かつて、養蜂家とブドウ栽培家は決して良い関係とは言えませんでした。
1970年代には、ブドウ畑で使われる殺虫剤が蜂を死なせてしまうと養蜂家たちが訴え、巣箱は畑から遠ざけられ、両者の間には長く見えない壁がありました。
その時代を知る一人、クラウディオ・カウダ氏もまた、蜂と共に生きてきました。10歳のころに父を亡くし、父の形見ともいえる13の巣箱の世話を、学校の帰りに小さな手で続けてきたといいます。蜂蜜の収穫、季節ごとに変わる巣箱の匂い、羽音のリズム…蜂との暮らしは彼の人生そのものでした。
それから数十年が経ち、2014年。クラウディオ氏のもとに、友人から一本の電話が届きます。
「ワイン生産者が、ブドウ畑に巣箱を置きたいと言っている。」
蜂を追い出してきたブドウ畑に、今度は蜂を受け入れたいと言う。思いがけない知らせに、クラウディオ氏はすぐには信じられませんでした。過去を知る者にとって、それは驚きであり、少しの戸惑いもあったのです。
養蜂家とガヤ家の出会い
半信半疑のままではありましたが、クラウディオ氏はその目で確かめるため、ワイン生産者であるガヤ家のブドウ畑へと足を運びました。彼がそこで目にしたのは、畑の土壌を丁寧に世話し、ブドウの根の健康を守り、畝間にハーブや花を植えるなど、持続可能な環境づくりに真摯に取り組むガヤ家の人々の姿でした。
「これなら私の蜂も安心だ」
そう確信したクラウディオ氏は、『コスタ・ルッシ』の畑にまず12の巣箱を置きました。森の近くで日当たりがよく、ほどよく湿った冷涼な土壌。そこは蜂にとってもまさに理想郷のような場所だったのです。
ガヤ家の子どもたちと蜂蜜の記憶
アンジェロ・ガヤ氏の子どもたち、ガヤ氏、ロッサーナ氏、ジョヴァンニ氏にとって、蜂蜜は幼少期の思い出そのものでした。祖母はいつも、バターと蜂蜜を塗ったパンをおやつに用意してくれ、その甘い記憶は彼らの心に深く刻まれています。
こうした思い出が、畑での養蜂プロジェクトへの熱意につながっています。彼らは、この取り組みを自分たちの持続可能性への考え方の象徴として大切にしているのです。
蜂は“環境の番人”とも呼ばれます。その数や活発さによって畑の健康状態が一目でわかります。化学物質のない環境で蜂が元気に暮らせることは、自然のバランスが保たれている証です。さらに蜂は花から花へと飛び回ることで受粉を助け、畑の植物の多様性を維持し、害となる植物の繁殖を抑えてくれます。
持続可能な畑づくりと蜂の共生
ガヤ家では、ブドウ畑を蜂にとってさらに魅力的で居心地の良い場所にする取り組みを続けています。秋に蒔く種は蜂が好む花を考慮して慎重にブレンドされ、春から順番に長く花を咲かせ、香りが強く蜜が豊富で色鮮やかな植物が一年を通して畑を彩るよう計画されています。
さらに畑の縁には緑の帯を設け、垣根や灌木、夏に花を咲かせる樹木を植えることで、蜂が一年中活動できる環境を整えています。暖かな時期は花の香りが風に乗り、蝶や蜂、鳥たちの羽音が畑に響き渡る——そんな光景が広がっています。
このプロジェクトはトスカーナでも行われていて、ピエーヴェにある『ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ』の畑でも、「カ・マルカンダ」の畑でも、地元養蜂家との協力を始めています。
そして現在ではガヤ家が所有する7つのブドウ畑の静かな一角に、もう一人の養蜂家サヴィオ氏の分も合わせて合計80の巣箱が並んでいます。すべて川から1キロ以内の場所に設置され、夏には巣箱の近くに水を張ったたらいを置き、蜂にストレスを与えないよう、畑仕事は夜明けに行われています。
蜂の増加と収穫の喜び
細やかな配慮により、蜂は順調に増え、夏には1つの巣箱に約6万匹が生息。年間2〜3回の蜂蜜収穫が可能となり、春には様々な花から採れる「ミッレフィオーリ」、5月にはアカシア、6月末には夏の蜂蜜が収穫されます。
こうした環境づくりと管理の結果、畑の生物は飛躍的に増え、蝶や蜂、鳥たちが生態系を活性化させ、病害も自然と減少。ブドウの樹はより強く育ち、健全な実を実らせるようになりました。
2016年から2018年にかけてピサ大学と共同で行った膜翅類や昆虫の調査では、バルバレスコ村の畑が通常の畑の約4倍の生物多様性を誇ることが明らかになり、100年以上見られなかった蜂や新種の蜂も発見されています。
ガヤ家の畑は、単なるブドウ畑ではなく、命が共鳴する豊かな生態系となりました。蜂が飛び交い、花が咲き乱れ、鳥や蝶が集うこの場所は、ワインの舞台であると同時に、自然の調和の象徴なのです。