地中海の南端に位置するシチリアは、イタリア最大の島でありながら、多様な気候と土壌に恵まれたワインの宝庫です。
太陽の光をたっぷり浴びて育つブドウは、果実味豊かで個性あふれる味わいに。赤ワインから白ワイン、さらには甘口ワインまで、島のさまざまな環境が多彩なワインを生み出します。
この記事では、シチリアワインの特徴や主要な品種、注目すべき産地、豆知識、そして料理とのペアリングまで、知っておきたい情報をソムリエの解説付きで詳しくご説明します。
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解説してくれるのは、田邉公一さん
J.S.A 認定ソムリエ 飲と食の様々な可能性を拡げていく活動をしています。 2003 年 J.S.A 認定ソムリエ資格取得 2007 年 ルイーズ・ポメリー ソムリエコンクール優勝 2018 年 SAKE DIPLOMA INTERNATIONAL 資格取得 著書『ワインを楽しむ 人気ソムリエが教えるワインセレクト法』(マイナビ出版)2023 年 12 月発売 2025年10月に新著 「THE STUDY OF WINE」 を出版 映画「シグナチャー 〜日本を世界の銘醸地に〜」にソムリエ役として出演 オリジナル日本酒「几鏡 by Koichi Tanabe」を2024年よりリリース X(旧Twitter):@tanabe_duvin Instagram:@koichi_wine
ワイン産地としてのシチリアってどんなところ?
地中海の中央に位置するシチリアは、古くから多くの文明が行き交ってきた土地で、その歴史はワイン史においても重要な役割を担ってきました。
中東原産のヴィティス・ヴィニフェラ種(カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなど)は、ギリシャを経てシチリアに伝わり、古代ローマ帝国の拡大とともにヨーロッパ各地へと広がっていったと考えられています。
第二次世界大戦後の高度経済成長期には、シチリアはバルクワインの一大供給地として発展しました。巨大タンクで管理されたワインは、有名ブランドによって飲みやすいスタイルに仕上げられ、国内外の市場で注目を集めるようになります。
1990年代後半になると、高品質なワイン造りを志向する中規模ワイナリーが次々と登場。これをきっかけに、世界的なシチリアワインブームが起こりました。2000年以降は、国際品種や画一的なスタイルから離れ、土地の個性を大切にしたテロワール重視のワインが主流となっています。現在では、ヴェネト州やプーリア州と並ぶイタリア屈指の大産地として知られています。
島の南部は北アフリカに近く、アフリカから吹き込む「シロッコ」と呼ばれる南風の影響を受けます。この風は熱気とともにサハラ砂漠の砂を運び、シチリアの一部にはアフリカに似た気候風土をもたらしています。
夏は暑く、冬は温暖で乾燥した地中海性気候に恵まれ、ブドウ栽培に理想的な環境です。石灰質土壌、鉄分を含む赤色土壌、火山性土壌など土壌の多様性も高く、シチリアは非常に表情豊かなテロワールを持つワイン産地といえるでしょう。
ソムリエ解説!シチリアのワイン造りの特徴とは?
