今のうちにマルサネを!見直したいブルゴーニュのアペラシオン

ワイングラス

ここ数年、ブルゴーニュ・ワインの価格高騰が続いている。

新興国のワイン愛好家たちがボルドーからブルゴーニュへ興味の対象を広げてきたことに加え、霜や雹の被害で生産量が減少。需給バランスが大きく崩れてしまった。

著名なドメーヌものになると、村名ジュヴレ・シャンベルタンでさえ1万円超え。ひと昔前のプルミエ・クリュの価格である。

そのようなブルゴーニュにあって、見直したいのがマイナーなアペラシオン。コート・ド・ニュイならマルサネやフィサン、コート・ド・ニュイ・ヴィラージュ、コート・ド・ボーヌならサン・ロマン、モンテリー、サントネイなどなど。

今回はその中からマルサネについて掘り下げてみよう。

村名アペラシオンとしては遅咲きのマルサネ

ブルゴーニュ畑

ブルゴーニュ地方の中心都市ディジョンから、通称ボーヌ街道と呼ばれる県道974号線を南に下ると、最初に登場する村名アペラシオンがマルサネ。マルサネ・ラ・コート村とその北に隣接するシュノーヴ村の一部、それに南のクシェイ村から成り立つ。ディジョンの中心部からマルサネ・ラ・コートまでおよそ8キロの距離だが、市街地化の波はこのあたりまで押し寄せている。

マルサネが村名アペラシオンに昇格したのは1987年と比較的新しい。南隣の小さなフィサンでさえ、1936年から村名アペラシオンのステータスを誇るにもかかわらず、それまではブルゴーニュ・ド・マルサネと呼ばれる地理的名称付きのブルゴーニュACにすぎなかったのだ。

マルサネは大都市ディジョンに近いことがかえって仇となった。その昔、ここにはピノ・ノワールよりもガメイが多く植えられ、ディジョン市民の喉を潤す安酒の供給地として重宝がられたという。他の村と比べてひと際立派なマルサネ・ラ・コート村の教会が、当時の繁栄ぶりを物語る。

ところが19世紀末になって鉄道網が整備されると、南フランスや北アフリカからより安価なワインが流入。マルサネのワインは売り先を失ってしまう。そして起死回生を図るべく、1919年にこの村の大ドメーヌ、クレール・ダユのジョゼフ・クレールが発明したのが、ピノ・ノワールから造られるマルサネ・ロゼ。当時、マルサネでもピノ・ノワールが栽培されていなかったわけではない。しかし、ピノ・ノワールから造られたマルサネの赤ワインに興味を示すネゴシアンがいなかった。かくしてマルサネの栽培農家はガメイをピノ・ノワールに植え替え、ロゼワインをせっせと造り始めたのである。

テロワールは秀逸なのにマイナーな存在

ブルゴーニュ畑

ジャスパー・モリスMWが著書で述べているとおり、マルサネで真に価値のあるワインは赤であり、今日、このアペラシオンの7割近くを赤ワインが占めている。斜面の傾斜こそ比較的緩やかなものの、土壌構成はコート・ド・ニュイの他の銘醸地と少しも変わらないのだから当然だ。

マルサネ・ラ・コート村とクシェイ村の斜面中腹には、シャンベルタンやクロ・ド・ベーズの下部と同じ、バジョシアンのウミユリ石灰岩の層が南北に伸び、「ル・ボヴァン」、「レ・グラス・テット」、「ル・クロ・ド・ジュ」といったクリマ(注1)が並ぶ。マルサネ・ラ・コート村の北側斜面に位置する「ロンジュロワ」の中心部はバトニアンのプレモー石灰岩で、これはマジ・シャンベルタンと同じ土壌である。シュノーヴ村の「クロ・デュ・ロワ」はコンブランシアン石灰岩の上を、グレーズ・リテと呼ばれる氷河期の寒さで砕けた石灰岩の欠片が積もっている。これはヴォギュエがミュジニー・ブラン用にシャルドネを植えている区画と同じ土壌で、ひょっとすると白向きのクリマかもしれない。

このような優れたテロワールを持ちながら、歴史的な背景から村名アペラシオンの制定が遅れ、コート・ド・ニュイの村名アペラシオンで唯一、グラン・クリュはおろか、プルミエ・クリュさえ存在しないマルサネ。それゆえに軽んじられてきた面は否めない。知名度が低いから高く売れず、高く売れないから手をかけられないという、他のマイナーなアペラシオンと同じ、負のスパイラルに陥っていった。

(注1)細分化された区画畑

目指すはプルミエ・クリュの制定

ピノ・ノワール

ところが21世紀に入って以降、その状況にも変化が生じている。ドニ・モルテシャルロパンジャンテ・パンショなど、近隣の有名ドメーヌが割安なマルサネの畑を手に入れて優れたワインを醸造。その動きと並行し、シルヴァン・パタイユ、ローラン・フルニエ(ドメーヌ・ジャン・フルニエ)、シリル・オードワン(ドメーヌ・シャルル・オードワン)など、地元の次世代を担う造り手たちが、マルサネの復権を目指して秀逸なワインを生み出しているのだ。

さらに地元の若手を中心に、「マルサネにもプルミエ・クリュを!」との声が上がり、INAO(国立原産地呼称機関)に申請を開始。地質学者のフランソワーズ・ヴァニエ・プティにテロワールの分析を依頼し、それを元にプルミエ・クリュに相応しい下記の14のクリマが選ばれた。

  • クロ・デュ・ロワ
  • ロンジュロワ
  • アン・ラ・モンターニュ
  • レ・ゼシェゾー
  • ラ・シャルム・オー・プレートル
  • ル・ボワヴァン
  • レ・グラス・テット
  • ル・クロ・ド・ジュ
  • サン・ジャックの一部
  • レ・ファヴィエール
  • オー・シャン・サロモン
  • オー・ジュヌリエール
  • エス・クロ
  • シャン・ペルドリ

マルサネを楽しむなら今!

87年の村名アペラシオン昇格に20年かかったので、今回のプルミエ・クリュ制定にも同じ年月がかかるとすれば、マルサネ・プルミエ・クリュの実現は2022年頃。

プルミエ・クリュになれば、クロ・デゥ・ロワもレ・グラス・テットも値上がりは必至。比較的リーズナブルな今のうちに、マルサネを楽しんでおくのが懸命な選択だと思う。