ドンペリが有名になった6つの理由

グラスに注いでいるところ

日本で、そして世界で圧倒的に有名なシャンパンは、もちろん、ドン・ペリニヨン。通称、ドンペリです。今回はなぜ、ドンペリがこれほど有名になったのかを解説します。

ワイン界の長老は、「ドンペリと言うな。ちゃんと、ドン・ペリニヨンと呼べ」とお怒りになったりしますが、略称で呼ばれるのは超人気製品の証拠。洋酒界で略称が定着しているのは、「ドンペリ」と「ジョニ黒(ジョニーウォーカー 黒ラベル)」ぐらいでしょう。ちなみに、ヨーロッパやアメリカでは、更に短く「ドン」と呼びます。シャンパン界の「首領(ドン)」という雰囲気が出てますね。

では、ドンペリが有名になった6つの理由を見ていきましょう。

理由その1:やはり品質が高く、バランスが良い

日本では、海外からの国賓を招いての宮中晩餐会では、最初の乾杯は必ずドンペリです。シャンパンの熱烈な愛好家は、クリュッグのクロ・デュ・メニルや、アンリ・ジローのアルゴンヌのように、樽熟成由来の熟成香があるシャンパンが大好きで、「ドンペリはバランスは良いけれど、個性がないなぁ」と思っています。

実は、「個性がない」は逆に見ると「万人受けする」ことであり、宮中晩餐会のように数百人が出席する会では、非常に重要です。100人全員が80点をつけるのがドンペリ。30人が100点、70人が50点をつけるのがクリュッグです。初めて会う得意先のお客様を高級レストランで接待する場合、私なら、クリュッグは避け、ドンペリにします。2回目以降の接待では、相手の好みが分かるので、クリュッグをオーダーするかもしれません。

いろいろなソムリエさんにお話を伺うと、「クリュッグの熟成香が苦手なんだよね。シャンパンは、やっぱり、ヴーヴ・クリコのNV(ノン・ビンテージ)みたいにフレッシュ・アンド・フルーティーでなきゃ。でも、単価が高いので、お客様にはクリュッグを薦めるけどね」と言っている人が体感では60~70%もいて、クリュッグ好きの私はびっくりします。

ドンペリは、高品質でバランスの良い味わい、すなわち「個性がないのが個性」で、万人受けして安心してオーダーできるのです。

理由その2:ナイト・マーケットで大ブレイク

グラスに注いでいるところ

ホストクラブや銀座の高級バーの定番はドンペリ。まず、ナイト・マーケットで超人気になったことが、一般の人気につながっています。

昔の高級クラブの定番が、レミー・マルタンのようなブランデーでした。お店の支配人は考えました。「ブランデーを1本飲み切るのに1ヶ月はかかる。これがシャンパンだったら、1時間で飲んでしまう。売り上げを増やすために、ウチのメインは高級シャンパンにしよう」。同じ炭酸系のビールは、高価格で販売できないけれど、シャンパンなら数十万で売れる。言うならば、シャンパンは「超高級なビール」ですね。かくして、「高級クラブ=ドンペリ=超高価」という図式が出来上がりました。

シャンパンは、泡が出てポンと音が鳴るお酒として、200年前のパリのキャバレーで人気のお酒でした。タキシードで正装した紳士が景気良くコルクを抜き、隣に座ったホステスさんは泡がかかって、「キャー、冷たいわ」と嬉しそうに困り、男性は、「いいではないか、いいではないか」と迫る……。これが当時の一般的な飲み方で、男女の恋愛の小道具として使いました。(当時のシャンパンは、極甘でした。)

理由その3:意外にお手頃価格

ドンペリを高級クラブでオーダーすると、30万円とか50万円もチャージされることから一般人は、「ドンペリは超高価」と思っています。しかし、ワイン・ショップやネット通販では16,000円前後買えます。なので「銀座の高級クラブの定番の高級シャンパーニュが、ちょっと無理をしたら買える価格なのかぁ!」とビックリし、ドンペリを持って行ったらみんな感動してくれるだろうと考え、「さあ、ドンペリでお祝いだ」と誕生日や贈答用の定番シャンパンになりました。

ナイト・マーケットだけでなく、一般の消費もこれほど多いシャンパンは、ドンペリだけでしょう。

理由その4:生産本数が多い

大きなマーケットを作るには、製品の数が多いことが重要です。例えば絵画の場合、寡作で有名なオランダの画家、ヨハネス・フェルメールは35点しか残っていません。ギネスブックにも載っている最多作画家はパブロ・ピカソで、147,800点も描きました。フェルメールは、稀少性が高いものの、数があまりにも少ないのでビジネスになりません。一方、ピカソぐらい作品が多いと、ピカソだけでマーケットができます。マーケットを制圧するには、流通する製品の数が多いことは必須ですね。

