中世フランスで、ブルゴーニュ最高のワインと讃えられていた由緒正しいヴォルネイ。現代ではコート・ド・ニュイの台頭で影が薄くなっていますが、実は、歴史ある名門ドメーヌがひしめく村として知られています。
そんなヴォルネイ村で生まれ育ったニコラ・ロシニョール氏は10代でワイン造りの世界に飛び込み、1代にしてコート・ド・ボーヌ最高峰の生産者の一人と言われるまでに昇り詰めました。
今回はブルゴーニュ担当バイヤー堤に、ドメーヌ・ニコラ・ロシニョールの魅力を語ってもらいます。
ニコラ・ロシニョールへの想い
【プロフィール】堤俊豪
資格:調理師免許、WSET Level3 Award Wines and Spirits
商品部所属、ブルゴーニュ購買担当。入社後7年間は、北京、上海、香港、台湾にてエノテカの国際事業に携わる。海外勤務をきっかけに、現地の食材を使った料理とワインと楽しむことが趣味に。週末はワインを楽しみながら、合わせる一品を作ることに試行錯誤している。
―それでは早速ですが、ニコラ・ロシニョールについて簡単に教えてください。
ニコラ・ロシニョールは、1997年にヴォルネイ村に設立された比較的若いドメーヌです。
元々ロシニョール家は数世代に渡ってヴォルネイ村でブドウ栽培やワイン造りをしていましたが、現当主ニコラさんの父親の代まではほとんどを大手ネゴシアンなどに売っていました。それを見ていたニコラさんは、自分たちでワインを造って販売すれば何かもっと良い表現ができるのではないかと漠然と思っていたそうです。
そこで10代でワインの世界に飛び込み、23歳の時にニコラさん自身の名前で始めたワイナリーがドメーヌ・ニコラ・ロシニョールです。ですので、父の代のラベルもあったようですがほとんど出回っていなく、実質的には1代目の新生ドメーヌになります。
ニコラさんがドメーヌを始めて今年で24年目。2000年後半ぐらいから将来のヴォルネイを担っていく生産者と言われていましたが、最近は評価誌で「コート・ド・ボーヌ最高峰生産者の1人」なんて評価される、素晴らしい品質を備えたヴォルネイの生産者になりました。
―エノテカではいつごろから取り扱っているんですか?
2000年からです。当時、エノテカとしてブルゴーニュワインの取り扱いを強化していく中で、ヴォルネイとポマールのスペシャリストということでアプローチをしたそうです。
―評価を獲得する以前のかなり早い時期ですね。ヴォルネイというと有名な生産者が多いイメージがありますが、それほど有名でなかったニコラ・ロシニョールにアプローチした理由は何ですか?
もちろん試飲してみて良かったというのはありますが、名門の多いヴォルネイ村で有名な生産者は、既に日本の輸入業者が決まっていて難しかった。そこで若いニコラさんがやっていて、今後伸びてくるかも知れないという所に期待を持ったということもあると思います。
ブルゴーニュは一人がワインを30年仕込めたらラッキーと言われる世界なのですが、彼のキャリアを考えると40年以上いける可能性があります。94年に初めてワインを仕込んだので今年で27年目ですが、まだ46歳ですから。
ブルゴーニュに同じように若いころからワイン造りを始めて、80代までワイン造りに関わっていた伝説的な生産者がいましたけど、ニコラさんもそうなるかもしれないと思っています。専門誌でもよく名前が挙がるようになってきましたが、彼は実質1代目ですし。
―なるほど、将来性を感じたわけですね。
目指しているのはいつ飲んでも美味しいワイン
―ニコラ・ロシニョールはどんなワインを造っているのですか?
