「ワイン造り」Kisvin Winery(キスヴィンワイナリー):斉藤まゆさん

エノテカのワインバイヤーが、ワイン界で活躍する人々をインタビューしてとことん語り合う企画「ワインバイヤーズトーク」。プロフェッショナルならではの視点で、料理とのマリアージュや最新のワイントレンドに切り込んでいきます。

第9回目となる今回は、ワインのプロからの熱い視線を集める山梨のワイナリー、Kisvin(キスヴィン)の若き醸造家、斉藤まゆさんがゲスト。ワイン醸造家を目指した経緯やワイン造りのこだわりについてお話を伺いました。

大学を中退してワイン造りの道へ

バイヤー:
本日はありがとうございます。今回の対談が実現したのは、実は私がKisvinのワインを飲んでインスタにアップしていたのを、斉藤さんの後輩である私の同僚が偶然発見したことに端を発しておりまして・・(笑)。SNSってこういう形でワインと人の出会いを作ることもあるんですね。びっくりです。

斉藤さん:
本当にびっくりですね~。本日はよろしくお願いいたします。

バイヤー:
斉藤さんはなかなか波乱万丈な経歴をお持ちですね。どうしてワイン醸造家を志すようになったんでしょうか。

斉藤さん:
早稲田大学に在学中、フランス語の講師をしていた故加藤雅郁さん(ジョナサン・ノシター著『ワインの真実』翻訳)が主宰する“ブドウ収穫隊”というのがありまして、こちらの活動でフランスのコルシカ島にブドウ収穫に行きました。

そこで飲んだワインに感動して、こんなに美味しいものがなぜ日本にないのだろうと思ったのがワイン醸造家を目指したきっかけです。その頃日本のワインは遅れていると言われていて、どうしてもこの時にフランスで飲んだようなおいしいワインを日本で造りたいと思ったのです。 それでいてもたってもいられなくなって、大学を中退してお金を貯めてカリフォルニア州立大学ワイン醸造学科に入学しました。

バイヤー:
なぜフランスではなくカリフォルニアだったんでしょうか?

斉藤さん:
ワイン伝統国であるフランスではなく、その当時新世界と言われていたカリフォルニアやオーストラリアにこそ、日本でワインを造るヒントがあると思ったからです。もちろん語学の問題もありましたが…。それに、カリフォルニアの大学に行くと、ワインのことを知らなくてもワイン造りが学べそうだと思った点もあります。カリフォルニア州立大学には大学構内にワイナリーがあって、ワインを造って販売までできる場所でした。それが面白いと思って、この大学に行くことにしました。

日本から怪しいおじさんがスカウトに・・

バイヤー:
Kisvinに入ることになったきっかけがまたおもしろいですよね。

斉藤さん:
はい・・。醸造学科卒業後もそのままカリフォルニア州立大学に残ってアシスタントとして働きながら後輩の指導にあたっており、そこでワイン造りに関するブログを書いていたのですが、そのブログの読者だったKisvin社長の荻原が突然メールを送ってきて、カリフォルニアまで来たのです。

最初はかなり怪しいおじさんだと思っていたのですが(笑)  その頃荻原はすごい執念でワインを造る人を探していたようで、私のブログの写真を見て「自分の見たいものがすべて写っている!」と思ったそうです。

2008年に会って説得され、無理やりチームKisvinに入れられてしまいました(笑)。その後ワイナリーができるまでは縁のあった木下インターナショナルの社長に直談判してシャブリの生産者であるジャン・コレに修行に行かせていただき、結局2年そこで働きました。

国際品種で勝負する

バイヤー:
カリフォルニアまで行ったとは・・大学を中退してカリフォルニアに渡った斉藤さんと同じくすごい情熱と行動力ですね。ところでKisvinでは甲州はもちろん、シャルドネにも力を入れてますよね。

斉藤さん:
甲州は糖度が上がりにくく栽培が難しいのですが、チームKisvinには難しいものこそ挑戦したいという変態が多いので(笑)、熱心に取り組んでいます。一方で、世界的に栽培されている品種に力を入れたいというのもあって、シャルドネやピノ・ノワールを栽培しています。

