ワインのラベルで見かける「酸化防止剤(亜硫酸塩)」という表示。「体に悪いのでは?」「頭痛の原因になるって本当?」「できるだけ入っていないワインを選んだほうがいいの?」と疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。
確かに「亜硫酸塩」という言葉から、人体への影響を心配する方もいるかもしれません。しかし、酸化防止剤(亜硫酸塩)はワインの品質を保つために重要な役割を果たしています。
本記事では、そんな酸化防止剤(亜硫酸塩)とは何か、ワインに使用される理由や体への影響などを、ソムリエ監修のもとわかりやすく解説します。
解説してくれるのは、紫貴あきさん
ワイン講師 日本最大級ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の人気講師。初心者から上級者まで唸らせる質の高いレッスンが評判で、その指導実績は3500人超。その他、企業研修、メディアへの執筆・監修・取材協力、出演など幅広く活動している。 著書『キャラクターでわかるワイン図鑑』(かんき出版)を2024年12月4日に出版。
目次
酸化防止剤(亜硫酸塩)とは?
ワインのラベルで見かける「酸化防止剤(亜硫酸塩)」。この正体を紫貴さんに教えてもらいました。
Q:酸化防止剤(亜硫酸塩)の正体は?
酸化防止剤(亜硫酸塩)は主に二酸化硫黄(SO₂)という成分を指します。ワインを造る工程で自然に生まれる場合もありますが、多くは製造過程で少量添加されます。 「酸化防止剤」や「亜硫酸塩」と聞くと、体に悪いイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、実際はレーズン、かんぴょう、果汁100%ジュースなど多くの食品に使われている一般的な添加物のひとつなのです。使用量は国や地域ごとに上限が定められており、規定内であれば安全に使うことができます。 過度に心配せず、まずは「ワインの品質を保つためのもの」と捉えておくとよいでしょう。
ワインに酸化防止剤が使われる3つの理由
酸化防止剤(亜硫酸塩)は、ワインの品質を保つために重要な役割を果たしています。ワインに使用される主な理由は、以下の3つです。
- 酸化を防ぐ
- 雑菌の繁殖を抑える
- 香りや味わいを安定させる
1.酸化を防ぐ
ワインは空気に触れると少しずつ酸化が進みます。適度な酸化は熟成につながる一方で、過度に酸化すると果実の香りが失われたり、色味が褐色へ変化したりする原因になります。
酸化防止剤(亜硫酸塩)は、酸化を抑えることでワイン本来のフレッシュな香りや色合いを保ち、品質の劣化を防ぐ役割を担っています。
2. 雑菌の繁殖を抑える
ワインの醸造では、酵母の働きによってアルコール発酵が行われます。しかし、その過程で望ましくない酵母や細菌が増殖すると、異臭や異常発酵など品質の低下につながることがあります。
酸化防止剤(亜硫酸塩)には、こうした微生物の繁殖を抑える働きがあり、健全な発酵をサポートするとともに、瓶詰め後も品質を安定して保つ役割を果たしています。
3. 香りや味わいを安定させる
ワインの魅力は、果実の香りや繊細な味わいのバランスにあります。しかし、酸化や微生物の影響を受けると、本来の風味が損なわれることがあります。
酸化防止剤(亜硫酸塩)は、こうした品質の変化を抑え、生産者が目指した香りや味わいを長く保つために使用されています。そのため、私たちはワイン本来の風味をできるだけ良い状態で楽しむことができるのです。
Q:酸化防止剤を使わないとワインはどうなる?
もし、酸化防止剤を使わずにワインを造ったらどうなるでしょう。 ワインは瓶詰め後も微量の酸素に触れ続け、変化し続けるデリケートな飲み物です。酸化防止剤が入っていない場合、酸素の影響を受けやすくなり、早ければ数日、遅くとも数週間のうちに色や香りが大きく変化してしまうことがあるのです。見た目がくすんでしまったり、フレッシュなフルーツの香りが失われて、酢のような香りに変わったりする可能性があります。 また、酸化防止剤にはワインの中で雑菌が増えるのを抑える働きもあります。これが使われていないと、酵母や乳酸菌などの微生物が活動しすぎてしまい、ツンとした酸っぱい香りが強くなったり、本来とは違う濁りが出たりすることがあります。特に船便での長距離輸送や、瓶の中でゆっくり熟成させるタイプのワインには不向きといえます。 もちろん、酸化防止剤を極力使わない、あるいは無添加でワインを造る生産者もいますが、その場合は温度管理を徹底したり、早めに飲み切ることを前提にしたりと工夫が必要になります。
ワインの酸化防止剤は体に悪い?頭痛の原因?
