マスカット・ベーリーAは、日本で生まれた赤ワイン用ブドウ品種です。甘やかな果実の香りとやわらかなタンニン、軽やかな飲み心地が特徴で、日本の食卓にも合わせやすい味わいから、国内外で評価を高めています。
この記事では、マスカット・ベーリーAの特徴や代表的な産地、味わいに合う料理、おすすめのワインをソムリエの解説付きで詳しくご紹介します。
マスカット・ベーリーAのワイン
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A 認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003 年 J.S.A 認定ソムリエ資格取得 2007 年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018 年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL 資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023 年 12 月発売 2025年10月に新著 「THE STUDY OF WINE」 を出版 映画「シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜」にソムリエ役として出演 オリジナル日本酒「几鏡 by Koichi Tanabe」を2024年よりリリース X(旧 Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
特徴
マスカット・ベーリーAは、「日本のワインの父」とも呼ばれる川上善兵衛によって交配が開始され、1940年に公表された日本生まれの赤ワイン用ブドウ品種です。
日本の気候風土に適応することを目的に開発され、現在は山梨県を中心に全国で栽培されています。日本ワインを代表する存在として、国内外から注目を集めています。
果粒はやや大きめで、果皮は比較的厚く、鮮やかな紫色。病害に比較的強く、日本の高温多湿な気候にも適応しやすいのが強みです。特に昼夜の寒暖差がある地域では、香り豊かでバランスの良いブドウが育ちます。
収穫時期や醸造方法によって、軽やかでフレッシュなタイプから、樽熟成による骨格のあるスタイルまで幅広い表現が可能です。
マスカット・ベーリーAから造られるワインは、ストロベリーやチェリーなどの赤系果実のチャーミングな香りと軽やかな口当たりが魅力。酸味とタンニンは比較的穏やかで、赤ワイン初心者にも親しみやすい味わいです。
近年は醸造技術の向上により、凝縮感や熟成ポテンシャルを備えた上質なスタイルも増え、日本ワインの可能性を広げています。
ソムリエ解説!マスカット・ベーリーAの魅力は?
マスカット・ベーリーAから造られる赤ワインは、いちごやキャンディ、赤や紫の花を思わせる華やかな香りと、瑞々しく新鮮な果実の味わいとしなやかな酸味との調和が魅力です。 軽やかで渋みも穏やか、親しみやすく、ワイン初心者から愛好家まで幅広く楽しめます。この日本ならではのスタイルは他国で類を見ることがなく、日本の伝統的なお料理との相性は抜群です。
ソムリエ解説!「ベリー」ではなく「ベーリー」?
マスカット・ベーリーAの「ベーリー」は、よく「ベリー」と間違えられることがありますが、小さな果実を意味する“ベリー(berry)”ではなく、交雑育種に用いられた母親品種である「ベーリー」に由来しています。 1927年(昭和2年)に新潟県の川上善兵衛が交配を開始し、1931年に初めて結実。母にアメリカ系品種のベーリー、父にヨーロッパ系品種のマスカット・ハンブルグを交配して誕生させました。 川上善兵衛は、ワインにした時の官能試験を行い、1940年にブラック・クイーンなど他品種と共に公表。この品種を惜しげもなく全国に配っていきました。 名称の“A”は、最初に選抜された優良個体(第1号)を表す識別番号です。 マスカット・ベーリーAは日本の気候に適応しやすく、現在では日本固有の代表的な醸造用ブドウとして親しまれています。
代表的な産地
マスカット・ベーリーAの主な産地である日本について詳しく紹介します。
日本
マスカット・ベーリーAは原産地こそ新潟県ですが、日本の高温多湿な気候に適応するよう育成された品種のため、全国各地で栽培されています。
現在の最大の産地は山梨県で、国内生産量の6割以上を占めています。次いで山形県、長野県、広島県、島根県など各地で広く栽培されており、赤ワインを中心に、ロゼやスパークリングなど多彩なスタイルが生産されています。
2013年には、OIV(国際ブドウ・ワイン機構)の品種リストに登録されたことで、国際的にも正式なブドウ品種として認められ、日本固有品種としての存在感を一層強めています。
ソムリエ解説!日本以外で造られているの?
