リンゴ果汁100%で造られる醸造酒、シードル。
リンゴの爽やかな香りと味わいで、フランス・イギリスなどヨーロッパをはじめ、世界中で楽しまれています。また近年では北海道、青森県や長野県などリンゴの産地を中心に各地で造られ、日本においても市場規模が拡大しています。
そこで今回は、シードルに関する基礎知識とおすすめのシードル、そして楽しみ方までをご紹介します。
シードルとは
シードルとは、リンゴを原料に作られたお酒です。“果実を醗酵させてできた酒”を意味するラテン語「シセラ(Cicera)」が語源で、その名の通り、リンゴ果汁を発酵して造られます。
一口にシードルと言っても、味わいは辛口から甘口まで、さらに発泡性、非発泡性のものもありバリエーション豊か。アルコール度数はやや低めのものが多く、その飲みやすさとフルーティーな味わいから、世界各地で親しまれています。
日本では、1954年頃に「朝日シードル株式会社」が設立され、その2年後にアサヒシードルが誕生したのが始まりとされています。その後、リンゴ加工に造詣が深いニッカウヰスキーの竹鶴政孝氏にシードル事業は引き継がれ、青森県弘前市内にニッカウヰスキー弘前工場が完成し、シードル造りがさらに盛んになりました。
平成に入ってからは醸造所の数が大幅に増加し、特にここ5年の間にその数が急増。改めて関心を集めているお酒なのです。
種類と製法
シードルと一言に言っても、使用されるリンゴの種類や作り方によって味わいは異なります。一体どのように造られているのか、詳しく見ていきましょう。
リンゴの種類
まずは原料となるリンゴについてです。明確な基準はありませんが、リンゴはシードルの原料となるものと、生食用のものに分けることができます。
ヨーロッパでは、大量生産に適したシードル用リンゴが主体となって生産されています。シードル用リンゴは1個の重さが100g前後と小さく、酸味が強いことが特徴。これらは酸度、タンニン量により以下の4タイプに分類されています。
シードル用リンゴのタイプ
Sweet(スイート)、Sharp(シャープ)、Bitter Sweet(ビタースイート)、Bitter Sharp(ビターシャープ)
リンゴの酸度が4.5g/l、タンニンが2%を境に両方共に少ないリンゴをスイートとし、良質なシードルをつくるスイートコッピンなどがこれに該当します。
一方、 酸が多く、タンニンの少ないものをシャープといい、フルーティーなブラウンズアップルなどが挙げられます。
また、酸が少なくタンニンの多いものをビタースイート。酸、タンニン共に多く含まれるのをビターシャープと分類しています。
このようにヨーロッパではシードル用リンゴでシードルが造られている一方で、日本では生食用のリンゴを使用してシードルを造る生産者が大半を占めています。
生食用リンゴは香りが高く、酸の少ないものが多いのが特徴です。「ふじ」が 日本で一番栽培されている品種で、この品種で造ったシードルは軽いタイプに仕上がります。他にもスターキング デリシャスや紅玉、つがるなど、比較的馴染みのある品種からシードルが生産されています。
参考:田辺 正行「シードルの製造方法」『日本醸造協会誌』1990年85巻5号309-315ページ
シードルの製法
造り方は、ブドウで造るワインと非常に似ています。
原料となるリンゴは9月から11月にかけて収穫されます。シードルに熟したリンゴを使用する場合は、リンゴが樹から落下するのを待って収穫することもあります。
そして果実の洗浄、選果が行われます。その後、細かく砕かれ、果汁のみが絞り出されます。搾汁には、液圧プレスやスクリュープレスなど様々な方法があり、生産工場の規模やスペースなどによって選択されています。
絞り出された果汁はタンクに移され、酵母を入れ発酵。このとき、リンゴの糖分をどの程度残すかによって、仕上がるシードルの辛口度が決まります。数週間かけて発酵されたリンゴ果汁は、濾過した後瓶詰めされ、消費者のもとへ届くのです。
代表的な産地
世界各地で親しまれているシードルですが、とりわけ有名なのがフランス北部のノルマンディー地方とブルターニュ地方です。
特にノルマンディー地方には、リンゴ農園が軒を連ねるシードル街道も存在するなど、古くからシードル造りが盛んでした。シードルを蒸留して造るブランデーの一種、カルヴァドスが造られていることでも有名です。
イギリスでは、サイダーと呼ばれる発泡性のシードルが広く親しまれており、パブなどでシードルを楽しむ人々の姿が散見されます。味わいは甘口から辛口まで様々。大きなグラスになみなみと注がれていることが多く、ビールのような感覚で楽しまれています。
