AI(人工知能)技術の進歩が世の中に大きな影響を与えている昨今、ワインの世界においてもブドウの栽培から醸造、ワインの識別やソムリエ業務に至るまでAIの導入が進んでいます。
具体的にワイン業界ではどのように活用され、どのような変化をもたらしているのでしょうか?探ってみたいと思います。
AIがワインの生産を助ける
ワイン業界において、AIを活用することで今最も有益なのはブドウの栽培からワインの生産に至るまでの過程でしょう。
例えば、ブドウ畑にセンサーを取り付け、過去の気象情報や病原菌の発生状況等、ブドウ栽培に関わるデータを蓄積し、AIが病原菌の発生リスクを予測することができるようになりました。
また、過去の開花や摘果のデータから収穫時期を予測したり、高精細カメラで撮影した動画から開花の段階でどれだけの花が咲いているのかカウントし、高品質なブドウの収量を生育の早い段階で正確に見積もることが可能となりました。
ワイン生産においてAIは今や人間の作業を効率化し品質を向上させるための重要なツールとなっています。
AIは100%の確率でワインを識別できる!?
2023年末、AIにまつわるワインニュースが入ってきました。スイス・ジュネーブ大学の科学者チームが、特定のワイナリーやボルドーワインのシャトー(生産者)を100%の精度で識別するAIプログラムを開発したとニュー・サイエンティスト誌に発表したのです。
その具体的な内容とは、研究者らが機械学習を使用し、1990年から 2007年の12ヴィンテージ80種類の赤ワインの化学組成を分析した結果、AIのブラインドテイスティングアルゴリズムは100%の確率でワインの個々のシャトー(生産者)を識別、ボルドーの右岸産か左岸産かのグループ分けにも成功したそうです。
シャトーを完全に特定できたというこの研究結果は、分析したシャトーがヴィンテージとは関係なく明確なアイデンティティを持っていることを示唆しています。
ワインの評価はこれまでワイン評論家をはじめワインのプロフェッショナルが一度に多くのワインをテイスティングして行ってきましたが、このような研究が進めば、極めて客観的な評価となりうるでしょう。
ワイン業界のAI活用に関する展望
AIはワインの生産現場だけでなく、ワインのサービス現場においても導入が進んでいます。AIが好みのワインを消費者に推薦し、購入をアシストするアプリや実店舗がすでに存在しています。では、近い将来、ソムリエは必要なくなるのでしょうか?
ご存知の通り、ワインは客観的な情報だけでは判断できない要素が多分にあるお酒です。同じワインでも保管状況や熟成具合、飲むシチュエーション、飲む人の気分や体調、合わせる料理によって味わいは変わります。また、ワインラヴァーなら産地や歴史に対する興味の有無、造り手のアイデンティティやキャラクターさえも味わいを左右する要素となりえます。
ですから、今後ソムリエはAIを活用しながら客観的かつ高度なワインの知識を備えつつ、お客様とのコミュニケーションといった、より人間的な業務に集中し、これまで以上に経験を積むことが求められるはずです。これはワイン業界の仕事だけでなく、どんな職業でも言えることでしょう。
歴史あるコルク栓と合理的なスクリューキャップ、原産地呼称保護と自由な発想で造られるナチュラルワインといったように、ワイン業界はこれまでも伝統を守りつつ進化を続けてきました。
今後もワインに携わる人々はワイン造りの長い歴史の中で積み重ねてきた人間の勘や技、経験を継承していくと同時に、ワイン産業の発展と持続可能な社会の実現のためにAIとの協働が不可欠です。
まとめ
AIがワインの生産、販売、評価に与える影響は、今後ますます大きくなるでしょう。大切なことはAIが絶対ではなく生産性を向上させるための手段であって、その利用は慎重に行われる必要があるということです。
未来のワインの世界がどんなふうに変わるのか、今から楽しみですね。
参考 ・WINE ENTHUSIAST https://www.wineenthusiast.com/culture/industry-news/ai-wine/ ・NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220816/k10013772831000.html ・WINE REPORT https://www.winereport.jp/archive/3426/ ・PR TIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000096787.html