濃厚な果実味が魅力の赤ワインを生み出す黒ブドウ品種、マルベック。
アルゼンチンを代表する品種として知られるこのブドウが、元はフランス生まれということをご存知でしょうか。
この記事では、マルベックの特徴や代表的な産地、そして相性の良い料理について、ソムリエの解説付きでご紹介します。
マルベックのワイン一覧
解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003年 J.S.A認定ソムリエ資格取得 2007年 第6回 キュヴェ・ルイーズ・ポメリー ソムリエコンテスト優勝 2018年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023年12月発売 X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
目次
特徴
マルベックはフランス南西部カオール地区で生まれた、アルゼンチンの代表的な黒ブドウ品種の一つです。カオールではコット、もしくはオーセロワとも呼ばれています。
フランスでは銘酒の主要品種、またはブレンド品種の一つとして重要な役割を果たしていましたが、病害や19世紀半ばに発生した冷害によりその栽培面積は徐々に減少していきました。
一方、アルゼンチンにおいては1853年に植栽された当初は注目を集めなかったものの、メンドーサ地方などの乾燥した気候や高い標高はマルベックの栽培に非常に適しており、徐々に栽培面積を広げ、ワインの品質も高まっていきました。
現在、アルゼンチンはマルベックの世界最大栽培面積を誇り、高品質なマルベックワインを語る上では欠かすことのできない産地となっています。
果皮が厚く色素が豊富な実からは、一般的に濃い紫色や黒色のワインが出来上がります。
華やかな香りと凝縮感のある果実味がありながらも、とても柔らかなタンニンを持ち、若いうちから飲むこともできるうえ、長期熟成のポテンシャルも持ち合わせているのが特徴です。
栽培は一般的に難しいとされており、病害虫や霜への耐性が低いため、日当たりが良く、乾燥した気候が必須です。
また、昼夜の寒暖差が大きい地域や高地においては非常に豊かな味わいのマルベックが栽培されており、その品質の高さに世界から注目を集めています。
赤ワイン用品種としての一面が有名ですが、近年ではロゼワインも造られるようになりました。
ソムリエ解説!他の黒ブドウ品種の赤ワインとの比較
世界的に有名な黒ブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロ、ピノ・ノワールなどと比較して考えると、マルベックの外観はカベルネ・ソーヴィニヨンと同様に濃いダークチェリーレッドになりやすく、一方で、淡いラズベリーレッドの色調が主流のピノ・ノワールとは、はっきりとした違いがあります。 マルベックの香りは、ブラックベリーのような黒系果実のアロマが主体で樽のロースト香も感じやすいものが多く、その点でカベルネ・ソーヴィニヨンに似ていますが、カベルネ・ソーヴィニヨンは杉やシダのようなほのかなグリーン香を感じる傾向があります。 ピノ・ノワールはラズベリー等の赤系果実の香りが中心になるため、外観と同様にはっきりとした違いがあります。 マルベックの味わいはしっかりとしたボディと強めのタンニンをもち、酸味はなめらかで、タンニンはカベルネ・ソーヴィニヨンのほうがより強く、酸味はピノ・ノワールのほうが豊かに感じられます。 味わいの観点で考えると、タンニンと酸味が中程度からややしっかりしているメルロと似た傾向があると言えます。
ソムリエ解説!熟成させるとどうなるの?
マルベックから造られる赤ワインは、黒系果実の風味がとても豊かで、タンニンがしっかりとしていて酸味もバランスよく存在し、ボディがしっかりとしたワインになる傾向があります。 多くの場合、樽熟成を経た後、リリースされた直後から美味しく楽しむことができますが、上記の特徴から考えても、長期熟成のポテンシャルを持っていると言えます。 長く熟成させることにより、次第に第3のアロマが現れ始め、香りの複雑性が増し、凝縮した果実の香りに加えて、干しプラムや乾燥イチジク等のドライフルーツ、キノコや土、林床を想わせる香りも現れます。 味わいはよりまろやかさが増し、渋みと酸味は果実味に溶け込んだ状態となり、骨格がしっかりとしていながらもテクスチャーはなめらかで、複雑性のある風味が感じられるようになります。
ソムリエ解説!マルベックの魅力って?
熟したベリーフルーツの香りと豊潤で豊かな果実の味わいを純粋に楽しめることです。そして現地でもよく食べられているシンプルに焼き上げられた牛肉との相性が抜群である点も大きな魅力です。
代表的な産地
マルベックの主な産地は南米のアルゼンチンとフランスの南西地方です。それぞれについて詳しく紹介します。
アルゼンチン
マルベックの栽培面積世界一位を誇る、アルゼンチン。
19世紀半ばに、マルベックはカベルネ・ソーヴィニヨンやセミヨンなどのボルドー品種と一緒にフランスから持ち込まれました。
アルゼンチンは日照量が豊富で降雨量が少なく乾燥した気候のためブドウの病害も少なく、マルベックの栽培に非常に適した気候をしています。
また、アンデス山脈の雪解け水を利用した灌漑システムによって非常に良質なブドウを栽培することができます。
ワイン産地として特に有名なのが中央部に位置するクージョ地方で、ラ・リオハ州、サン・フアン州、メンドーサ州の3州で構成されるこの地域は、南アメリカのブドウ産地の中で最大のワイン生産量を誇ります。
中でも大規模ワイナリーのほとんどがメンドーサ州に集中しており、栽培面積・生産量においでもアルゼンチン内で大部分を占め、理想的な土壌と気候に恵まれたマルベックから高品質な赤ワインが多数生産されています。
フランス
フランスにおけるマルベックの主要な産地は、その起源の地である南西地方(シュッド・ウエスト)です。
中央高地からピレネー山脈のふもとまで広がる広大な南西地方の中で、とりわけロット川流域のカオールで多く栽培されており、マルベック単一、もしくはマルベック主体のワインが造られています。
カオールはボルドーより雨が少なく、秋には暑く乾燥したオタンと呼ばれる南西風が吹くためブドウがよく熟し、造られるワインは色合いが濃く、しっかりとした骨格の味わいとなるのが特徴です。
ボルドーやトゥーレーヌ地方でも少量栽培されており、主にブレンド用品種の一つとして使用されています。
ソムリエ解説!産地による味わいの違いは?
