エノテカのワインバイヤーが、ワイン界で活躍する人々をインタビューしてとことん語り合う企画「ワインバイヤーズトーク」。プロフェッショナルならではの視点で、料理とのマリアージュや最新のワイントレンドに切り込んでいきます。
第6回目となる今回は、銀座「わいん厨房たるたる」のオーナーソムリエ兼シェフであり『男と女のワイン術』『男と女のワイン術2杯めーグッとくる家飲み編』共に日本経済新聞出版社 の著者としても知られる伊藤博之さんがゲスト。その刺激的(?)なタイトルと、かつてない実用的な内容から累計9万部とヒットしたご著書の内容にも触れながら、「男と女のワイン術」を伝授していただきました。
目次
1年間で2万6,221本のワインを試飲
バイヤー:
先月のバリューボルドーの試飲会でお会いした以来ですね。伊藤さんはエンピツを耳にはさんで試飲するスタイルがワイン業界ではすっかりお馴染みですが、確か最初にお見かけした約15年前も同じだったと記憶していますので、ブレないスタイルは貫かれているのですね!
伊藤さん:
はい、同じスタイルです!ワインの試飲はノートやグラスを持ちながらのスタンディングですので、両手を塞がれる環境では耳ペンはとても便利です。試飲会にはしょっちゅう顔を出しておりまして、昨年は1年間で2万6221本のワインを試飲しました。
バイヤー:
2万本以上!すごい種類ですね・・・やはりお店で出すワインを探されているんでしょうか。
伊藤さん:
そうですね。少しでも安価で美味しいワインをお客様に飲んでいただきたいので、なるべく多くのワインを試飲するように努めています。
3,000円以上のワインはハズレがない?!
バイヤー:
伊藤さんのご著書にもありますが、ワインの価格帯によって品質のばらつきがあるとか。
伊藤:
そうですね。お店のオープン以来、10万本以上のワインを試飲してきましたが、そこでわかったことは、1,000円~3,000円のワインにはクオリティに差が出やすいということ。だからこそ、多くのワインを試飲してクオリティの高いワインを探すようにしています。3,000円出せば、ハズレは少なくなり、まずおいしいと思えるワインに出会えるようになります。5,000円を超えると極端にハズレがなくなります。だから贈答用には5,000円のワインが向いているといえますね。
バイヤー:
小売価格3,000円のワインというと少し贅沢なワインという気がしますが、ハズレがないという点でも、人をもてなすワインにはちょうどよさそうですね。レストランで頼むと6,000円~くらいの価格でしょうか。「男の女のワイン術」的には、大切な女性との食事にはこの価格帯のワインを用意すれば失敗がないということですよね。
伊藤:
まあそういうことになりますね。
バイヤー:
本日ご用意したのはスペインのリベラ・デル・ドゥエロで造られた3,000円ちょうどの赤ワイン「セレステ・クリアンサ」です。リベラ・デル・デュエロというと“スペインのラトゥール”と呼ばれるウニコで知られるスペインきっての高級ワイン産地。標高の高さからくる寒暖差と痩せた土壌を生かした凝縮したブドウを用いて、モダンで力強いワインが造られています。
こちらは濃厚なテンプラニーリョを贅沢に24か月熟成させますが、その方法もこだわっており①ステンレスタンクで6か月、②新樽比率100%のフレンチオークとアメリカンオークで12か月、③瓶詰めされてから瓶内で6か月、とブドウの特性に応じた丁寧な仕事がされている、トーレス社渾身の1本です。
伊藤:
こちらのセレステ・クリアンサは実はお店でもずっとお出ししているワインなんですよ。新樽熟成したモダンな味わいで、スパイシーさもある。「今風のテンプラニーリョ!」って感じの味わいですね。しっかりとした赤ワイン好きのお客様に喜ばれます。
このワインに合う料理を、とリクエストされた時に、同じ赤身肉でスーパーでも買うことが出来るが、家庭での出番が多くはない、 「ラムしかない!」と思って今回の料理を考えました。
絶対に失敗したくない「男のもてなし料理」
バイヤー:
先ほど作るところを見せていただきましたが、本当に簡単でびっくり!しかも伊藤さんのレシピは失敗しないように考え抜かれているところが素晴らしいですね。
例えば家庭でラム肉を焼く時、つい焼きすぎたり火が通ってなかったりと焼き加減が難しいんですが、薄切り肉だと失敗がないですし、最初にゴマ油をまぶしてほぐしておくので、フライパンに入れた後も焦る必要がありません。味付けも、どのご家庭にもありそうな○金の焼き肉のたれを使用するってところがいいですね。
これはもちろん、私をはじめ男性が女性をもてなすための「男と女のワイン術」の一つとして想定してくださったんですよね?(笑)
伊藤さん:
そういう見方もできるかと・・(笑)。
