銘醸畑にこだわるスタイリッシュなシャンパーニュ「アンリオ」

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公開日 : 2020.5.15
更新日 : 2023.7.12
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アンリオ

5で割り切れる年は、世界三大コンクールの一つであるショパン・コンクールをワルシャワで開催する年です(残りの二つは、ロシアのチャイコフスキー・コンクールとベルギーのエリザベート・コンクール)。コンクールは、ショパンの命日である10月17日をまたいで、一次、二次、三次の予選、および、ファイナルで技を競います。この詳細は、恩田陸のベストセラー小説、『蜜蜂と遠雷』に詳しく書いてあるので、ご存知の方も多いでしょう。

今年、2020年は第18回目ですが、コロナ禍の影響で予選が延期になりました。ショパン・コンクールには毎回、トラブルが付き物で、出場者は、「あぁ、今年もかぁ」と思っていることでしょう(2010年にはアイスランドで火山が噴火し、ヨーロッパの飛行機が飛べなくなり、出場者はバス、タクシー、バイク、電車を乗り継いでワルシャワへたどりつきました)。

ショパン・コンクールの公式ピアノが、アメリカのスタインウェイ、日本のヤマハ、イタリアのファツィオリです。スタインウェイは、車で例えれば、高級車を世界中に提供するベンツ、ヤマハはトヨタで、大衆車から高級車まで最高品質の自動車を作ります。ファツィオリは1981年創業の「新人」ですが、フェラーリのように少数精鋭主義で、日本に6台しかありません。

今回取り上げるアンリオも、少数精鋭で品質にこだわるシャンパーニュ・メゾンです。アンリオをここまで育てたのは、先代の当主、ジョセフ・アンリオの手腕だと思います。

目次

先代当主ジョセフ・アンリオの想い

ジョセフ・アンリオ

先代の当主、ジョセフ・アンリオ(1936年-2015年)は、品質に非常に強いこだわりを持ち、また経営の才能に優れていました。

2005年に、ジョセフさんが来日した際、お会いしたことがあります。第一印象は「雪原にたたずむ丹頂鶴」。鶴のように痩せていて、鶴のように端正で気品があって圧倒されたことを覚えています。「本物の貴族はこんな人だ」と思いました。

また、2015年、森覚さんか、佐藤陽一さんのどちらがメンドーサでの世界ソムリエ・コンクールに出場するかを決める公開審査があり、10枚の写真を見て何かを答える設問で最初に映ったのが、同年の5月に死去したジョセフさんの写真でした。この写真には、日本ソムリエ協会によるジョセフさんへの敬意と追悼の気持ちがダブルマグナム・ボトル分詰まっていると思いました(もちろん、佐藤さん、森さんとも正解)。

ジョセフさんは、シャンパーニュだけでなく、ブルゴーニュの老舗、ブシャール・ペール・エ・フィス、シャブリの名門、ウィリアム・フェーヴル、アメリカのオレゴン州にあるワイナリー、ボー・フレールなど、銘醸地の名門生産者を傘下に収めました。それぞれの極上の畑に巨額の資本を投じ、さらに品質を上げたのです。いずれの生産者もシャルドネとピノ・ノワールに特化し、スタイリッシュでエレガントなワインを造っています。

そんなアンリオをいろいろな視点で見ていきます。

アンリオの歴史

アンリオ

シャンパーニュ地方の裕福な織物商、ニコラ・シモン・アンリオが1794年にアポリーン・ゴディノと結婚しました。ニコラが死去し、未亡人となったアポリーンは、ブージー村にある父親の畑でブドウを作り、1808年に「ヴーヴ・アンリオ・エイネ(Veuve Henriot Ainé)」を立ち上げました。これが、ラベルにある「1808年創立」で、「シャンパーニュは女性が大活躍」の法則通りですね。日本では杉田玄白、伊能忠敬、葛飾北斎、滝沢馬琴が活躍していました。

アポリーンの孫、アーネスト・アンリオの妹、アメリはシャルル・カミーユ・エドシックと結婚しました。一種の政略結婚です。アメリは、兄のアーネストを説得し、夫と共同で「シャルル・エドシック」を設立します。1851年のことです。日本では、ペリーが黒船4隻を率いて来航し、井伊直弼や勝海舟が日本を動かした時代。少しずつ激動の明治維新に近づいています。それにしても、アンリオがシャルル・エドシックと繋がっているのは意外ですね。

アーネストはちょうど25年間、エドシックを支援したあと、1875年からアンリオに戻り、社名を「アンリオ・エ・シー(Henriot et Cie)」にしました。

大きな転機になったのが1880年です。日本では、西郷隆盛が西南戦争を起こし、鹿鳴館が完成した激動の時代。アーネストの甥のポールがアンリオを継ぎ、マリー・マルゲと結婚します。これも政略結婚で、マリーは「嫁入り道具」として、シュイイ村の畑を「持参」しました。もともと持っていたブージー村の畑のピノ・ノワールに、シュイイ村の上質のシャルドネが加わり、アンリオは「ライオンが翼を得た」状態になります。これを記念して、アンリオの「H」とマルゲの「M」を組み合わせたロゴマークになりました。

