イタリアワインの帝王が「帝王」であり続ける理由

アンジェロさんとジョヴァンニさん

(左)今年78歳とは思えない若々しさのアンジェロ・ガヤ氏と、(右)ワイナリーで働き始めてまだ6ヶ月という息子のジョヴァンニ・ガヤ氏

今年出版されたばかりのイタリアのソムリエのバイブル『ガンベロロッソ』最新2018年度版において、最高賞であるトレビッキエリの累計獲得数最大の55個を記録、イタリアのワイナリーの中で唯一の五つ星を獲得したワイナリー、ガヤ。名実ともにイタリアワイン界のトップを走り続けるイタリアワインの帝王です。

この度、現当主のアンジェロ・ガヤ氏とその息子、ジョヴァンニ・ガヤ氏が来日。アンジェロ氏へのインタビューやイベントを通じて、イタリアワインの帝王が「帝王」であり続ける理由に迫りました。

「トランプの言うことを信じるんじゃない!」

お話をするアンジェロさん

今回の来日でアンジェロ・ガヤ氏の口から一番多く出たのが「気候変動」「地球温暖化」というワード。地球温暖化を嘘だと主張するアメリカの大統領に対し「トランプの言うことを信じるんじゃない!」と、ただでさえよく通る声のヴォリュームがさらに大きくなったのも、この問題に関する話を始めた時でした。

地球温暖化による弊害で特に大きいのがワインのアルコール度数の上昇。アンジェロ氏によると、ブドウの糖度とポリフェノールが緩やかに高くなっていくのが理想の熟し方ですが、最近ではそのバランスが崩れ、糖度が早く上がってしまうという現象が起きているそうです。ブドウの糖分を酵母が分解してアルコールになるため、糖度が高くなればなるほどアルコール度数が上がってしまうという訳です。

アンジェロ氏曰く、ここ30年で、10年間に平均1%の割合でワインのアルコールが上がっているという有名誌による発表もあったそうで、ワイン業界にとって地球温暖化は非常に切実な問題であり、ガヤでは他のワイナリーに先駆けて様々な独自の取り組みを実行に移しています。

常識にとらわれない

収穫の様子

そんな中、酸とタンニン、アルコールのバランスが優れたワインを造るにはブドウの収穫のタイミングが最も重要とアンジェロ氏。そのため、ガヤでは特に収穫をする人たちに大変なコストをかけています。

実は多くのワイナリーでは、常勤で働くスタッフは数人、収穫時にだけ大量に季節労働者を雇うということがほとんど。一方、ガヤには80名ほどの常勤のスタッフがおり、1年中畑を観察し、ブドウの樹の世話をしています。そして収穫時にも季節労働者を雇うことなく、全員総出で行います。住み込みで働いているスタッフもいるそうで、特に収穫の見極めが難しいネッビオーロなど、重要な作業はその中でもベテランに任せるなど万全の態勢を期しています。

ジョヴァンニ氏によると、ガヤのワイナリーで働く人々の労働時間は通常のワイナリーと比べて4倍の多さだそうで、いかにガヤが常識にとらわれず手厚くワイン造りに取り組んでいるかが伺えます。

変化することを恐れない

カマルカンダの畑

カ・マルカンダの畑

地球温暖化に対する取り組みとしてもう一つ挙げられるのが、ワインに使用するブドウ品種(セパージュ)の変更。ガヤではブドウの過熟を防ぐためにキャノピーマネジメントを工夫する、カバークロップによって土壌を保護するなど様々な対策を講じていますが、それでも急激な気候変動に対応しきれないと判断し、ワインに使用するブドウのセパージュを一部変更するという重要な決断を下しました。

それを実行に移したのが、ガヤがトスカーナ・ボルゲリに所有するワイナリー、カ・マルカンダ。海沿いの平野にブドウ畑が広がる温暖なボルゲリでは、山岳地帯にあるピエモンテよりも地球温暖化の影響が大きく、近年では20年前の設立時より使用してきたメルロがこれまでの品質を維持できなくなる可能性が出てきました。(メルロは早熟の品種であるため、温暖化の影響を受けやすいのです)

そこで2015年ヴィンテージから、フラッグシップであるカマルカンダとマガーリどちらも、これまで主体だったメルロをブレンドから外すという大きな変更を行いました。看板ワインのセパージュを変えるということは、ワイナリーにとって大きなリスク。それでも、自分たちが考える最高品質のワインを造るために苦渋の決断を実行するところにも、常に変化を恐れない帝王の姿が垣間見えました。

おばあちゃんの教え

トークショーの様子

(左)アンジェロ・ガヤ氏と(右)GQ JAPAN編集長 鈴木正文氏

今回の来日のもう一つのハイライトは、ワインショップ・エノテカ 広尾本店で行われた、GQ JAPAN編集長 鈴木正文氏との対談。鈴木編集長は昨年ガヤのワイナリーを訪れ、GQ本誌で「いま僕はバローロ&バルバレスコに注目する」という特集を取材、執筆されており、今回の対談が実現しました。対談では鈴木編集長の「ガヤのおばあちゃんの話をしてもらえませんか。」との問いかけに、アンジェロ氏が祖母との思い出を語ってくれました。

「おばあちゃんは私が小さい頃家で宿題をしていた時に、あなたは生きている間に何がやりたいの?と聞いた。だけど私は黙っていた。

するとおばあちゃんは、あなたはアルチザン(職人)になるべき、と私に向かって言った。そしてアルチザンになるには四つのステップがある。①まずはやる、②次にどうやるかを知る、③今度はそれを他の人に教える、④最後にそれを多くの人に広める、そしてそれらをすべて自分で考えて自分のやり方でやること、そう教えてくれた。」

このアンジェロ氏の祖母の教えが、今もファミリーの大きなインスピレーションとなっているそうです。

次世代に受け継がれる帝王の哲学

ジョヴァンニさん

ジョヴァンニ・ガヤ氏

アンジェロ氏がピエモンテの畑にある一部のネッビオーロのブドウの樹を引っこ抜いてカベルネ・ソーヴィニヨンを植えてしまったというのは有名なエピソードですが、その時にアンジェロ氏の父であるジョヴァンニ・ガヤ氏はそれを反対もせず、止めもしなかったそうです。しかし実際にアンジェロ氏が実行に移した時には「ダルマージ=何て残念なことを!」と言い、これがカベルネ・ソーヴィニヨンで造ったワインの名前にもなりました。

そんなアンジェロ氏も今や3人の子供たちにワイン造りのバトンを渡す立場に。2013年にガヤがこれまでバルベラをブレンドしランゲ・ネッビオーロとしてリリースしていた単一畑のバルバレスコをネッビオーロ100%のDOCGバルバレスコとしてリリースすることを決定したのも、アンジェロ氏の娘であるガヤ・ガヤさんをはじめとする子供達からの強い希望があって実現したことでした。

アンジェロ氏にとって、ネッビオーロにバルベラをブレンドするということは古くから続くファミリーの伝統であり、当初は難色を示しましたが、祖母の教え、そして自身の経験も鑑みて受け入れることにしたそうです。

“Think Different=発想を変える”

気候変動によってこれまでのワイン造りが通用しない時代において、最高のワインを造り続けることは容易ではありません。しかし、アンジェロ氏が“Think Different=発想を変える”と表現するように、常識にとらわれることなく常に進化を続けてきたからこそ、ガヤは帝王であり続けるのでしょう。

ジョヴァンニ氏によるとガヤは昨年、シチリアのエトナに畑を購入し、新たなプロジェクトをスタートさせているそうです。次世代のガヤの活躍からも目が離せません!