グラスを傾けながら「こんな話があるんだけど…」と、つい誰かに話したくなる。そんなワインのささやかなお話をお届けするコラム、ワインのネタ帖。
ワインを愛してやまない語り手・葉山考太郎さんが、ワインにまつわる逸話や裏話などをくすっと笑えるユーモアとともに紐解きながら、「頭で味わうワイン」の楽しさをご紹介します。
読めばきっと、これからワインを飲むひとときがほんのちょっぴり豊かになるはず。今日の一杯を、物語ごと味わってみませんか。
葉山考太郎さん
シャンパーニュとブルゴーニュを愛するワイン・ライター。 ワイン専門誌「ヴィノテーク」、「神の雫(モーニング)」等にコラムを執筆。 2010年にシャンパーニュ騎士団オフィシエを受章。 主な著書は「クイズでワイン通」「今夜使えるワインの小ネタ(以上講談社)」、「30分で一生使えるワイン術(ポプラ社)」など
バイクのナナハンの排気量は750cc。金製品で最も一般的な18金は75%が金なので、750と表記することも。ワインのボトルも750ml。何やら関係がありそうです。今回は、ボトルの容量の謎を探ります。
ワインの発祥はジョージアで、紀元前6,000年ごろ。ガラス製ボトルが一般化したのは、7,000年以上経った18世紀です。日本では、“暴れん坊将軍”徳川吉宗の時代。杉田玄白がオランダの医学書『ターヘル・アナトミア』を翻訳して、『解体新書』を出しました。
ガラスのボトルとコルクの栓の登場で、ワインは時間もボトルに閉じ込めることができました。ワインは「熟成」という異次元の超能力を手に入れたのです。
それまでワインは、樽から直接陶器に入れて飲まれており、新酒も年を越すと酢になったので、ハーブや薬草で酸化臭をごまかしました。オリーブオイルを1滴垂らして膜を作って酸素を遮断する知恵もあります。農産物なら、常温で半年は保存できるカボチャやタマネギのようなものですね。
ワインボトルが500mlではなく、ちょうど1,000mlでもなく、なぜ、わざわざ750mlなのか?有力な説が5つあります。
その1:ガラス吹き職人の肺活量
大人の肺活量は4,000ml前後ですが、ボトル職人が一回の呼気で制御しながら同じ形に膨らませる限界が、700mlから800mlだから
その2:持ち運びに便利
ワインも含むフルボトルの重さが1kgから1.5kgで、買い物や持ち運びに適したサイズだから
その3:大人の1回分の飲酒適量
当時のワインは、醸造技術が未発達だったので、アルコール度数が10〜11%と低めでした。1人で飲むのに750mlを適量と考えたから
その4:樽とボトルの関係
ボルドーでワインの運搬に使った標準的な樽(バリック)は225リットルで、 750mlのボトルに詰めると、ちょうど300本だから。生産者と販売者の間で計算が劇的に簡単に。
その5:イギリスの1ガロン=750ml6本分
ボルドーワインの大消費国、イギリスの「1ガロン」は4.546リットルで、750mlのボトル6本分だから。現在でも、ワイン1ケースは、750mlボトルなら12本、1,500mlのマグナムなら6本で、合計9リットルなのは、「1ケース=2ガロン」という当時の輸送・課税単位の名残です。
ナナハンの750cc、18金の750、ワインの750ml。分野は違えど“750”が共通しているのは、1,000では大きすぎる・重すぎる・制御できない・500では物足りない。ちょうどいいのが750という結果です。ちなみに、バスケットボールの公式球の容積は7,500mlで、ぴったりワイン10本分。
空ボトルを捨てる時、「重いなぁ」と思いますね。この重さは、「300年に渡る人類の歴史」の重さです。