「開いている」「閉じている」といった言葉、ワインを表現するときに聞いたことはないですか?
瓶詰めされた後でも刻々と変化していくワインは“生き物”と言われるほどです。空気と触れ合うことでワイン本来の香りが開いていきます。
そんなワインを美味しくする方法の一つとして知られているのが“デキャンタージュ”。レストランでソムリエの華麗な手さばきを見たことがある方も多いでしょう。
このデキャンタージュ、本当にワインが美味しくなるのか――。
今回はエノテカが誇る3人のソムリエにデキャンタージュしたワイン、していないワインを飲み比べてもらい、その違いを訊きました。
テイスティングしたのはこの3人
JSA認定ソムリエ / WSET Level 4 Diploma in Wines。第9回全日本最優秀ソムリエコンクール クオーターファイナリスト。 大学時代、フランス留学中にワインに興味を持つ。成城学園前店に勤務後、現在は通販事業部で企画制作・予算策定を担当。
JSA認定ソムリエ。 秋田県出身。大のシャンパーニュ好き。 成城学園前店、GINZA SIX店での勤務を経て、現在はエノテカ編集部の一員としてライティングを担当している。
JSA認定ソムリエ / WSET Level 3 Award in Wines。第3回ボルドー&ボルドー・シュペリュールワイン ソムリエコンクール2019 セミファイナリスト。 新卒入社したIT企業勤務後、好きなワインを仕事にと2018年にエノテカに転職。渋谷ヒカリエShinQs店、六本木ヒルズ店を経て、現在はリテール戦略部にてワインのコンテンツ作成やワインセミナーを担当。
テイスティングについて
今回はスペイン・プリオラートの赤ワイン「サルモス」を使用。直前、2時間前にデキャンタージュをしたものと直前に抜栓のみを行った3本で比較テイスティングを行いました。
使用したデキャンタは全て細身で縦長のタイプです。
スタッフにはワインの銘柄、それぞれ同一ワインであることは伝え、どれがいつデキャンタージュしたかは分からない状態でブラインドテイスティングをしてもらいました。
テイスティング開始!
A:直前デキャンタージュ
B:2時間前デキャンタージュ
C:デキャンタージュなし(直前抜栓のみ)
※スタッフには三つのうち二つが時間差でデキャンタージュしたもの、一つはデキャンタージュしていないものであることを伝えています。
―では早速ですが、率直な感想としてどのワインが好きですか?
河:Bが好きです。
果実の豊潤さ、酸のしなやかさ、タンニンの力強さなど、このワインの良さがよく出ていたと思います。
全ての要素をバランス良く感じました。
籾山:私もBが1番好きです。これはデキャンタージュしたワインかなと思いました。
デキャンタージュには、香りがしっかり出てくることと口当たりがスムースになることを求めてやると思うんです。
三つの中で、第一印象でそれを感じられたのがBでした。
井出:私はAが好きです。
プリオラートの赤ワインの個性である、樽由来の甘い香りやまろやかさ、酸味もアタックから後半にかけてしっかりと感じられました。
河:Aとも迷いました。
井出さんのおっしゃる通り、酸味を強く感じましたが、好みとしてもう少しマイルドなほうが好きなのでBを選びました。
籾山:テイスティングを始めて15分ほど経過しましたが、この時間の中でも変化があるのがAですね。
どんどん開いていっているのか?と予想しています。
―皆さん、AとBがお気に入りのようですね。Cはいかがでしょうか?
井出:Cが1番濃厚で一つ一つの要素を強く感じました。
それが良い印象ではなく、まとまっていない感じがします。
デキャンタージュするとこういった要素がまとまっていくのかなと予想しています。
籾山:Cだけ香りが他の二つと比べて異質に感じました。
果実ではない香りを強く感じて、開いていないという印象を受けました。
―お二人はCがデキャンタージュなしと予想しているんですね。
井出、籾山:はい、そうです。
河:なるほど、そういった見方もあるんですね。
Cに関しては、他の二つと比べると全ての要素が落ち着いているように感じました。
そのため、デキャンタージュしてから時間が経ったものなのかなと予想しています。
―ここでデキャンタージュの有無と時間を発表します。Aが直前、Bが2時間前、Cがデキャンタージュなしでした。
一同:おお~、なるほど!
―結果が分かった状態で、もう一度テイスティングしてみてください。テイスティングを始めて約1時間経過したので、Aはデキャンタージュ後1時間、Bは3時間経過していることになります。
井出:Bはデキャンタージュ後3時間経っているので、開ききってしまっていますね。
籾山:そうですね、今だとAのほうが果実の印象を感じられます。
Bは香りも飛んでしまっているので、今はAのほうが好きです。
河:たしかに、Aの印象が変わりましたね。
Bを最初にテイスティングした時、全部の要素を感じられると思ったんですが、それは開いているということだったんだと思いました。
Cも抜栓後1時間経ったことで開いてきて印象が変わってきましたね。
井出:このワインに関してはデキャンタージュ後1時間~2時間が最もワインの良さが出る時間ということですね。
河:デキャンタージュなしは他と印象が違ったので、デキャンタがない方はグラスに1杯入れて時間を置くなど、空気に触れさせることをしたほうが良いですね。
籾山:開けたてだと印象が違いましたね。デキャンタージュの効果はすごいんだなと思いました。
デキャンタージュしているものとしていないものの違いは明らかでした。
結論
このワインはデキャンタージュ後1時間~2時間が美味しい。
デキャンタージュによって香りが開いた。
デキャンタージュによって味わいにまとまりが生まれていた。
まとめ
テイスティングを始めた直後「デキャンタージュありなしを飲み比べることはあまりないので難しい……」という言葉が飛び交った3人でしたが、進めていくうちにデキャンタージュの効果を実感しているようでした。
「この小さなサイズのデキャンタでここまで変化があるとは驚きでした!」と口にするスタッフもいました。
ワイングラスによってワインの味わいが変わることはよく知られていますが、デキャンタージュもワインを美味しくする方法の一つです。
複数人でボトル1本を開けるグラス1杯だけしか飲めないようなときは、デキャンタージュして時間を置いてから飲むことで本来の美味しさが感じられるでしょう。
はたまた一人や二人でボトル1本を開けるときは、デキャンタージュ後すぐからゆっくりと変化していく様子を楽しむのが良いかもしれません。
状況やワインによってもデキャンタージュの適切な時間は変わっていきます。そのワインの本当の美味しさに出会う手段の一つにデキャンタージュがあるのです。