醸造責任者が語る、キャリア史上最高傑作のシャトー・ムートンとは?

お気に入り追加

レポート
公開日 : 2019.6.11
更新日 : 2019.6.18
シェアする
ワイン・アドヴォケイト誌(パーカーポイント)にて、100点満点を獲得した超優良年、2016年のシャトー・ムートン・ロスチャイルドを引っ提げて、ワインメーカーのフィリップ・ダルーアン氏が来日。
フィリップ氏は、格付け第1級のシャトー・ムートン・ロスチャイルドだけでなく、同じくバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドが所有するポイヤックの5級シャトー・クレール・ミロン、ダルマイヤックに加え、カリフォルニアのオーパス・ワン、チリのアルマヴィーヴァまで監修するシャトーワインの最高責任者でもあります。
彼のキャリアの中でも最高のヴィンテージという2016年のシャトー・ムートン・ロスチャイルドについて、また自身のキャリアについて語っていただきました。
目次

ヘッドハントされてムートンへ

1957年生まれのフィリップ・ダルーアン氏。ボルドー大学の醸造過程を修めた後の最初の就職先は、大西洋を渡った先、南米ペルー最大のワイナリー、タカマ・エステートだったそうです。
「タカマ・エステートではボルドーワインの権威、エミール・ペイノー氏もコンサルタントを務めており、彼のもとで学びたいと思っていました。そしてペルーでは本当に色々なブドウを扱うことができました。カベルネ、シュナン・ブラン、様々な地ブドウ・・それにピスコ(注1)も造っていました。それにペルーは料理も美味しく、とても恵まれた環境でした。」
(注1)南米の蒸留酒
タカマ・エステートはペルー最高峰のワイナリーとして知られており、そのワインはイギリスの首相をもてなすレセプションでも使用されるほどだったそうです。ここで醸造責任者に抜擢されたものの、その後、家庭の事情でボルドーへ帰ることになったフィリップ氏。
その後はサン・ジュリアン最大級の規模のシャトー・ボーモン、そして格付け第4級のシャトー・ブラネール・デュクリュを経た後、2004年にシャトー・ムートン・ロスチャイルドの醸造責任者に就任しました。
シャトー・ムートンに移ることになったきっかけを尋ねたところ、
「理由は簡単ですよ。バロネス・フィリピーヌ・ド・ロスチャイルド(当時のオーナー)にヘッドハントされたんです。バロネスとはそれまでヴィネクスポで1度会ったくらいだったので、驚きました。」
当時シャトー・ブラネール・デュクリュの品質向上の目覚ましさは日本でも話題になっていたほど。ワインメーカーとしてのフィリップ氏の手腕が認められての大抜擢だったのでしょう。

ようやくOKが出たシャトー・ムートンの新セラー建設

2004年にシャトー・ムートン・ロスチャイルドの醸造責任者となったフィリップ・ダルーアン氏。以降15年間にわたり数々の改革を行いワインの品質向上に努めてきました。中でもフィリップ氏の印象に残っている改革は何か聞いてみました。
「ありとあらゆることをやったから答えるのは難しいですが、やはりシャトーのセラー(醸造施設)を一新したことが大きいですね。
特に記憶に残っているのが、2006年7月14日の革命記念日。それまで私の提案に首を横に振り続けていたバロネスが、やっとシャトーの改修にゴーサインを出した日です。この日は決して忘れられません。
2007年から行ったクレール・ミロンの新しいセラー建設が成功して、ようやくムートンのセラーに手をつけることができました。
新しいセラーではグラヴィディティシステムを導入すると共に、発酵槽をより小さな区画ごとに発酵できるよう、25基から44基に増やしました。特にグラヴィディティシステムは、果実のアロマや個性を保つのに大きな役割を果たしています。
そして2019年からは、ようやく最後のシャトー、ダルマイヤックの建築が始まりました。」

