あのひとの、特別な日に飲む「ハレ」ワイン、日常に馴染む「ケ」ワイン。
ワイン好きで知られるあのひとに、それぞれのワインと楽しみ方を語ってもらいました。
AIR SPICE代表。1999年以来、カレー専門の出張料理人として全国各地で活動。カレーに関する著書は70冊以上。世界を旅するフィールドワークを通じて、「カレーとはなにか?」を探求。「カレーの学校」の校長を務め、本格カレーのレシピつきスパイスセットを定期頒布するサービス「AIR SPICE」を運営中。
偏屈な性格のせいか、僕は自分自身をちょっと窮屈な場所に追い込む傾向にあります。たとえば音楽が好きでジャンル問わずなんでもよく聴きますが、「1970年代までの音楽しか聴かない」というマイルールを定めているんです。1980年以降に生まれた名曲の数々を聴けないなんて。でも、限定した分、オールディーズの魅力は深く満喫できる。
ちょっとクセの強い楽しみ方ですが、お酒も飲む場所とジャンルを決めています。地方へ出張したら地酒。バーではスコットランドのシングルモルトウィスキー。自宅で飲むのはワインのみ。しかも、「ブルゴーニュワインしか飲まない」というマイルールつき。世界中においしいワインがあるというのに、他のワインは我慢しなきゃならない。その代わり、自分なりにブルゴーニュワインの楽しみ方を育てられる(と思い込んでいる)んです。
そもそもお酒に強くない僕は、外食でお酒を飲むことはほとんどありません。自宅でワインを飲むのも月に2本程度。そこで、独自に「減酒貯金」というものを始めました。飲まない日に貯金したとみなせば月2本のワインはまあまあ奮発して買える。結果、飲むものすべてがハレワインになるんです。
赤ワインで最もよく飲むのは、シャンボール・ミュジニー。ブルゴーニュワインの華やかさが好きな僕にとって象徴的なワインという感じでしょうか。セージで香りづけした豚バラ肉のポトフと。続いて多いのがコルトン。比較的しっかり目に感じるので、セイロンシナモンをまぶしたラム肩ロース焼きに合わせたりします。
白ワインで最も多いのはピュリニー・モンラッシェ。すっきり引き締まった風味が好きで、パンダンリーフを詰めた丸鶏の香ばしいローストを作っていただきました。続いて飲む頻度が高いのはムルソー。果実味あふれる重めの印象で、オールスパイスのパウダーでマリネした牛ヒレ肉やジュニパーベリーをたっぷり使ったサーモンマリネに。
ワインのフレーバーホイールを存分に参考にして、スパイスの香りを整理するメソッドを独自に作りました。ワインに合わせてスパイス料理を試してみることもあれば、スパイス料理の試作品を食べるときにワインを選ぶこともあります。が、キッチンに立たず、チーズやナッツをかじりながら飲むことも。そういえばブルゴーニュのワインをカレーと合わせようとしたことは一度もありません。これからの課題、かな。
飲んだワインはリスト化していますが、過去4年分のリストを集計してみたところ、104本でした。年間26本。やはり月に2本ペースですね。ただ考えてみれば飲む頻度を限定しているわけだから、ハレもケもない。ブルゴーニュを飲むすべての瞬間がハレであり、ケでもあるんですね。ストイックでありながらリッチでもある。ちょっと不思議なワインライフなのかもしれません。