一般の人々は、「高級品=少量生産」と考えますが、ドンペリの場合は違います。ドンペリの生産本数は社外秘ですが、40万ケース前後(1ケースは12本)と噂されています。ロマネ・コンティが500ケース、シャトー・マルゴーが3万ケースであることを考えると、桁が違いますね。ワイン界の帝王、ロバート・パーカーが常に90点以上をつける超高級高品質シャンパーニュを40万ケースも作れるには、非常に高度な醸造技術、生産管理、品質管理が必要です。弱小生産者には真似ができません。しかし、「高級品は大量生産できない」とのイメージが一般人にはあるため、ドンペリの生産本数は絶対に公表しません。マーケティング上、その気持ちはよく分かります。

ドンペリをほしいと思ったら、近くのワイン・ショップへ行けば買えます。この利便性の良さは、「ドンペリの独り勝ち」に大きく貢献しました。

理由その5:プロモーションが上手い

ドンペリ

ドンペリを造っているモエ・エ・シャンドン社(以下、モエ)は、F1レースの公式スポンサーです。優勝者を祝うシャンパン・ファイトでは、超大型ボトルのコルクを抜いて、シャンパンをかけ合います。このシーンが世界中のテレビで配信され、モエの知名度が大きく上がりました。必然的に、モエの最高級シャンパーニュであるドンペリも、世界中で誰もが知っている銘柄になりました。さすがの宣伝戦略ですね。

シャンパンで圧倒的に生産本数が多いのが、モエの「アンペリアル」です。その昔、モエの社長とナポレオンが親友だったので、アンペリアル(皇帝)と名前を付けました。

ドンペリの「高級路線」が軌道に乗ると、次のステップは、そのイメージをさらに上げることでした。まず、モエの看板的な製品、アンペリアルには大量生産のオーラが出ていたので、高級路線を行くドンペリは「大量生産=一般的な品質」と思われたくない。アンペリアルと一線を画したい。そう考えたモエは、アンペリアルとドンペリを分離しました。今では、アンペリアルとドンペリは、「別会社が造った別製品」の雰囲気があります。

昔のドンペリのラベルの上部に大きく、「モエ・エ・シャンドン」と書いてありましたが、今のラベルにはありません。ワイン雑誌でドンペリを取り上げる時は、モエの「教育的指導」により、アンペリアルとドンペリは別の章立てにしなければなりません。アンペリアルとドンペリを同じフレームの写真に写すことも厳禁です。

ドンペリの高級路線は、上位の製品をリリースすることで更にパワーアップしました。ドンペリの上位製品には次のものがあります。

  • ドンペリ・ロゼ
  •  通称、ピンドン。価格は通常のドンペリの約2倍。
  • ・エノテーク
  •  「エノテーク」と言う名前のセラーで15年前後、熟成させた物。今はP2に代替わりし、造られていません。
  • P2
  •  現在のエノテーク。熟成の第2のピークを迎えたドンペリ。熟成期間は15年前後。価格は通常のドンペリの約3倍
  • ・P3
  •  熟成の第3のピークを迎えた稀少品。熟成期間は20年前後。価格は通常のドンペリの約20倍!
  • ・レゼルブ・ド・ラベイ
  •  20年以上熟成させた特別バージョン。ラベルが金色なので、「ドンペリ・ゴールド」と呼びます。価格は通常のドンペリの約5倍
  • ・アーティスト・シリーズ
  •  アンディ・ウォーホルやデビッド・リンチなど、現代美術画家にラベルのデザインを依頼したバージョン。

理由その6:映画、テレビ・ドラマ、歌にカッコよく登場

映画『007』のスタイリッシュな諜報部員、ジェームズ・ボンドは、第1作目の『ドクター・ノオ(1962年)』で、ドクター・ノオにディナーへ招待されます。テーブルのドンペリ1955年を見て、007は、「1953年の方が良い」とマニアックなことを言います。これが、元祖スノビズム(注1)だそうです。以降、第3作目『ゴールド・フィンガー(1964年)』から7作目の『ダイヤモンドは永遠に(1971年)』まで、ドンペリが正面から映っていて、「ジェームズ・ボンド御用達のシャンパン」のイメージが定着。欧米で「スタイリッシュな高級シャンパン」の地位を確立しました。

日本でもカッコよく登場します。1984年、1万円札が福沢諭吉、千円札が夏目漱石になった頃、ヒットしたのが浜田省吾の『Money』です。歌詞には、「純白のメルセデス プール付きのマンション 最高の女とベッドでドン・ペリニヨン」が出てきます。また、おニャン子クラブが大人気になった1986年、TBSのドラマ、『男女7人夏物語』でもドンペリがカッコよく登場しました。

このように、スタイリッシュな俳優がドンペリを飲んだことで、知名度と高級感が決定的になったのです。

(注1) 紳士・教養人を気どったきざな俗物的態度

まとめ

派手な場面に登場し、誰でも知っている高級品ということで、ドンペリはスノビッシュ的(注2)と考える人がいますが、バランスが良く非常に高品質です。値段も、品質を考えるとお買い得と言えます。

今度、ドンペリを飲む時は、ドンペリをここまで有名にした醸造技師、マーケティング担当、輸入代理店、ワイン・ショップの人々の苦労を思い出して、じっくり味わっていただければと思います。

(注2) 上品ぶった、教養・知識などを鼻にかけた

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