シチリア州はイタリア最南端に位置しており、イタリア最大の州であり、地中海最大の島であるシチリア島をはじめ、エオリエ諸島やエガディ諸島、パンテレッリア島なども含んでいます。 丘陵地帯が多く全体の約60%を占め、地中海性気候で、夏は暑く、冬も温暖で、サハラ砂漠からの風であるシロッコも吹きます。 全体的に降雨量は非常に少なく、乾燥した気候で、干ばつは深刻な問題となっていますが、アフリカ大陸から吹く熱風と海からの風が交わることで病害が少なく、有機栽培が発達しやすい環境が整っているのも特徴です。 この恵まれた環境から、シチリアでは幅広いタイプの魅力的なワインが造られます。赤ワイン造りにおいては、島を代表するブドウ品種ネロ・ダヴォラから、芳醇なアロマと豊かな果実味をもつ赤ワインが造られています。 一方、エトナでは火山性土壌の畑で育つネレッロ・マスカレーゼとネレッロ・カップッチョから、エレガントで瑞々しい味わいの赤ワインが生まれます。 白ワインは、カタラットやカリカンテなどの土着品種で造られる爽やかな辛口タイプが主流ですが、パンテッレリア島のジビッボ(モスカート)から造られる甘口ワインも有名です。その他にも、世界四大酒精強化ワインに数えられるマルサラも世界的な注目を浴びています。
栽培されている主なブドウ品種
シチリアで栽培されている主なブドウ品種を紹介します。
カタラット
カタラットは、シチリアを代表する土着の白ブドウ品種です。
温暖で乾燥した気候に適応しやすく、爽やかな酸味と穏やかな果実味が特徴。レモンや青りんご、ハーブを思わせる香りを持ち、軽快で食事に合わせやすい白ワインが造られます。
近年は品質重視の造りにより、シチリアのテロワールを表現する品種として再評価されています。
田邉さんおすすめワイン カルタ・ドーロ / ラッロ
ラッロは1860年創業の長い歴史をもつシチリアの著名なワイナリーです。こちらの白ワインは、1996年から造られているラッロの中でもロングセラーの一つで、カタラットというシチリアの固有品種から造られています。 フローラルなアロマとフルーティーな味わいが特徴で、シチリアの白ワインを体験してみたいという方にもおすすめの1本です。
ネロ・ダヴォラ
ネロ・ダーヴォラは、シチリアで最も広く栽培されている黒ブドウ品種で、高品質な赤ワインを生み出します。
シチリア島を代表する品種として知られていますが、西に浮かぶサルデーニャ島でも栽培されており、「カラブレーゼ」という別名でも呼ばれています。
味わいは新世界産のシラーズに例えられることが多く、黒系果実やスパイスの香りが豊か。熟したタンニンのなめらかな甘みとコクが特徴です。
果実味を前面に出した親しみやすい早飲みタイプから、しっかりとした骨格を持つ長期熟成向きのワインまで、幅広いスタイルが造られています。
田邉さんおすすめワイン ベヌアーラ / クズマーノ
クズマーノは2000年に設立された新しいワイナリーですが、シチリア最高峰の生産者の一つとして高い評価を受けています。 私自身、21年前にクズマーノのワインを初めて飲んでその素晴らしさに驚き、それ以来、レストランでもオンリストしてきた経験があります。 こちらのワインは、シチリアの土着品種ネロ・ダヴォラをベースにシラーをブレンドし、それぞれのブドウ品種の個性を表現しつつ、見事に調和が取れたワインに仕上がっています。 ベヌアーラという名前は、ラベルにも描かれている地中海の地域特有の小さな赤い花に由来しています。
ネレッロ・マスカレーゼ
ネレッロ・マスカレーゼは、ネロ・ダーヴォラに次いで多く栽培されている黒ブドウ品種です。エトナ山を代表する赤品種として知られ、州都パレルモ周辺や、考古遺跡で名高いアグリジェント地方でも栽培されています。
色調は淡いものの、赤系果実の華やかな香り、きめ細かなタンニン、そしてエレガントな酸を備えた気品ある味わいが特徴です。
長期熟成にも耐えるポテンシャルを持ち、近年ではその洗練されたスタイルから、ブルゴーニュのピノ・ノワールに通じる品種として注目を集めています。
田邉さんおすすめワイン エトナ・ロッソ / テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレ
エトナを「地中海のブルゴーニュ」と位置付け、大活躍を続ける生産者、テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレ。 こちらはエントリーレベルでありながらも、最高50年の樹齢を誇るネレッロ・マスカレーゼ主体で造る赤ワインです。 土地の個性を表現しつつ、非常にエレガントなスタイルに仕上がっています。私自身、この生産者のワインをレストランやスクールの講座で何度もお出ししてきました。赤から紫のベリーフルーツのアロマと風味、緻密なタンニンと美しい酸のバランスが秀逸で、テロワールのニュアンスが表現されつつ、ブルゴーニュを彷彿とさせる個性も感じます。
ソムリエ解説!固有品種が多いのはなぜ?
