雨が降ると憂鬱になりますが、実は、雨降りの日は、絶好のワイン日和です。湿度が高いとワインの香りがくっきりと立ち上がり、美味しさが倍増します。
そんな日は、室内でミュージカルを見ながら、ゆったり贅沢な気分でワインを飲んではいかがでしょうか?
今回は、雨の日にこそワインを楽しむため、雨に関係のあるミュージカルと、それにぴったりのワインを紹介します。
『雨に唄えば』とドラモット・ブリュット
百貨店で買い物をしていて、店員さんが「今、雨が降っていますので」と紙袋にビニールをかけてくれることがあります。売り場から外が見えないのに、なぜ、雨かが分かるのだろうと不思議に思いますが、答えは「BGMで雨を知らせてくれる」です。
雨を知らせる音楽として、百貨店で圧倒的に人気の曲が『雨に唄えば』です。雨がテーマなのに、とても軽快で明るいところが人気の秘密でしょう。
『雨に唄えば(Singin’ in the Rain)』は、1952年のミュージカル。ダンサーで俳優のジーン・ケリーが監督だけでなく、主人公である大物俳優、ドン・ロックウッド役も演じます。ヒロインの新人女優、キャシー・セルドン役は、デビー・レイノルズが担当します。
一目見た時からキャシーに熱い想いを寄せていたドンは、キャシーとの恋愛が成就して空を飛ぶ気分。
キャシーのアパートの玄関先でキャシーに「じゃあ、また後で」とキスをすると、土砂降りの中を帰っていきます。これが超有名な「雨の中のタップダンス」のシーンです。
スーツ姿に山高帽子をかぶったジーン・ケリーが傘を持ち、満面の笑顔を浮かべ、雨の街角で超絶技巧のタップダンスをする場面はご覧になった方も多いでしょう。
街路灯に登って歌い、旅行会社のショウウィンドーの前でくるくる回りながら傘を振り回します。穴が開いた雨樋から滝のように雨が流れる下にわざわざ入って全身がずぶ濡れになり、水たまりの中をバシャバシャと歩き、お巡りさんに叱られてしまいます。
土砂降りの雨の中、持っている傘を使わず、全身がずぶ濡れのままで軽快に踊る、わずか5分のシーン。これを見ると雨の日が待ち遠しくなり、待望の雨が降ると、わざわざネクタイを締めてジャケットを着て外へ出て、雨に濡れたくなりますね。
これほど、雨を魅力的に描いた映画はありません。
このミュージカルにぴったりのワインは、絶対にシャンパーニュ。中でもチャーミングなドゥラモットで決まりです。
ドゥラモットは、あの名門生産者、サロンの妹メゾンとして有名ですね。ル・メニル・シュル・オジェ村のサロンを訪問した時、サロンとドゥラモットが長屋のように建物が繋がっていたのが印象的でした。シャルドネで造るドゥラモットの愛らしいシャンパーニュは、17歳の妹のようにチャーミングですね。
愛する人にこれから熱い想いを告白する前日は、ジーン・ケリーのタップダンスと、ドゥラモットのシャルドネから勇気をもらってください。うまくいった時は、二人でミュージカルを見ながら、一緒にドゥラモットを飲みましょう。
愛する人と雨の日を過ごす場合、『雨に唄えば』とドゥラモットは最高の組み合わせです。
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『シェルブールの雨傘』とカルヴァドス
アメリカの国民的女優がマリリン・モンロー、イギリスがオードリー・ヘプバーンなら、フランスはカトリーヌ・ドヌーヴです。
美しくて気品のある官能を備えたカトリーヌ・ドヌーヴは、40代、50代のフランス人男性の圧倒的な人気を誇っています。代表作が、『昼顔』と、今回ご紹介する有名なミュージカル、『シェルブールの雨傘』です。
『シェルブールの雨傘』は1964年の作品で、音楽は名手、ミシェル・ルグランが担当しました。セリフはなく、音楽と歌だけのミュージカルです(なので、演技をする俳優と、歌を歌う声優がいます)。
シェルブールは、ドーバー海峡に面したノルマンディー地方の町です。雨傘屋の娘、ジュヌヴィエーヴ(俳優はカトリーヌ・ドヌーヴ、歌手はダニエル・リカーリ)と、工員のギイ(俳優はニーノ・カステルヌオーヴォ、歌手はジョゼ・バルテル)の物語で、ギィがアルジェリア戦争に従軍して引き裂かれる悲しい恋愛物語です。
映画全編に切なさが溢れていて、汽車に乗って戦地に赴くギィをジュヌヴィエーヴ見送るシーンは、何度見ても胸が痛くなります。このシーンは、愛する二人が離れ離れになる映画では定番化しています。
