複雑な「おいしさ」は、ただ感覚に任せるだけではつかみきれません。
このページでは、ワインと料理の組み合わせを科学的・論理的に読み解く「ロジカルペアリング」の世界をご紹介します。定番とされるペアリングはなぜよく合うのか―その理由も合わせて樋口さんに解説いただきました。
2005年『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、作家デビュー。料理家としても活動し、メニュー開発なども手がける。 主な著書 『スープの国のお姫様』(小学館) 『ロジカル男飯』(光文社新書)
ワイン×肉
基本は「どんな肉も合わせられる」
“牛肉に赤ワインが合う”という話は、多くの人が聞いたことがあるかもしれません。
赤ワインに含まれるタンニンという渋み成分は、口の中に広がる肉の脂を包み込み、さっぱりとした後味に整えてくれます。
また、赤身の肉が持つアミノ酸由来の旨味と、赤ワインの果実味や酸味はお互いを引き立て合います。
しかし、組み合わせの決め手は、実は「肉」そのものだけではなく、香りと酸味のバランスにあります。
例えば、日本人に馴染みのあるワサビは、お肉に加えることで赤ワインにも白ワインにも合う万能な橋渡し役になります。
赤ワインの場合:ワインのタンニンとワサビの辛味が調和
白ワインの場合:ハーブや若草のような風味を持つ白ワインと香りが調和
牛肉だけでなく、鶏肉もワインと合わせるときには酸味の強弱を意識すると、より味わいがマッチします。
このように、肉とワインのペアリングは「味覚」だけでなく、「香り」や「酸味」といった要素を意識することで、理屈に沿ったおいしさを楽しむことができます。
「ワインと肉がちょっと合わない…」樋口式リカバリー法
ワインが重すぎた→味噌(赤ワインには赤味噌、白ワインには白味噌)でソースを作り料理に“重さ”を足す
ワインがスパイシーだった→お肉にブラックペッパーを追加してスパイシーな香りでつなぐ
ワイン×魚
調味料が立役者
白身魚や貝類には、ミネラル感のある白ワインを合わせるのが定番です。しかし調理法や調味料次第で、重めの白ワインや赤ワインも楽しめます。
魚卵などの一般的にワインに合わないとされている食材は、油や酸味で生臭みを抑えるとワインと合わせやすくなります。
例えばキャビアはホイップクリームを添えるとシャンパーニュと調和します。
基本は肉と同じく、「味わいのボリュームを同程度に合わせる」こと。苦味や酸味を強くしすぎず、食材とワインの性質を見極めて、的確な調理法や調味料を選ぶことが重要です。
「ワインと魚がちょっと合わない…」樋口式リカバリー法
生臭い→ワインにレモン数滴(鉄のキレート作用※)
キャビアが合わない→ホイップクリームを添える
生牡蠣が合わない→ショウガ+オリーブオイル+醤油で万能化
キレート作用とは…金属イオンを挟み込むようにして結合し、安定な複合体(キレート)を形成する作用のこと。ワイン中の金属イオン(主に鉄・銅)とポリフェノール(タンニン・アントシアニン)が結びつくことで、香り・味わい・色・口当たりの安定性を左右する重要な要素になります。
ワイン×チーズ
実は難易度が高い
ワインのおつまみといえばの代表格チーズ。
「チーズとワインは合う」─そんなイメージが強くありますが、実は必ずしもそうとは限りません。
ワインにもチーズにも無数の種類があり、実はぴったりの相性のものを選ぶのは非常に難しいんです。
それでも鉄板ペアリングとして「相性がいい」とされる組み合わせは、同じ土地で生まれて、一緒に育ってきた食文化のペア。
つまり、その地域の人たちが長い時間をかけて見つけた「地元だからこそおいしい組み合わせ」なのです。
むしろ、チーズは別の食材を加えることでワインとつながりやすくなる食材。手をつなぐ“仲介役”を1つ添えるだけで、ぐっと相性が良くなることがあります。
中でも、パンは最適なバランサーとされており、チーズとワインの間にパンを挟むと、塩味や酸、脂のバランスが整います。
「チーズとワイン」の組み合わせに悩んだら、「チーズ・パン・ワイン」の三角形にすると相性が良くなることも。
料理家が考える「ワイン×料理」ベストぺアリングへの3STEPS
STEP1 酸味で合わせる…レモンの代わりにワイン
鶏肉や豚肉のように酸味の少ない食材には、酸味のしっかりしたワインがよく馴染みます。
エビの春巻きにレモンを絞るより、カヴァを合わせる方が複雑でやわらかい酸味が出せるなど、調味料的な合わせ方をしてもメリットが。
STEP2 香りで合わせる…調味料を活用せよ
ワサビは赤にも白にも合うと解説しましたが、赤ワインとは辛味×タンニンで合い、白ワインとはハーブや若草のような爽やかな香り同士でマッチします。
他にもショウガはパン香のあるシャンパーニュや土の香りを持つ赤ワインと相性が良かったり、胡椒は赤ワインのタンニンと共通する部分があります。
食材ではなく「調味料を使って香りを合わせる」のがおすすめです。
STEP3 産地と品種を知る…情報を味方につける
ワインの産地と、その地域の料理は相性がいい場合がほとんどです。
例えば、土地的・文化的背景からスペイン料理とスペインのワインが合うのは当然のこと。
また、ワインに使われているブドウ品種ごとに持っている香気成分が異なるので、品種ごとの味わいの違いを知っておくと選択肢がより広がります。
イラスト=ナカミサコ
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