肉が食卓に並ぶ日は、いつもより少しだけ特別な気分。食欲をそそる香りに包まれるそのひとときに、ワインを添えるだけで、時間はゆるやかに広がり、より豊かに感じられます。
「肉には赤ワイン」というイメージがあるかもしれませんが、実際の相性は、肉の種類はもちろん、焼き方や脂の質、味付けによって大きく変わります。視点を少し変えるだけで、組み合わせの幅は無限大。
本特集では、料理研究家・上田淳子さん監修のもと、肉とワインの相性を〝焼く〟というシンプルな調理法から紐解きます。火入れひとつで引き出される肉の奥行きと、それに寄り添うワイン。シンプルな掛け合わせだからこそ広がる、豊かな味わいの楽しみ方をご紹介します。
肉があるから、ワインを開ける。そんな楽しみ方を、もっと自由に。
牛肉
国産か外国産かでワインとの相性も変わる
牛肉は部位や育て方によって味わいや食感が大きく変わる食材です。ヒレやモモのような赤身から、サーロインやリブロースのような脂の豊かな部位まで、それぞれに個性があります。焼く際は表面をしっかり焼くことで香ばしさが引き立ち、赤身は火を通しすぎないことで繊細な旨味が際立ちます。
さらに産地によっても特徴は異なり、穀物で育てられた日本産はやわらかくナッティーでほどよいサシが特徴。コクやタンニンのある赤ワインがよく寄り添います。一方、牧草で育つ外国産は赤身の旨味とほのかな草のニュアンスが特徴で、酸のある軽やかな赤ワインや白ワインとも好相性です。
牛肉×ワインを楽しむワンポイント
迷ったら醤油を数滴
ワインと肉が「少し合わない」と感じたとき、ほんの少し醤油をかけることで味わいのブリッジに。旨味が加わることで、バランスが整います。
白ワインには玉ねぎソテー
牛肉と白ワインを合わせたいときは、じっくりソテーした玉ねぎを添えて。玉ねぎの甘みがワインの酸と牛肉のコクをやさしくつなぎ、意外なほどよく合います。また厚みのある味わいの白ワインを選ぶことで、よりマッチします。
豚肉
「脂と旨味のバランス」にワインを寄り添わせて
豚肉は牛肉と同様、部位や育て方によって味わいや食感が大きく変わる食材です。ヒレやロースのようなやわらかな部位から、肩ロースやバラのように脂とコクを楽しめる部位まで個性はさまざま。火入れを控えめにすれば繊細な甘みが際立ち、香ばしく焼けば豊かな旨味が広がります。
脂と旨味、焼き加減のニュアンスに合わせてワインを選ぶことで、より奥行きのあるペアリングが楽しめます。
豚肉×ワインを楽しむワンポイント
加えるひと工夫で、赤ワインともマッチ
プルーンを合わせれば、凝縮した甘みとコクが豚肉の旨味を引き立て、赤ワインとも好相性。また、バルサミコ酢を合わせれば、やわらかな酸味と深みが味わいに奥行きをもたらし、赤ワインとも自然に調和します。
鶏肉
調理法次第であらゆるワインとペアリング
鶏肉は、部位によって食感や旨味、脂の有無が大きく異なる食材です。ササミやムネ肉の繊細で淡い味わいから、モモ肉のコク深さまで部位ごとに異なる表情を見せます。
調理法で印象も変化し、しっとり仕上げればやさしい旨味が際立ち、香ばしく焼けば豊かな風味が広がります。幅広い味わいは、さまざまなワインと合わせて楽しめます。
鶏肉×ワインを楽しむワンポイント
薬味と調味料でワインが変わる
大葉や柚子胡椒、ポン酢などをひと添えするだけで、肉の味わいは軽やかに変化。薬味や調味料がワインとの距離をぐっと縮め、組み合わせの表情を引き出してくれます。
羊肉
個性的な味わいには香りのあるワインを
羊肉は、部位によって脂のコクや旨味の出方が異なる食材です。ラムチョップはやわらかく、肩はコク深く、モモはあっさりとした赤身の味わいが特徴。
特有の香りは脂に由来し、火入れや下処理でやわらげることができます。しっとりジューシーに焼き上げることで、香り豊かなワインとマッチ。豊かな味わいを楽しめます。
羊肉×ワインを楽しむワンポイント
ハーブが羊とワインをつなぐ
タイムやローズマリーなどを添えると、ハーブやスパイスのニュアンスを持つワインとの香りの方向性がそろい、ぐっとまとまります。ドライトマトやニンニクも相性◎。
解説:シンプルに焼いたお肉とワインだけで、このうえなく幸せな食卓
料理家・上田淳子さん