90%と60%と96%

アンリオ

老舗の名門メゾンの中で、アンリオが際立っているのが、「自社畑の割合」「シャルドネの比率」「畑の格付け」の3つが非常に高いことです。

山本博先生の名著、『シャンパン物語:その華麗なワインと造り手たち(柴田書店)』によりますと、アンリオは自社畑が115haあり、必要なブドウの90%を賄っているそうです。ここまで自社畑率が高いと、ネゴシアンというよりレコルタンですね。先代当主のジョセフ・アンリオは、自社畑が少なかったため苦労していたシャルル・エドシックを見て、こまめに畑を買い増したそうです。

基本的に、アンリオのシャンパーニュは・ノワールだけで造り、ピノ・ムニエは使いません。また、シャルドネの比率が60%と高いのも、アンリオがきりっとしてエレガントの秘密です。

シャンパーニュの格付けで、「エシェル (echelle de cru)」という風変わりなものがありました。1919年に始まり1999年に廃止された格付けで、100~80%の数字で表します。この数字は、標準ブドウ価格の何パーセントで自分のブドウを買い付けてくれるかを示します。村とブドウの色(白、黒)が同じなら、畑や生産者に関係なく一律同じ値で買い上げるという、ある意味、「勇気あるドンブリ勘定的な格付け」です。標準ブドウ価格が1kgあたり15ユーロとすると、90%格付けの村なら、13.5ユーロでブドウを買ってくれます。

なぜ、こんなヘンな格付けにしたのでしょうか?シャンパーニュの大手メゾンは自社畑率が低く、契約農家から大量にブドウを買い上げます。各契約農家のブドウを収穫し、作柄の良し悪しを見てから買い付け価格を個別に交渉するのは、とても面倒だし時間がかかります。ブドウが酸化します。そこで、ブドウの出来を見て「標準ブドウ価格」をざっくりと決め、それにパーセントを掛け算した価格で買い上げることにしました。

今ではこのエシェルは廃止されていますが、昔の名残として100%格付けを特級、99~90%を1級と呼び、今でも、ラベルでよく見かけます。

何でも格付けが大好きなフランスですが、特級や1級の格付けの方法が地方によって全く違うのが面白いですね。ボルドーは生産者を格付けするため、買い増した畑も同じ格付けになりますが、ブルゴーニュは畑を格付けするため格付け畑の面積は増えません、シャンパーニュでは買い付け価格で決めています。

シャンパーニュの特級は17あり、ワインエキスパートの筆記試験でも出題されます。アンリオは、自社畑の格付けの平均が96%と非常に高いのが特徴であり、自慢です。ここにも、アンリオがスタイリッシュである秘密があります。

シャンパーニュ地方を越えて

アンリオ

アンリオの基本が、「銘醸畑で高品質のブドウを育て、丁寧にワインを造る」です。この基本方針はシャンパーニュ地方だけではありません。ブルゴーニュやアメリカでも名門生産者を買収し、エレガントなワインを造っています。

この代表が、ブルゴーニュのブシャール・ペール・エ・フィス、シャブリのウィリアム・フェーヴル、オレゴン州のボー・フレールです。

ブシャール・ペール・エ・フィス

1731年、リネン商だったミシェル・ブシャール(1681年-1755年)が設立したブルゴーニュの老舗にして名門です。1970年代から苦難の時代を迎えましたが、1995年、ジョゼフ・アンリオが買収しました。以降、ブシャールの品質が急上昇しました。2005年には新しくサン=ヴァンサン醸造所を建て、最新の重力式醸造施設にしました。これは、ポンプでワインを移すのではなく、ブドウを収穫しワインを造り樽へ移す全ての工程でポンプを使わず、重力で自然に移動させる方式で、ワインにストレスがかかりません。10年前に同醸造所を訪問した際、同社の東アジア輸出担当のイケメン、西山雅巳さんに案内していただきました。

ブシャールは、シャンベルタン、コルトン、モンラッシェなど、特級畑を持っています(かつては、ロマネ・コンティの隣にあって最も狭い特級畑であるラ・ロマネも、所有者のリジェ・ベレールから委託を受けてワインを熟成・販売していました)。老舗、ブシャールの2大看板は、ボーヌ・グレーヴ・ヴィ―ニュ・ド・ランファン・ジェズとシュヴァリエ・モンラッシェ・ラ・カボットの2つでしょう。