とにかく、どなたでも失敗なく簡単に作れるように何度も試作をしてレシピを考えました。ワインがもつ果実味に合わせるために、市販の焼き肉のたれをベースに、合わせるワイン、セレステも加えています。
例えば、味付けのポイントはタバスコなんですが、これにも理由があります。ワインにスパイシーな風味と酸味があるので調味料に辛みと酸味を加えたかったのですが、お酢やトウガラシって量の調整が難しい。少し間違えると辛くなりすぎたりしてしまいますからね。飲むワインの「セレステ」をベースに、タバスコならすでに辛みと酸味がバランス良く配合されていて、適宜使えば、そういった失敗がありません。
ワインに合わせるための「足し算」料理
ラムと野菜の香味炒め-セレステも使って
バイヤー:
なるほど~。ほんとよく考え抜かれていて感心しきりです。では、早速いただいてみます。
ゴマ油を絡めているからですかね、ラムのクセを全く感じませんね!しかも油をたくさん使用しているはずなのに、セレステを飲むと不思議と口の中がすっきりしますね。
伊藤さん:
ワインにしっかりとした果実味、タンニン、そしてスパイシーさがあるので、料理もそれにあわせて足し算していくイメージです。ラム肉をシンプルに焼くだけでは力強いワイン(セレステ)に負けてしまうので、アクや苦みの強い野菜、タケノコやピーマンを追加しました。
それと、焼き肉のたれには色々なフルーツが入っているし、炒め野菜に玉ねぎも入れました。これが甘い感じの果実味に合うんです。そしてスパイシーさを補うためにタバスコを追加しました。また、しっかりと肉に焼き目をつけることで、樽熟成由来の香ばしい風味とも符合します。
バイヤー:
本当に美味しいです。これはいくらでもワインがすすむ味ですね!
スペイン産の赤ワインでおもてなし、となるとついステーキなど用意したくなるんですが、ステーキ、特にラム肉をちょうどいい焼き加減に仕上げるのは難しいですよね。せっかくのもてなし料理も失敗してしまうと台無し・・・でも薄切り肉だとそんな心配がない。気持ちに余裕が生まれて、しかも料理とワインもおいしくてさらに女性との会話がはずみそうです(笑)。
バイヤー:
ちなみにこれは何料理と呼べばよいでしょうか?
伊藤さん:
私は「ワインそうざい」と命名しています。ワインを飲む、となるとみなさん張り切って豪華な料理をと考えてしまうようですが、ビールに枝豆、みたいにワインにもカジュアルに楽しめて簡単な料理があってもいいんじゃないかと思ってます。これからは「ワインそうざい」ブームが来ると思ってます。
バイヤー:
なるほどー。ワインに合わせてこういった料理がささっと作れると、男の株もあがりそうですね。さっそく自宅で挑戦してみようと思います!
本日はありがとうございました。
次回は、伊藤さんに、ニュージーランドのソーヴィニヨン・ブランに合わせる簡単料理を披露していただきます。8月初旬アップ予定ですので、どうぞお楽しみに。
【レシピ】
ラムと野菜の香味炒め-セレステも使って
■材料
・ラム肩薄切り肉200g
・ゴマ油大さじ2
・塩こしょう適宜
・刻み竹の子水煮50g(市販1ケ1/3見当)
・刻みピーマン50g(2ケ見当)
・刻み玉ねぎ50g(大1/4見当)
④のソース
焼肉のタレ大さじ2 おろしショウガ小さじ1
タバスコ4滴
セレステ大さじ4
仕上げ用ゴマ油大さじ1~2
■作り方
①ラム薄切り肉にゴマ油をまぶしてほぐし、くっつかないようにしておく。
②常温のテフロンパンにラムを並べ、塩・黒こしょうをして、強火をかけ、「そのままいじらずに」片面にしっかりと焼き目がついたところで、竹の子・ピーマン・玉ねぎを入れて、共に炒める。
③肉全体に火が入り、玉ねぎが透き通った位で、④のソースを入れてからめる。
④ソースからの芳ばしさが出たところで火を止め、仕上げのゴマ油をかけ、からめてから盛り付ける。
伊藤 博之(いとう ひろゆき)
「わいん厨房たるたる」オーナーソムリエ兼シェフ。埼玉県生まれ。芝浦工業大学工業化学科卒業後、素材メーカーに研究者として勤務するが、フランス出張をきっかけにワインに目覚め、2000年 銀座に「たるたる」を開店。ソムリエ協会認定ソムリエ。共著に『男と女のワイン術』 『男と女のワイン術 2杯目 グッとくる家飲み編』/日本経済新聞出版社弟1作は啓文堂書店2015年新書大賞。そして八重洲ブックセンター2015年新書売上部数年間第一位を獲得。
伊藤 博之さんのご著書
ともに日本経済新聞出版社
今回ご紹介したワイン
セレステ・クリアンサ
/ トーレス
(スペイン リベラ・デル・ドゥエロ)
3,000 円 (3,240 円 税込)
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