グラスを傾けながら「こんな話があるんだけど…」と、つい誰かに話したくなる。そんなワインのささやかなお話をお届けするコラム、ワインのネタ帖。
ワインを愛してやまない語り手・葉山考太郎さんが、ワインにまつわる逸話や裏話などをくすっと笑えるユーモアとともに紐解きながら、「頭で味わうワイン」の楽しさをご紹介します。
読めばきっと、これからワインを飲むひとときがほんのちょっぴり豊かになるはず。今日の一杯を、物語ごと味わってみませんか。
葉山考太郎さん
シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。 ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。 2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。 主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など
フランス人は格付けが大好き。同じものが二つあれば、順序を付けたがる。
例えば、ミシュランは3つの星で順序を決め、ホテルは星5つと最上位の「パラス」、オペラ座のバレリーナも最下位の「カドリーユ」から最上位の「エトワール」の5段階。
格付けの極めつけが、ワインの「メドックの格付け」。地球の反対側の日本で、ワインの資格の受験勉強で、最初にこの61の格付けシャトーを覚える。
1855年制定のこの格付けは、実はいい加減に決まった。1851年の第1回万国博覧会@ロンドンで、ガラス張りの「水晶宮」が大評判になり、イギリスに異常な対抗意識があるフランスは、パリで開く第2回万博では英国にないワインで世界にアピールすることに。
当時から、ワインは有名だったが、「どれが上物か分からん」とクレームを受け、ナポレオン三世は、分かりやすい指標を作れとボルドー商工会議所に指示。同商工会議所は面倒がって、ワインの仲買人組合に「5つの級に格付けせよ」と丸投げ。
仲買人は格付けを気楽に考えたいし、「忙しい最中に、面倒なことを言ってきたなぁ」と思った。で、仲買人のエドワード・ロートンは、数千シャトーのワインを試飲する時間はないし、適当だと文句を言われるので、1樽の価格だけを目安に2週間足らずで決める。
当初は、「観光客用のワインガイド」だった格付けが、いつの間にか唯一絶対の格付けになる。変更は、たった1回、2級格付けのムートンが1973年に1級へ昇格した時だけ。これには生臭い話がある。
欧州の金融界を支配するロスチャイルド家の5人の息子が、フランクフルト、ウィーン、ロンドン、パリ、ナポリへ進出。ロンドンのロスチャイルドが1853年にムートンを購入し、2年後の1855年に「メドックの格付け」が決まる。最高峰のラフィットを1868年、大金を注ぎ、無理やり購入したのがパリのロスチャイルド家。
同じロスチャイルド家なのに、ラフィットは1級、ムートンは2級。20歳の誕生日にムートンの当主となったフィリップ男爵は悔しくてたまらない。そこで20年に渡り、品質向上、プラス、政治力と大金を注ぎ昇級を画策。
ラフィットから嫌がらせを受けたが、1973年に1級となる。この時、昇格承認書に署名した農務大臣がジャック・シラク。以降、シラクは首相となり、1995年には大統領へ。ムートン昇格のお礼としてロスチャイルド家が後押しし、シラクがトントン拍子で大統領に「昇格」したとの噂。
格付けは一般人に伺い知れない魔界らしい。