ワインにとっては良いことだらけの酸化防止剤(亜硫酸塩)ですが、人体への影響はどうなのでしょうか。
まず前提として、亜硫酸塩は大量に摂取すれば人体に悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、ワインに含まれる量は健康に影響を及ぼすレベルではないとされており、ほとんどの人が過度に心配する必要はありません。
一方で、亜硫酸塩に過敏な方や重度の喘息をお持ちの方では、低濃度でも症状が誘発される可能性があります。そのため、医師からワインなど亜硫酸塩を含む食品・飲料の摂取を控えるよう指導される場合もあります。喘息などの持病がある方は、事前に医師へ相談すると安心です。
Q:酸化防止剤が少ないワインなら頭痛にならない?
「酸化防止剤が少ないワインなら頭痛にならない」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。実際のところ、これは一概にそうとは言い切れないようです。 ワインを飲んだ後の頭痛は、酸化防止剤だけが原因とは限りません。アルコールそのものによる血管の拡張や脱水症状、またワインを造る過程で自然に発生する「ヒスタミン」や「チラミン」といった成分が血管を急激に伸縮させることも、体質によっては頭痛や不調のきっかけになるとされています。さらには睡眠不足やそのときの体調なども複雑に関係していると考えられています。 実際に、酸化防止剤の含有量が少ない、あるいは無添加のワインを飲んでも頭痛が起きるケースは珍しくありません。
ワインにはどれくらいの酸化防止剤が入っている?
日本では、食品ごとに酸化防止剤(亜硫酸塩)の残存基準が定められています。ワイン(果実酒)の場合、二酸化硫黄としての残存量は1kgあたり0.35g(350mg)未満とされています。
以下は、ワインを含めた主な食品における亜硫酸塩の上限量です。
食品 | 亜硫酸の上限量 |
かんぴょう | 5.0g/kg未満 |
乾燥果実(干しぶどうを除く) | 2.0g/kg未満 |
干しぶどう | 1.5g/kg未満 |
乾燥じゃがいも、ゼラチン、ディジョンマスタード | 0.50g/kg未満 |
果実酒(ワインを含む)、雑酒 | 0.35g/kg未満 |
天然果汁(5倍以上に希釈して飲用に供するもの) | 0.15g/kg未満 |
出典:公益財団法人 日本食品化学研究振興財団「各添加物の使用基準及び保存基準(令和8年4月7日改正まで記載)」をもとに作成
表を見ると、ワインの基準値は干しぶどう(1.5g/kg)やかんぴょう(5.0g/kg)よりも低いことが分かります。つまり、酸化防止剤はワインだけに使われる特殊なものではなく、品質保持や変質防止のためにさまざまな食品で利用されているのです。
また、EUワイン法で定められている亜硫酸の最大含有量はこちらです。
ワインの種類 | 最大含有量 |
辛口赤ワイン | 150 mg/L |
辛口白・ロゼワイン | 200 mg/L |
残糖分5g/L以上の赤ワイン | 200 mg/L |
残糖分5g/L以上の白ワイン | 250 mg/L |
出典:Commission Delegated Regulation (EU) 2019/934(consolidated version of 29 December 2024)Annex I, Part B をもとに作成
Q:赤ワインと白ワインで酸化防止剤の量が違うのはなぜ?
