文学ワイン会「本の音 夜話(ほんのね やわ)」シーズン2 第4回ゲストに小説家・島田雅彦さん登場!

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レポート
公開日 : 2025.12.26
更新日 : 2025.12.26
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島田雅彦さん

日本文学界の最前線にいる小説家の方々にご出演いただき、 文学とワインを同時に楽しむイベント「本の音 夜話(ほんのねやわ)」。2014年~2020年までの6年間、計17回にわたってワインショップ・エノテカ 銀座店 カフェ&バー エノテカ・ミレにて開催、その後、コロナにより3年間休止状態にありましたが、昨年よりシーズン2として再開することになりました。


シーズン2、第4回目のゲストとしてご出演いただいたのが、小説家の島田雅彦さん。2017年に本イベントにご登壇いただいて以来、8年ぶりのご登場となります。島田さんが考える“小説の役割”に始まり、小説家だからこそ挑戦できる歴史の「if」を取り扱った最新作『Ifの総て』についてなど、多岐にわたるお話をしていただきました。


お酒とワインをこよなく愛され、“日本文学界の自他ともに認めるバッカス”である島田さん。ワインを飲みながらの機知に富んだ軽快なトークは、何度も会場を沸かせていました。


ナビゲーターは、ライター・山内宏泰さんです。

小説の役割は、“物語的洗脳”からの解放

イベントの様子

1983年、大学在学中に『優しいサヨクのための嬉遊曲』でデビューし、以降40年以上にわたって日本文学界の最前線で活躍されている島田雅彦さん。島田さんが考える小説の役割についてお話いただきました。


「だれもが小説家の素地があるとは言い切れません。ですが、物語作者としての素地はあると思います。簡単に言うと、定型的な物語のパターンはだれもが踏襲できます。体系どおりの物語のパターンは自分の記憶にもあるし、なじみやすいから割とすんなり入っていける。だからそうした物語構造は商品広告にも使われるし、精神的なメッセージにも利用される。自分たちの無意識の中に刷り込まれているイメージやストーリーを利用して別のメッセージを伝えようとすれば、すんなり入りますからね。ナチスのプロパガンダはアメリカの商品広告の手法を模倣していましたし、有効な政治的メッセージもそういう形で使われています。


小説の役割は、そうした安易な物語構造に誰もが取り込まれている、そこを批判することにあります。要するに自分たちの中に刷り込まれてしまった典型的なイメージ、それをずらし、批評を加えていく。そうすることで、一種の“物語的洗脳”から人々の脳を解放するのが実は小説の役割なのです。小説をそんなふうに思って読まなくてもいいんですよ。(笑) ただ、厳密に定義するとそうなります。」


島田さんによると、確信犯として小説というジャンルが生まれたのは、スペインの作家、セルバンテスの『ドン・キホーテ』が定説とされているそうです。


「この小説は、主人公のドン・キホーテが騎士道物語の熱心な読者、という設定です。“騎士”が主人公ではなく、“騎士に憧れている人物”が主人公だ、というところで、ちょっとメタレベルになっているんです。“騎士”を主人公にした物語というのは、逆に言えば、定型を全部備えなければいけない。騎士道はカトリックの聖母マリア信仰と表裏一体なので、崇拝するマドンナに全身全霊を尽くし、完全懲悪を実現するーーそんな定型をすべて踏襲するのが騎士道物語です。これはジャンルではロマンスという分類になります。


そのロマンスの圧倒的な愛読者だったドン・キホーテが作中の人物になりきっちゃうわけです。ロシナンテにまたがって、従者のサンチョ・パンサを引き連れ、マドンナのために全身全霊尽くすのだ!とか言って風車に突撃する。彼の頭の中は理想で凝り固まっているのですが、実際の行動はちぐはぐで笑うしかない。そんな実態をある意味、残酷に描き出したのが『ドン・キホーテ』。そこには苦い自己批評があり、そうしたテキストを小説というんです。」

歴史の「if」を積極的に問う理由とは

イベントの様子

島田雅彦さんの最新作は、『Ifの総て』。文芸誌『新潮』の2025年8月号で連載が終了しており、来年4月に刊行予定だそうです。歴史を語るとき、「if」を持ち込むのはタブーだとよく言われますが、それを全面に押し出して執筆した島田さん。その意図はどこにあるのでしょうか。


