これまでの私とワインとの関わりを振り返ってみると、思い込みだけで遠ざけていたものが、実はかなり多かったように思う。ワインに詳しくない自分が語るには敷居が高いのではという気後れ。あるいは、なんとなく感じていた苦手意識。でも実際に飲んでみると、それらの多くが案外根拠のない思い込みだったことに気づかされる。ロゼワインも、そのひとつだった。
最初に飲んだロゼワインは、甘みが強いものだった。お酒というより、少し気の利いたジュースのよう。アルコールの刺激が抑えられた味わいは飲みやすい一方で、食事と合わせるには少し難しそうに思えた。その印象が強く残り、「ロゼワイン=甘いお酒」というイメージが、自分の中で当たり前として根づいていったのだと思う。
お酒を選ぶときに私が大切にしているのは、食事とどう合わせるかということ。飲むためのお酒というよりは、美味しく食べる時間の中に溶け込むような存在であってほしい。だからこそ、甘さが立つお酒には慎重になってしまうし、自然と白ワインばかりを選ぶようになっていた。そんな経緯もあって、ロゼワインは長いあいだ自分の選択肢からすっかり姿を消していた。それがパリ旅行で訪れたモロッコ料理店で、その印象が180度変わった。
スパイス香る異国情緒たっぷりの店内。いくつかの前菜とクスクスを注文した私に、店員さんがすすめてくれたのがフランス産の辛口ロゼワインだった。辛口とはいえ、きっと甘いのだろうと半信半疑のまま、「せっかくだし」と軽い気持ちで頼んでみたその一杯が、驚くほど自分の好みに合っていた。グラスからふわりと立ちのぼる香りは、華やかだけどどこかやさしい。口に含むとすっと溶けるようになじみ、酸がきゅっと味を引き締めてくれる。その酸味がスパイシーな料理の複雑さと重なり合って、口の中に心地よい余韻を残す。ロゼワインって、こんなにも食事に寄り添えるお酒なのか…。
ひんやり冷やしたロゼワインは、ランチに軽く一杯楽しむのにもぴったりだし、少し気温が下がった夕暮れ時に、軽めのおつまみとともにゆっくり味わうのもきっといい。ロゼワインの魅力にようやく気づけたこの夏は、これまでより少しだけ自由で、心地よい時間が増えていくような気がしている。
わいん泥棒なレシピ:夏野菜と大豆のバジルカレー
ロゼワインの華やかな果実味を最大限に引き立ててくれるのが、シンプルなカレー。動物性食品や乳製品由来のコクは足さず、代わりにお酢で引き締め、余白のある味わいに仕上げた。あとを引くバジルの香りがロゼワインのやさしい酸とバランスよく溶け合う。
【材料 2人分】
玉ねぎ 1個
おくら 1袋
茄子 3本
トマト 大1個
酢 小さじ2
バジルの葉 20枚(手でちぎる)
大豆の水煮 80g
カレー粉 大さじ1
オリーブオイル 適量
塩 適量
ごはん 2人分
【作り方】
1.玉ねぎは繊維に沿って2mm幅の薄切りにする。おくらは乱切り、茄子はヘタを除いて乱切り、トマトはヘタを取ってざく切りにする。
2.深めのフライパンにオリーブオイル大さじ1を中火で熱し、玉ねぎと塩ひとつまみを加えて5分炒める。
3.茄子、トマト、塩ひとつまみを加えてさらに炒め、トマトから水分が出て全体がやわらかくなったら、水1カップ・酢・おくらを加える。煮立ったらふたをし、弱めの中火で20〜25分ほど煮込む(※水分が飛ぶまで)。
4.茄子とトマトをつぶしながら混ぜ、塩小さじ2/3とカレー粉を加えて混ぜ火を止める。
5.バジルと大豆を加え、バジルがしんなりするまでよく混ぜる。味を見て足りなければ塩少々でととのえる。
6.ごはんにたっぷりかけ、仕上げにオリーブオイルをスプーン1杯ほどかけて完成。途中で酢を少しずつかけながら食べるとおいしい。
※ご飯無しで煮込み料理としてそのまま食べても◎
ほんのりスパイスが効いたカレーの輪郭を、冷やしたロゼワインがやわらかくとののえてくれる。野菜の甘みやみずみずしさがより一層くっきりと感じられ、重さのない飲み心地も心地いい。
暑い夏の昼下がりに軽く一杯のロゼワインとさらりとしたカレー…最高!食後もすっきりとしているから、午後の時間も軽やか。