ボーヌ・グレーヴ・ヴィ―ニュ・ド・ランファン・ジェズ

ランファン・ジェズは、「幼子イエス」の意味で、幼いイエスのように喉をスルリと滑り落ちる喉ごしの滑らかさからの命名で、ラベルにイエスが書いてあります。1級ながら、ブルゴーニュを代表する銘醸の赤ワインです。アンリオのシャンパーニュとセットにすると、絶好の出産祝いのプレゼントになりそうですね。

シュヴァリエ・モンラッシェ・ラ・カボット

世界最高峰の「白の三銃士」が、ル・モンラッシェ、シュヴァリエ・モンラッシェ、バタール・モンラッシェです。ブシャールは、シュヴァリエの総面積の1/3以上となる2.54haも持つ最大面積の所有者で、中でも、ラ・カボットという0.21haの区画は、ブシャールがル・モンラッシェに所有する区画に続く最上の立地です。アンリオの最高級、「キュヴェ・エメラ」と一緒にプレゼントすると、最高級のシャンパーニュと白ワインが揃うことになり、白ワイン好きには堪りませんね。

ウィリアム・フェーヴル

ウィリアム・フェーヴル

1850年、ウィリアム・フェーヴルが立ち上げたシャブリの名門ドメーヌです。所有する特級畑の総面積は15.2haで、シャブリで最大。中でも、同社の看板の特級として有名なのがレ・クロです。後継者がいなかったため、1998年にアンリオに売却しました。

アンリオの手が入ってから、それまでの新樽熟成を抑え、収穫は機械ではなく、特級、1級、および通常のシャブリも全て、面倒な手作業で実施しています。畑は有機農法へ転換しており、品質が急激に上がっています。

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ボー・フレール

ボー・フレール

「アメリカのコート・ド・ニュイ」と言われるオレゴン州の冷涼なウィラメット・ヴァレーにあるワイナリーです。

マイケル・エッツェルと、「ワイン界の帝王」ロバート・パーカーが1986年に立ち上げました(植樹は1988年で、初ヴィンテージは1991年)。「ボー・フレール」は、文字通りのフランス語では「よい兄弟」で、「義理の兄弟」を意味します。マイケルは、ロバート・パーカーの妻、パットの弟で、パーカーは「評価の公平性を保つため、ボー・フレールは評価の対象外」と宣言していますが、「パーカーのワイナリー」ということで高い人気を誇っています。

畑はビオディナミで、発酵も野生酵母を使っています。同ワイナリーを訪問した際、森林公園のような自然たっぷりの中に畑があり、これまでに見たブドウ畑とは全く違うと感じました。また、ビオディナミの象徴とも言える「牛の角に入れて土中に埋めたプレパレーション(肥料)」を見せてもらいました。その時、「本当に面倒な農法をやっているんだぁ」と感動したのを覚えています。その時に、看板の「リボン・リッジ」を試飲し、ボディーが大きいのにエレガントで、「おぉ、オレゴンで造ったブールだ」と思いました。

2017年、アンリオはボー・フレールを買収し、初のアメリカ進出となりました。

将来、義理の兄や弟になる男性に、アンリオとセットでプレゼントすると喜んでもらえそうですね。

アンリオのラインナップ

アンリオ

エレガントでスタイリッシュなアンリオ。上質なシャルドネが軸になっています。意外な製品があり、マニアには堪りません。主なラインナップを見ていきます。

ブリュット・スーヴェラン

アンリオの基本がこれ。名前は「至高」を意味します。ピノ・ノワール60%、シャルドネ40%は、アンリオらしいブレンド比率ですね。

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ブラン・ド・ブラン

アンリオの神髄はシャルドネにあります。このシャンパーニュはアンリオの隠し球的存在で、焼き立てのパンをむしるような香りがあります。ロゼとセットにして「赤白」でプレゼントすると、お相手は大喜びするでしょう。

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キュヴェ・デ・アンシャンテルール

ピノ・ノワール48%、シャルドネ52%をブレンドしています。アンシャンテルールは本来、「魔法使い」「魅力的な人」の意味ですが、シャンパーニュ地方では、「地下カーヴでワインの熟成を見守る職人」のことだそうです。

これは、アンリオの伝説的なプレスティージュ・キュヴェで、山本昭彦さん著の『死ぬまでに飲みたい30本のシャンパン』では、これが「一生に一度は飲みたい10本のシャンパーニュ」の中に入っています。初ヴィンテージは1975年、最終ヴィンテージが2000年。幻のシャンパーニュなので、見つけたら即ゲットしましょう。

キュヴェ・エメラ

アンシャンテルールの後継者として登場したプレステージュ物です。2005年が初ヴィンテージで、2018年にリリースされました。現在、マーケットに出ているのはこれだけです。ギリシャ神話に登場する昼の光の女神、エメラから命名しました。シャンパーニュ好きなら、アンシャンテルールと比較試飲したいところですね。

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