【今日のワイン】美しく完璧な「アマローネ・デッラ・ヴァルポリッチェラ・クラッシコ」
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ひと月前はあれほど見事だった山の色はうら寂しく枯れ、秋には茂っていた草もいまや霜の下に隠れるばかり。森閑とした冬の風情に月日の流れの速さを感じています。
実は私、冬の寒さが大の苦手です。家を出る前には念入りに手、脛、背中をストーブで炙ってからでないと出発の準備が整いません。
とりわけ霜夜の寒さは身に染みるものがあります。どうしても冷えた白ワインや泡などより、濃厚な赤ワインに手が伸びてしまいます。
羽織に袖を通して、ストーブを焚いて、飼い猫を温石にしながらじっくり飲む赤ワインこそ、私にとって冬の楽しみの一つなのです。
そういうわけで今年最後に飲むワインは敬愛するアレグリーニが造る「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ」に決めました。
フマーネ村の非常に優れたブドウの品質、アレグリーニの持つ最新鋭のアパッシメント施設、緻密で芸術的なバランス、底知れない深み、時間とともに変化するポテンシャルなど、素晴らしい点は枚挙に暇がありません。
抜栓した直後はドライフルーツやダークチェリー、ベリー系果実のような豊かで濃厚な果実味があり、時間とともにアニスやシナモンのようなスパイス、杉の木やハーブなどのニュアンスが表れてきます。
非常に濃密な旨味があるため、すぐに飲んでも楽しめます。しかしながら時間とともに様々な要素が表れ、コルヴィーナ・ヴェロネーゼ種が本来持つピュアな果実味や酸味の要素と、複雑で多層性のある味わいが調和したのちに長い余韻に至るというこのワインの持つ構造自体が、一種の美術であると私は考えています。
世の中には数多くのアマローネがありますが、私がアレグリーニの造る「アマローネ・デッラ・ヴァルポリチェッラ・クラッシコ」に感じたのは、カラヴァッジョの絵画にあるような凄烈で異様な陰影、泉鏡花が書く光の当たり具合まで伝わりそうな着物の描写、1挺のヴァイオリンによって作られる広大無辺な世界観を持ったバッハのシャコンヌに触れたときのような感動でした。私はこのワインを美しく完璧なアマローネの一つだと思っており、通いなれた美術館に足を運んで美術品のすばらしさを再確認するような気持ちで楽しんでいます。
ジビエシーズンの真っただ中ということもあり、今回は猟師の方から頂いた小鹿のローストと合わせることにいたしました。
鹿肉にある草、ハーブのようなジビエ臭はアマローネの持つローズマリーのようなハーブ系のフレーバーと非常に相性がよく、私にとって至福の組み合わせです。
手軽にジビエ食材を手に入れられる時期ですので、ご興味がおありの方はジビエとアマローネの組み合わせを是非お試しください。
早朝にストーブに当たっていると、妻と幼い息子、そして飼い猫が場所を奪うようにストーブの前に集まってきます。
こういうことに些細な幸せを感じているのですが、この幸せが来年も、再来年も、ずっと続くことを願いつつ、往く年の瀬を噛みしめている藤原です。
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