8度も100点を獲った過去最高傑作

フィリップ・ダルーアン氏の来日に合わせ、今年リリースされた最新のシャトー・ムートン・ロスチャイルド2016年のお披露目イベントが、ワインショップ・エノテカGINZA SIX店で開催されました。
「2016年は、ワイン専門誌で8回100点をとりました。実は101点を付けた評価誌もあるんです(笑)
世界で一番偉大なワインですが、特に2016年は素晴らしい。私が造った中で、過去最高のヴィンテージです。2016年は決して簡単な気候ではなく、霜が降ることもありましたが、ジロンド川のすぐそばという恵まれたテロワールのシャトー・ムートン・ロスチャイルドにその影響はありませんでした。
ワインには幾重にも折り重なるアロマとフレイヴァ―、信じられないほどの凝縮感があり、余韻は10分間ほど続きます。飲み頃になるまでできれば20年、最低でも15年は待っていただきたい1本です。」
2016年ヴィンテージのラベルを手がけたのは、南アフリカ・ヨハネスブルク出身のウィリアム・ケントリッジ氏。実は、アフリカ大陸出身者がラベルのアーティストとして選ばれるのは今回が初めて、という新時代を感じさせるアートラベルでもあります。
GINZA SIX店のお披露目イベントで供されたテイスティングワイン
今回のお披露目イベントでは、2016年のシャトー・ムートン・ロスチャイルド以外にも、フィリップ・ダルーアン氏が手がけるシャトーワインが一堂に会しました。それぞれのワインについて、フィリップ氏のコメントを簡単にご紹介します。

エール・ダルジャン 2016年

「こちらは、ボルドーでおそらく唯一マロラクティック発酵をしている白ワインです。ブルゴーニュの白ワインのように、少しだけマロラクティック発酵をすることで特別な個性が生まれます。フレッシュでトロピカルフルーツを思わせる開いた香りに、冷たい石を舐めた時のようなミネラル。偉大なブルゴーニュのシャルドネに負けない白ワインだと思っています。」

シャトー・ダルマイヤック 2016年

「この2016年は、1986年以来最もよくできたヴィンテージです。1年前にボトリングしたばかりですが、アプローチャブルですでに飲み頃です。」

シャトー・クレール・ミロン 2016年

「多くの人が“ピュア・ポイヤック”と呼ぶ典型的な1本です。ダルマイヤックよりも男性的で、鉱物を舐めたような強いミネラルを感じます。1947年に植えたカルメネールをブレンドしており、これが個性となっています。」

プティ・ムートン 2016年

「シャトー・ムートン・ロスチャイルドは区画ごとに44基の発酵槽を使って醸造しますが、44の異なるワインをテイスティングし、味わいによってどのワインをムートンにするか決めています。生産量の50%がムートン、25%がプティ・ムートンになります。ムートンのスモーキーなニュアンスも味わえます。2016年のプティ・ムートンも、これまでで最高の出来の自信作です。」

醸造責任者だけが知っているムートンの個性

最後に、フィリップ氏がシャトー・ムートンの偉大さを感じる瞬間について尋ねてみました。
「様々なシャトーを経験してきましたが、普通最上級の区画は、あっても全体の2割ほど。ムートンのすごいところは、畑の8割以上が最上級の区画であること。並外れたクオリティのブドウを収穫することができます。
また、ムートンには“burned wood 燃やした木”のような一貫したスモーキーなフレーヴァーがあります。これは多くの人が樽熟成由来のものだと思っていますが、実は樽熟成前、ブドウを48時間発酵させた直後に香る、ムートンのブドウがもつオリジナルな香りです。この一貫した特徴は、ムートンならではの個性だと思います。」
インタビューでは、2013年の収穫のエピソード(収穫時に嵐が来てしまい、社員も総動員して最多の700名で収穫をしたそう!)などの思い出話も話しながら、終始穏やかな笑顔で質問に答えてくださったフィリップ氏。
年に数回はカリフォルニアのオーパス・ワンに行ってテイスティングを重ねるなど、多忙を極める最高責任者とは思えない、穏やかで謙虚な人柄に驚かされました。そしてこの人柄こそが、偉大なテロワールを表現するワインメーカーとしての最も大切な資質なのかもしれません。
そんな控えめなフィリップ・ダルーアン氏が「過去最高傑作」と自信を見せる2016年のシャトー・ムートン・ロスチャイルド。全てのワインラヴァーにとって見逃せないマスターピースとなりそうです。
シャトー・ムートン・ロスチャイルドについて詳しくはこちら
この記事をシェア

公式SNS・APP

最新情報やワインの読み物を 毎週お届けします

line お友達登録

お買い物に便利! アプリ限定クーポンも随時配信

公式アプリ

ストップ!20歳未満飲酒・飲酒運転。
妊娠中及び授乳中の飲酒は、胎児・乳児の発育に悪影響を与える恐れがあります。

ほどよく、楽しく、良いお酒。のんだあとはリサイクル。

エノテカ株式会社はアサヒグループです。