「ムートン美術館物語」その5-1948年 マリー・ローランサン-

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公開日 : 2018.9.17
更新日 : 2023.7.12
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毎年、ラベルのデザインを変えることで世界的に有名なのが、ボルドー、メドック地区の1級シャトー、シャトー・ムートン・ロスチャイルド。そのラベルの絵を1つずつ紹介する。

今回は、アート・ラベルの4回目となる1948年のお話し。

目次

アート・ラベル第4号は日本で人気の高いマリー・ローランサン作

マリー・ローランサンのラベル

ムートン1948年 マリー・ローランサンのラベル

ラベルを描いたのは、フランスの女流画家で版画家、彫刻家で詩人のマリー・ローランサン(1883-1956)。最新ヴィンテージまで、70人以上いる「ムートンのラベル画家」の中で、画家としてのローランサンの知名度は日本で非常に高い。

パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、マルク・シャガールのラベル

左から、パブロ・ピカソ、サルバドール・ダリ、マルク・シャガールのラベル

すべてのムートン画家の「日本での知名度」を無理やり独断でランキングすると、圧倒的な金メダルがパブロ・ピカソ(1973年のラベルを担当)だ。続いて、サルバドール・ダリ(1958年)とマルク・シャガール(1970年)の二人が同点で銀メダル、そして4位がアンディー・ウォーホル(1975年)、5位にマリー・ローランサンで、以下、ホアン・ミロ(1969年)とキース・へリング(1988年)の二人が同点の6位か?

メルヘンチックな絵を描くローランサンは、日本で抜群の人気を誇る。ローランサンの生誕100周年となる1983年、長野県茅野市に「マリー・ローランサン美術館」が開館したほど。ここは世界で一つだけのローランサン専門の美術館であり、2011年に閉館したが、2017年に紀尾井町のホテル・ニューオータニの6階に復活した。

ローランサンとシャンソン曲「ミラボー橋」との関係

マイク

ローランサンの絵は、青白い肌の繊細でロマンチックな少女を好んで描いた。ゴーギャンの描く力強いタヒチの女性とは正反対。フランス版の竹久夢二という雰囲気がある。作風ゆえに、前年の1947年のムートン画家であるジャン・コクトーと同様、同性愛を噂された(実際は、バイ・セクシュアル)が、巨匠ピカソに、現代詩の元祖、ギヨーム・アポリネールを紹介される。ローランサン23歳、アポリネール26歳の時だ。運命的に出会った二人が急激に仲よくなったのは有名なお話し。

ちなみに、日本のカラオケのシャンソン部門で、たくさん歌われている『ミラボー橋』。その『ミラボー橋』を書いたのがアポリネールだ。

アポリネールはローランサンにぞっこんだったが、イタリア人のアポリネールが、「モナリザはイタリアの物だ」との考えに憑りつかれ、ルーブル美術館からモナリザを盗み出そうとした容疑で逮捕された(後に、無実で釈放)。ローランサンは、アポリネールのこの事件での非常識さに耐え切れず、恋心が一気に冷め、付き合って5年で絶交宣言。

それでもローランサンを忘れられないアポリネールが、なくした恋の苦しい胸の内を書いた詩が『ミラボー橋』という訳だ。ローランサンは72歳で生涯を閉じた(アポリネールは38歳)。遺言で、棺の中には赤いバラの花束と、アポリネールからもらったラブレターの束を入れたそう。携帯電話でメールを送信するのではなく、紙にインクで相手への熱い想いを綴った昔の恋愛は、これほどロマンチックだった。

三大フランス人女流画家としての地位を確立

絵筆と絵具

ローランサンがムートンのラベルに描いた絵は、ブドウと二人の少女。二人は、酒の神様、バッカスに仕える巫女さんと言われている。細面というか、キツネ顔の少女を好んで描いていたローランサンにしては、ラベルの少女のホッペタがふっくらしていて、タヌキ顔。一見天平美人風なのが面白い。

サルバドール・ダリは、第2次世界大戦の戦火を避けてニューヨークへ移住した折、アメリカの大金持ちの注文で肖像画を描き、ビジネス的に大成功した。同様に、ローランサンは、「若くて美しくてオシャレで反抗的」な女流画家として有名になり、画風が詩的でもあったため、パリのお金持ち連中から肖像画の注文が殺到した。「センスがよくてリベラル」を目指す日本の女性月刊誌が好んで取り上げる「三大フランス人女流画家」が、タマラ・ド・レンピッカ、レオノール・フィニと、ローランサンだ。

ムートンが1945年からラベルを描く画家を毎年替えて、数年でジャン・コクトーとマリー・ローランサンいう超大物を引っ張り出した。これは、ムートンのフィリップ男爵は戯曲作家であり、芸術家サロンでコクトーやローランサンと仲良しだったため。今と違い、商業アートが格下扱いを受けていた当時、トップ・プロにラベル絵を描いてもらうのは、超大物映画俳優に「焼鳥屋のオヤジ」のちょい役で友情出演してもらう感じだった。

1948年ヴィンテージについて

赤ワインが入ったグラス

ヴィンテージ的にムートン1948年はどうか?

イギリスの著名なワイン評論家、マイケル・ブロードベントは、ムートンの1947年と1949年の両方に、5つ星の評価で星6つをつけた。2つの間に挟まれたムートン1948年は、星3つ。そこそこの年だ。ウェブサイトで、世界市場での価格を検索すると、30万円~50万円ほど。同年のラフィットは、ムートンより高評価の星4つだけれど、どの国や通販サイトでも20万円前後だ。

やはり、世界中に「ムートン美術館」のコレクターが多く、価格は高止まりしている。フィリップ男爵は、芸術家ラベルがここまで人気になるとは思わなかっただろう。ダリにしろ、ローランサンにしろ、たくさんの人に支持されて人気が出るのは、アート好きの私としても、とても嬉しい。

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