「ムートン美術館物語」その4-1947年 ジャン・コクトー-

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公開日 : 2018.8.29
更新日 : 2023.7.12
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毎年、ラベルのデザインを変えることで世界的に有名なのが、ボルドー、メドック地区の1級シャトー、ムートン・ロスチャイルド。そのラベルの絵を1つずつ紹介する。

今回は、アート・ラベルの3回目となる1947年のお話しを…。

目次

アート・ラベル第3号はジャン・コクトー作

1947年のラベル

ムートン1947年 ジャン・コクトーのラベル

ラベルを描いたのは、日本の文学少女の間で有名なジャン・コクトー(1889-1963)。フランス人で、詩人、小説家、評論家、劇作家、映画監督、画家、インテリア・デザイナーと、あらゆる文学と美術に手を染め、大きな足跡を残した。

歴代のフランス人詩人の中で、世界的に最も知名度が高く、もちろん、日本でも人気だ。

代表作『貝殻の耳』

貝殻と海

コクトーの詩で、圧倒的に有名なのが『貝殻の耳』の「私の耳は貝の殻 海の響きを懐かしむ」という俳句並みに短い作品だ(原文は、「Mon oreille est un coquillage Qui aime le bruit de la mer」。

英語訳は、フランス語の完全な逐語訳の「My ear is a shell that loves the sound of the sea」で、単語を機械的に置き換えて出来上がる。フランス語と英語は物凄く似ていてズルいよなぁと思う瞬間だ。

フランス語翻訳の名手にして詩人、堀口大學の五七調の訳が見事で、コクトーの詩の繊細な美しさと相まって、日本の文学少女の永遠の御用達の詩になった。

文学だけでなく映画人としても才能を発揮

本とノート

多才なコクトーは、文学だけでなく12本の映画に関わり、そのうち『美女と野獣』をはじめ、7本の監督をした。中でも、世界的大ヒットは、40歳で自身が書いた中編小説、『アンファン・テリブル(恐るべき子供たち)』を自身でメガフォンを取り映画化した作品だ。

この映画のタイトル、「アンファン・テリブル(Les Enfants Terribles)」は、国語辞典にも載っている言葉で、「子供ゆえの無邪気さと残忍さがあり、大人の脅威となる早熟で非凡な子供」の意味。良い意味でも、悪い意味でも使う。『恐るべき子供たち』はいろいろな人を魅了するようで、1979年には漫画家、萩尾望都が『月刊セブンティーン』で短期連載した。

アート・ラベルを手掛けるきっかけ

劇場

1945年からムートンがラベルを描く画家を毎年替えてから3年目で、ジャン・コクトーという超大物を引っ張り出せたのには訳がある。ムートンのフィリップ男爵は根っからの文芸作家で戯曲も書いており、芸術家サロンでコクトーとは仲の良いお友達だったため、仲間のよしみでコクトーにラベルの絵を描いてもらったと思われる。

超大物の絵なのに、シャトー・ムートン内にある「ワイン美術館」には、コクトーの原画はない。

1962年にワイン美術館ができるまで、保管がテキトーだったので、紛失したらしい。美術館ができて1945年からのラベルの原画をすべて展示しているのに、コクトーの1947年だけ穴が開いているのはカッコ悪い。そこで、フィリップ男爵の跡を継いだフィリピーヌ男爵夫人が、画家であり男優のジャン・マレー(1913-1998)に依頼して、模写を作ってもらった。

ちなみにマレーは、コクトーに最も近い人物だ。コクトーが監督した7本の映画のうち、4本に出演した。その縁で、長年、コクトーの若き愛人となる(マレーは、彫りの深い顔立ちで、筋肉質)。1983年、マレーは、コクトーの没後20年を記念し、コクトーの生涯を一人芝居で演じた。1985年には、来日してその一人芝居を舞台で演じたこともある。

あらゆる意味で、コクトーと人生を濃厚に共有したのがマレーであり、ムートンがコクトーの絵の複製をマレーに依頼したのには、そんな背景がある。いろいろな場所でいろいろな人が繋がっていて、この「繋がりの深さと強さ」が、複雑怪奇であり、物凄くフランス的。「ワイン美術館」にあるマレー作の模写には、右下に「ジャン・コクトーに捧ぐ ジャン・マレー」のサインが入っている。

1947年ヴィンテージについて

ワインボトルとグラス

ヴィンテージ的に1947年は、20世紀の5大ヴィンテージの1つ(1945年、1947年、1961年、1982年、1990年)。イギリスの著名なワイン評論家、マイケル・ブロードベントは18世紀から現代まで、1万本以上のワインを試飲して評価した『Michael Broadbent’s Vintage Wine』の中で、「ムートン1947年は、1961年から2001年にかけて何回か試飲したが、最高の1947年物の1つである」として星5つの高評価。

5大シャトーの中で唯一の5つ星であり、5つ星は、他にシュヴァル・ブランとペトリュスだけだ。ムートンの古酒は、ラベル収集の目的で買うことが多いけれど、飲むために買うムートンが1945年と1947年だろう。

1945年は、超優良ヴィンテージとはいえ、アート・ラベルの開始年としてプレミアがつき、日本円で150万円~300万円もする。ちなみに1947年の価格は50万円~80万円ほど。

世紀のヴィンテージである1947年に、フランス芸術界の超大物、ジャン・コクトーが絵を描いた。1945年から今まで続くムートンのアート・ラベルの歴史で、偉大なヴィンテージと知名度抜群の芸術家の組み合わせは、このペアが最初で最後かもしれない。

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