ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーにメルロ。
世界に数多く存在するブドウ品種ですが、その中から自分の好みに合った品種を見つけるのも、ワインの楽しみの一つではないでしょうか。
そんなブドウ品種には、実はクローンが存在します。クローンと聞くと、「遺伝子?なんだか難しそう」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。
実はとても身近な存在で、例えばピノ・ムニエやピノ・ブランは、ピノ・ノワールの突然変異種で、遺伝子的にはピノ・ノワールと同じなんです。
今回はそんなクローンの中から、ブルゴーニュを代表する黒ブドウ「ピノ・ノワール」のクローンである「ピノ・ファン」についてご紹介します。
そもそもブドウ品種のクローンとは?
そもそもクローンとは、生物学上では「遺伝子的に同じ個体や細胞」を指しますが、ワイン用ブドウにおいては、「同じ株を起源にもつもの」を意味します。
植物の繁殖方法は種子から育てる方法と取り木から育てる方法の2通りありますが、ブドウは遺伝子的に不安定で突然変異の可能性が高いため、受粉による世代間での形質維持は困難とされています。
つまり、同じブドウの樹から枝だけを切り落とし、挿し木などをして繁殖させるのが一般的です。しかし面白いことに、長い年月をかけて異なった環境で生育することによって、クローンによる個体差が顕著になってきます。
同じブドウ品種のクローンだとしても、果実の大きさや形、成熟スピード、さらには収穫量なども異なってくるのです。これらをブドウ品種のクローンと呼び、各国の研究機関に登録されたクローンは番号などで管理されています。
ピノ・ノワールのクローンたち
ピノ・ノワールは、特に突然変異を起こしやすい品種として知られています。この特徴に加え、長い栽培の歴史を持つピノ・ワノールには数多くのクローンが存在しています。
その数は数百種類を超えると言われており全てを挙げるときりがありませんが、ピノ・ノワールのクローンはその粒の大きさから3つにわけることができます。
最も大きい粒を持つものを「Gros(グロ)」、中程度の大きさの粒のものを「Moyen(モワイヤン)」、そして最も小さい粒のものが「Fin(ファン)」と呼ばれています。
グロ/Gros
シャンパーニュなどスパークリング・ワインの生産に適した多収量のクローンです。
モワイヤン/Moyen
グロと比較すると収量が少なく、小粒になります。ACブルゴーニュ・クラスのワイン造りに適した品種です。
ファン/Fin
クローン群のなかで最も収量が小さく,果粒も小さくなります。
そんなピノ・ノワールのクローンの中でも、最も有名なのが「ディジョン・クローン」です。113、114、115、667、777の番号で管理されるものがディジョン・クローンに含まれます。
現在、アメリカに存在するピノ・ノワールは全てフランスから輸入されたもの。
フランスで栽培されていたピノ・ノワールは無許可で枝が持ち出されたり、正式に持ち込まれたものでもウイルスで汚染されていたりということが続きました。
そんな中、このディジョン・クローン(113, 114, 115)は1984年に正式なルートを通って、無事にオレゴンに到着しました。オレゴン州⽴⼤学の研究室技官たちは、フランス ディジョンからの出荷コンテナに書かれた返送先住所にちなんで、輸⼊された挿し⽊⽤枝に「ディジョン・クローン」とニックネームをつけました。
その中でも、ブルゴーニュを代表する生産者の一つ「ドメーヌ・ポンソ」のクロ・ド・ラ・ロッシュの区画から選抜された115が有名です。芳香性の高さとストラクチャーのある味わいが特徴で、現在主流のクローンとなっています。
フランスから持ち込まれた枝からできたものが増植されて有名になったクローンは他にも。
例えばニュージーランドの「Abel クローン」は、ロマネ・コンティから盗みニュージーランドに持ち込もうとした枝を、検疫官のAbelが没収して自ら増植したという逸話があります。
ディジョン・クローンに比べ、有機酸が多いことと、独特な土っぽい香りがあるのが特徴です。
また、オーストラリアの「MV6」もブルゴーニュから持ち込まれたクローンです。早熟で安定して収穫が可能な特徴を持ち、クロ・ド・ヴージョのピノ・ノワールがルーツと言われています。
このようにクローン品種への取り組みが盛んということは、もちろんピノ・ノワールの突然変異しやすいという特徴もありますが、加えて優れたピノ・ノワールを自国で、あるいは自分の手で育てたいと思わせる魅力があったからではないでしょうか。
ブルゴーニュの実情
ピノ・ノワールのクローンの中から、今回は「ピノ・ファン」をピックアップし見ていきましょう。
ピノ・ファンは上述した通り、ピノ・ノワールのクローン群の中でも最も小粒なクローンの総称です。ブルゴーニュでは、より多くの収量を求める流れから、一時期引き抜かれてしまう時代もありました。
しかしジャンテ・パンショでは、ピノ・ファンを大切に育ててきました。それが今や古樹として活躍しているのです。
当主であるファビアン氏は、畑が酸度や保湿、乾燥の程度、石が多いかどうか様々な要素からピノ・ノワール種の中の品種を選んでいると言い、自分たちの畑の性質に合うか、目指すワインに適しているかを検討した結果、ピノ・ファンを選んで植えているとのこと。
ピノ・ファン100%で造られるキュヴェもあるので、飲み比べてみてはいかがでしょうか。
ジャンテ・パンショ
まとめ
ブドウ品種におけるクローンについて、ピノ・ノワールに注目しご紹介しました。
知れば知るほど面白いクローン品種の世界に、一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。