シチリアは地中海の中心に位置していることで、古代からさまざまな文明の十字路となり、いくつもの民族、文明がこの島を拠点としてきました。そして、この地を支配していた民族、文明の影響を受けて、それらを受け入れながら、独自の文化を形成してきたという背景をもっています。 固有のブドウ品種が多いことも、地中海交易の要衝として多くの文明が交差した歴史に由来しています。 古代ギリシア人は島にワイン文化を持ち込み、土着品種の基盤を築きました。その後もフェニキア人、ローマ帝国、アラブ勢力など多様な支配者が往来し、それぞれが異なる栽培技術やブドウを持ち込み、ブドウ品種は自然交雑や選抜を経て独自なスタイルに発展してきたと言われています。 また、島の地形の多様性も大きな特徴で、山岳地帯、海岸部、高地といった変化に富む環境がブドウの分化を促し、それぞれの地域に適応した固有品種が生き残ったと考えられます。 こうした歴史と環境が重なり、多彩で個性的な固有品種が多く存在する結果となっています。
知っておきたい有名産地
多様な気候と土壌を持つシチリアの産地の特徴を解説します。
エトナ
エトナは、シチリア島中東部に位置するエトナ火山を囲むように広がるワイン産地です。標高300〜1,200mの高地に畑が広がり、シチリアの中でも冷涼な気候を持つため、酸のあるフレッシュなワインが生まれます。火山性土壌由来のミネラル感も大きな特徴です。
白ワインは主にカッリカンテを主体に造られ、シャープな酸味と引き締まった味わいが魅力。熟成によって、リースリングを思わせるエレガントな表情を見せます。
赤ワインは品種によって個性が異なります。ネレッロ・マスカレーゼは淡い色調ながら、フレッシュな酸と繊細なタンニンを備えた上品なスタイル。ネレッロ・カップッチョは、より柔らかく丸みのある味わいに仕上がります。
なかでもネレッロ・マスカレーゼは、ピノ・ノワールに通じるエレガンスから、世界的に注目を集めています。
ソムリエ解説!エトナのワインが注目されているのはなぜ?
シチリアの東部に位置するエトナ山は活火山であり、火山性の土壌と地中海性気候に由来する独特のテロワールの特徴が、ワインの個性にもしっかりと現れています。 火山灰や溶岩由来の土壌は水はけが良く、ミネラル分を豊富に含み、ブドウに複雑な香味をもたらします。また、標高300~1,200mの高地へと畑が広がっており、シチリアの中では比較的涼しい気候帯に位置し、豊かな果実味と共に爽やかさと瑞々しさも感じるスタイルが主流となっています。 それでありながらも、長期熟成により発展していくワインも多く存在しています。主力となるブドウ品種として、黒ブドウのネレッロ・マスカレーゼ、白ブドウのカッリカンテの存在は大きく、個性的でありながらも繊細さを合わせもち、国際的にも高く評価されています。 近年さらに、特徴的なテロワールの表現を重視した高品質ワインが次々に登場し、自然で、土地の個性が表現された、フードフレンドリーなワインという、今求められている要素を多く含んでいることが、世界的な注目を集めている理由だと考えられます。
マルサラ
マルサラは、シチリア島西端で造られるイタリアを代表する酒精強化ワインで、世界4大酒精強化ワインのひとつに数えられます。香ばしいカラメルやナッツ、木樽由来の深く芳醇な香りが特徴で、独特のコクと奥行きのある味わいを持ちます。
1773年、イギリス商人ジョン・ウッドハウスによって発展し、世界へと広まりました。イギリス海軍のネルソン提督や、イタリア統一に貢献したジュゼッペ・ガリバルディが愛したワインとしても知られています。
マルサラは色調によって、黄金色のオーロ(Oro)、琥珀色のアンブラ(Ambra)、ルビー色の**ルビーノ(Rubino)**に分類され、さらに残糖量や製法、熟成期間によって細かくタイプが分けられています。
かつては料理酒としての利用が主流でしたが、近年は品質が大きく向上し、単体でも楽しめる繊細で複雑なマルサラが再評価されています。
シチリアワイン豆知識
シチリアワインの豆知識を田邉さんに聞いてみました!
ソムリエ解説!シチリアは「島」というより「小さな大陸」?
