健康なブドウ畑は、静かな生命の鼓動に満ちています。「カ・マルカンダ」の畑にも、蜘蛛やミミズ、スズメバチ、他にも数えきれないほどの昆虫たちが息づいています。
その中でも、とりわけ象徴的な存在が――蝶。蝶は、繊細で、健やかな環境でしか生きられません。だからこそ、その姿が見られるのは畑が自然と調和している証です。
そして何より、さなぎから最も優美で感動的な姿へと変化を遂げるその生き方は、長い時間をかけて美しさを花開かせた「カ・マルカンダ」の歩みと重なります。
物語のはじまり ― 果てしない交渉から
「カ・マルカンダ」の物語は1996年に遡ります。アンジェロ・ガヤ氏はトスカーナ、ボルゲリの中心にある40ヘクタールの農園に心を奪われました。光、風、そして海の香り。アンジェロ氏は、この地が素晴らしいテロワールだと確信し、ここでワイン造りに挑戦したいと考えたのです。
しかし、この地を前オーナーから譲ってもらうのは簡単ではありませんでした。何度も何度も足を運び、18回に及ぶ交渉を経て、やっとの想いで土地を譲ってもらえたといいます。
その粘り強い交渉の記憶を刻むように、ワイナリーはピエモンテ方言で「果てしない交渉の家」を意味する「カ・マルカンダ」と名づけられました。
翌年、最初のブドウの樹が植えられ、1998年には建築家ジョヴァンニ・ボ氏による新しいワイナリーが建設されます。建物の大部分は地下に埋められ、周囲の風景と調和する静かな佇まい。それはまるで、羽化の時を静かに待つ蝶のさなぎのようです。
そして2000年――
ファースト・ヴィンテージ『プロミス』『マガーリ』『カマルカンダ』が誕生します。なかでも『カマルカンダ』は、他のボルゲリのワインとは一線を画す存在でした。ミディアムボディでデリケート、フレッシュでありながら奥深く、ガヤの哲学である厳格さが息づく、唯一無二の味わいのワインが生まれたのです。
記念すべきバタフライ・デー
そして2020年、ファースト・ヴィンテージから20周年を迎えた節目の日。「カ・マルカンダ」はその記念として「蝶の日(バターフライ・デー)」を開催しました。
500羽の蝶が大地から舞い上がり、ボルゲリの空を彩ります。ヨーロッパ中から集まったインポーターやソムリエ、ジャーナリストが、ワインをテイスティングしながら、この日を祝いました。
これからも蝶のように静かに羽ばたき、世界へと広がっていくーーそれが「カ・マルカンダ」の姿です。アンジェロ・ガヤが見つめた光と風、そして自然の力を信じる精神は、今も変わることなく息づいています。
「カ・マルカンダ」の物語は、蝶のように――粘り強く、静かに、そして確かに、美しく変化を続けていくのです。