奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
テイスティングにおいて、メソッドや流儀はいろいろとあります。生産者、ソムリエ、バイヤー、オーソリティ、ジャーナリストなど職種と目的の数だけメソッドがあります。
またソムリエひとつとっても、ASI(世界ソムリエ協会)とCMS(マスターソムリエ)とではかなり違います。しかし、「テイスティングを通じて、ワインの理解を深め、活用に繋げる」という本質に変わりはありません。
そんなメソッドに関わらず、重視されるのは、香りと味わいです。多くのテイスターはグラスを手にするや否や香りを取り、口にワインを運びます。つまり、外観を見る時間はごく限られています。「外観は見ない」とすら豪語するテイスターも珍しくはありません。確かにブドウ品種、醸造、熟成による特徴が現れるのは香りであり、それらを確認するために味わいがあります。
2014年、全日本最優秀ソムリエコンクールのファイナルステージで、とんでもない窮地に立ちました。「この3種のワインのフルコメントをしてください」。その3種はブラックグラスで用意されていたのです。つまり外観を見ることはできません。私は大いに困惑しました。
その様子はYouTubeにアップされており、それを見た人には「(審査説明をした)田崎さんをからかっているようなやり取りが面白かったです」と言います。師匠であり、世界最優秀ソムリエをからかうはずはありません。本当に困惑していたのです。
グラスを鼻に近づけると何も香りがしませんでした。口に含んでもタンニンがあるのかさえ、捉えられない。ブドウ品種や銘柄どころか、赤か白かさえ分からなかったのです。1番目のワインを、「シャブリ」と答えました。正解は「マルサネ・ロゼ」。散々とはまさにこのことで、自分史上最悪のテイスティングを思い出すたびに居た堪れない気分になります。
Appearance 外観
ピエトラドルチェ、コントラーダ・ランパンテ・エトナ・ロッソ2018は、鮮やかでクリア、かつ深みのあるルビーカラーに、縁にかけて美しいグラデーションとともにレンガ色を帯びています。
香りは生き生きとして、サワーチェリー、ブルーベリーのはっきりとした果実香、鉄分や土などのミネラル感、ダージリンの茶葉のような香り、さらにチャコールと若々しさを残しつつ、多層的で、多面的な香りが妖艶さを放ちます。
味わいはスムースでなめらか、滑るようなツルンとしたテクスチャ、ヴェルヴェットの緻密さを持つ渋み、ボディを下支えする酸味が余韻にフレッシュ感を与えます。
私は外観から多くのことを推測、想像します。濃淡・色合い、粘性、輝きから成熟度、品種特性、熟成度、醸造(好気的、嫌気的)などをイメージして、香りを取っています。
例えていうなら、医師が、体温や血圧、心拍の前に患者さんの顔色や姿勢を見るようなものだと思います。人格や体調、機嫌が顔や表情に現れるように、ワインの外観には様々なものが現れるのです。
グラスにこのワインを注いですぐに、今回は外観(Appearance)をテーマにしようと思い付きました。実際に香りを取り、味わった後も、そこにはなんの困惑はなく、イメージ通りのテイスティングコメントを残すことができました。
今回ご紹介したワインはこちら
ピエトラドルチェは近年世界中から注目を集めるエトナ地区のワイナリー。こちらは、エトナ山北側に広がる区画ランパンテの古樹ブドウを使用した1本で、熟したベリーやスモークの香り漂う、エレガントかつ薄旨なスタイルが魅力です。