シチリアは地中海最大の島であり、その広大さと地形の多様性をもつことから、「島」というより「小さな大陸」と考えたほうが適切であるとも言われています。 丘陵地帯が多く、全体の61.4%を占め、山岳地帯が24.5%、平野は14.1%で、海抜レベルの畑から、標高1,200mの高地に位置する畑まで広がり、土壌は、白い石灰質、鉄分を含んだ赤い土壌、そして火山性土壌など多様に存在します。 島の南西部はアフリカの影響を受けて非常に暑く、サハラ砂漠からの風であるシロッコも吹き、ティレニア海に面している北部の海岸沿いは、暑さが幾分穏やかで、地中海性気候らしく、全体的に降雨量が少ないのが特徴です。 このように、さまざまな地形、多様な土壌、標高差の違い、そして長い歴史による固有品種の適地への広がり等、シチリアには、一つの島とは思えないほど、多彩なテロワールが存在しているのです。
ソムリエ解説!シチリアはオーガニックワインが多い?
シチリアは地中海性気候による豊富な日照量と乾燥した気候、絶え間なく吹く風により、カビや腐敗による病気が最小限に抑えられ、病害虫の発生も少ないことから、農薬などの化学物質も抑えることができ、オーガニック栽培に非常に適した産地とされています。 この自然条件に加えて、伝統的に小規模農家が多く、土地への敬意や自然な栽培観が根付いていたことも追い風となり、近年はさらに多くの生産者がオーガニックへ移行しているとの話もあります。 恵まれた自然条件と生産者の意識の高まりが重なり、シチリアは今やオーガニックワインの宝庫としても注目され、イタリア国内においてオーガニック認証面積が最大級のワイン産地となっており、イタリア全土の実に約38%のオーガニックワインを造る、聖地とも言える存在となっています。
シチリアワインにピッタリの料理
シチリアのワインにピッタリな、田邉さんおすすめの料理をご紹介します。
ソムリエ解説!白ワインに合う料理は?
シチリアの白ワインは、カタラットやインツォリア、カッリカンテなどから造られる、フローラルで爽やか、ドライなスタイルが主流で、地中海エリアを連想するお野菜やシーフードを使ったお料理との相性が抜群です。 フランスのラタトゥイユに似たお料理として、シチリアの有名な料理であるカポナータがありますが、こちらはトマトやナスなどの野菜の煮込み料理で、野菜の風味とワインの果実感、酸味、ミネラル感が調和して、とても良く合います。 シチリアでもよく食べられるイワシを使ったお料理と合わせるのもおすすめです。オイルサーディンやイワシとアンチョビのパスタに、レモンやハーブを添えたお料理とシチリアの白ワインは、風味や酸味、独特の心地よい苦味も同調し、料理とワイン双方の味わいがより豊かに広がります。
ソムリエ解説!赤ワインに合う料理は?
シチリアの赤ワインは、ネロ・ダヴォラから造られた、果実味豊かでしっかりとした味わいをもつタイプから、ネレッロ・マスカレーゼを主体にして造られるエトナ・ロッソのような、スモーキーさと共に華やかさと繊細さも併せもつスタイルが存在します。 ネロ・ダヴォラ主体の赤ワインには、スパイスを効かせたポークグリルにパプリカやトマトを添えたお料理がおすすめです。ワインの風味と緻密なタンニンが、肉の旨味を引き出し、スパイスや野菜の味わいにも同調します。 一方、エトナ・ロッソには、シチリアでも有名なマグロを使った料理をおすすめします。マグロを軽く炙って香ばしさを加えることで、ワインのスモーキーさと同調し、マグロの独特の風味とワインのもつ風味もよく合います。 付け合わせとしてトマトソースをかけたクスクスを添えて一緒にいただくことで、郷土性も高めることができ、より一層美味しくお召し上がりいただけます。
まとめ
シチリアワインは、太陽と海、標高差のある地形、火山性土壌など、島ならではの環境が生み出す個性が魅力です。
ネロ・ダーヴォラやカタラットなどの代表的な品種を知ることで、赤・白・甘口と幅広いスタイルの違いを楽しめます。
また、地中海の食材と相性が良く、日常の食卓にも寄り添うワインです。シチリアのワインを知ることで、味わいだけでなく、島の歴史や風土まで感じることができるでしょう。
初めての方も、ワイン好きの方も、ぜひシチリアワインの奥深い魅力を体験してみてください。
シチリアのワイン一覧はこちら
文=岡本名央