また、ダニエル・リカーリとジョゼ・バルテルが歌う『シェルブールの雨傘』の切ないテーマ曲は、映画音楽としてトップ5に入るほどの人気曲ですね。
シェルブールがあるノルマンディー地方は非常に寒いため、荒れ地でも育つブドウを栽培できません。で、植えたのが、寒冷地仕様の果物であるリンゴです。リンゴで造るお酒がカルヴァドスで、ノルマンディー地方を代表するお酒になりました。
ノルマンディー地方には、「トゥル・ノルマン(Trou Normand)」という言葉があります。文字通りの意味は「ノルマンディーの穴」。コース料理で、食事が切り替わる時に小さいグラスでカルヴァドスを飲むことです。
アルコール度数の高いカルヴァドスを少量飲むと、胃に穴が開いたように消化が進み、次の料理が食べられるという訳です。高級フレンチへ行って、コースの途中でお腹が一杯になった時、ソムリエに「トゥル・ノルマンをください」とオーダーするとカッコいいかもですね。
雨の日は、『シェルブールの雨傘』を見ながら、シーンが切り替わるたびに、胸に溜まった切なさを消化するため、カルヴァドスを少量飲むといいでしょう。
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『マイ・フェア・レディ』とロジャー・グラート
映画には、醜いアヒルの子が白鳥になる「変身ストーリー」というか、身分違いのハッピー・エンディング・ラブストーリーという分野があり、その三銃士が、『シンデレラ物語』、『プリティ・ウーマン』と『マイ・フェア・レディ』です。
『マイ・フェア・レディ』の主演女優が、イギリスの国民的女優、オードリー・ヘップバーン。このミュージカルは、雨のシーンで始まり、雨で終わりますし、雨に関する言葉がテーマになっています。
ストーリーは、ロンドン下町の貧しい花売り娘を上流階級の貴婦人に見せかけることは可能かというギャンブルです。
強烈な下町訛りで話す花売り娘がイライザ・ドゥーリトルで、演じるのはオードリー・ヘプバーン。下町訛りを端正な上流階級の英語に矯正するのが高名な言語学者のヘンリー・ヒギンス教授(俳優はレックス・ハリソン)、貴婦人としての振舞いを仕込むのがヒュー・ピカリング大佐(ウィルフリッド・ハイド=ホワイト)です。
イライザの話す英語が悪名高いコクニー訛りで、「ei」を「ai」と発音します。例えば、このミュージカルのテーマソングになっている『The Rain in Spain』ですが、イライザは、「The rain in Spain stays mainly on plain(スペインの雨は主に平野に降る)」を「ザ・ライン・イン・スパイン・スタイズ・マインリー・オン・プライン」と発音しています。
タイトルの『マイ・フェア・レディ(私の貴婦人)」は、「メイフェアレディー」のコクニー訛りで、地下鉄のグリーンパーク駅のそばにあるロンドンの超高級住宅地、メイフェアに住む貴婦人(Mayfair lady)を下敷きにしています。日本語なら、『グンザのオジョさん(銀座のお嬢様)』という感じでしょうか?
イライザは、ヒギンズ教授からレッスンを受けるたびに、「ザ・レイン・イン・スペイン・ステイズ・メインリー・オン・プレイン」になっていくのです。美しい英語と、上流階級のマナーを短期間で習得したイライザは、ハンガリーの王族として社交界にデビューするのですが、その間、いろいろな事件が起こり、目が離せません。
最後は、ヒギンズ教授がイライザに熱い想いを告白するハッピー・エンディングとなります。こんなウキウキするミュージカルを見る場合、泡が沸き立つスパークリングワインが欠かせません。『The Rain in Spain』にちなみ、「The Wine in Spain」ということで、カヴァの名門、ロジャー・グラートがぴったりですね。
ロジャー・グラートは、ヴィンテージ物しか造らない孤高の生産者です。創業1882年の老舗で、シャンパーニュ方式を忠実に守っています。泡が非常に細かく、長い時間出ます。シャンパーニュに優るとも劣らない品質は、スペインの至宝ですね。
これを飲みながら『マイフェアレディー』を見ると、『The Rain in Spain』が「The wine in Spain stays mainly on plain」と聞こえることでしょう。
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