奇怪な用語が飛び交うワインテイスティング。フルーツや花ならまだしも、スパイスに、ミネラル、焦げ香??しまいには動物臭?!ですが、これにはきちんと意味があるのです。ソムリエ目線で、毎回難解なテイスティング用語や表現などを解明!
あなたもイメージを膨らませてテイスティングに挑戦してみてはいかがでしょうか。
今年2月に開催された第17回世界最優秀ソムリエコンクールパリ大会。日本代表の岩田渉さんに同行し、事前準備の仕上げのトレーニングで数日間を過ごしました。
「いつでもおいで」とパリで長年レストラン『ル・プティ・ヴェルド』を営む日仏で名高いソムリエ石塚秀哉さんの言葉に甘え、ディナーでは特別なワインのブラインドテイスティングをご用意いただきました。本場フランスにどっぷり浸かった石塚さんのセレクションは私では到底真似できるものではありません。
興味深いワインの数々にはトレーニングを一瞬忘れて感嘆するほどでした。そんななかで、一同(この度世界3位に輝いた香港のリーズも同席していました)驚いたのがミュスカデ・ドゥ・セーヴル・エ・メーヌ2013でした。
過小評価
Un derest imat ion(過小評価)、ミュスカデを表現するのに(香りや味わいの特徴とは違うが)これほど相応しい言葉はないでしょう。
控えめな香り、軽くて、安いワインの代名詞、廉価で大量生産型ワインはステレオタイプにそう認知されます。「和食と合う、魚介と合う」というポジティブなキャッチフレーズもありはしましたが、「邪魔しない相性」という見方のほうが多勢といえるでしょう。
この記事を読んでくださっているみなさんのなかで、ミュスカデと聞いて、ときめく、ワクワクするというご経験をお持ちの方はあまりいらっしゃらないでしょう。しかし、そうではないのだという教えを受けたことがあります。
90年代、田崎真也さんが開いていたソムリエテイスティングセミナーでは多くの参加者がミュスカデを軽く、シンプルと表現しましたが、「ミュスカデは決して軽いワインではない。現地では鴨のグリルと合わせる」と聞いて、大いに困惑したのを鮮明に覚えています。
ミュスカデ・セーブル・エ・メーヌ・シャトー・テボー2018は、ピュアでニュートラル、内向的な印象があります。香りはグレープフルーツ、時間とともにゴールデンデリシャスや白桃も現れ、カモミールや鉱物的な香りが下支えとなり、奥行きを感じさせてくれます。味わいはスムースで緻密、密度の高いテクスチャーがあります。酸味はしなやかで、後半にコクを与える苦味と調和し、余韻を引き締める。芳香高く、エネルギーを感じる味わいです。
大西洋に面した海洋性気候の産地で土着品種という独自性は、アルバリーニョやアシルティコなどに比肩するもので、さらに豊富な海産物と鴨に代表される家禽類、そしてバターと、非常に魅力的な要素に恵まれています。
特にオーガニックを実践するテロワール重視の造り手によるミュスカデは軽いどころか、力強く、余韻の長いワインなのです。廉価なものが多く見られるエリアはどこか軽視してしまうところがありますが、実は素晴らしいワインが生まれているというのが近年の傾向です。
トレンドを追うのもワインの楽しさではありますが、乱立したものは残らないもので、結局本質的なものへ帰着していきます。昔からあるもの、一見地味な存在にみえるもの、でも長年残り続けているものを知る、それもワインの喜びであり、本質であることを教えてくれる一本です。
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ロワール地方、ペイ・ナンテ地区屈指の生産者ファミーユ・リューボーが手がける単一畑キュヴェ。樹齢70年のミュスカデを使用。シュール・リー製法で3年間の熟成を経て造り出されるこのワインは、芳醇で複雑味のある印象ながらも、フレッシュさを持ち合わせた見事な仕上がりです。
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