「歴史家は、様々な出来事の因果として今があるのだから、この現状は泣きながらでも受け入れるしかない、そしてその先の未来を思考すべきだ、という態度かもしれません。ですが、フィクションライターは逆にこうでなかったらという想像力を働かしたくなるジャンルなのです(会場笑) 


もし今がこうでなかったら…そういうことを誰しも思ったことがあるはずです。私もAIに、もしあのときこうだったら歴史はどうなっていたと思う?という質問をよくしています。でもAIは今ある結果を参考にしてしか意見を述べないから、いや意見ではないんですが、今ある結果を容認するデータしか出回ってないから、それに対する異議申し立ては非常に少数なので、平均化するとAIは現状を容認する傾向が強いんです。私はそんなに負けずぎらいではないですが、でもAIには負けたくないと思っているので、AIがしない発想を今後も続けていきたい。それこそが、私がもう少し長生きする正当な理由だと思っています。だから「if」は積極的に問うのだ、と。」

「徐福伝説」で初の漫画原作者デビュー

本の音夜話

今年9月には、漫画原作者デビューもされた島田さん。漫画週刊誌『モーニング』に連載中の『アンセスターズ』(漫画:これかわかずとも)で新たな「徐福伝説」に初の漫画原作で挑まれています。


「司馬遷の『史記』では、徐福が日本に大船団を組織してやってきたのは、始皇帝のための不老不死の薬探しとされています。しかし本当は、彼の弾圧を逃れ、多くの人を亡命させ大量移民をしたという話だと思っています。これは日本史を語る上では考古学の領域で、それ以後、歴史として表れてくるのは、中国の歴史書の記録をもとにしていたり、あるいは志賀島で発見された金印をもとに裏付けていたりで、考古学と文字が入ってくる以降の古代史との間には相変わらずブラックボックスがあります。『アンセスターズ』では、その辺りに切り込めるかなあと。もともとの原作は『徒然王子』という朝日新聞の連載で書いた作品の一部で、20年以上も前に書いたものになります。日本の縄文末期から弥生初期にかけてを中国の歴史とうまく接合し、あとは憶測的な古代史の類推ということになるのですが、そこを乞うご期待です。」

島田さん流ワイン文学的アプローチを語る

グラスに注がれる赤ワイン

イベントでは、島田さんに数多くのお客様から様々な質問が寄せられました。そのひとつがワインラヴァーの方からのご質問で、「人間の想像を広げる美酒であるワインがなぜ文学のテーマにあまりならなかったのかとても不思議で、ぜひ島田さんにワイン文学3部作を書いてほしい。」というものでした。


それに対して、島田さんならではのワインに対する文学的アプローチをお話いただきました。


「今お話を伺ってまず思ったのは、一切文明が滅びた世界です。そうするとあらゆる業種のインフラが滅びる。石油や石炭の掘削などのエネルギーの開発や、お酒を造る醸造、蒸留の営み。失われたインフラの復活が各ジャンルで全部必要になるときがくるわけです。核戦争とか、火山の破局的噴火とかいろんなカタストロフが考えられるんですが、一度培われて継続してきた諸産業のインフラがすべて崩壊し、またゼロから作り直さなければいけない、といったときに、ワインを飲みたい人がまったくノウハウがないところからまた一から始めるシチュエーションで、ワインを造る、飲むという根源的な意味を見つめなおす作品だったら書いてみたいです。ワインを取り上げた開高健のような先輩たちとは違うワインへのアプローチをぜひさせていただきたいですね。」

イベントでは、島田さんのユーモアあふれるトークに笑いが起きることも多々。ワインを片手に島田文学の世界にどっぷりと浸りながらの、和やかなひとときとなりました。『アンセスターズ』の連載に加え、来年1月からは、毎日新聞で新たな連載を控えているという島田さん。文学だからこそできることに果敢に取り組まれている島田さんが、また新たな世界を切り開いて見せてくれそうです。


イベント開催日:2025年11月15日

当日、ご提供したワイン

アルマ・アッサンブラージュ [ボックス付]
750ml

アルマ・アッサンブラージュ [ボックス付]

  • エレガント&コンプレックス

  • 6,600

    (税込)

  • WS 90
ヤラ・ヴァレー ピノ・ノワール
750ml

ヤラ・ヴァレー ピノ・ノワール

  • エレガント&クラシック

  • 2023

    6,600

    (税込)

  • JS 92
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