マスカット・ベーリーAは、川上善兵衛が日本の気候に適応するよう交雑育種した日本固有の赤ワイン用品種です。そのため、現在も生産の中心は日本国内であり、山梨県をはじめ、山形県、長野県、広島県、島根県などで栽培されています。 マスカット・ベーリーAは、日本のワイン用ブドウ品種の生産量の中で、甲州に次いで全国第2位を誇り、その6割以上が山梨県で栽培されています。 国際ブドウ・ワイン機構(OIV)にも登録されており、海外でもわずかに試験的な栽培やワイン造りの例はあるようですが、商業規模で広く流通しているのは日本国内のみとなっています。 気候適応性や品種の個性が日本の風土と強く結びついているため、世界的にはまだ珍しい存在といえるでしょう。 私自身は現在のところ、海外産のマスカット・ベーリーAを飲んだ経験はありませんが、機会がありましたらぜひ一度味わってみたいです。
相性の良い料理
マスカット・ベーリーAに合う料理について田邉さんに聞いてみました。
ソムリエ解説!マスカット・ベーリーAにはどんな料理が合う?
マスカット・ベーリーAから造られる赤ワインの特徴である華やかな香り、繊細で穏やかなタンニンと豊かな酸味、そして赤い果実の味わいには、山梨県の名物の鳥のモツ煮がとてもよく合います。 甘辛く煮込んだレバーやハツのコクと旨味、ほんのりとした苦味に、ワインの芳醇なアロマと風味、豊かな酸味がやさしく溶け込み、味わいをより豊かにしてくれます。 それ以外にも、豚の角煮とのペアリングもおすすめです。旨味が溶け込んだ、柔らかく仕上がったお肉料理との相性も素晴らしく、ワインと料理の風味、甘味、テクスチャーや色調も含めて、素晴らしい相性を感じさせてくれます。 同じく、日本の代表的な料理であるすき焼きにも、マスカット・ベーリーAのワインがよく合います。ワインのほのかな甘さと風味が、薄切りにしたお肉や割り下の味付け、卵のまろやかな味わいと絶妙にマッチします。 マスカット・ベーリーAの赤ワインに感じられるイチゴキャンディの香りのもととなるアロマ化合物であるフラネオールは、醤油にも含まれているということで、醤油が使用されている料理と相性が良くなりやすい傾向があるのもポイントです。
おすすめワイン
最後に、田邉さんおすすめのマスカット・ベーリーAを使ったワインを3本ご紹介します。
イシグラワイン / ルミエール
これまで何度も訪問する機会をいただき、多くを学ばせていただいたワイナリーで、以前、個人的に気に入ったワインをSNSなどでもご紹介させていただきました。 ルミエールは、大正時代には宮内庁御用達となった由緒正しいワイナリーで、こちらは日本遺産および国の登録有形文化財に認定されている歴史的な石蔵発酵槽で仕込まれたマスカット・ベーリーAから生まれた、日本ならではの味わいが感じられる1本です。
嘉スパークリング ロゼ・ブリュット / 高畠ワイナリー
山形県を代表するワイナリーの一つと言える高畠ワイナリーは、これまでに国内外のコンクールで軒並み高評価を獲得してきました。個人的には特にスパークリングワインに注目しています。 こちらは日本を代表するブドウ品種、マスカット・ベーリーAから生まれた、華やかでエレガントなスパークリングワイン。豊かな果実味としなやかな酸味の調和が素晴らしく、食前酒からメインのお料理まで幅広く楽しめます。
千曲川・マスカット・ベーリーA / マンズワイン
長野県と山梨県にワイナリーを構えるマンズワイン。2025年の末に長野県の小諸ワイナリーへ訪問させていただきました。 これまでにレストランのワインリストにオンリストしたり、ワインスクールのテイスティングワインとしてもお出しした経験があります。 こちらは、自社有機栽培管理畑のマスカット・ベーリーAから造られた赤ワインで、自然な果実の香りと味わいが魅力の1本です。
2021年
3,300 円
(税込)
まとめ
マスカット・ベーリーAは、日本で誕生した赤ワイン用ブドウ品種であり、日本の気候風土に適応しながら発展してきた、日本ワインを代表する存在です。
近年は品質向上が進み、国内外での評価も高まっています。日本の食文化と相性が良く、日常の食卓にも自然に寄り添うマスカット・ベーリーA。ぜひ一度、その個性を体験してみてください。
マスカット・ベーリーAのワイン
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文=岡本名央