ヴォルネイやポマールといったコート・ド・ボーヌの赤ワインに特化していて、とてもエレガントでブドウの旨味をそのまま楽しめるようなピュアなワインを造っています。
昔は濃厚なワインを造っていた時期もあって、スタイルは少しずつ変化しているのですが、ニコラさんとしては変わらず「すぐに飲んでも美味しいし、熟成も出来るワイン」を目指しています。
本人に聞くと昔のブルゴーニュは20年~30年熟成させてから飲むという前提があったので、造りたては酸味やタンニンが強いワインが多かったそうです。でも自分が若いころにそんな酸っぱいワインを飲んでも美味しいと思えなかったし、熟成したワインがなければ飲むことは出来ないので、すぐに飲んでも美味しいワインを造ろうと思ったとか。
それで当初は抽出が強くて濃厚な果実味と新樽由来の甘い香りのあるワインを造っていたけれど、グレートヴィンテージだった2002年に凄く高品質なブドウが手に入ったのが転機になって、良いブドウを使えば手を加えないでも良いワインが出来ることや良い熟成ができるワインは酸やタンニン、果実味などの要素の強さではなく、バランスが取れているワインだということに気づいたそうです。
それから徐々にエレガントでピュアなスタイルに変わってきました。今ではヴィンテージの個性の中で、バランスが取れたエレガントなワインというのが彼の求めている理想のスタイルだと思います。
なんでも体当たりでチャレンジして成功も失敗も吸収していく人なので、きっと今後ももっと美味しくなりますよ。
―確かになんとなく濃いイメージがありましたが、さきほどテイスティングした2017年は色調からして淡くてとても繊細なスタイルで驚きました。
そうなんです。とても透明感があってピュアですよね。
ヴォルネイにある醸造所が手狭になったため、2011年からドミニク・ラフォンやバンジャマン・ルルーといった生産者たちと大きな施設を間借りしてワインを造っていたのですが、2016年に自分の醸造所を建設して、ようやく自分の理想に近いワインを造れるようになったのが2017年からだと言っていました。過去にニコラ・ロシニョールのワインを飲んだことのある人が、2017年を飲むとその違いに驚くと思います。
―初めて知りました。名だたる生産者と同じ醸造所でやっていたのですね。
バンジャマン・ルルーとは昔から仲が良いそうです。ラフォン家の子供たちも研修に受け入れていたり、キャリアが長いし兄貴肌で顔が広いので、若手のリーダー的な存在になっているみたいです。
進化する期待の造り手
―堤バイヤーの記憶に残る1本を教えてください。
難しいですね……。2008年のサヴィニー・レ・ボーヌでしょうか。
当時は国際事業部で上海にいたのですが、価格に対しての品質が凄く良いと感じていて、ある時、普段は5大シャトーやブルゴーニュの特級を買うような富裕層の方に勧めてみました。
すると大変気に入ってくださって、「これいくら?凄いね。こういう普段から飲めるワインをもっと買いたい!」なんて喜ばれて、結局60本くらいまとめ買いされて行かれたのが記憶に残っています。
私からするとサヴィニー・レ・ボーヌも毎日飲むには高いですけどね(笑)
その時にニコラ・ロシニョールはこれからもっと良くなっていく可能性もあるし、手の届く価格帯のブルゴーニュとしてはとても魅力的なんじゃないかと思いました。もちろん当時は現在ほどエレガントなスタイルではなかったのですが、年々その魅力が高まっていると思います。
―それでは最後になりますが、堤バイヤーにとってニコラ・ロシニョールとはどんな生産者ですか?
毎年飲みたいと思える期待の造り手です。本当に年々進化していて、どんどん美味しくなっています。
特に2017年のヴォルネイ プルミエ・クリュ クロ・デ・ザングレがとても良かったので、次のヴィンテージが今から楽しみです。飲んだことのない人にはもちろん、ある人にも2017年ヴィンテージは試してほしいと思います。
進化するニコラ・ロシニョールを毎年飲むのが楽しみだという堤バイヤー。いつ飲んでも美味しいピュアなワインを造るニコラ・ロシニョールの魅力を語ってくれました。コート・ド・ニュイも良いですが、たまにはコート・ド・ボーヌの赤も飲んでみようかなという時はぜひ試してみてください。
堤バイヤー、ありがとうございました!
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