン豆知識

オーストリアワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!

ソムリエ解説!オーストリアワインの「品質第一」文化とは?

1985年、ある事件によって、オーストリアのワイン業界は大きな危機を迎えました。シュトゥットガルトのスーパーで、ジエチレングリコールが添加された1983年のルスト産のワインが発見されたのです。 ドイツ保健省は同年7月9日、オーストリアワインの消費に対して注意喚起を発令し、この不正事件は国内外で大きなスキャンダルとなり、それ以降、全世界でオーストリアのワインが店頭から撤去され、輸出市場は壊滅的な状態となり、オーストリア産ワインの信用は失墜しました。 しかし、この出来事を契機に国は抜本的な改革に乗り出し、非常に厳格なワイン法が1985年8月29日に制定され、ブドウの栽培から醸造、表示に至るまで厳密な基準と検査が義務づけられ、製造に関する全プロセスが徹底的にチェックされる体制が出来上がりました。 この一連の出来事は、オーストリアワインが世界的評価を獲得する転機ともなり、現在では信頼性と透明性の象徴とされ、今日では「品質第一」の理念と文化が国全体に根付いています。

ソムリエ解説!DAC制度とは?

オーストリアは2002年ヴィンテージ以降、品種と糖度に基づくドイツ式分類に加えて、原産地に基づくフランスのAOCやイタリアのDOCGのような原産地呼称制度を積極的に推進しています。 DAC制度(Districtus Austriae Controllatus)とは、オーストリアにおける原産地呼称制度で、各地域の特徴を明確化し、ワインの品質と個性を保証するために導入されたものです。 2003年に初めて「ヴァインフィアテルDAC」が認定されて以降、現在では各地でDACが認定されています。これらのワインは、ブドウ品種・栽培地域・スタイルなどが厳格に定められ、その地域らしさを体現していることが求められます。 基準を満たしたワインのみが「DAC」を名乗ることができ、それ以外のワインは、ラントヴァインやオーストリアワインとだけ表示が可能です。 この制度により、消費者はラベルを見るだけで産地や味わいの特徴を把握でき、生産者にとっても品質向上への意識が高まる原動力となっており、オーストリアが世界のワイン市場で確固たる地位を築くうえで重要な役割を果たしています。

ソムリエ解説!ヴァッハウの独自格付けとは?

ヴァッハウはドナウ川沿いの急斜面に広がるオーストリア有数のワイン産地で、片麻岩、珪岩、砂、粘土、レスなど多様な土壌と昼夜の寒暖差に恵まれ、特にリースリングとグリューナー・ヴェルトリーナーの栽培に最適なテロワールを有しています。 ユネスコ世界遺産に認定された美しいブドウ畑の景観がドナウ渓谷に沿って続き、オーストリアのワインツーリズムにとっても不可欠な産地となっています。 ヴァッハウの生産者たちは、品質の高いワインを保護・育成することを目的に、「ヴィネア・ヴァッハウ・ノビリス・ディストリクテュス(Vinea Wachau Nobilis Districtus)」協会を1983年に設立しました。 この協会では、オーストリア国内のワイン法とは別に、独自の品質基準を設定して格付けを行なっています。格付けは、KMW(クロスターノイブルグ糖度基準)によって、「Steinfeder シュタインフェーダー」「Federspiel フェーダーシュピール」「Smaragd スマラクト」の3段階に分けられています。 これにより消費者は、ラベルを見ることでワインの熟度やスタイルを理解しやすくなり、ワインの品質の高さと個性を保証する指標にもなっています。

ソムリエ解説!オーストリアのヌーヴォーとは?

「ヌーヴォー」は、フランス語で「新しい」という意味があり、フランスワインにおいて、収穫したばかりのブドウで造る新酒の総称として使用されている言葉です。 その中でも特に「ボジョレー・ヌーヴォー」が日本では広く知られていますが、実は世界各地にその土地ならではの新酒文化が存在しています。 その中でも特に有名なものの一つとして、オーストリアの「ホイリゲ(Heuriger)」と呼ばれる新酒があります。 「ホイリゲ」は「今年の」を意味する「heuer」から派生した言葉です。毎年11月11日、聖マルティンの日を解禁日として販売が開始されます。その他の新酒と同様に、爽やかでフルーティーな味わいが特徴で、秋の収穫の喜びを祝う季節の風物詩となっています。 また、「ホイリゲ」は新酒そのものだけでなく、新酒を楽しむ居酒屋風のワイン酒場のことも指します。 ウィーンやその周辺のワイン産地では、地元の人々や観光客が集い、自家製のワインと郷土料理を味わいながら、にぎやかに秋の実りを祝います。こうした風習はオーストリアの人々にとって、新酒が一つの飲み物という枠を超えて、文化的にも大切な存在であることを物語っています。

オーストリアワインにピッタリの料理

オーストリアワインにピッタリの料理

オーストリアのワインにピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。

ソムリエ解説!白ワインに合う料理は?

オーストリアの白ブドウの代表格であるグリューナー・ヴェルトリーナーから造られる白ワインは、リンゴや洋梨、スイカズラや菩提樹の香り、ほのかなスパイスのニュアンス、フレッシュで爽やかな印象をもちながら、奥行きのあるミネラル感と心地よい苦味を感じる辛口タイプが主流です。 こちらに相性の良い料理を考える場合、オーストリアの代表的な料理であるウィーナー・シュニッツェルとの相性の良さを一つの基準として考えると良いでしょう。 こちらは仔牛をカツレツにしたお料理ですが、似たタイプの料理としては、フライドチキンなどを挙げることができます。 グリューナー・ヴェルトリーナーから造られる白ワインの豊かな果実味とほのかなスパイス感が、味わいを補完しつつ、ワインの豊かな酸味が衣とお肉の味わいに溶け込みながら、風味をさらに引き出してくれます。 他にも、内陸地であるオーストリアは淡水魚が豊富で、グリューナー・ヴェルトリーナーとよく合わせられますが、日本では鮎の塩焼きと合わせるのがおすすめです。魚の繊細な味わいに綺麗に溶け込み、鮎の独特の苦味にワインにも感じるほのかな苦味とスパイス感が同調します。

ソムリエ解説!赤ワインに合う料理は?

オーストリアの赤ワイン用のブドウ品種として代表的なのがツヴァイゲルトやブラウフレンキッシュです。 大陸性の気候で育つこれらの固有品種から造られたワインは、主に肉料理と相性が良く、素材の風味や旨味を引き立ててくれます。 ツヴァイゲルトから造られるフルーティーでまろやかな赤ワインは、鶏肉や豚肉のシンプルなグリル、ソーセージやハムとの相性が良く、シャルキュトリと合わせて気軽に楽しむのもおすすめです。 ブラウフレンキッシュから造られるややしっかりとした赤ワインは、ビーフシチューやバベットステーキのような、味わいに深みのあるお肉料理と合わせることで風味と味わいの強さが調和し、お肉の旨みを引き出しながら、ワインのフレーバーも広がります。

まとめ

アルプスの清らかな水や昼夜の寒暖差、多様な土壌に育まれたオーストリアワインは、白のグリューナー・ヴェルトリーナーや赤のブラウフレンキッシュなど個性豊かな味わいが魅力です。


歴史と文化の深みを感じられる、知る人ぞ知る高品質ワインの宝庫です。ぜひ新たな選択肢にオーストリアワインを。

オーストリワインの一覧はこちら

文=岡本名央

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