マルベックの発祥の地として考えられている南西フランス地方、その中でもカオールはマルベックから造る赤ワインで名を馳せた産地として有名です。 カオールは、かつて黒いワインと呼ばれたように、色調が濃くなる傾向がありますが、アルゼンチンのマルベックは日照量の豊富さに加えて、ブドウ畑が非常に標高の高い場所に位置していることで、より濃い色調になる傾向があります。 香りは双方共にブラックベリーやブラックチェリーのような黒系果実のニュアンスが主体ですが、アルゼンチンのマルベックはコンポートやジャムのようなニュアンスを感じ、カオールは果実香はやや控えめで、キノコや土のようなニュアンスを感じる傾向があります。 味わいに関しては、アルゼンチンは香りと同様にコンポートやジャムのような甘い果実風味が感じられ、カオールのほうが甘味が穏やかで、酸味がややしっかりとしています。
相性の良い料理
マルベックに合う料理について田邉さんに聞いてみました。
ソムリエ解説!マルベックにはどんな料理が合う?
マルベックが生産される南西フランスで有名な郷土料理の一つとして、鴨のコンフィがあり、こちらの料理はカオールととても相性が良いことで知られています。 鴨の脂とワインのタンニンが結びつき、旨味が引き出され、なめらかな酸味が味わいのバランスをとります。 そしてワインのスモーキーなフレーバーが料理に加わることで、風味がより豊かに感じられます。 その他にも、アルゼンチンの代表的な牛肉の炭火焼き料理である「アサード」とマルベックの赤ワインも非常によく合います。 じっくりと炭火で焼いた牛肉の豊かな風味と鉄分的なニュアンスに、ワインのもつブラックベリーやブラックチェリーを思わせる黒系果実の豊かな風味とスパイス感、さらにはロースト香が調和し、しっかりとしたタンニンが肉の脂質とタンパク質と調和し、味わいがより豊かになります。 炭火焼きの香りにワインのスモーキーさも重なり、お肉との相性をより高めてくれます。肉料理以外でおすすめしたいのが、ダークチョコレートとのペアリングです。 風味と甘味の観点から、特にアルゼンチンのマルベックの凝縮した果実感とまろやかな甘味と風味の個性にとてもよく合います。
おすすめワイン
最後に、田邉さんおすすめのマルベックを使ったワインを3本ご紹介します。
レゼルヴァ・マルベック / ボデガ・ノートン
ノートンはアルゼンチンの老舗ワイナリーとして広く知られ、この国のマルベックを有名にしたワイナリーの一つと言っても過言ではありません。 現在では国内トップクラスの生産者としての地位を築き、スワロフスキー社が所有しています。 こちらのワインは、樹齢30年から50年のマルベックから生まれた凝縮感と奥行きのある味わいが魅力の1本。炭火で焼いた牛肉との相性は抜群です。
カイケン・エステート・マルベック / カイケン
カイケン・エステートは、チリの有名なワイナリーであるモンテスが、アンデス山脈を越えたアルゼンチンの大地で生み出す高品質な赤ワインです。 チリ屈指のワイナリーが長年積み重ねてきた技術と経験から造られたワインは、芳醇なアロマと凝縮感のある果実の風味、まろやかさを感じる味わいが魅力。 デイリーワインとして常備しておくのにもおすすめです。
プルプル・ド・グレゼット・ルージュ / ドメーヌ・ド・ラグレゼット
ドメーヌ・ド・ラグレゼットは、フランンス南西地方の銘醸地カオールにあるワイナリーで、世界的に有名な醸造コンサルタントであるミシェル・ロラン氏を迎え、素晴らしいワインを生み出し続けています。 日本でも長年に渡って人気を誇っており、私も自身が務めるレストランでオンリストしていたり、ワインスクールの授業でもお出しした経験があります。 こちらは、マルベックを主体にメルロをブレンドした絶妙なバランスをもつ赤ワイン。豊潤な果実の風味とまろやかかつ洗練された味わいが魅力です。
プルプル・ド・グレゼット・ルージュ
赤
パワフル&ストラクチャー
「黒ワイン」と称されるカオール地方の名門。マルベック種が元来備える力強さと名手ミシェル・ロラン氏の精巧さが融合した、リッチな赤ワイン。 詳細を見る
4.0
(3件)2020年
2,420 円
(税込)
まとめ
マルベックはフランスからアルゼンチンへと渡り、その地で魅力を開花させた品種です。
そのイメージから過度な凝縮感やパワフルさを想像するかもしれませんが、豊かな果実味や奥行きをもった味わいなど、一言で表せない多彩な魅力に溢れています。
次の食事の際には、ぜひマルベックを試してみてはいかがでしょうか?
マルベックのワイン一覧
文=岡本名央