「J.U.Labo」主宰。辻学園調理技術専門学校卒業後に研究職員を経て渡欧し、スイスやフランスの名店で約3年修業。ワインアドバイザー資格も持つ。
肉とワインの組み合わせに、絶対の正解はありません。大切なのは「味のバランスを見ること」。脂の多い肉にはタンニンのあるワインを、あっさりとした肉には酸味のあるワインを合わせることで、心地良い調和が生まれます。もし少し合わないと感じたら、調理法を変えたり、炒めた玉ねぎや醤油を少量加えてみてください。それだけで味わいは驚くほど整います。
肉はそれだけでも十分おいしい食材ですが、ワインと合わせることで魅力はさらに豊かに広がります。知識にとらわれすぎず試しながら、自分だけの「おいしい」組み合わせを見つけてみてください。「合わせる」のではなく、「寄り添わせる」。その感覚があれば、肉とワインの楽しみ方はもっと自由に広がります。
ぜひ、肉とワインの組み合わせを気軽に楽しんでみてください。
牛肉の焼き方別ペアリング
お肉を焼くことで生まれるおいしさの大きな要素が、「メイラード反応」です。肉の表面が熱によって香ばしく焼けることで、旨味やコク、複雑な香りが引き出されます。この香ばしさは、ワインとの相性を考えるうえでも重要なポイントになります。
レストラン発プロのペアリング
ローストビーフの店 鎌倉山 本店・菅野明広シェフ
ローストビーフの店 鎌倉山 1971年創業以来、厳選した黒毛和牛のローストビーフを軸に、特別なひとときを提案し続けてきた名門レストラン。テーブルサイドでカットされるローストビーフは、香りや音までも含めて一皿の体験として提供されます。緑豊かな自然に囲まれた落ち着いた空間と、心を尽くしたおもてなしにより、記念日や会食など特別なシーンに選ばれ続けている一軒です。https://roastbeef.jp/
ローストビーフの店鎌倉山では、「素材ありき」という考え方を何より大切にしています。黒毛和牛の持ち味を活かすため、焼く際に用いる調味料は塩と胡椒のみ。あえて手を加えすぎず、シンプルにミディアムレアで仕上げます。サーブ後にお客様の目の前でおかけするソースも、コンソメベースのグレービーソースやガーリック醤油など、肉の旨味に寄り添うかたちでご用意しています。
そしてワインは、「お客様がお肉をどう楽しみたいか」からご提案しています。お好みや普段親しまれているワイン、その日の気分を伺いながら、その方にとって最適な一杯を一緒に探していく。そんな向き合い方を大切にしています。
赤ワインはピノ・ノワールなどの軽やかなタイプがおすすめです。グレービーソースとの相性も良く、お肉の旨味を引き立てます。白ワインならシャルドネが特にサーロインと好相性で、きめ細かな肉質と脂の旨味を爽やかにまとめてくれます。意外に思われるかもしれませんが、白ワインやスパークリングワインでコースを通して楽しまれる方も多くいらっしゃいます。
牛肉は、同じ産地・格付け・部位でも個体によって味わいや火入れが異なります。軽くスモークしたお肉には樽の効いたワインを、繊細な味わいの肉鮨には軽やかなタイプを。焼き方や料理との相性を考慮しながら、その瞬間に最もおいしいと感じられる組み合わせをご提案しています。
好きなお肉を、好きな焼き加減で、好きなワインと楽しむ。そのひとときこそが何よりのペアリングだと思います。
自宅でローストビーフを焼く時のコツ
「火入れと余熱」が美味しさの決め手
【作り方】
1.表面に軽く焼き目をつけたあと、水を張ったフライパンに網を置き、蓋をして蒸し焼きに。レアの状態で一度火を止める。
2.アルミホイルや清潔な布などで肉を包み、余熱でゆっくり火を通していく。
3.切ってみて火の入り方が足りない場合は、同じ工程で再度火を通して調整する。
本記事では、300〜500g程度の牛かたまり肉を想定しています。部位や厚みによって加熱時間は異なりますが、表面を焼いたあと余熱でゆっくり火を入れることで、しっとりと仕上げることができます。
『エノテカタイムス』は全国のワインショップ・エノテカおよびエノテカ・オンラインにて配布中です。ぜひお手に取ってご覧ください。 ※一部対象外の店舗がございます。 ※数に限りがございます。期間中でも配布が終了している場合がございます、予めご了承ください。