スペインを代表するブドウ品種、テンプラニーリョ。スペインの長熟で高品質な赤ワインは、ほとんどテンプラニーリョを主体として造られているといっても過言ではありません。
しかし、同じ赤ワイン用ブドウ品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンやピノ・ノワールに比べると個性は控えめです。そのため、テンプラニーリョの印象は薄いという方も多いのではないでしょうか?
今回はそんなテンプラニーリョについて詳しく紹介します。
特徴
種類 | 黒ブドウ |
香り | ストロベリー、プラム |
味わい | 程良い酸味と滑らかなタンニン |
代表的な産地 | スペイン、ポルトガル |
テンプラニーリョは赤ワイン用の黒ブドウ品種で、原産地はスペイン北部と言われています。
テンプラニーリョという名前はスペイン語の「Temporano=早生の、早熟な」に語源があり、この地で栽培されているものが他のブドウ品種より早く成熟することに由来しています。
紀元前1100年頃から紀元前500年頃にスペイン東海岸全域を征服していた古代ローマ人やフェニキア人が故郷からブドウの樹や醸造技術を持ち込んだのがスペインワインの始まりと言われています。テンプラニーリョの歴史は古く、その頃からイベリア半島に存在していたようです。
果粒はやや小さく厚い果皮を持つブドウで、病害への耐性は弱いのですが、他の品種に比べて芽吹きが遅いため、春の遅霜の被害を受けにくいです。
また、生育期間が非常に短いので夏から初秋にかけて暑くなると作柄が良くなります。ただ、ある程度冷涼な気候のもとで育てる方が、優雅さや長期熟成に必要な酸を持ったワインを造ることができます。
テンプラニーリョはどのようなテロワールでも適応するため、イベリア半島の各地で栽培されており、その土地ごとの特徴がワインに現れます。
そのため、このブドウは各地で独自の呼び名があり、下記に記したように多数のシノニム(別名)を持ちます。
呼び名 | 国 / 地域 |
テンプラニーリョ | スペイン / リオハ |
ティント・フィノ、ティント・デル・パイス | スペイン / リベラ・デル・ドゥエロ |
センシベル | スペイン / ラ・マンチャ |
ウル・デ・リェブレ | スペイン / ペネデス、カタルーニャ州 |
ティンタ・デ・トロ | スペイン / トロ |
ティンタ・デ・マドリッド | スペイン / マドリッド |
ティンタ・ロリス | ポルトガル / ドウロ、ダン |
アラゴネス | ポルトガル / アレンテージョ |
テンプラニーリョから造られるワインは、若いものは明るいルビー色で、熟成期間に応じて茶色味を帯びてきます。
香りはストロベリーやプラムから、熟成するにつれてドライイチジクやプルーン、なめし皮やタバコといったように、いくつもの香りが重なり合い非常に複雑になっていきます。
味わいは同じテンプラニーリョでも様々なタイプがありますが、酸味が程良くあり、タンニンは柔らかいながらしっかりあるものが多いです。
リオハのテンプラニーリョのワインに多く見られる、スペインの伝統的な古樽で熟成させた場合は、香りは控えめで派手さはありませんが風味は繊細で、心地良い酸味があります。
一方、リベラ・デル・ドゥエロのテンプラニーリョのワインは力強さを和らげるためにオーク樽で熟成させます。その場合は、ブルーベリーやドライフラワーのような華やかな香りを放ち、しっかりとした果実味とタンニンが感じられます。
相性の良い料理
テンプラニーリョのワインにはスペイン産の生ハムとの相性が抜群です。
マンチェゴなどスペイン産の羊乳チーズとのマリアージュもオススメですので是非お試し下さい。
また、すき焼きや肉じゃがなど、醤油で味付けした和食の肉料理にも意外と合います。
スペインやポルトガルでもお米や魚がよく食されているので、日本人の嗜好に通じるものがあるのかもしれませんね。
代表的な産地
リオハ