赤ワインと白ワインを比べると、一般的に白ワインのほうが酸化防止剤の使用量が多い傾向にあります。その理由は、造り方の違いにあります。 赤ワインは、ブドウの果皮や種子を一緒に漬け込んで発酵させるため、皮に含まれるポリフェノール(タンニンやアントシアニンなど)が豊富に抽出されます。このポリフェノール自体に酸化を抑える働きがあるため、酸化防止剤の添加量を比較的抑えることができるのです。 一方、白ワインは果汁だけを発酵させるため、赤ワインに比べてポリフェノールの含有量が少なく、酸化しやすくなります。そのため、フレッシュな香りや色合いを保つために、酸化防止剤をやや多めに使う必要があるのです。また、白ワインは繊細な香りが持ち味のスタイルが多いことも、酸化防止剤がしっかり使われる理由のひとつといえます。
ソムリエが解説!酸化防止剤Q&A
ここまで、ワインに酸化防止剤が使われる理由や役割、使用基準について解説してきました。
では、ワイン選びの際にはどのような点に注目すればよいのでしょうか。ラベルの見方やナチュラルワインとの関係、味わいへの影響など、酸化防止剤にまつわる気になる疑問を紫貴さんがQ&A形式でお答えします。
Q:ラベルから酸化防止剤(亜硫酸塩)を読み解く方法は?
多くの国では、亜硫酸塩が10mg/L以上含まれる場合、「酸化防止剤(亜硫酸塩)を含む」「Contains Sulfites」といった表示が義務付けられています。この表示は、ごく一般的なワインのほぼすべてに記載されているもので、特別に酸化防止剤が多いというわけではありません。 近年は「酸化防止剤無添加」「亜硫酸無添加」と明記されたワインも世界的に増えています。 フランスでは、こうした表示に加えてもうひとつの制度があります。厳しい基準をクリアしたナチュラルワイン(自然派ワイン)には、政府公認の「Vin Méthode Nature(ヴァン・メソッド・ナチュール)」というロゴマークが描かれています。このロゴは「完全に亜硫酸無添加のもの(0)」と「極めて微量の30mg/L未満に抑えたもの(<30mg/L)」の2種類に分かれており、一目でわかるようになっています。 ただし、これらのワインも発酵の過程でブドウ由来のごく微量の亜硫酸が自然に生成されるため、完全にゼロというわけではない点も知っておくと良いでしょう。ラベルの表示やロゴを見る習慣をつけておくと、自分の体質や好みに合わせてワインを選びやすくなります。
Q:ナチュラルワインはすべて酸化防止剤無添加?
「ナチュラルワイン=酸化防止剤無添加」というイメージを持つ方は少なくありませんが、これは必ずしも正しいとは言えません。 ナチュラルワインとは、農薬や化学肥料を使わずに栽培したブドウを、できるだけ人の手を加えずに醸造したワインを指すことが多いのですが、その定義や基準は生産者や団体によって異なり、法律で明確に定められているわけではありません。そのため、ナチュラルワインの中にも、ごく少量の酸化防止剤を使用しているものと、まったく使用していないものの両方が存在します。 無添加のナチュラルワインは品質が不安定になりやすく、保存状態や輸送方法によって風味が大きく変わってしまうこともあります。購入する際は「ナチュラルワイン」という言葉だけで判断せず、裏ラベルの表示や生産者の情報を確認してみると、より安心してワイン選びができます。
Q:酸化防止剤はワインの味に影響するの?
酸化防止剤は、ワインの味わいにも一定の影響を与えます。適量が使われている場合、酸化を防ぐことで、ブドウ本来の果実味やフレッシュな香りが保たれ、ワインが持つ個性をしっかりと感じられるようになります。 逆に、酸化防止剤が不足したり時間が経ちすぎたりすると、フルーティーな香りが感じにくくなったり、味わいがぼやけて感じられることがあります。 一方で、遊離亜硫酸(※)が多い状態では、マッチを擦ったような刺激臭や、鼻の粘膜がツンとする感じを受けることがあります。また、香りが閉じて硬い印象を受ける場合もありますが、グラスを軽くスワリングして空気に触れさせることで、香りが和らぐこともあります。 酸化防止剤は「ワインの品質を守るためのもの」として捉えると、ワインとの付き合い方がより楽しくなるはずです。
※遊離亜硫酸:ワイン中で他の成分と結合しておらず、酸化防止や抗菌作用を発揮している状態の亜硫酸のこと
まとめ
酸化防止剤(亜硫酸塩)は、酸化や雑菌の繁殖を防ぎ、ワインの香りや味わいを保つために欠かせない存在です。
日本を含む各国で残存基準が定められており、規定内であれば過度に心配する必要はありません。役割を正しく理解し、自分に合ったワイン選びを楽しんでみてください。
文=川畑あかり