Kisvinという名前が日本の代表として知られるようになるには、世界中のみんなが知っている品種で勝負しないと。まずはシャルドネやピノを飲んでいただいて、興味を持っていただいて、そこの甲州もなかなか、と言われたいんです。そうすれば、甲州というブドウの知名度がもっと上がるのではと思ってます。

バイヤー:
イタリアのスーパータスカンも、そうですよね。サンジョヴェーゼだけではこれほど注目を集められなかった。世界で勝負しようとすると、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど国際品種で勝負するのがまず最初というのは非常に共感します。

斉藤さん:
それに私実はマスカット・ベーリーAが苦手なんです。ブドウを触っている感じがしっくりこないし、無骨で繊細さに欠けるので魅力を感じないんです。けれど日本ではたくさん栽培されているし・・そんな想いを抱えてフランスに行ったら、ブルゴーニュのイランシーで出会った醸造家から、ピノ・ノワールが好きだからピノばかり造っていると言われて、自分で作りたいものを作るって言っていいんだということがわかりました。

ブドウの熟度が上がるまでひたすら待つ

雨除けの傘をかけるボランティアたち

バイヤー:
ところでKisvinのシャルドネはよく熟した果実香に加えて塩味やミネラルではないけれど、何とも言えないまとわりつくような余韻がありますよね。

斉藤さん:
ありがとうございます。シャルドネのふくよかさと華やかさをうまく出せるようにしたいという想いはあります。収穫期にはブドウの旨味自体が上がってくる時が来るはずだと思っていて、ブドウの熟度が上がるまで待つ、それだけですね。Kisvinは、他のワイナリーがもう収穫し終わっている頃に収穫しています。10月後半から11月頭くらいですね。

スパークリングワイン用のブドウも、それ以外のブドウもかなり遅くまでまって収穫します。やっぱり早く造りたいとか、病気が心配とか、そういったことで早く収穫せざるを得ないこともあると思いますが、ブドウの糖が上がって酸が下がるバランスを見ながら、どこで収穫するかというところをシビアに待っています。

それと、数年前から雨除けの傘を減らして大規模な雨除け屋根の建設を行ないました。雨の次の日でもブドウが全然濡れていないんですよ。2016年は、雨除けの効果が顕著に表れたヴィンテージでした。全部のブドウに付けるようになって2年目の年ですね。

本当にこれがなかったらどうだったかと思います。 だいたい5万枚くらいの雨除けの傘をかけるんですが、ボランティアでやらせてくださいと言う方がたくさんいらっしゃって本当に助かっています。

バイヤー:
なるほど、やはり最適な熟度のブドウがこの余韻を生むんですね~。ワイン醸造家として、今Kisvinは目指すところまでどのくらいですか?

斉藤さん:
10合までとして5合目くらいですかね。畑はそんな急に変わることはないので。色々な努力をしているので、年々品質は良くなっています。ただそれには時間が必要です。自分の味覚、仕事に対する姿勢などなど、醸造の進化もあって、あと5年、10年で品質を上げられるかなと思っています。

それには学者が本を買うように、醸造家がワインを買うことも必要だと思っています。ご飯代を切り詰めてエノテカさんでワインを買うことだってありますよ(笑)。常々移り変わるトレンドに対して、様々な味わいを飲み込んで自分のものにすることが大切ですね。

バイヤー:
Kisvinのワイン、これからがますます楽しみですね。本日はありがとうございました!

斉藤まゆ(さいとう まゆ)
昭和55年生まれ 早稲田大学在学中に日本でのワイン造りを目指し、同大学を中退。カリフォルニア州立大学でワイン醸造学科卒業後、成績優秀により同校ワイナリーの醸造アシスタントに抜擢。現地学生の指導にあたる。その後はドメーヌ・ジャン・コレ、ドメーヌ・ティエリ・リシュー(いずれも仏ブルゴーニュ)などで研鑽を積み、平成25年よりKisvinワイナリー醸造責任者。近年では『ワインの真実』(ジョナサン・ノシター著)「訳者あとがきにかえて」執筆など。

キスヴィン・ワイナリー アイテム一覧≫