また、アメリカでは一度は低迷したシードルが近年改めて注目を集めており、クラフトビールならぬクラフトサイダーを造る醸造所が増えています。特に発泡性のものはクラフト・ハード・サイダーと呼ばれ、今注目を集めています。
日本では、先述した通り60年以上シードルが造られており、特に青森や長野など、リンゴの名産地での生産が盛んです。
その背景には、2008年に東北を襲った雹害により生食 向けとして出荷できないリンゴが大量に発生してしまい、これを有効活用する必要性が高まったことや、新たなワイナリーの設立、ワイナリーの施設を活用してシードルの生産を行う生産者の存在、そして、シードルの認知の高まりなどが挙げられます。
味わいは生食用リンゴから造られる瑞々しく、市場での広がりを見せています。
おすすめのシードル
おすすめのシードルをご紹介します。
辛口:アン・シードル・ドライ(日本産)
シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造られるシードル。信州小諸にある契約農家の紅玉、しなのスウィート、しなのゴールド、ふじ等、3種類以上のリンゴをブレンドして使用。爽やかな酸味と発泡が特徴で、リンゴの爽やかな風味と、様々な料理と合わせやすいフードフレンドリーさが魅力の1本です。
中辛口:シードル・ヴァル・ド・ランス オーガニック(フランス産)
濃縮還元果汁や砂糖を一切加えず、その年に収穫されたリンゴの天然果汁のみを使用するという伝統的製法で生み出されるシードル。こちらは、フランス政府の厳しい基準を満たした有機農法によって栽培されたリンゴ100%で仕立てられています。40種以上のリンゴがブレンドされており、深い味わいと安定した品質が特徴です。
甘口:タムラ・シードル(日本産)
タムラファームがリンゴのブレンドから酵母の選定まで、試行錯誤の上作り出した念願のシードルです。サンふじ、王林、ジョナゴールドをブレンドしており、サンふじのすっきりした極上な甘さ、王林の上品な芳香、そしてジョナゴールドのほど良い酸味が一体となって贅沢な味わいを生み出しています。日本人の繊細なティストに合う、まさに「和」のシードルです。
飲み方
シードルは、好みによりますが、基本的には冷やして飲むと良いでしょう、10度以下がちょうどよく、特に発泡性のものは、よく冷やした方がおいしいです。また、ワイングラスやシャンパングラスを使って飲むと、より香りや風味を楽しむことができます。
ここでは、さらにシードルを楽しむために、合わせて食べたいチーズやスイーツ、アレンジ方法をご紹介します。
チーズと合わせて
爽やかな飲み口で、様々な料理に合わせやすいシードルですが、チーズとも相性抜群なんです。
特にオススメなのが、白カビチーズのカマンベールです。カマンベールは、シードルの生産が盛んなノルマンディー地方のカマンベール村で製法が確立されたもの。香りが穏やかで、口当たりはクリーミー。クセのないやさしい味わいで、シードルの爽やかな味わいにピッタリです。
カマンベール以外にも、甘口のシードルであればブルーチーズと合わせるのがおすすめです。チーズの塩味がシードルの甘みを引き立て、止まらなくなる組み合わせです。
スイーツと合わせて
続いておすすめしたいのが、スイーツとのペアリングです。
シードルと合わせて楽しみたいのは、同じリンゴを使ったアップルパイ。特に発泡性のシードルを合わせるのがおすすめで、バターたっぷりの生地とリンゴの甘みを、爽やかな酸味とシュワシュワとした泡が引き立ててくれます。
また、甘口のシードルは、バニラアイスにかけて一緒に食べると贅沢な大人のデザートになります。
アレンジして
シードルをもっと楽しみたい!そんな方は、シードルをアレンジしてみてはいかがでしょうか。
暖かい季節なら、氷とリンゴのスライスを入れてフルーツカクテル風に。寒い季節には、シードルとシナモンを小鍋で温めて、ホットワイン風に楽しむことができますよ。
まとめ
世界中で親しまれている、シードル。シーンや食事、その日の気分に合わせてピッタリの1本を探すと、シードルの魅力をより堪能することができますよ。
肩肘張らずに楽しめるお酒なので、ぜひ気軽に手に取って、お気に入りの1本と楽しみ方を見つけてみてくださいね。
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