首都マドリードの北北東約250kmにある、ラ・リオハ州、バスク州アラバ県、ナバーラ州の3州にまたがるスペインを代表するワイン産地。ローマ帝国による征服以前からワイン造りが行われていた古い歴史を持つ産地です。
南西のデマンダ山脈がメセタ(イベリア半島中央に位置する広大な乾燥高原)からの過酷な夏の熱波を遮り、北に連なるカンタブリア山脈によってビスケー湾から吹き寄せる冷たい北西風から守られます。そのため夏は暑さが抑えられ、冬は比較的穏やかで、テンプラニーリョの栽培に非常に適した気候です。
この地域の栽培面積の約50%を占めるリオハ・アルタはエブロ川上流域の左岸と右岸の一角にあり、鉄分の多い粘土質の土壌で、しっかりとした骨格を持つ熟成向きのテンプラニーリョのワインが造られています。
また、リオハではテンプラニーリョはガルナッチャ(=グルナッシュ)やマズエロ(=カリニャン)などとブレンドされることが多いのも特徴です。
尚、1991年にワイン法が改正され、「原産地呼称」の上位区分として「特選原産地呼称」(D.O.Ca.)が導入されると、リオハはスペイン第1号の「特選原産地呼称」に認定されました。
リベラ・デル・ドゥエロ
リベラ・デル・ドゥエロはマドリッド以北に広がる、スペインで最も広大な面積を誇るカスティーリャ・イ・レオン州にある産地。
「夏と冬しかない」と言われるほど夏は乾燥した酷暑となり、冬は寒さが厳しい大陸性気候です。この寒暖差の厳しさがテンプラニーリョに凝縮した味をもたらします。
リオハ同様にワイン造りは長い歴史がありますが、1980年代になるまで「ベガ・シシリア」を除き特筆すべきボデガ(ワイナリー)はありませんでした。
しかし、1982年に原産地呼称(D.O.)に認定されてから、この地のテンプラニーリョのワインで世界的な名声を得る生産者が増え、今ではスペインを代表する赤ワインの産地となりました。
ちなみに、今なおスペインのトップ生産者として名を馳せる「ベガ・シシリア」は、テンプラニーリョにカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロといった国際品種をブレンドし、長期間セラーで熟成させてからワインをリリースします。
ポルトガル
前述したように、ポルトガルではテンプラニーリョは「ティンタ・ロリス」として知られています。
ポートワインの産地として有名なドウロ地方ではポートワインの原料として、またポルトガル中部のダンでは、他の品種とブレンドして赤ワインが造られています。
おすすめワイン
テンプラニーリョのおすすめワインをご紹介します。
高い実績を誇るリオハ最古のワイナリーが手掛ける高品質ワイン
ワイン評論家、ティム・アトキン氏によるリオハ格付けで毎年1級を獲得し続けるワイナリー、マルケス・デ・ムリエタのフラッグシップワイン。
テンプラニーリョを中心に4品種をブレンドして造られ、ブラックベリーの濃厚な果実のアロマと滑らかなタンニン、長い余韻が魅力の1本です。
スペインの名門ワイナリーが手掛ける洗練された1本
「世界で最も称賛されるワインブランド」にも選ばれる実績を持つスペインの名門、トーレスがリベラ・デル・デュエロで造るテンプラニーリョです。
ジューシーな果実味とバニラやスパイスのニュアンスが特徴で、テンプラニーリョの魅力を存分に味わうことができます。
まとめ
イベリア半島の各地で栽培されているテンプラニーリョは、9〜13世紀にかけて国土回復運動とともにイスラム教徒より奪回した土地を守るために修道院主導で広められました。そして、本格的なテンプラニーリョの栽培は20世紀のフィロキセラ禍後の復興とともに進みました。
さらに、1980年代になり、スペイン中央政府がスペインの赤ワイン品質向上を目的とし、テンプラニーリョの植え付けを各地で奨励した結果、近年栽培面積が飛躍的に増えました。
歴史の古いブドウではありますが、ニューワールドでの栽培も増えつつあり、今後が期待されるブドウ品種の一つと言えるでしょう。
是非、いろいろなテンプラニーリョのワインをお試し下さい。
参考文献 ・日本ソムリエ協会 教本 2018