あのドメーヌ・ルーロが手掛ける、もう一つのシャルドネ

コシュ・デュリやコント・ラフォンに比肩する、ブルゴーニュ最高峰のシャルドネの造り手ドメーヌ・ルーロ。日本国内の流通量は極わずかで、入荷の度に即完売してしまうブルゴーニュ愛好家の垂涎の的です。

しかしドメーヌ・ルーロの当主ジャン・マルク・ルーロ氏が、本家ムルソーと比べても遜色のない品質の白ワインをアルゼンチンで造っていることはあまり知られていません。

今回はブルゴーニュ愛好家の方へ、ルーロ氏がムルソーと同じ情熱を注ぐ、アルゼンチン最高峰のシャルドネをご紹介します。

世界が驚いたコラボレーション

コラボレーションしたボデガ・チャクラのピエロ氏(左写真)とジャン・マルク・ルーロ氏

アルゼンチンでのルーロ氏のワイン造りはアルゼンチン南部のパタゴニアにあるワイナリー、ボデガ・チャクラとのコラボレーションによって実現しました。

実はこのボデガ・チャクラは、イタリアワインの至宝「サッシカイア」のオーナーファミリーであるピエロ・インチーザ・デッラ・ロケッタ氏が始めたワイナリー。ワイン評論家ジェームス・サックリング氏の選ぶ2020年のワインTOP100で世界1位を獲得するなど、南米最高のピノ・ノワール生産者としての地位を確固たるものにしています。

そんな南半球と北半球を代表するスーパースター同士が、7年越しのプロジェクトで造り始めたワインが今回ご紹介するチャクラ・シャルドネです。

元々ニューヨーク在住でフランス語が得意だったピエロ氏は、アメリカのマスターソムリエやワインバイヤーのグループに通訳として同行し、しばしばブルゴーニュを訪れていました。その中で自然と友人関係になった生産者の一人がルーロ氏だったそうです。

二人がコラボレーションをするきっかけとなったのは約10年前のこと。ブルゴーニュ滞在中のピエロ氏がある生産者主催のディナーに招待されていくと、そこにはルーロ氏の姿も。

ディナーの最中、ホストを務める生産者から今回の旅で印象に残っているエピソードを尋ねられたピエロ氏は、シャブリの生産者からボデガ・チャクラにピノ・ノワールを造りに行ってもいいかと聞かれて嬉しかったという話をしたとのことです。

すると、それを聞いたルーロ氏が驚いた顔をしてピエロ氏を見つめ、「なぜ私にパタゴニアで一緒にワインを造ろうと言ってくれないのですか!」と言ったそうです。この言葉がきっかけとなり、二人のプロジェクトが始動しました。

しかしブルゴーニュでも最高峰の生産者であるルーロ氏の申し出に、最初はピエロ氏も恐れ多くて戸惑いました。また、時期尚早だとも考え、すぐにプロジェクトを進めるようなことはしませんでした。

そもそも白ワインを造っていなかったボデガ・チャクラでは品質の高い遺伝子を持つシャルドネを探し、ブドウ畑の植え替えをするところから始め、人員を整える必要もあったからです。

しかしそうした準備を着々と進め、ついに2017年、最初のヴィンテージを仕込みます。きっかけとなった会話から7年の月日を経て、世界を驚かせるコラボレーションワインが誕生したのです。

ブドウを育てるのはチャクラ、ワインを育てるのはルーロ

シャルドネの選果を行うピエロ氏(左)とルーロ氏(右)

チャクラのシャルドネ造りは、全ての畑作業をチャクラのスタッフが行い、発酵から熟成までの醸造はルーロ氏が行うシンプルな分業制で行われています。つまり、ワインメイキングに関しては完全にルーロ氏の指揮下で行われているということです。

ルーロ氏がブルゴーニュで造るワインには、自社畑のブドウで造るドメーヌ・ルーロ名義とネゴシアンスタイルで造るジャン・マルク・ルーロ名義がありますが、チャクラで造るシャルドネはちょうど後者と同じような存在と言えるでしょう。

ムルソーからパタゴニアまでの距離は約1万2千km。ルーロ氏はこの距離を年に3回も往復してワインの状態を確認しています。ルーロ氏がパタゴニアにいない時でも、全ての作業は彼の指示で行われるそうです。

もちろん、熟成に使っているオーク樽もドメーヌ・ルーロで使っているのと同じものを使用。新樽比率や熟成期間を低く抑えることによって、ブルゴーニュ愛好家ならば「まさにルーロ!」と言いたくなるようなデリケートなアロマを生み出しています。

その味わいについてボデガ・チャクラのピエロ氏は、「このシャルドネを飲むと、ルーロのワインと同じ“ぬくもりと職人技”が感じられるでしょう」とコメント。

ドメーヌ・ルーロのファンのみならず、繊細さや上品さを求めているブルゴーニュ愛好家の方には1度は試していただきたいワインと言えるでしょう。

表現するのはパタゴニアのテロワール

ルーロのエッセンスが存分に感じられるとは言っても、チャクラ・シャルドネはブルゴーニュのコピーを造ろうとしているわけではありません。気候だけ見ても、生育期に雨の降るブルゴーニュと極度に乾燥したパタゴニアのテロワールは根本的に異なるからです。

両氏はこのシャルドネについて下記のように語っています。

ムルソーと同じワインを造りたいとは思っていません。パタゴニアのテロワールやスタイルはまだ誰も確立できていません。だからこそ楽しい。目標はパタゴニアのテロワールを語るワインを造ることです。

―ジャン・マルク・ルーロ

驚くほど素晴らしい気候と偉大なテロワール。新しいものを生み出す完全な自由は、ジャン・マルク・ルーロ氏にとってはドメーヌ・ルーロで、私にとってはサッシカイアで得難いものです。

―ピエロ・インチーザ・デッラ・ロケッタ

ブルゴーニュ最高峰の技術とパタゴニアの偉大なテロワールが融合した自由なワイン。産地という概念を捨て自由な精神で向き合えば、その品質の高さに驚かれるのではないでしょうか。